挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
717/1122

691 迷宮核

 ――迷宮中枢。クラウディアの乗ってきた月の船の内部。

 予定通り、壊れた迷宮の機能を直すために中枢部へみんなと共に進んだ。ティエーラやコルティエーラも一緒だ。シオン達も連れてきている。

 ラストガーディアンの暴走、そして離脱と破壊による中枢の機能不全は迷宮中枢の防衛という観点から言うと通常ならかなり深刻なもののようだ。
 要するに中枢のガーディアン含め、防衛戦力が機能しなくなっているのである。
 だが、迷宮の中枢を目指している俺達にとっては好都合だ。現状、中枢で活動可能なのは支配権をラストガーディアンからクラウディア側に移行されたティアーズやセントールナイトだけなので、防衛戦力不在の間に、どんどん中枢を奥へ奥へと進んでいく。

 ラストガーディアン不在なのを良いことに、クラウディアがどんどん中枢の支配権を取り戻し、転移可能な範囲がどんどん広がっていく。一番の問題であるラストガーディアンの一件が片付いているから、拍子抜けするほど順調だ。

 転移可能な範囲が広がる、ということは撤退もどんどんしやすくなっているというわけで。

「このあたりは動力炉が近いわ。隔壁は強固だし、防衛戦力も機能不全のままだけれど、一応念頭に置いておいて」

 と、クラウディアが片側の壁に触れる。

「なるほど。確かに……オリハルコンが反応してる」

 迷宮の動力炉に組み込まれているであろうオリハルコンが、ウロボロスのオリハルコンに共鳴している……と言えば良いのだろうか? ウロボロスから独特の魔力反応があるが……。

 動力炉か。未来の俺、と言って良いのかどうかは分からないが、地球側に干渉することを思いついた俺は――この動力炉に集まっている魔力を用いて時空を超えるエネルギー源として使っていた。
 ウロボロスをあちらの世界に送り込み、ウロボロスを基点に二つの世界を繋いで……過去の地球へ干渉した。
 その際、別世界の俺が用いたのは、雷の人工精霊とも呼ぶべき魔法生物であった。雷と同時に闇魔法も操る。火花を散らす光球に楕円形の目が2つついていて、妙にコミカルな姿だったような。

 それで何ができるのかというと……ネットワーク回線に潜り込んで情報を収集したり潜り込んだ端末からユーザーに闇魔法で干渉を行ったりといった具合だ。要するに魔法生物によるハッキングや幻術、操作による誘導と言えば良いのか。

 ともかく電気に依存している文明なので、そのあたりをつけば潜入も情報収集も工作もかなり自由になった。別世界の俺が目的以外の事に目を向けるつもりが全く無かったのは、地球側にとっても幸運と言えるだろう。
 具合的に何をしたのかと言えば、VRゲームのプログラム知識を集めたり、ゲーム開発会社に潜入したりといった具合だ。そうしてアイデアという形で開発者の夢に干渉したりプログラムに干渉したりしつつ、BFOを完成させていった、というわけだ。

 魔力操作の感覚が身についても、向こうの人間は魔力を持っていないから魔法は使えない……のだが、一応、景久以外の疑似感覚は少し似た感覚に置き換えてある。魔力を持った者がいたとしても問題は起こらない、といった予防策が講じられていた。

 景久と強盗の遭遇は――別世界の俺にも予想外の出来事であった。
 他ならない景久に不審に思われるのは拙いと、人工精霊達には距離を置かせてゲーム中の干渉はサーバー側からであったし。
 ウロボロスによって繋がりが強化される前なので、別世界の俺の前世の記憶が完璧ではなかったのか。それとも干渉を行ったことで運命が変わってしまったか。

 どちらにせよ……今となっては確かめる術もないが。

 っと。いくら防衛戦力が動いていないと言っても、あまり思考が逸れるのは良くないな。警戒もしておくべきだし、今はやるべきことに集中しよう。

 ヘルヴォルテの先導と、クラウディアの案内を受けながら、更に中枢部を奥へ奥へと進んでいく。

 扉を潜ると――今までのような魔力で構成された隔壁ではなく、実体を伴う区画に入った。大理石のような白い光沢のある建材。壁、床、天井問わず、その表面を――魔力による光のラインが走っていて……まるで、壮麗な王宮や神殿の装飾を思わせるような光景だ。

