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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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677 月世界の戦い

「行くぞ――! ウィンベルグ!」
「はっ! 奴に目に物を見せてやりましょう!」

 シリウス号の甲板から飛び立つ影が2つ。テスディロスとウィンベルグだ。
 瘴気を立ち昇らせるテスディロスの身体が変化していく。
 ゼヴィオンの変身にも似た皮膚の硬質化と形状変化。テスディロスが黒い鎧を纏う騎士のような姿に変じる。手には瘴気の槍。髪の毛が後ろに長く伸びて雷を帯びる。その雷が全身に及んだかと思うと――爆発的な速度で飛んだ。

 それは意思を持つ雷光。鋭角に折れ曲がる軌跡だけを残して鎧袖一触、触れた魔物を感電させながら撥ね飛ばす。
 あっという間に空飛ぶ魔物達の只中まで突っ込んだかと思えば、全身に纏った雷光を収めて騎士姿に戻る。急制動。何が起こったか理解していない魔物達目掛けて手にしていた槍を一閃させる。

 それで終わりであった。最初に前に出てきたゲイザーは瘴気の槍で裂かれ邪眼を使う暇すらなく両断されて落ちていく。とは言え仮に邪眼で迎撃できていたとしても、魔人に対してはそういった術も通りにくいのだろうが。

 ゲイザーを仕留めたと思った時にはテスディロスは雷光を纏い離脱していく。
 それを追おうと魔物達が動くが、もうテスディロスは敵陣を脱している。雷を纏っている時とそうでない時の動きの緩急の差が凄まじく、それがテスディロスの動きを見失わせているのだ。

 呆気に取られたように魔物達が追撃を諦めたそこに――瘴気弾が叩き込まれていた。ウィンベルグからの援護射撃だ。
 ヴァルロス一派に加わる前から知り合いだということで、ウィンベルグはテスディロスの戦い方をよく理解している。ウィンベルグ自身も飛行を得意とする魔人で相性が良いのもあるし、元々傭兵をしていたらしく、乱戦も得意だと言っていたから2人の実力と連係に関しては問題あるまい。

「こっちだ!」

 突出してゲイザーを仕留めに行ったテスディロスの退路を確保するようにエリオット達が動く。一糸乱れぬ飛行でシャドウレイヴンを蹴散らすとテスディロスとウィンベルグに声をかけ、それに応じてテスディロス達も合わせて動く。

「ゲイザーは我等に任せられよ!」
「承知!」

 氷の鎧を纏ったエリオットと、テスディロスの視線が交差する。サフィールが滑空。エリオットがすれ違いざまに氷の剣で薙ぎ払う。エリオットが切り込んだ隙を見逃さず、続く討魔騎士団達が魔物を切り崩していく。

 更にピエトロの分身達がシグリッタのインクの獣に跨って、即席の一部隊を追加する。直接的な攻撃力にはやや劣るが、動きの統制は非常に取れており、頭数の不足を補うのには丁度良い戦力と言える。

 何を置いても守るべきは儀式場だ。儀式場直上に陣取るパーティーメンバーや討魔騎士団、シオン達がそれぞれ別方向を守る。ゲイザーは邪眼に対して強い耐性を持つテスディロスか、イグニスやマクスウェルが対処し、各々でそれをフォローする形になるだろう。

 高い防御力を誇るシリウス号は、オフェンス。空中を疾駆して敵陣の密度が濃い場所に突っ込み、魔法弾による対空砲火と、戦輪を飛ばして積極的に攻撃を仕掛けていく。

 それでも数で勝る魔物達が一斉に殺到し、防衛戦力よりも儀式場への攻撃を優先してくるものだから、防衛線を抜けそうになる魔物が出る。
 しかし――。地上に迫ろうとした一匹が空中で噛み千切られていた。
 一瞬だけ装甲を纏ったベリウスの姿が現れて掻き消える。光魔法による迷彩装甲だ。つまるところ、突破しそうになった敵の動きは、こちらにコントロールされたものでしかない。ベリウスだけでなく、ローズマリーのマジックスレイブも浮遊している。

