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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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697 叙勲式

 王城で叙勲式が行われるという通達が出されたが、国内外の貴族がタームウィルズに集まるので、式まではやや間があった。

 俺達は俺達で叙勲式の日取りまで、結婚の準備を進めたり、迷宮の新たな区画の構想を練ったりしていた。
 結婚の準備としてはグランティオスやハーピーの集落に飛んで、装飾品用の宝石類を集めたり、デイジーの店でどんなデザインが良いかと話し合いをしたりといった具合だ。
 まあ……服飾、装飾品のデザインに関しては門外漢なので、婚約者達の意見を参考にしたり、ミリアムやデイジーらに意見を聞いたりといった具合で進めている。お陰で道筋も整って、現在ハーピーの職人達も、デイジーも実際の作業に入って結構多忙な印象だ。アルケニーの面々も服飾が得意なので、デイジーの手伝いをしている。

 その内に叙勲式の日取りも近付いてくると、ガートナー伯爵家や南西に領地を持つウィスネイア伯爵家。そして、ブロデリック侯爵家とフォブレスター侯爵家に、それに公爵家一家や、大公家一家と……国内の大貴族の面々が続々とタームウィルズを訪れて来た。国外からジルボルト侯爵も訪問してきている。
 祝福ムードも落ち着いて来た頃合いだというのに、また全体が賑やかな雰囲気に盛り上がってきた。

 そうして――叙勲式当日がやって来た。盛装した上で、皆で迎えの馬車に乗って王城へと向かう。
 今回は謁見の間で盛大に叙勲式典が行われる。
 武功を立てた者が名前を呼ばれ、様々な褒賞を手にするという流れであるが……まあ、何せ褒賞を受け取る人数も多い。俺やエリオットは式典のトリ(・・)ということで、控えの間で長々と待たせるわけにもいかないらしく、最初は謁見の間の両脇に通された。順番が近付いて来たら控えの間に移動するという形になるようだ。要するに、女官が案内してくれるまで、ここで式典を見ていればいいというわけである。

「これはテオドール殿」
「本日はおめでとうございます」

 通された席の近くにドリスコル公爵とデボニス大公がいて。顔を合わせるとにこやかに挨拶をされた。

「ありがとうございます」

 一礼を返し、公爵に尋ねる。

「その後、レスリー卿の体調は如何ですか?」

 夢魔の一件で、ドリスコル公爵の弟、レスリーは体調を崩していたが……その後どうなっただろうか。公爵は静かに答えた。

「お陰様で日に日に良くなって、現在では殆ど復調しておりますぞ。自分にできることをやっておこうと、領内での夢魔事件の後始末を進めておりますな。とはいえ、テオドール殿は激戦を終えたばかり。ましてや、ご結婚も近いと耳にしております。古城探索については、今しばらくの間はお頼みするのも些か恐縮ですな。レスリーもそういうことで納得してくれました」
「そうですか。では……状況が落ち着いたら改めてということで。約束ですので、必ず機会を作ります」

 そう答えると公爵は嬉しそうな笑みを浮かべて頷いた。

「そのお言葉。レスリーも喜ぶことでしょう」

 公爵やレスリーとの約束の話を終えたところで――。高らかにラッパの音が響いた。メルヴィン王と共に、各国の王と精霊王が揃い踏みで姿を現す。
 列席者から歓声が起こり、メルヴィン王達は笑みを以ってそれに応えた。歓声が落ち着くのを待ってからメルヴィン王が声を響かせる。

「まず……こうして無事に式典の日を迎えることができたことを誠に喜ばしく思う。先だっての激戦と危機を乗り越え、我等はこうしてここに立っている。先人達の託した英知、数多の英雄達の不断の努力と、そして戦いの中で散った者達の魂によりこの平穏が得られたということを、我等は胸に刻み付け、努々忘れてはならぬ。故に、志と勇気を胸に戦った者達を惜しみなく称え、武功と勇猛に報いねばならぬだろう。称賛を受けるべき若き英雄達が、この先々の平和の礎を作って行ってくれるものと、余は確信している」

 メルヴィン王がそう言うと、再び歓声が起こった。そうして叙勲が始まる。名前を読み上げられ、控えの間から通され――そして武功を立てた者達への褒賞が与えられていく。
 事前にそれぞれの望み等を調査していたらしく、式典の流れは実にスムーズだ。
 宝物や俸禄、金品、爵位や役職を与えられ、拍手を浴びながら謁見の間を退出していく。

 討魔騎士団は対魔人同盟の国々で構成されているということもあり、武功が目覚ましい者にはヴェルドガルから宝物や金品を受け取り、更に帰国した後に、それぞれの国元でそれぞれの王から褒美と爵位や役職なりが与えられる、とのことであった。

 砦を守ったサイモンや直属の兵士達。それに騎士や兵士達だけでなく、民間の協力者にも褒賞が出る。工房のメンバーや冒険者ギルドにもだ。
 アルバートに関してはどうなるものかと思っていたが……普通に王子として名を呼ばれる。

「第3王子アルバート。そなたは余の密命にてブライトウェルト工房の創設と魔道具の開発に携わり、様々な形で国の平和に寄与した。その多大なる功績を称え、褒賞を与える。また、工房で働く者達への褒賞もそなたが代表して受け取るが良い」
「はっ」