 というより、これは意図したものだな。本来は魔力を供給するためのラインを装飾に見立てて建築様式に組み込んでいる。あちらこちらで光の柱が立ち昇る、神々しい輝きに満ちた場所。

「いよいよ中枢制御部が近いようです」
「……本来ラストガーディアンが守護している部屋もすぐそこなの、だけれど。支配権を奪えるところを見ると、まだ再生はしていないようね」
「そうだな。コルティエーラも反応を示していないし……」
「大きな力は感じません」

 ティエーラも言う。クラウディアが支配権を広げながら、扉を潜る。
 そこは――広大な広間であった。本来ならラストガーディアンが存分に戦えるように、か。今は誰もいない。静謐で壮麗な空間がそこにあるだけだ。

 広間を横切り、そして大きな扉の前に立つ。

「この扉よ」

 見上げるような巨大な扉。クラウディアがマジックサークルを閃かせると――扉が内側へと開放されていく。
 通路を進み、そして抜けると――。そこは暗い青を基調とした部屋だった。天井と床に巨大な魔法陣が描かれ。部屋の中央に青い光の柱が見える。
 その光の中に――巨大な青い球体。
 球体の周りを幾重にも光のリングが取り囲んでいる。球体を中心に複雑に回転する光のリングと、リングの上を走る光球と……。さながら原子構造のモデルか、天球儀を連想させるような物体。

 暗い部屋と、輝く魔法の光がプラネタリウムのようにも見えるかな。
 これが迷宮の中枢……制御術式を内包する迷宮核か。魔力は動力炉から供給され――制御術式に従ってこの部屋から迷宮各地に流れていく。

「凄い……光景ですね」

 グレイスが言うと、みんなも周囲を見回して頷く。

「さっきの魔力のラインを活かした装飾も見事だったけれど、この部屋は……魔法技術の精髄ね」

 と、ローズマリーが言う。

「早速ではあるけれど……始めましょうか。テオドール。こっちへ」
「ん。よろしく頼む」

 クラウディアと共に、光の柱の内部へ。
 迷宮核へアクセスする権限を正式にクラウディアから受け取るのだ。役職としては迷宮の整備担当といったところだろうか。そうでないと、制御術式に触れた瞬間に緊急事態と見做されてしまう。

 クラウディアの前に立ち、詠唱に耳を傾けながら目を閉じる。目を閉じているのに魔力の光の粒が俺やクラウディアの周りを回っているのが分かる。そうして、俺の身体がぼんやりとした魔力を帯び――。

「できたわ」

 クラウディアの言葉に目を開けば、俺の全身をぼんやりとした光が覆っていた。すぐに薄れて消えていくが。

「それじゃあまずは……齟齬を起こしている部分の特定と修復からかな」

 迷宮核にアクセスする方法は――魔法陣の外周部。部屋の一角にある祭壇と、そこに据えられた水晶球に触れること。

「情報量が多いから、接触の仕方に気を付けて」
「分かった」

 大きな水晶球に手を翳すと、俺の身体の周りに、幾重にも古代文字で構成されたマジックサークルにも似たリングが浮かび上がる。魔法陣の中央に浮かぶリングが俺の操作に連動して動きを見せる。

 と、同時に、迷宮に関する沢山の情報――術式が、情報として流れ込んで来た。

「なるほど……これか」

 迷宮が集積した魔物等の情報等々もあるので、そのままだと文字通り情報の洪水だ。まともに受け取っていたら頭がパンクするので、受け取る情報を整理し、必要な物に絞っていく。

 ……見つけた。解析しなければならない制御用の術式だ。
 これを正しい術式と照らし合わせて、それに沿うように修復していけば良いわけだ。
 そうすれば緊急事態の解除も、クラウディアの解放も可能となる。
 見落としや新たな齟齬を生まないように。恐らく、集中と、時間が必要だ。

「オリハルコンやマクスウェルと対話した時みたいに、時間がかかると思う」
「分かりました。身の周りの護衛は私達にお任せ下さい」
「ん。助かる」

 では……気合を入れて作業に望むとしよう。ウロボロスを眼前に構え、目を閉じて。そうして、見渡す限りの術式の海に、意識ごと没入するように飛び込んでいった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