 どうしても抑えきれない場合はマルレーンのランタンやフラミアの狐火による幻影で人員を多く見せかけ、敵をこちらの望む方向に誘導し、そこを叩くというわけだ。

 空中戦はそれでいい。一方で地上戦は――。

「訓練通りに! 隊列を乱さず、落ち着いて対処を!」
「はっ! オーレリア陛下!」

 視線を向けてみれば――オーレリア女王が月の将兵達を率いて、地上から殺到する魔物達を迎え撃っているところであった。
 抜き放ったオリハルコンの細剣で刺突を見舞えば、ずっと離れたところにいた魔物の頭がコルクでも抜いたかのように穴が穿たれ、崩れ落ちていく。

 魔力を細く絞り、刺突に乗せて踏み込めば、煌めく閃光が穿つ。
 速度、射程、威力。どれを取っても相当な精度だ。演武でもするようにオーレリア女王が動けば離れた場所にいる魔物達が崩れ落ちていく。

 単騎で一方向から迫る魔物を次々と葬り去っていく。あの技ならば、下手に援護も必要なく、1人で一方向の防衛線を支えられるというわけだ。

 月の将兵達もまた勇猛だ。魔法を使える者がほとんどらしく、陣形を組んだまま火球を放って敵の動きを乱す。それでも爆炎を抜けて殺到してくる魔物達を、剣で迎え撃つ。

「下がりなさい!」

 エスティータの胴薙ぎを受けて、アーマーリザードが崩れ落ちる。横から切り込んできたもう一匹の魔物は、ディーンが横から突っ込んで刺突で沈めていた。
 姉弟共になかなか良い動きだ。アーマーリザードの外皮を易々と切り裂くほどの武器。刀身に輝く紋様を見る限りだと、魔力を通して、切れ味を増幅させているという代物らしい。

 だが、後から後から魔物が押し寄せてくる。それを見て取った月の将兵達は浮石を動かして敵軍の押し寄せる方向を限定させ、そしてそれを迎撃する形を取った。

 イシュトルムの待ち構えている拠点を攻めるよりは負担も少ないだろう。だが、数で劣るので野戦での不利は否めない。空からの敵はシリウス号や討魔騎士団が押さえるが、地上の援護に回れるほどの余裕がない。

 だから――戦いながらも儀式場を守るための陣を構築していく、という形になる。

「防御陣を作ります! 合わせて下さい!」

 アシュレイの作り出す氷壁が儀式場に迫ってくる敵の包囲を阻害するように広がっていく。ロゼッタや討魔騎士団のライオネルやエルマー達、土魔法や水魔法を使える者も地上側に回り、石壁やら氷壁やら土壁を作り出していく。
 即席も即席ではあるが、とりあえずは全方位から敵の攻撃を受ける、という状況は避けられる。

 そこに殺到してくるのが地下からのサンドワーム共だ。地下に対する防御はコルリスとラムリヤの能力、アシュレイやラヴィーネの氷ぐらいのものだ。地中を自在に泳ぐ能力は、コルリスのそれと、サンドワームのそれは同じものだと仮定すれば、凍結させてしまえばその能力では突破できないのだが、それだけではまだ不足だろう。
 だから――みんなが防衛線と定めたその外側に、堀を作る。

「遅れてサンドワームが来る! 援護を!」
「はいっ!」

 そう言って防御陣地からみんなと共に飛び出す。闘気を漲らせるグレイスが地上から迫ってくる魔物達を無人の野を行くが如くに蹴散らす。

 グレイスが弾き散らして乱れた敵魔物の群れにデュラハンやシーラが切り込む。
 殺到する敵を退けて空白地帯となったそこに――ウロボロスを突き立て、魔力を地面へと送り込む。まだ。まだまだ。ギリギリまで引き付けろ。もっと、もっと広く――!