 なるほどな。アルバートとしては二重生活は続けたいらしいので、工房創立の立役者とする形に落ち着いたらしい。工房メンバーを代表して褒賞を受け取り……後でアルフレッドも魔法技師として褒賞を受け取る、という絡繰りだ。

 冒険者ギルドはアウリアとオズワルドが冒険者達を代表して受け取り、更にそこから功労者へ褒賞がいく形である。フォレストバードや盗賊ギルドのイザベラ達にも、褒賞が渡ることになるだろう。
 更にはセイレーンとハーピー達、呪歌曲隊への褒賞。月神殿への感謝と支援。

 式典は滞りなく進み、そしてエリオットや俺達も控えの間に案内される。
 最初にエリオットが呼ばれ謁見の間の中へと入っていった。

「討魔騎士団団長、エリオット=ロディアス=シルン」
「はっ」

 メルヴィン王の前に跪く。

「そなたは異界大使テオドールと共に討魔騎士団の団員達を従え、これを指揮し、幾多の激戦を陣頭に立って切り抜けた。その功績とそなたの武勇は称える言葉が見つからぬ程だ。故に爵位と領地を与えるに相応しいものであろう」

 そしてエリオットに伯爵位と北方の領地が与えられる旨が通達された。ステファニアの婚姻の話も周知されているからな。婚姻後の後釜が必要なのは分かっていた事だが……そこにエリオットを、というわけだ。
 家臣を集めたりといった準備期間も必要だが……それが整えばエリオットは――北方の海沿いを治めることになる。
 エリオットの功績と人格。そして経歴を踏まえて、シルヴァトリアとの友好に繋がると判断したからこそだろう。海沿いであるから、グランティオスとも、か。

 元々王子や王女の領地は実務経験を積ませるために、王家から預かるものだ。
 重要な土地に血縁者を置いて鎮護と成すという意味合いもあるが、王位継承や婚姻、更には武功等によって状況が動く時に臨機応変に対応できるようになっている。翻って、重要な土地を預ける高い評価をしている、ということになる。

 一際大きな拍手と喝采が起こり、エリオットは慎んでお受けします、と返答して謁見の間を出る。

 続いて、俺の婚約者の名が読み上げられる。
 アシュレイは元々爵位を持っていたから、それが引き上げられる形。グレイス達は爵位等は望んでいないので、禄や褒賞等が渡される形になる。

「アシュレイ=ロディアス=シルン」
「はい」
「そなたもまた、エリオットと共にテオドールを良く助け、激戦をくぐり抜けてきた。先代シルン男爵も、魔人と勇猛に戦ったと聞く。シルン男爵家の2代にわたる忠節と誠実さには報いねばなるまい」

 先代シルン男爵に言及され、アシュレイが目を閉じる。
 こちらも、言い渡されたのは伯爵位だ。エリオットと同じシルン伯爵家となるが、差異を設けないことで兄と現当主の立場を立て、主家と分家の間で格差が起こらないようにした形だ。魔力送信塔の、完成後の管理も任せられる形となった。
 月との交流が始まれば……現シルン男爵領の持つ意味合いは大きなものになるだろう。

 続いて、みんなへの褒賞。

「そして、テオドールと共に魔人達と戦った英雄達には特別な褒賞を用意している。我等同盟に名を連ねる王家の連名にて、各国における特権を保証するものとする。これを月光騎士、月光魔術師の称号とする」

 月光騎士と月光魔術師、か。対魔人同盟の王全員による身分保証だ。これによりヴェルドガル国内だけでなく、各国でもそれぞれの国の貴族に比肩する特権が与えられる、と言うわけだ。同盟内での特権であるが……ヴェルドガルもシルヴァトリアも大国だし、どこに行っても通用するような肩書きだと言える。

「異界大使、テオドール=ガートナー」
「はっ」

 名を呼ばれ、前に出て臣下の礼を取る。高らかにラッパが吹き鳴らされ、喝采と拍手が巻き起こる。それが落ち着くのを待って、メルヴィン王が言った。

「彼の者の功績については論じるまでもない。高位魔人の脅威にその身を晒し、卓越した英知と武勇を以って度重なる危機を退けた。聖女として知られる母と共に、二代に渡り平和に寄与した。その功績は余が言葉を尽くしても全く足りぬほどのものだ。そして月に渡り、文字通り世界の滅亡を救うに至る。有史以来の傑物と言えよう。その武勲に報いるにはまだ足りぬが……我等の連名にて境界公の爵位を送ると共に、迷宮の護り手として深層に繋がる迷宮の区域を領地として与えるものとする」
「慎んでお受けします」

 答えると、また大きな喝采と割れんばかりの拍手が飛び交う。母さんについても……こういう場で言及してくれるのは嬉しく思う。

「うむ。テオドールと余の娘らや婚約者に、これから先の幸多からんことを願っている」

 と、メルヴィン王が笑顔で頷いた。
 しかし、公爵位に相当か。家そのものが王家の親戚筋になるから、公爵、大公に相当する爵位になるのは分かっていたことだが……月光騎士や月光魔術師と同じく、同盟の王の連名とは。いやはや。大事になってしまったものだ。
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