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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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646 瘴珠移送に向けて

 造船所に、ラミア、セイレーン、ハーピー達とゴーレム楽団の奏でる旋律が響いていく。
 混成部隊に迷宮村の面々も加わることになり、俺達や騎士団が準備や訓練を進めるのと同様に、呪歌と呪曲の合同練習、魔法楽器の修練、魔道具の配備等々も順調に進んでいる。
 迷宮村の住人達が混成部隊に加わっているのは、彼らが志願したからに他ならない。混成部隊が成立してすぐに迷宮村の住人から相談を受けたのだ。

 これから先、迷宮村を出てヴェルドガル王国で共存の道を取っていくのなら、自分達も決戦に協力しないわけにはいかないと、住人達で話し合って決めたそうだ。
 理由がしっかりしている事、空中戦装備も含めた戦闘訓練を受けている事などから、クラウディアも頷いたし、メルヴィン王、エルドレーネ女王や族長達もその話を歓迎した、というわけだ。

 迷宮村の住人とセイレーン達は元々打ち解けていたし、ハーピー達ともすぐに仲良くなったようである。今も皆で一緒になって真剣ではあるのだろうが、どこか楽しそうに演奏の練習をしている。

「迷宮村の皆さんも、馴染んでいる印象ですね」
「やっぱり、呪歌や呪曲で交流している部分が大きいのではないでしょうか?」

 空中戦の訓練の合間に――そんな光景を見てグレイスが言うと、アシュレイが頷いて微笑む。

「そうねぇ。私達も、捕まっている時に歌で仲良くなったし……」

 と、イルムヒルトが頷いた。

「私としては……やっぱり少し心配してしまうのだけれどね」

 と、クラウディアが自嘲するように苦笑して目を閉じる。迷宮村の住人が独り立ちするのを歓迎すべきと解っていても、心配したりそれを寂しく思うところがある、ということなのだろう。マルレーンが少し心配そうな視線を向けるが、クラウディアは柔らかく笑って彼女の髪を撫でる。

「大丈夫。私の我侭というのは分かっているもの」

 クラウディアが言うと、近くで休憩していた迷宮村の住人が答えるように言った。

「私達は、今までずっと、姫様やヘルヴォルテ様に守ってきて頂きました。姫様が戦っているのですから、私達も一緒に戦います」
「テオドール様もいて下さいますし、ミハエラ様、セシリア様が外の世界について色々教えてくださいましたから」

 クラウディアはその言葉に真剣な面持ちで静かに頷く。

「もし、混成部隊が直接戦闘に陥るような事態が想定される際は、私が駆けつけて守ります。姫様は御心安らかにお過ごし下さいますよう」

 ヘルヴォルテが胸に手を当てて言うと、ベリウスもアルファと視線を合わせた後で頷き合い、ベリウスだけがクラウディアに視線を送り、首を縦に振る。

「ありがとう、ヘルヴォルテ、ベリウス。アルファも、嬉しいわ」

 クラウディアが礼を言うとヘルヴォルテが静かに頷く、ベリウスとアルファもそれぞれ口元に笑みを浮かべた。
 アルファはシリウス号と一緒だから、状況はどうあれ前線に出ているという形になる。ベリウスとアルファのアイコンタクトについては、もしも自分がヘルヴォルテと共に動くような時はクラウディアの守りを頼む、ということかも知れない。

「まあ後方に手出しなんて、させないようにするけれど」

 そう言ってローズマリーは羽扇を広げて口元を覆う。その言葉に、その場にいたみんなが頷いた。マクスウェルも核を明滅させているし、ピエトロもレイピアを素振りなどしている。決戦に向けて、みんなの戦意は充分といったところだ。

 そうして話をしていると、造船所にアウリアがやって来た。

「こんにちは、アウリアさん」
「うむ。例の符丁絡みの件で色々纏まったのじゃ。お主は忙しそうじゃし、他の者に伝言を頼むわけにもいかないので儂が伝えに来た、というわけじゃな。オズワルドや他の者が出歩くより目立たんからの」
「なるほど……」

