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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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699 境界公の領地

 ――瞬くように煌めく術式の海。
 叙勲式も終わり、迷宮核内部にて構想していた通りに領地作りの仕事に入った。
 今日の仕事も長めになるだろうが、外の様子もカドケウスを通して見ることができるし、通信機を使えば意思疎通も可能だ。

『こっちは準備できたよ。これから作業に入る』

 と、通信機で連絡を入れると、カドケウスの差し出した通信機を見てグレイスが微笑む。

「はい。テオの護衛についてはお任せ下さい」

 もう警戒度を下げても良いのだろうが、やはり作業中に俺が無防備になっているのが気になるということで、みんなは護衛についてくれるとのことだった。俺としても身体を守ってもらえるのは確かに有り難い。
 1人で作業しているよりも心強いし、迷うようなことがあれば相談もできるしな。

「コルリスもいるし、みんなもいるから。異常があればすぐに気付けるものね」

 と、ステファニア。迷宮のシステム的な異常にはクラウディアやティエーラ、ヘルヴォルテが気付いて、そうでない場合はシーラ、イルムヒルト、コルリスの探知系が有効、と索敵や感知能力に関しては非常に高い。名を呼ばれたコルリスが、カドケウスに向かって手を振る。カドケウスにも尻尾を振らせて応えておいた。

 魔法の鞄からティーセットやお茶請けやらを取り出し、お茶の準備をしながらローズマリーとアシュレイが言う。

「というわけで、こっちの事は気にしなくても大丈夫よ」
「そうですね。のんびりさせてもらおうかなと」

 中枢部にテーブルやら炭酸水生成の魔道具やらを持ち込み、長丁場でも対応できるようカードやチェス等、遊具を持ってきたりしている。勉強したり本を読んだり、編み物をしたり楽器を演奏したり……各々のんびり時間を使える、というわけだ。

『それじゃまた後で』
「ん。こっちは任せて」

 カドケウスに向かって手を振るシーラとマルレーンである。そんなシーラやマルレーンの様子を見てクラウディアとイルムヒルトが楽しそうに笑っていたりして。

「魔力の供給に関しては余っているぐらいですから、好きなようにして大丈夫だと思います」

 コルティエーラを携えたティエーラもシーラに色々ゲームを教えてもらうそうで。にこにこしながらそんなふうに教えてくれた。

 うむ。では俺は俺の仕事を始めるとしよう。

 新しい区画を作る――ということで、できることできないことの把握に努めてからと考えていたのだが……なんというか。結論から言うと、大体のことが可能である。

 必要な規模のスペースを確保し、外壁内部に遠景となる風景や空を投影してやれば……見掛け上は外と変わらない都市も作れる。
 他にも高空を投影した空間内にベリオンドーラのような浮遊城を作り、下方に落ちた時は迷宮の外に弾き出されるとか……そんな変わり種も作れるわけだ。勿論、基本に立ち戻り、全域を広大な迷路にというのもできる。
 区画内の限定的な範囲を魔物に守らせたり、魔物が出現したり入ってこない場所を細かく設定してやることも可能。

 今回求められるのは……何においても深層への扉を守る防衛能力だ。それから……公爵クラスの領地としての体裁も必要だろうとメルヴィン王にも言われているので、それなりに景観にも気を配る必要がある。だから、それらを両立させることにする。

 まず基本的な外殻部分を設定してやり、それから迷宮核に指示を出していく。

「――新しく区画を作るにあたり、仮想空間を使っての視覚情報が欲しい」

 そう言うと、迷宮核内部に縮小されたジオラマのような風景が映し出される。同時に俺の周りに古代文字のサークルが幾つも浮かび上がった。
 視覚的に実際に作られる区画を見ながら、思考内でこねくり回したものを反映し、迷宮核からの補助で細部を都合のいいように調整していくことが可能だ。
 周囲に浮かんだ文字はシステム的な補助である。浮かぶ文字に触れて迷宮核に細かな指示を出したりが可能となっている。

 迷宮核を使って区画作りか。何というか……真面目な仕事なのだがどうしても楽しくなってきてしまうな。まあ……余計なことをして破綻しないように構想を練ってきたので、それに沿って逸脱しないように気を付けるとしよう。

 まずは――広げられるだけ広げた区画の下層部を使って……満月の迷宮への扉に続く、地下要塞を作っていくことにする。

 昇ったり降りたりが必要な立体的な構造で、通らなければならない道を水没させたり、溶岩や毒沼で満たして空を飛ぶ手段で渡らなければならなかったり、隘路の一本道に左右から弓兵を配置するような構造を作る。

 左手や右手を壁について進むと堂々巡りになったりする迷路。必ずぶつかる大部屋と伏兵を潜ませる隠し部屋。移動する壁によって大回りで入口まで戻されてしまう仕掛け。迷宮でやられて厄介だったことの集大成だ。

 そこに監視用のゴーレムやら、防衛用の魔物やガーディアンを配置していく。細かな罠をあちこちに仕掛けて神経をすり減らさせ、奥に進んで心身両面で疲弊する頃合いにこれ見よがしに戦力や罠を集中配置して侵入者の心をへし折りに行くというわけだ。

 赤転界石での撤退は可能だが、石碑は地下要塞部分には一切配置してやらない。
 後は要塞に通じる場所に境界公として侵入を禁じる旨の警告文を書き添えて、扉で閉ざし、法的にも侵入を拒む、と。これにより、先に進もうとする者は、明確に何らかの目的があると見做すことができる。仮に深層や中枢部に正当な用があるというなら、領主である俺に話を通せばいいわけだからな。

