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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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670 接触

 さて……。月での活動にあたり、風魔法のフィールドを纏う魔道具等も用意してきている。
 精霊王の加護は俺からかなり離れていても届くとマール達は言っていたが、はぐれる可能性等も考えると準備しておいて損はないと判断したわけである。
 魔道具を装備したりと色々準備を進めていると、アドリアーナ姫と共に各国の王の名代として一緒にやってきたロヴィーサが提案してきた。

「折角テオドール様に護衛として調整して頂いたのですから、コーラルも探索に使ってみてはいかがでしょうか? コーラルは空気が無くても問題ありませんし」

 ロヴィーサが抱えているのは、流線型の青い飛行型魔法生物だ。名を、ブルーコーラルと言い、ロヴィーサはコーラルと愛称で呼んでいるようである。
 ティアーズを元にメダルや魔石を組み込んで改造したものだが……かなりティアーズの見た目や性能からはかけ離れてしまったところがある。

 流線型の青い身体に大きめの手がついていて、それがのヒレのように見えなくもない。空飛ぶ金属質の魚、といった風情だ。
 満月の召喚儀式ではやって来る魔物を選べない点が、ロヴィーサの場合は若干不安であったらしい。名代として一緒に行動するのであれば、水中に特化した魔物では大変だろうというのがその理由である。

 そこでティアーズを素体に、俺、アルフレッド、ローズマリー、フォルセト、ベアトリスという顔触れで、空中と水中両対応の魔法生物を作ったというわけだ。どちらにしてもヴァルロスらとの決戦に臨むのに、飛行型ゴーレムの開発は必要だったというのもあるが……色々手を加え過ぎてゴーレムという範疇でなく、マクスウェルやエクレールと同じ、魔法生物の枠組みになっている。

 因みに、ブルーコーラルの自我のレベルは、カドケウスと同じぐらい……というのが、ベアトリス談である。  
 カドケウスはカドケウスで賢いし、五感リンクで色々気になったことがあれば質問してくることもあるのだ。
 特に生まれたての頃は色々カドケウスが疑問に感じたことを五感リンクで感知し、それを答えたりもしたが、知識と経験を積んだ最近は割合落ち着いているというか、今の環境に満足しているという感じが伝わってきたりもする。

 まあ、それはそれとしてだ。ロヴィーサの護衛であるブルーコーラルは、確かにこういった状況でも加護の範囲等々を気にすることなく活動可能だろう。
 勿論、水中でも本領を発揮できるように、色々と水の中で役立つ術を搭載していたりもするが。

「では……コーラルにも出てもらいましょうか」
「はい」
「ならば我らも出よう」

 と、マクスウェルが言う。カドケウスとエクレールも頷いている。

「んー。じゃあ、加護が途切れる心配がないからっていうことなら……班として分かれて色々探してもらうことにしようか。俺達は少し城を見てくるから、カドケウス達は街中を調査してきて欲しい。何か見つけた場合でも、時間で区切りをつけて戻って来ること」
「承知した」

 マクスウェルが頷いた。

「なら、イグニスも街中の探索に一緒につけるわ」

 と、ローズマリーが言う。
 魔法生物組が街中を。一方で俺達は城の調査というわけだ。
 魔法生物組もそれぞれ能力が違うので、単独行動させるよりはかなり対応できる状況が増えて、探索力も戦闘力も増すからな。俺としても安心であるかな。



 そんなわけで、2班に分かれて遺跡の調査をすることになった。
 城の入り口などを調査した後で、中庭にシリウス号を降下させて、内部を見てみる。俺達が城の内部の調査を担当するのは、当然、クラウディアが内部構造に詳しいからだ。

「朽ちているけれど……そうね。作り自体は昔のままではあるわ」

 クラウディアは在りし日の記憶を辿るように、中庭に面する廊下の手摺に軽く触れて目を閉じる。

「破壊された痕跡は無いようですね」
「城門のところもそうだったけど、積もった埃はそのまま。最近誰かが立ち入った痕跡はない」

 グレイスとシーラがあちこち見回しながら言う。
 廊下から城のあちこちの部屋を見て行く。

「家財道具が置かれていたっていう痕跡がないな」

 どの部屋もがらんとしていた。石組みの建物の基本部分だけが残されたという印象。

「やはりどこかに場所を移したということでしょうか」
「そうだね。物資が困窮しているなら、持っていけるものや再利用可能なものは、全部持っていきたいだろうし」

 アシュレイの言葉に頷く。この結果はカドケウス達の調査している街中でも同じだ。
 どの家も家財道具の類があったという痕跡がない。綺麗に石組みの家だけが残っているという印象である。

