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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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645 戦力結集

 昨晩の歓待も喜んでもらえたようで何よりと言えよう。ハーピー達の協力と増援も得られたことで戦力も増した。
 そんなわけで、温泉で歓待した次の日から早速仕事に取り掛かる。シリウス号の船内設備や造船所の建物に色々な資材を移し、工房と同様の仕事ができるように準備を進めていく。
 ハーピー達とセイレーン達。そして騎士団の面々もモチベーションは非常に高い。造船所に朝から集まって早速空中戦の訓練やら呪歌、呪曲の練習に力を入れている。

「術式を刻んだ魔石は順次用意していきますので……それを呪歌用の魔道具や、魔法楽器に組み込んでいって頂きたいのです」

 俺はと言えば……一旦資材搬送の仕事やらをみんなに任せ、集まったハーピーの男衆の職人達に、これからの仕事を説明している最中である。術式そのものを刻む作業は工房の面々で。魔石を楽器に組み込む細工は職人達にやってもらう、という役割分担である。
 というのもハーピーの職人達の自己申告によると魔法技師の仕事よりも普通の職人として細工の方が得意、とのことで。魔法技師の仕事としては、例えば水作製の魔道具であるとか、生活に必要なものを魔道具として作るということを今までやってきたという具合らしい。
 その代わり、細工の腕前に関して言うなら相当な技量を持っているようだ。魔石の扱いに慣れていて、細工が得意な職人達ということで、魔道具の仕上げを任せるには心強い人材であるし、工房側の負担もかなり減る。
 そのため、王城で空中戦装備作りなどの手伝いをする班と、工房で魔道具の仕上げをしてもらう班に分かれてもらう形になった。

 というわけで、まずは遠隔に呪歌、呪曲を届ける魔法楽器の数を揃えてしまおうというわけである。
 彼らは俺の言葉に真剣な面持ちで耳を傾け、そして頷いていた。

「何か疑問点や質問などはありますか?」
「呪歌用の魔道具についてですが……。何やら不思議な形をしておりますな。もしよろしければ使い方を説明して頂けると細工もしやすくなるのですが」
「ああ。これはですね――。こうして頭に装着して、この棒状の部分を口の前に持っていくわけです」

 工房で作った試作品を実際に装着して見せる。呪歌を遠隔に届ける魔道具――つまりヘッドセット型のマイクだ。飛びながらでも、泳ぎながらでも歌える。
 普通のヘッドセットと違い、頭の上と後ろ、そして顎紐でしっかり固定可能になっている。

「この、口の前に来ている部分が呪歌を受け止め、ミスリル銀線を通して横の部分に組み込まれている魔石が離れた場所に声を送る、というわけですね。飛び回ったり泳ぎ回ったりしても落ちない形が望ましいのでこういう形状をしています」

 俺の声は近くに置かれているスピーカーの魔道具から聞こえた。職人達の目が軽い驚きに見開かれる。

「魔法楽器も同様です。演奏した音色が遠くに届けられる仕組みです。楽器については、魔石を組み込む以外は基本的に使い慣れたものであればいいと思います」

 職人達にも納得してもらえたようだ。後は造船所の鍛冶設備、魔法技師用の設備などを紹介していく。
 そうして説明していると、造船所に馬車がやって来た。御者役をしているのはグレイスだ。

「皆さんをお連れしました」

 と、グレイスが馬車を停めて御者席から降りる。

「ああ。ありがとう」
「いえ」

 グレイスが明るい笑みを見せた。
 馬車から降りてきたのはクラウディアとアドリアーナ姫、それからシルヴァトリアの七家の面々であった。

「おお、テオドール君!」

 と、長老達が俺の姿を認めて駆け寄ってくる。そのままの勢いで代わる代わるハグされる形になった。

「お、おはようございます」

 相変わらず熱烈な挨拶ぶりである。苦笑して答えると長老達は相好を崩した。その光景に、グレイスやアシュレイ……みんなもどこか楽しそうににこにことしているのが若干気恥ずかしいが。
 今朝方になって通信機に連絡があったのだ。決戦の日が近いので、こちらに合流してできることをしたい。困っていることはないかと。

 確かに、学連の塔で資料を漁る作業には時間が必要だ。
 そうなると、今のタイミングでタームウィルズにやって来て、準備や研究の手伝いをしたほうがより大きな成果を出せると、シルヴァトリアから駆けつけてくれた。

 公式にタームウィルズを訪問し、対魔人同盟を締結したことを記録に残しておきたいエベルバート王と違い、七家の長老については、密かに行き来した方が色々望ましかったりする。それで俺が説明をしている間に、クラウディア達がシルヴァトリア王都、ヴィネスドーラの月神殿まで迎えに行ってきた、という次第である。

 昨日劇場や温泉で割と盛大に色々やったので、そのあたりタイミングが惜しかったなとは思うのだが……そのあたりを改めて、というような話をすると、シャルロッテの父でオルグラン家の当主、エミールが手をひらひらとさせて笑った。

