挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
670/1150

649 魔人達の思惑は

「おお、テオドール殿」

 通信機への連絡を受けて王城へ向かうと、女官によって迎賓館に通される。
 そこにはメルヴィン王とジョサイア王子、騎士団長ミルドレッド、リカード老、それに魔法審問官のデレクが待っていた。

「これは皆様」
「うむ。戻ってきたか」

 一礼すると、メルヴィン王が答える。

「はい。瘴珠の移送任務、滞りなく完了しました。瘴珠についてはあれから落ち着いているような印象です。封印塔への安置も問題ありません」

 メルヴィン王に現状について簡潔に纏めて報告する。まずは予定通りの任務について。それから精霊の監視網を広げたこと。副産物について、というところか。

「精霊達の力を借りて監視網を広げる案についても、通信機で報告した通り、想定以上の精霊が集まったことで砦周辺に清浄な力が集まっている、という状況です。ベリスティオの一件以外は、大きな問題はありません」
「ベリスティオの意識か……。あれほどの封印を受けながら目を覚まし、あまつさえ、言葉を交わすとはな」

 メルヴィン王はそう言って腕組みして思案していた様子であったが、やがて気を取り直すようにかぶりを振ってデレクに視線を向ける。

「では、審問の結果を報告せよ」
「はい。まずは結果からですが……。情報漏洩の可能性は低い状況ですな。あくまで、配置されていた人員達からの審問の結果ではありますが」

 デレクは一旦言葉を切ると、ミルドレッドとリカード老に視線を送った。ミルドレッドが口を開く。

「まず……塔の地下の見張り達は、余計な人員を立ち入らせたことはない、と証言しております。瘴気を撒き散らす珠ということで好んで近付きたがる者もいなかったというのもありますが、その上で見張りに志願してくれた者達ですので、私から見ても信頼が置ける能力と人格を有している者達です」
「部屋の中で監視し、必要に応じて魔法を用いる人員らも、交代制で緊張感を持続させておりますからな。陛下のお膝元で管理する手前、任務中はいかなる危険も見過ごさないよう、余計な私語は慎むようにと厳命しております」

 と、ミルドレッドとリカード老。

「そして彼らの証言の正しさ、任務への誠実さについては、魔法審問にて確認を取らせてもらいました。彼らも協力的で、審問も実に円滑に進みました。つまり、私に確認できる範囲内での漏洩の可能性は低い、という結論になります」

 無い、と断言するのはデレクにしてみると不誠実な言葉になってしまうのだろう。
 ベリスティオの意識がデレクの審問をくぐり抜けられるような手段で情報収集をしているだとか、この一件とは関係ない所で魔人の内通者がいる等となれば話は変わってくるし、そこまで確認したわけではないからだ。

 そこは現時点で確証を得る事はできないので、状況から推測するしかない。
 仮に封印されているベリスティオにそれほどの自由があるのなら。そして、ヴェルドガル国内に魔人の内通者がいるというのなら。魔人達の対応とて今までのそれとは違っていたはずだ。
 様々な要因や今までの経緯から考えて、やはりそれらの可能性は低いと言わざるを得ない。

「現時点では情報漏洩を疑うような材料も見当たらないように思えるね」
「その点は僕もそう思います」

 ジョサイア王子の言葉に頷く。

「ふむ。一安心ではあるかな。しかしそうなると、そなたの言っていた漏洩情報を逆手に取るという策は使えないということになるか」
「そうですね。とは言え、今からその策を講じるのも手間ですから……。余計なことをせずに目の前のことに集中できると考えれば、素直に喜んでいいのかも知れません」
「ふむ。仕掛けられなかったのが残念、とも聞こえるがな」
「いやいや。そこまでは」

 互いに冗談めかして言ってから、にやりと笑い合う。

「何と申しますか……。悪巧みをしているようなやり取りですね」

 俺とメルヴィン王のやり取りにミルドレッドが小さく笑って言うと、ジョサイア王子も堪えきれないという様子で肩を震わせる。
 まあ、今から封印塔の瘴珠に偽情報を流しても警戒されてしまうだろうしな。ここに来て余計な要素が入り込まなかっただけでも良しとしておこう。