「起きろ――!」

 マジックサークルを発動させると同時に、パーティーメンバーが空へ飛んで離脱。
 用いた魔法はクリエイトヒュージゴーレム。

 巨大な土塊の兵隊が作り出され、防衛線周辺の地形が一変する。ヒュージゴーレム達が即席の堀から這い上がると、殺到してきたサンドワーム達が堀の壁面から顔を出すようにして、困惑したようにあたりを見回した。

 横薙ぎ。状況把握が追い付くより先にバロールが光弾となって、迂闊に頭を出したサンドワーム達を貫いていく。光弾が尾を引きながら縦横に撃ち抜いていく。

 ヒュージゴーレムはそのまま敵地上部隊を文字通りに蹴散らして進ませる。動きが鈍いのでそう大した戦果は挙げられないが、一直線に向かってくるはずの魔物を迂回させるぐらいの効果はある。

 コロッサスやラーヴァサーペントは採掘場の守りなのか、それとも他の魔物を巻き込むことを避けるためか、まだ前には出てきていないが……あれらは即席のヒュージゴーレムでは相手できまい。適当なところで変形させて、敵の地上部隊が迂回せざるをえない障害物に作り変えてしまうのがいいかも知れない。

 だが、それは後回しだ。地上の混乱が広がっている間に、堀の底に降りる。
 ジークムント老とフォルセトも一緒だ。更に地下深くから迂回されて本陣直下から攻撃を受けては、堀を作った意味がない。今の内に下からの侵入を防ぐ結界を張ってしまおうというわけだ。

「お2人への攻撃は通しません。安心して結界を張って下さい」
「うむ。信頼しておるぞ!」
「任せて下さい!」

 と、2人が結界を張る作業に移る。ライフディテクションでサンドワームの動きを把握。頭を出したところを叩き潰しながら、堀の底を構造強化で固めて、下へ迂回しての突破を難しくしていく。
 コルリスやラムリヤも援護に降りてきた。顔を出して猛烈な勢いで弾丸のような砂利を吐きかけてくるが――迎え撃つラムリヤが浴びせられた砂を逆に操り、サンドワームへの反撃を見舞う。堀の外側の壁面にコルリスが飛び込み、土中でサンドワーム達へ躍り掛かった。

 その時だ。ラーヴァサーペントが月面に顔を出した。鎌首をもたげるようにして真っ直ぐに防御陣地を見据えると咆哮を上げた。それを合図にするかのように射線上から敵の魔物が引いていく。息を大きく吸い込み、馬鹿げた大きさの灼熱の吐息を吐き出す。

「受け止めろ!」

 俺の命令を受けたヒュージゴーレムが両手を広げるようにして立ち塞がり、ラーヴァサーペントの溶岩混じりのブレスを受け止める。何発も受け止められないだろうが、こちらにはまだ何体かヒュージゴーレムがいるからな。仲間を巻き込むのを恐れて射線を知らせてくれるなら、全て受け止めて見せる。

 少しでも怪我をしたものはすぐさま離脱。アシュレイやロゼッタ。エルマーによる水魔法の治療を受けて戦列に復帰していく。

 土中での戦いは――結晶の鎧を身に纏ったコルリスが戻ってきた。
 堀の底に飛び降りてくる。サンドワーム達は……コルリスを突破できても俺やバロール、ラムリヤが待ち構えているので堀の突破が難しいと悟ったのか、急速に後ろに下がっていくようだ。
 深追いをしないというのはステファニア姫の判断かコルリスの判断かは分からないが、正しい選択である。

 サンドワーム達は代わりに地上へと向かっていく。前衛より後ろに控えて、地上に顔を出し、口から石や砂利を射出するという、文字通りの砲台となるつもりらしい。直下から攻撃できないなら、そういう攻撃を仕掛けるしかないだろうが、無駄にはならない。

 地上部隊も身体が軽いせいか、堀を飛び越えるだけの跳躍力を持っているが……普通に跳べば隙を晒すだけだからな。突入のための援護射撃が必要になってくるというわけだ。
 サンドワームや地上の魔物の動きがどうであれ、結界の構築はしなければならない。地下の防御を完璧にしてからでないとこちらも動けない。

 月面とその上空、そして地下。それぞれの場所での儀式場防衛戦にして総力戦。こちらの数は劣るが、まだ大丈夫だ。戦線を支えられている。
 その間にも儀式は進んでいく。この場に満ちる精霊力がどんどん高まっている。

 と、その時だ。城門で控えていたコロッサスも動き出した。
 恐らく――ラーヴァサーペントの援護射撃を止めるヒュージゴーレムの排除を行うためだろう。アシュレイの防御陣地でも、ラーヴァサーペントの吐息をまともに浴びていては危険だ。このまま放置というわけにもいかないだろう。
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