「では――出来上がった部分の確認作業に移る」

 地下部分が一通り、構想した通りに出来上がったところで、音声でこちらの意図を伝え、周囲に浮かんでいる文字をなぞる。
 ジオラマの中に入り込むように周囲の景色が動く。実際に内部を仮想体験してみて、どうなっているかを確認や調整ができるわけだ。
 地下要塞内部の風景が滑るようにして流れていき、どの場所がどんな設定になっているのか、どんな魔物が出るのか等々、俺の傍らに浮かんでいる文字情報が色々と移り変わっていく。

 一通り、入り口から最奥まで確認。区画下層の要塞部分については……これで良いだろう。
 その下層部分を覆うように、中層に居住スペースを作る。この中層に居城を作り、領地としての体裁を整えるというわけだ。

 陸地と湖畔を作り――湖畔の真ん中に居城を作る。陸地から橋を渡って居城へ進める構造にする。

 居城内部の地下から下層へ向かうことが可能な構造にすることで、更に防衛能力を上げている。要するに……城に侵入するような大きなリスクを冒さないと、深層部にも向かえない、という具合である。

 湖畔を作ったのは……ペルナスやインヴェル、ラスノーテ達、水竜の親子やグランティオスの面々がやって来た時にのんびりと過ごせるようにである。
 湖畔の底に居住スペースを用意してやることで……水中での滞在もできるし、湖畔に小舟を出して遊べば、水没した遺跡といった具合の景観を楽しむ事も可能である。

 陸地下部には全域をカバーするように下水道完備。
 下水は処理施設へ纏めて流され、そこから大腐廃湖に繋がるゲートで流されるという具合だ。地下要塞の上に下水道。その上に陸地。まあ、このへんはタームウィルズと似た構造である。
 街の上空にも十分なスペースがあるのでリンドブルムも自由に飛び回れるはずだ。

 陸地部分――。ここには街を作っていく。住宅地に商店街……。統一感と清潔感のある家々の建築様式。あちこちに木々を生やしたりして緑を用意し、ある家は蔦を這わせて風合いを出したりといった具合に調整していく。

 続いて必要となる設備。
 宿泊施設。月女神や原初の精霊を祀る神殿、ヴァルロスやベリスティオを慰霊する祠。騎士や兵士達が寝泊まりできる兵舎。何かを製作したり研究したりが可能な研究塔。実務を行える役所的な建物。……最初に作っておくのはこんなところか。陸地のスペースはまだ結構余裕があるので、必要に応じて色々作ったりといった拡張性や発展性は充分に残している。

 銀嶺の山々。風光明媚な遠景と爽やかな空を外殻内部に映し出してやれば――。鏡のように景色を映し出す、透き通った水質の湖畔と併せて……かなり良い眺めだ。基本的な気温、湿度、風向きや風速等々を設定し、過ごしやすい爽やかな環境に調整する。

 さて。後は――居城だな。
 公爵、大公級の居城と言われて納得いくような形であれば後は任せる、とメルヴィン王は言っていた。んー。そのあたりの匙加減がな。

「迷宮核の外に視覚情報を見せることはできるかな? ここからは外にいるみんなとも相談しながら色々決めていきたい」

 そう言うと周囲に浮かぶ文字が切り替わり、外部に城の映像が映し出された。
 よし。ではみんなの反応や意見を聞きながら調整していこう。

『基本的なところは作ったから、後は色々意見や希望を聞いて反映していきたい』

 外にメッセージを送る。

「これはまた……随分と素敵な場所になったわね」

 映し出された区画の全体像を見てクラウディアが笑みを浮かべた。

『うん。大体の見た目は予定通り。後は細部を詰めていく段階かな』

 湖畔や風景の美しさを損なわないような、というか風景に合うような外観の城にする、というところから色々と考えている。白を基調としてあちらこちらに植物を生やしつつ、庭園に水路も引いて……といった具合だ。
 観葉植物にしても、迷宮が生やしているので手入れの必要がないというのが良い。

「ここはこの本の記述を参考にしてみたらどうかしら?」
『こんな感じかな?』
「ああ。素敵だわ」

 反映される風景にイルムヒルトが笑みを浮かべる。
 内装は広々と壮麗に。尖塔を作り、立体的な橋を渡して。
 見た目は壮麗であっても防衛はしやすいように。ああでもないこうでもないとみんなと意見を交わす。資料として建築関係の本もあれこれと持ち込んでいたりするのだ。

「何でも希望を言っても良いというのなら……私としては、賢者の学連みたいな図書館が欲しいのだけれど」
「既存の本で構わないなら私の居城にある蔵書を複製するという事も出来るはずよ。迷宮は情報を集積しているから……ひょっとしたら学舎やセオレムの本も情報が集まっていて、複製できるかも知れないわね」

 大図書館か……。それは良いかも知れない。
 みんなの意見を参考に、想像に応じて色々と形を変える城の外観と内部。リアルタイムで相談しながら調整できるのは便利だ。
 城の建築様式や装飾、内装などについては王族の面々がいるので色々参考になる意見が聞ける。

 色々自由になるお陰で、相談しながらだと細部にまで妥協が無い状態になっていっている気がしないでもない。建築様式と構造の防衛力で圧倒することで、侵入者の心をへし折りにいく目的もあったりするのでそれは良いのだが。

 あまりやり過ぎてしまうと実際に住むにしても落ち着かないところがあるが……まあ、いいか。城の奥、実際の居住スペースは装飾や内装等を程々にして利便性を優先で作っておけば、城の内外に気合が入っていても大丈夫だろう。
 街や地下要塞部分についても、みんなの視点から色々聞いて、調整してみるとしよう。
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