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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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665 シリウス号、新生

 改修作業は順調に進み、最も重要な推進器から始まって、水と空気の浄化設備、水回りや寝台等々の改装も続々と完了していく。
 一定範囲への無差別なレビテーションで疑似的な無重力空間を作り出し、設備や道具の使い勝手なども確認。
 元々戦闘機動も前提にしている船なので、寝具、道具類の壁への固定に関しては問題ない。

 音響砲に代わる銃座としては、ティアーズの魔力砲、それからセントールナイトの戦輪を採用した。
 セントールナイトの戦輪については解析してみたものの、制御術式が複雑なために魔法に精通している必要があること、元々の使用者であるセントールナイトのサイズに合わせ、武器自体が大きいために膂力も優れていなければならないこと等々、パーティーメンバーに使ってもらうには使い勝手が悪かったのだ。
 その点、シリウス号に搭載しておく分には操作用の水晶球を通して動かせるので問題ない。元々対魔人用に建造した船なのであまり汎用性の高い兵器を開発したり積んだりしたくはないのだが……今回の敵はベリオンドーラが作り出す魔物を想定しているので、背に腹は代えられない。

「それじゃあ――少し試運転してこようかな」

 諸々出来上がったところでテスト飛行だ。
 実際に立体機動をしてみることで、備品が転がったり設備に不具合が生じないかを確かめておこうというわけだ。
 モニターの操作等々問題が無いかパーティーメンバーや討魔騎士団も今回は同乗してのテスト飛行である。

「私達も乗せてもらっても良いかしら?」
「そうじゃな。儂もお願いしたい」

 と、ステファニア姫達が志願してくる。今日はアウリアも造船所に作業の進捗状況の確認にやってきている。原初の精霊にコンタクトを取るということで、アウリアも月へ同行するということになったのである。

「それは構いませんが、今回は結構無茶をしますよ。逆さに飛んだりとか」

 船体自体の強度は確認済みではあるから、他人を乗せても問題はないが……。

「それはまあ、覚悟の上ね」
「ええ。旅に出る前に試しておきたいわ」

 ……ふむ。それも一理あるか。訓練としての戦闘機動は何回か見せているから、分かった上で試してみたいと言っているのだろうし。実戦で高速戦闘を行うことも有り得るから、事前に体験しておくのも重要だ。

「分かりました。では、座席に身体を固定する帯だけはしっかりと締めておいて下さいね」



「総員、身体の固定が完了しました」

 というわけで、みんなを乗せての試運転だ。エリオットの言葉に頷いて、伝声管も使い、準備が整っていることを確認してからシリウス号を浮上させる。座席そのものも改良されている。座席のクッションとして適度な柔らかさを持つロックファンガスを採用。
 戦闘機のコックピット風のベルトで、どんな機動を行っても身体をきっちり座席に固定することが可能となっている。
 その代わり気軽に座席から動くことができない。伝声管やモニターなどの掛け持ちはできないので、個々の座席の担当者がしっかりと自分の役割を果たすことが重要となってくる。

「では――行きます。気分が悪くなった場合は言って下さいね」

 造船所から海に向かって、まずは通常の風と火による推進器で航行。身体が座席に押し付けられるような感覚と共に一気に速度が増していく。
 その状態から、急上昇や急降下。横向きや逆さになっての飛行。弾幕からの回避用の機動等々、無理をし過ぎない程度にシリウス号を動かしていく。
 モニターから見える景色もぐるぐると回転。海が頭上、空が足下へ行ったかと思えば元に戻る。

「これは凄いわね……!」

 と、ステファニア姫達やアウリアがモニターから見える景色に楽しそうに笑う。まあ、余裕があるのは良いことだ。モニターの向こうの景色がぐるぐる回ってGもかかるが、アルファなどはそういったものとは無縁とでも言うように、普通に床に座っている。

「これで魔力光推進はしていないのよね?」
「ああ。これはあくまで戦闘時用の動きと速度だから。ここまででの動きでも分かると思うけど、速度を上げた状態で急激な方向転換をすると、身体への負担が大きいからね」

