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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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642 歌うゴーレム

 明くる日。色々と準備をし、予め打ち合わせていた頃合いになったところで迷宮の入口へと向かった。
 広場で暫く待機していると光の柱が立ち昇り、そこから次々とハーピーの集団が現れる。

「これはテオドール殿」
「ああ、こんにちは」

 転移してきた者達の中からヴェラが俺を見つけて声をかけてきた。言葉を返すと、あたりの様子を見ていた他のハーピー達の視線がこちらに集まる。

「ヴェラ、その方達が?」
「ああ。ヴェルドガル王国の異界大使殿とその婚約者や、仲間の方々だ」
「初めまして。テオドール=ガートナーと申します」

 転移でやって来たのは――他の集落の族長らしき格好をしたハーピーが数名。残りは戦士と職人達だろうか。みんなが興味津々といった様子で俺達を見てくる。
 みんなと共に挨拶をして頭を下げると、族長の内1人が屈託のない笑みを浮かべ、人化の術を用いてから握手を求めてきた。

「初めまして。ドミニクちゃんを助けてくれてありがとうね」

 手を取ると彼女はにこにことしたまま手を上下させる。

「ヴェラの集落の娘を救ってもらったこと、感謝する」
「ええ。私達も緊急連絡で、女の子がいなくなったことを伝え聞いて、心配していたのよ。本当に無事で良かったわ」

 と、他の族長達も次々と俺に礼を言って自己紹介をしてくる。
 なるほど。ドミニクが行方不明になった事そのものは超音波による緊急連絡で伝わっていたわけだ。これなら他の集落とコンタクトを取っても最終的にヴェラの集落に辿り着けたかも知れないとは思うが……結果から言うと精霊王達に助力してもらったことで信用されやすくなったわけだから、無駄では無かっただろう。精霊達は他の集落にも行っていただろうし、言葉まで聞ける者がいなくても、信用してもらうための材料にはなっているか。

 因みにこの緊急連絡の手段については、まだ年若いドミニクは知らなかった。ラモーナの話によると、基本的にはハーピーがしっかりとした大人になってから伝えられる、という性質のものであるらしい。
 緊急ではない用事については、彼女達の翼なら隣の集落ぐらいまでなら割と気軽に遊びに行けるそうで……普段からの交流も簡単だから、超音波による連絡は余程でなければ使わないようにしているのだろう。

 確か……ヴェラは秘密の言葉と歌と言っていたか。超音波を判別可能な他種族に聞かれても意味が分からないように暗号化してやりとりする程度には慎重に運用しているわけだ。まあ、子供には伝えないでおくというのも分からないでもない。
 敵が現れた場合に、聞こえる音域で誤情報を流した上で超音波で本当の情報をやり取りしたり、更に暗号で裏の意味を持たせたりとか……色々自由自在な連携を行うことも可能だろうからな。
 いずれにせよハーピー達は自分達の領分で平穏に暮らしていたということもあり、ドミニクの一件以前に使われたのは随分前のことになるそうである。

「今日この場にいる者達は、全員が今回の一件について、一通りのことを聞いた上で志願してこの場に集まった者達だ」

 と、ヴェラが言う。招集に応じて集まったが、事情については既に伝えてあるので、改めて色々と説明する必要もない、というわけだ。

「離れて暮らしているけれど、私等は家族であり友達なの。ヴェラの恩人は私達全員の恩人だわ。ありがとう」
「そして――我等一族が自らの翼で自由に空を舞い、自らの意思で歌い続けるために。我等はあなた方と共に戦うことをここに誓おう」

 ヴェラが言うと、族長以下ハーピー達は居住まいを正し、俺に一礼してくる。こちらも丁寧に礼を返し、それから口を開いた。

「共に肩を並べて戦える事を嬉しく思います。ようこそ、タームウィルズへ」

 それからヴェルドガル王国としても歓迎の用意があることを伝える。まずは王城に向かい、そこで歓待してから、夜には劇場や温泉等に招待することになっているのだ。
 ハーピー達と連れ立って広場へと出る。

「ああ。あれが話に聞いていた劇場ね」
「凄いお城だわ……。タームウィルズのお城の話は時々聞いていたけれど……これほどのものなんて」

 と、ハーピー達はあちこち見回している。やはり王城セオレムと境界劇場がハーピー達にとっての興味の対象らしい。

「おお、テオドール」
「こんにちは。これからハーピーの皆さんを王城へと案内するところです」
「これはアウリア殿」
「うむ」

 冒険者ギルドの前にはアウリア達が待っていた。族長達とアウリア達ギルド職員を引き合わせて紹介する。
 アウリア達は族長以下ハーピー達にお礼を言われ、握手を交わしたりしていた。
 それが済んだら迎えの馬車にみんなで分乗し、王城へとハーピー達を案内する事となった。