「それに、時間もあったっていうことだ。何かに襲われたりしたわけじゃない」

 何かの攻撃を受けての避難であったなら家財道具を持っていく暇などない。この点に関しては、多分明るい情報ではあるのだろう。

「恐らく……ここには何も残されていないのでしょうね。奥も見てみるけれど、多分何もないと思うわ」
「そうだな……。ここまでしっかり計画的に放棄したのなら、重要な物を残しておくはずがない」

 重要施設は王族の生活空間より更に奥から行ける場所にあるらしいが……。

 クラウディアに連れられ、城の奥まで進む。幾つかの部屋を抜けていくと、どこまで続いているのか分からないような縦穴のある部屋へと辿り着いた。
 多分……かつては浮石のエレベーターがあったのだろうが……。

「魔力を感じないわね。どう? 何か見える?」

 クラウディアの問いに首を横に振る。片眼鏡には何の反応もない。念のために縦穴の下に降りると……そこは広大な広間で――。
 祭壇やら魔法陣の後やら、街の生活環境を維持するための術式を用いていた痕跡だけが残されていた。

「足跡は?」
「んー。ない」

 シーラは首を横に振る。

「ここにイシュトルムが興味を示さなかったっていうのは……既に何もないのを知っていた可能性もあるかな」
「……そうかも知れないわね」

 だとすると、後手に回っている可能性があるが。
 少なくともクラウディアが地上に降りてから少し後の月を、イシュトルムは知っているのだし。
 だが、テスディロスによると、ザラディはベリオンドーラで七賢者の遺した資料を探したが、全て処分されてしまっていたという話らしい。
 奴もまた、必要な情報を持っておらず、月面を色々と探している可能性もある。

「起動していないけれど……凄い魔法設備ではあったようね。こんな時でなければゆっくり調査したいところだわ」

 壁や床の紋様を見てローズマリーが言う。

「確かに、な。生活環境を作るための術式だって言うなら、利用価値は高いんだろうし」

 イシュトルムのことが片付いて余裕があったら調べてみても面白いかも知れない。

「他に、拠点となる場所は?」
「私が月にいた当時には、大きな隕石の衝突痕に街が点在していたけれど」

 と、クラウディアが言う。
 となると、候補地を虱潰しにしていくしかないかな。ベリオンドーラにしても、どこか大きなクレーターに降ろしておけば人目を避けておくことが可能だろう。
 無人であるならそんな必要もないが、月の民が残っていることを考慮すれば、ベリオンドーラを隠しておく意味だってある。イシュトルムの言う、休息という言葉にも合致する。

「大きな衝突痕を見て行くしかないかな。イシュトルムの方を先に発見できるかも知れないし」
「そうね。他にあてがあるわけでもないし……拠点に選ばれるような場所はある程度決まって来るから場所も絞れるのではないかしら」

 そんな話をしながら場所を移そうとした、その時だ。
 五感リンクでカドケウス達の様子を見てみれば……街中に何か、動く人影のようなものが見えた。

「……待った」

 カドケウスには……先程見えた何かの影のようなものを追いかけてもらうか。イグニスの鎧の隙間から抜け出し、影と同化。影から影へと滑るように動かして人影の見えた方向に向かわせる。

 同時に、みんなに先程見たものを知らせる。

「――人影ですか」

 俺の言葉に、みんなの表情に緊張感が宿る。

「正体はまだ不明だけど……すぐシリウス号に戻って、対応できるようにしないといけないかな」

 そう言うとみんなが頷いた。シリウス号まで戻りながら、カドケウスとのリンクに意識を向ける。
 裏路地にある影から影を移動させて周囲を捜索していくと……ああ。見つけた。どうやら見間違いでは無かったらしい。

 2人組の人影。性別は不明。……というより、生物かどうかがまずわからない。全身を金属質の鎧のようなもので覆っているからだ。
 鎧の隙間……関節部分などは何かゴムのような軟質の物体で埋まっていて、鎧の隙間がない。人間が宇宙服のようなスーツを着込んでいると見ればそう見えるし、ゴーレムと言われれば頷ける。
 人型。四肢はあるし身長も普通の人間サイズ。外見から分かるのはそこまでだ。
 頭部もまた、水晶のような質感の部品に覆われているが、光の反射の加減か、それとも内部が見れない仕様なのか、その奥が窺えない。