 ローズマリーの言葉に答える。
 魔力光推進器の目的は月へ到達するためのものだ。その速度での立体機動は流石に無茶が過ぎる。
 一旦船を水平に戻し、そして、言う。

「では、魔力光推進も試してみましょうか。直進だけですが、今より相当加速されるはずなので、しっかり身体を支えていて下さいね」

 そう言ってからカウントダウン。ゼロと同時に操船席に新しく据え付けられた制御用の水晶球に手を触れ、魔力を送る。

「おおお……!」

 という、アウリアの声。
 推進器から魔力光が噴出。爆発的な加速。馬鹿げた速度で流れていく景色。こちらから魔力を送ることでシリウス号の消費する魔力を抑える。船体に掛かる負荷も魔力に変換しているので、それも消耗を抑える助けになるはずだ。

 そうして魔力光の持続も程々のところで切り上げ、緩やかに速度を抑えていく。
 速度が穏やかなものになって来たところで海の上で方向転換すると……セオレムが随分と遠いところに見えた。
 最高速で飛んでいた時間は僅かだったが、それでもこれだけ離れてしまうわけだ。まあ……実験としては上々な成果だろう。そのまま、造船所へと戻るルートを辿る。

「お疲れ様でした。これより造船所に戻ります。造船所へ到着したら担当者はレビテーションの魔道具を持ち、各設備等々に不具合が出ていないかを確かめて下さい」

 伝声管でこの後の手順を確認してから、艦橋の皆に感想を求める。

「どうでしたか? 新しい座席の具合などは」
「座り心地は良いわね。適度に弾力があるし形も色々工夫されているから、船が曲がったり反転した時に、身体を支えやすいわ」

 クラウディアが言うとマルレーンがこくこくと頷く。

「円卓の上に乗せた食器も、そこに盛ったスープも無事です」

 アシュレイが円卓の上を確認して微笑みを浮かべた。ああいう立体機動をしておいて、料理がそのまま平然と円卓の上に乗っかっているというのも……まあ、シュールというか何と言うか。
 とりあえず戦闘機動をしても食事がダメにならないというのは有り難い話だ。食事中に不意打ちを受けたという状況でもなければ、料理を出したままで立体機動をするようなことはないだろうけれど。

「リンドブルムやコルリス達は?」
「コルリスは楽しかったみたいだわ」

 と、ステファニア姫がにっこり笑って答えてくれた。……ふむ。そんな風に言うステファニア姫達も楽しかったようではあるが。
 使い魔や飛竜達の厩舎の様子を見てみれば……問題ない、というように大型のベルトで身体を固定したコルリスがモニターに向かって手を振ってくる。リンドブルムやベリウスも、にやりと牙を見せて笑った。ふむ。厩舎も問題無し、と。

「我も楽しかった」
「私もー!」

 専用の座席でマクスウェルとセラフィナが声を上げる。楽しんで貰えたなら何よりだが。

「これで不具合が出ていなければいよいよですね」
「そうだね。出発の準備が整ったって言っても良さそうだ」

 グレイスの言葉に頷く。船内各所を確認し、問題がなければ食料等の物資を積み込んで出発……という流れになるだろう。
 パーティーメンバーに討魔騎士団。ステファニア姫達各国の王の名代、フォルセトとシオン達。精霊対策としてアウリア。船のメンテナンスや修理が行えるよう、アルフレッドとビオラ達、工房組が同行する。それからテスディロス達、魔人が2名。これが……月に向かう顔触れだ。

「この後は、一旦家?」
「そうだね。みんなが、出発する前に見送りしたいって言ってるし」

 国を挙げての祝勝をしたいところではあるのだが、イシュトルムの一件が解決していない以上は盛大に行うと隙を見せてしまうし、俺達が月での戦いを控えているからその意味でも祝勝はまだできない、とのことだが……魔人達との決戦を乗り切ったことも祝う意味合いや、月への見送り、無事に戻って来て欲しいという願いを込めて、出発前に小規模な宴会を行う、という話になったのだ。

 まあ、決戦前からこっち、働きっぱなしであったし。帰ってからの宴会は肩の力を抜いて楽しませてもらうことにしよう。
 魔人達2人も……現状、種族特性を封印したことで普通の食事を必要としているようだしな。負の感情なんかよりも普通の食事を楽しんで貰いたいところだ。
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