 王城の迎賓館では昼食の用意がされており、メルヴィン王やジョサイア王子が歓迎の挨拶をしてハーピー達を迎えた。
 更にエルドレーネ女王やセイレーン達との顔合わせも行われる。ドミニクやユスティアも王城で待っており、ドミニクはみんなから祝福や労いの言葉を掛けられたり、ユスティアもハーピー達に囲まれて色々な話を聞かれたりと和やか且つ賑やかな雰囲気だ。

 昼食の席でハーピー達はエルドレーネ女王やセイレーンから海王絡みの一件について話を聞いたり、その後はセイレーン達と共に歌ったり演奏したりと、音楽的な交流を楽しむ流れに自然と転がっていった。

「――ああ、綺麗な歌声と音色ね」
「ありがとう。あなた達の歌声や演奏も素敵だわ」

 と、互いの歌声や演奏に喝采を送ったり、雑談をしたりしてセイレーンとハーピー達は楽しそうに過ごしている。

「こんなにも話が合うとは思ってなかったわ」
「全くね。本当に……他の種族と話しているとは思えないっていうか」

 といった調子で、意気投合している様子である。

「混成部隊は上手くいきそうなのではないかな」

 その様子を見たメルヴィン王は、笑みを浮かべて満足そうに頷くと俺にそう言ってきた。

「そうですね。どうやら心配はいらないようです」

 特に彼女達は明日から造船所でも合同訓練というか、歌の練習をしたりするわけだしな。互いに好印象を抱いている様子なのでこちらとしても安心したというか。



 セイレーンとハーピー達の初顔合わせは予想以上に上手くいったようだ。その後で――頃合いを見て境界劇場へ彼女達を案内した。一般公演が終わったところで、ハーピー達の歓待の場として用いようというわけである。

「綺麗な建物ねぇ」
「本当。装飾も細かくて……」

 ハーピー達は初めて見る境界劇場の内装に興味が尽きないという様子だ。
 劇場には討魔騎士団と各国騎士団の主だった者もやって来ていた。砦からタームウィルズに戻って来て族長やセイレーンとも初顔合わせというわけである。エントランスホールで挨拶と紹介を済ませる。

「初めまして。討魔騎士団団長のエリオット=ロディアス=シルンと申します。よろしくお願いします」
「ヴェラという。こちらこそ、よろしく頼む」

 そう言って主だった者がハーピーの族長達と挨拶をし、握手を交わす。騎士団との挨拶も終わったところで、皆を客席側に通していく。

「これはまた……凄い舞台だな。音を効果的に響かせる作りになっているわけだ」

 コンサートホールを見たヴェラが、感心したように言う。

「そうですね。セラフィナは音を操るのが得意なので、色々と建造するのに協力してもらいました」
「でも作ったのはテオドールなんだよ!」

 と、俺の言葉に、セラフィナがにこにこしながら嬉しそうに答える。魔法建築ということで、ハーピー達も驚いている様子であるが。
 さて。俺も今日は舞台で演奏する側なので、頃合いを見てそっちへ向かわなければならない。客席への案内が済んだところで一旦席を外させてもらう。

 楽屋に向かい、扉をノックすると入室しても大丈夫、との返答があった。

「ああ、テオドール君」

 と、ドミニク達が俺を見ると笑みを浮かべる。ドミニク達も舞台で演奏するのだが、まだドレス姿にはなっていない。俺の演奏を客席から見たいそうなのだ。

「楽器の準備はばっちりよ」
「ゴーレム達も、揃ってる」

 と、ユスティアとシーラが言う。

「ありがとう。まあ……会場を温められるように頑張って来るかな」
「それじゃあ、私達も頑張らないとね」

 ユスティアに答えると、イルムヒルトが言って、彼女達は気合を込めた表情で頷き合う。
 うむ。ゴーレム楽団の演奏について、彼女達は良かったと言ってくれたが……やはり制御された通りに演奏させているだけなので、物珍しくはあっても気持ちを込めての生演奏には及ばないだろう。それでも俺なりの歓迎ということで、歌曲をお披露目してこようというわけである。

 そんなわけで衣装を着替えてから楽屋に控えていた演奏用のゴーレム達を引き連れ会場へと向かう。
 演奏用のゴーレム達に関しては、指先はコルクのような柔らかい素材。内部から息を吐き出せるようになっていて、笛は勿論、水魔法で制御した口回りのお陰でラッパなども吹ける特別仕様だ。セイレーンとハーピーの曲の統合も何とかなったので、後は色々とゴーレムを弄っていた、というわけである。