「いやいや、これから信頼関係を築き、交流を深めねばならないハーピー達と違って、私達は君の身内だからね。非公式の訪問だし、そう大袈裟にする必要はないさ。片付けるべきことを片付けてからゆっくり観光をさせてもらえれば、それで大丈夫だ」
「うむ。友の孫であり、親戚の家に遊びに来ているだけとも言えるからな」

 エミールの言葉に、長老達がにこやかに頷く。

「なるほど。では、せめて僕の家では寛いでいって下さい」
「ああ。それは嬉しいな」

 味噌や醤油を使った料理だって出せるし、遊戯室だってある。盛大な歓待とまではいかずとも、作業の疲れを癒すのに、ちょっと温泉や植物園に足を運んだりする程度の余裕だってあるだろう。
 当人達は、魔人との直接対決は難しくても砦内から魔法を放つぐらいなら大丈夫、と意気込みを語っていたけれど。

「おお、到着したのじゃな」
「こんにちは」
「ジークムント殿、ヴァレンティナも」

 と、そこに工房から資材を満載させた馬車がやって来て、ジークムント老達が降りてきた。2人は長老達と和やかに再会の挨拶を交わす。

「私達の仕事は、魔石に術式を刻んだり、テオドール君やジークムント殿の研究の手伝いということで良かったのですかな?」
「うむ。魔道具の増産も急務でのう。到着して早々で悪いのじゃが」
「旅をしてきたわけでもないのですし、問題はありますまい」
「うむ」
「では……。これがその、刻んで頂きたい魔道具用の術式です」

 造船所の建物内に移動しながら、アルフレッドは俺が以前書いた術式を長老達に見せる。

「また……どれもこれも洗練された術式ですな」

 それらを目にした長老達が驚いたような表情をする。

「テオ君が書いた術式ですから」
「おお。それは納得よな」
「うむ。作業にも気合が入るというもの」

 魔法技師用の設備の前で、長老達が外套を脱いで腕まくりをしている。魔力の調子を確かめるように手を握ったり開いたりと、随分と気合が入っている様子だ。
 とりあえず魔道具の増産に関しては盤石になったと言えるだろう。

「ん。それから、移動の途中でテオドールに渡して欲しいって手紙を預かった」

 作業風景を見ていると、シーラが言った。

「ん? 俺に?」
「イザベラが、直接私に持っていけって」

 イザベラ……。つまりは盗賊ギルドからということになるか。
 差出人も宛名も書いていない便箋である。イザベラが直接シーラ経由で渡すことで、手紙の信用性を高めると共に、誰に見られても問題ないように、ということなのだろう。
 早速中を見てみると、当たり障りのない挨拶と近況が書いてあったりする。他愛の無い内容に見えるが、これは……暗喩の塊だな。盗賊ギルドと、その周辺の裏社会が現状安定していることなどが記されている。

 その上で――自分も含め、信用のおける腕利きを冒険者ギルドに登録した、との旨が記されていた。
 これから大きな狩りが控えているから、今回に限り少しの間冒険者として働きたい、などと書いてあるが……要するに冒険者ギルドと連係して自分達も決戦の際に力になる、ということだろう。
 冒険者ギルドの上役に自分達の意気込みが伝わると嬉しい、という下りは、盗賊ギルドの腕利きが冒険者登録しているから、必要なら冒険者ギルドの裁量で活用して欲しい、そのことをそれとなく伝えておいて欲しい、という解釈で良いのだろうか。

 アウリアもオズワルドも元々熟練の冒険者だし、盗賊ギルドとの関係は近過ぎず遠過ぎずの暗黙の了解でやっているところはあるから、そのあたりのことは少しぼかして伝えれば問題ないのだが……んー、そうだな。

「後で、イザベラさんに伝言を頼めるかな?」
「ん」
「冒険者ギルドが特殊な技能を持つ人員を必要とする場合は、掲示板に符丁混じりの依頼書で合図してもらうとか、そういうふうに段取りを整えてもらおうと思う」
「分かった。その符丁を伝えればいい?」
「そうなるかな」

 それから……大きな狩りだからお祭り騒ぎになって便乗する輩がいて混乱が出るかも知れないだとか、お祭りの場を取り仕切るのは自分達の得意分野だとかいった文面が続く。
 つまりは裏社会等には睨みを利かせておくから、民衆が避難している最中の空き巣狙いなどの心配はする必要がないということだろう。

 そして、こちらから特に接触しなくても盗賊ギルドは全面的に俺の力になる、という意味合いの内容で締め括られていた。
 俺は王の直臣だしな。盗賊ギルドと頻繁に接触しにくい立場にあるのは間違いない。
 ともあれ、こうして手紙で協力する旨を教えてくれたというのは有り難い話だ。後でアウリアやオズワルドにも話を通してこないといけないだろう。
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