「こんな連中なんだけど」

 と、土魔法で模型を作ってクラウディアに見せてみる。

「……分からない、わね」

 クラウディアは首を横に振った。

 ……少なくとも路地裏からイグニスやマクスウェル達の様子を窺っているというのは見て取れるな。
 大柄な騎士甲冑、浮遊する斧。金属の鳥……という顔触れを物陰から覗き見て、何やら2人で顔を見合わせている。
 この反応は――少なくともイシュトルムの味方ではあるまい。
 月の都の遺跡に立ち入ったり活動した痕跡が無かったことを考えると……クレーターの外部から来た、とするのが妥当だろうか? では、何のために? 調査? 俺達の動きを察して監視に来た?

 疑問は尽きないが、上手く接触すれば話をすることぐらいはできそうな雰囲気だ。
 シリウス号に戻って人員が揃っていることを確認し、光魔法による迷彩を用いながら船体を浮上させる。

 まずは現場に向かわなければならない。今のところ彼らは敵対的な行動をする様子もないが、どうなるとも言い切れないからな。
 近くまでシリウス号でゆっくりと移動し、そこから……ああ、どうやってコンタクトを取るかがまず難しいな。
 俺達は精霊王達の加護があるから会話ができているだけで……彼らにとってはそれだけでも異常かも知れないし。

 んー、まあ、こちらの事情を伝えて、それで駄目だったら反応から敵か味方か探りつつ、本拠地までカドケウスを張り付けて道案内してもらえば良いか。何はともあれ味方であるならイシュトルムからの保護が最優先ということで。

 というわけで、1人甲板から出て、マクスウェル達のところへと向かう。

「おお、主殿」

 と、マクスウェルが俺を見て声をかけてくる。物陰の2人は生身の俺の登場と、加護によってあたりに響いた声に、思わず腰を浮かせた。うん。生物的な反応だ。月の民である可能性が高まったな。

「ああ。ちょっとこっち側に用事ができたんだ。少しだけ見ていてもらえると助かる」
「うむ」

 マクスウェルが頷くように、身体を傾ける。
 よし。では。2人が隠れている物陰の方へは視線を向けず、あたりに呼びかけるような形で声を響かせる。

「ええと。もしこれを聞いている方がいましたら。僕は、テオドール=ガートナーと申します。シュアストラス家の姫がルーンガルドに降りた地に作られた国……ヴェルドガル王国より参りました。月へ向かったイシュトルムという危険な魔人を追って……これを討伐するためです」

 そこまで言って、反応を見ている。2人は顔を見合わせあって、何かやり取りしている様子だ。こちらの言葉を信じるかどうか……という反応だろうか。

「僕自身も月の民に連なる末裔ではありますので、もし月にまだ人がいるのでしたら……その方達をイシュトルムから守りたい、と考えているのです。無理に信じろとは言いませんが、話だけでも聞いてはいただけないでしょうか?」

 ……言うことは言った。後は向こうの出方を見るだけだ。どう転んでも追跡する準備はできているし。
 やがて――。片方は止めようとしていたようだが、物陰から片割れが俺達の前に姿を現した。

 その手に、ぼんやりとマジックサークルが生まれる。
 魔法を用いる、という用途では無く――魔力を変形させて文字にすることで、コンタクトを取るためだろう。そういった方法でのコミュニケーションに慣れていないのか、魔力を変形させるのに若干苦労している様子が見て取れる。

『今の話は、本当?』

 と、空中に浮かぶ。

「はい。近くに僕達の乗ってきた船もあります」
『黒い城を乗せた、月の船?』

 ああ。イシュトルムの乗っている船を見たのか。

「いいえ。地上で作った白い船ですよ。結界を管理しているのでしたら、僕達が正式に道を開いて月に入ってきたことを感知できたのでは?」

 そう尋ねると、魔力操作に苦心しながらも、その人物はこんな言葉を伝えてくる。

『確かに。数日前、古い時代の月の船が、無理矢理、結界を越えて侵入してきた。だから、古い遺跡に何か異常がないか、ここに調査に来た』

 ……なるほど。それで鉢合わせになったわけだ。

「とりあえず、僕達の船の中なら空気もありますので、普通に会話できますが……。その前に1つだけ。あなたは……ゴーレムや魔法生物ではなく、月の民で間違いありませんね?」

 俺の問いかけに、今度はマジックサークルではなく、身振りで頷いてきた。
 ああ。それは――良かった。月の民の生き残りもきちんといたわけだ。
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