 後々イルムヒルト達の属性を付与した魔石を組み込んで、セイレーンとハーピーの混成部隊において、足りない楽器のパートを補う要員として働いてもらう予定である。
 今日は普通の演奏なので特殊な魔石は組み込んでいないが、その場限りの簡易ゴーレムとは違うので少々デザインも考える必要があった。

 いわゆる、オモチャの兵隊を大きくしたような格好だ。マーチングバンド風とでも言えばいいのか。
 デザインが人の衣服に近いだけに、顔も人に近付けるとかえって不気味に思われてしまうこともあるだろう。どういう容貌にするのが良いだろうかと色々考えた挙句、四角い目と口をつけてやることで、何となくとぼけたロボットのような風貌になった。口元に関してはマスクになっていて、スライドさせると水を固めた唇が付いていたりする。笛やラッパを演奏するためだ。

 各種の楽器を持ったゴーレム楽団と共に舞台に上がり、準備を済ませて待機していると、やがて舞台の幕が上がる。

 客席にはにこにこと笑みを浮かべながら拍手をしてくるグレイス達の姿も見える。イルムヒルト達も客席側に移動したらしく、一緒になってこちらに笑みを向けながら拍手をしていた。動物組も一緒に座っているな。

 貴賓客を迎える席にメルヴィン王やエルドレーネ女王。ステファニア姫達はグレイス達と一緒だ。多分、コルリス達がそっちにいるからだろう。
 アウリアとセイレーン、ハーピーの族長達が近い席に座っていて、それから各種族と騎士団の面々が腰掛けている。

 拍手を受けながら一礼し、拍手と喝采が収まるのを待ってからみんなに口上を述べる。

「対魔人同盟の仲間としてハーピーの皆様をお迎えすることができたことを誠に嬉しく思います。ゴーレム楽団の演奏で友好の席を祝すことができたらと、こうしてお時間を作って頂きました。最後まで楽しんで頂けたら幸いに存じます」

 そう言ってもう一度一礼すると、再び喝采が起こる。では――始めるとしよう。

「まずは楽団員の紹介です。といっても彼らはゴーレムですが――」

 そんなふうに言ってから、まずラッパを持ったゴーレムに流暢に吹き鳴らさせると、客席の皆の目が丸くなった。
 ラッパを吹いたゴーレム達が俺の制御に従い一礼、そして次の楽器を持つものに順番を譲っていく。キーボードを弾いたりドラムを打ち鳴らしたり。
 そして――最後に女性型と男性型の、コーラスゴーレム隊がその声を劇場に響かせた。ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノールにバリトン、バス。それぞれの音域でハーモニーを奏でる。
 呼吸が可能ということは胸郭と喉の内部構造を再現してやれば歌も歌えるということだ。人語を流暢に操れるというところまではいかないが、コーラスを行うことは可能である。

 一礼。呆気に取られたような観客であったが、数瞬の間を置いて大きな拍手が巻き起こった。もう一度ゴーレム楽団員全員と共に一礼する。

「それでは――楽団員の紹介も終わったところで、演奏を始めるとしましょう」

 背後の楽団に振り返り、指揮棒を振る代わりにマジックサークルを展開するとざわめきが静まっていく。こちらからの制御に従いゴーレム楽団が楽器を奏で始めた。
 カドケウスの視点で客席の反応を見る。流れていく旋律に、セイレーン達やハーピー達が目を丸くした後、笑顔になっていくのが分かる。
 そう。最初の曲は二つの種族の曲を統合し、マッシュアップしたものだ。色々な曲の作法を参考に色々と組み直して、納得できる形になったものを演奏させて貰っている。

 昼間の音楽交流で、お互いの歌曲を聴いているからか、セイレーンもハーピーも、すぐに自分達の曲を組み合わせてアレンジしたものというのに気付いたらしい。

 どこか暖かさを感じる旋律は俺が作ったものではない。彼女達が伝えてきたものだ。その雰囲気を壊さないようにしたつもりではあるが――。
 一曲目の演奏が終わると、大きな拍手と喝采が起こった。振り返って一礼。それが静まるのを待って、曲の説明をさせてもらう。

「お気付きになられた方もいるかと思いますが、先程の曲は2つの似た効果を持つ呪歌、呪曲を合わせて編曲し直したものになります。僭越ながら、今日この日、この場に集まった僕達の友好の印になればと思った次第です」

 そう言うと、セイレーンとハーピー達が立ち上がって拍手をしてくれた。
 ……ああ。自分で編曲したもののお披露目などというのは殆ど初めてに近いからな。
 イルムヒルト達に聞いてもらったが反応は悪くなかったし、ラモーナやマリオンも歓迎してくれたが、この反応には少しほっとしたところはある。

 では、この調子で他の曲も演奏していくとしよう。統合した曲にBFOの曲。曲目は色々控えているのだ。
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