「冗談はさて置くとして……。ヴァルロスとベリスティオが既に同調しているとあらば、連中の不和にて計画が自壊する、などということも望めまいな。やり口の違いから、あわよくば、とも思ったのだが」

 やり口の違い……ヴァルロスとベリスティオでは、他の種族に対する対応、考え方の面で違いが見られる。伝え聞いている話から判断するに、ベリスティオの方が、より他種族に対して攻撃的だった。
 だが、ベリスティオがヴァルロスと組む事を決めたのであれば、その違いについては既に折り合いがついていると見るべきだ。ヴァルロスは折れないだろうから、ベリスティオがヴァルロスの方針に頷いたということになるだろうか。
 単純に武力によって征服するという方法は、一度失敗して永い封印を受けることになったのだし……そこから反省したのなら手法を変えもする、か。

「そう、ですね。以前戦ったガルディニスは、ヴァルロスやベリスティオに対しても面従腹背という印象がありましたが……ベリオンドーラで接触した時は、既にそういった対抗勢力もいないように見えましたから、不和や分断を狙うというのは難しそうですね」
「厄介なことだ。統率された魔人などと……」

 と、ジョサイア王子が天を仰いで嘆息した。

「ヴァルロスにとって盟主を解放した後に最大の障害となるのは、やはり同族なのではないかと思われます。方針に従わない魔人がいたとしてもヴァルロスの武力とベリスティオの能力によって従わざるを得ないという状況を作っていくのなら……他の魔人を統率していくことも可能でしょう」

 ガルディニスに関して言うなら、あいつは自分が頂点に立とうとしていたようだったが。海王を名乗ったウォルドムもだ。ベリスティオに対して大人しく従うというようには見えなかった。
 ガルディニスは――ウォルドムが目指していた、ベリスティオの支配を逃れるような術を保有していた、とか? 或いは魔人集団の中で自分が主導権を握ることで、ヴァルロスを出し抜いて土壇場でベリスティオを始末する、ぐらいのことを考えていたとしても不思議はない。

 過去、ベリオンドーラが攻め落とされた際もガルディニスが攻め込んできたようだが、これもベリスティオの完全な抹殺が目的だった可能性はある。
 というか、こちらの方がガルディニスの性格からするとしっくり来るような印象があるな。今となっては……確かめようもないことだが。
 結果だけを見るなら、ガルディニスらを失った代わりに、魔人集団はヴァルロスを中心に纏まりを見せている印象だ。

 ミュストラのような独立独歩の奴も一応紛れているようだが、奴に関しては判断材料が少なくて何とも言えない。それだけに警戒が必要な相手であるのは間違いないが。

 一方で……ベリスティオの視点から見た場合はどうか? 例えば……封印されている間に時間が経ち過ぎたせいで、自身の支配能力に対抗策を講じられているという可能性を、奴自身も想定していたとしたら?

 そうなると、同格のヴァルロスと組むというのは、奴にとってもメリットが大きい話だ。そもそも封印されている状況が既に最悪とも言えるし、そこから解き放たれるなら、どう転んでも奴にとっては好転と言える。
 仮に後でヴァルロスを裏切るつもりだとしても、奴もまたこちらを敵と見定めているのだとすれば、行動を起こすのは俺達との戦いでの大勢が決してからということになるだろう。

「――いずれにせよ、こちらの方針に変更は無い、ということではあるな」

 諸々の考えを説明すると、メルヴィン王は瞑目しながらそう言った。
 確かに。向こうの事情や、魔人達それぞれの思惑がどうであれ、こちらにとっては軌道修正の必要が無い話だ。情報漏洩の心配がないなら、俺もこのまま方針を変えずに動くだけである。

「では……僕も元の仕事に戻ることにします」
「うむ。瘴珠が移送された今、ここからは何時、敵が動いても不思議はない。努々気を付けるのだぞ。余は……そなたらが悲しむような顔を見たくはないからな」
「はい。陛下のご期待に沿えますよう、全力を尽くします」

 そう言って明るく笑みを返すと、メルヴィン王はこちらに合わせるように静かな笑みを浮かべ、俺を真っ直ぐ見て頷いたのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