 若干小声になったアウリアに苦笑して頷く。俺の反応に、アウリアもどこか楽しそうににやりと笑った。
 符丁――つまりイザベラからの協力に関する話だろう。性質上職員達に伝言を頼むというわけにもいかないし、通信機に記録を残すのもなんなのでということで、自ら口頭で経緯を伝えに来てくれたというわけだ。
 ええと……目立たないというのは、アウリアが来た方が普段通りで目立たないから、ということだろうか。普段から抜け出して出歩いているから行動の自由が利く、と。

「一応話も纏まってのう。お主から聞いた一件も考えて、信用しても問題ないと判断した」

 シーラとランドルフの一件だ。あの事件についてはその背後であったことについて、あまり明かされていないのだが、アウリアに話を通すにあたりイザベラの人となりについて伝える必要があった。

「基本的には直接戦力として加わる者もおるし、住民達が避難した後で冒険者達に混ざって見回りの協力をしたり、街に侵入してくる魔物に対する罠を仕掛けたりしてくれるそうじゃ。まあ、そのあたりの人員の動きは、儂らからすると普段通り暗黙の了解ではあるが……」
「冒険者という立場がないと、彼らも住民の避難後は動きにくいでしょうからね」

 騎士団から見るとタームウィルズの住民であることに変わりはないからな。冒険者としての立場を得て行動の自由を確保すると共に、特殊技能を持つ者がいることやその方針等々を伝えて、冒険者ギルドに活用してもらおうというわけだ。
 同時に、盗賊ギルドとして見回りなどに協力することで、非常時での空き巣等々の仕事はさせないと、身内の者達に対しても通達する意味合いを持っているわけである。

「じゃろうな。それから……一時的な共闘ということで、事態が解決した後の符丁の使用については意味がないものにしたいと、向こうから申し出があってのう。あちらの方が気を遣ってくれておるのを感じたぞ」
「ああ。あちらの長が言いそうな話ですね。僕が以前、調査中に接触した時もそうでしたから」
「うむ。聞いていた通りの人物のようじゃな」

 表社会の人間と裏社会の人間が癒着して、頼り頼られる関係になってしまうのは問題が生じやすい。表の者は盗賊ギルドとの繋がりが深くなれば汚職や強権による専横等がしやすい環境になるし、裏社会もまた表側の権力と繋がりが深くなれば性質が変化しやすくなってしまう。

 イザベラは盗賊ギルドのそうした変質を望まず、先々代の盗賊ギルド長への義理を通している、というわけだ。俺との関わり方にしても冒険者ギルドへの対応にしても、そのあたりは一貫したものを感じる。

「それで結局、符丁はどんなものになったんですか?」
「うむ。まあ古典的ながら合言葉じゃな。どんな合言葉が良いかと話し合って、裏社会に潜む者、というところから土竜などという案も出たが……これについては予想外の迷惑がかかる可能性を考慮し、別のものとなった」

 ……うん。まあ、そうだな。当人であるステファニア姫とコルリスはアクアゴーレム相手に空中戦の訓練をしているが……。

「まあ、フクロウの羽とかカラスの羽といった符丁でやりとりすることになっておるのじゃが」
「ん」

 アウリアの言葉にシーラが頷く。そのように間違いなく盗賊ギルドにも伝えた、ということだろう。

「素材としても違和感のないものにした、と」
「そうなるのう」

 ふむ。いずれにせよ、盗賊ギルドとの連係に関しては問題無し、というわけだ。

「ああ。それと、明日の移送に関しての確認ですが」
「ふむ。通信機で言っていた瘴珠の移送じゃな」
「はい。あれに関しては転移魔法での移動が難しいので、シリウス号で移送する予定なのですが……悪影響が出ないよう、念のためセラフィナやテフラやフローリアには、先に石碑であちらに移動してもらう予定です」

 精霊や妖精、環境魔力への悪影響が出ないよう、魔道具の箱で周囲への影響を抑えつつシリウス号で移送する予定だが、これは念のためにというわけだ。アウリアも精霊達を使役して北西方向へ監視網を広げるわけだが、瘴珠が精霊達に影響を及ぼすような可能性は極力排除しておきたい。

「うむ。儂もそれに合わせて移動すれば良いわけじゃな」
「そうですね。冒険者ギルドには先に顔を出しますので」
「うむ。承知した」

 瘴珠が移送されれば、いよいよ臨戦態勢という空気が濃厚になっていくだろう。こちらの移送を察知したベリオンドーラ側に動きがあっても何ら不思議ではないからだ。
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