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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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640 魔法作曲術

 奏でられる音色に反応して共鳴、音叉のような独特の魔力反応がある、というのは観察できた。
 そこからの仮説ではあるが――魔物の体内に魔石の因子が存在しているのと同じように、呪歌や呪曲を扱える種族には、それを成立させる何らかの因子を内包しているのではないかと思う。
 その因子によって変質した魔力が旋律に乗ることで、呪歌、呪曲を成立させ、思いの強さが共鳴をより増幅させることで効力を増強する、と。

 そして、意思の介在しないゴーレムと楽器からでも呪曲が成立するというのは、音叉の性質を利用したものだ。

 音色がイルムヒルト達に届けば共鳴によって楽器の魔石側も反応し、同様の効力を発揮する、というわけである。だから、イルムヒルト達がこの場にいなければ楽器の力も弱まる可能性が高い。この点についての検証は簡単なので、後でやってみるが。
 演奏会を始める前に、そういった考えを説明するとローズマリーが思案するように腕組みをする。

「なるほど。これも実験の一環だったわけね。種族を跨っても同じ曲なら同様の効果が出る、というのも中々不思議だけれど」
「ああ、効果に関しては、呪歌、呪曲を呪法の一種として見た場合、曲を儀式として見立てることができるからじゃないかなって思うけど。儀式の手順が決まっているから効力が同じになるんじゃないかとか、或いは因子が多種族で共通しているからじゃないかとか……色々考えてはいるんだけど、そのあたりの確証があるわけじゃないからな」

 或いは、集合的無意識のようなものがあって、そこから効力が共通になるなんて可能性も考えられるだろうか。いや、それは流石に考え過ぎかも知れないが。

「呪法というのは、受け取る側へ伝えて成立するものよね。その点、歌や演奏というのは、外部に対する表現や訴えに他ならないわ」

 と、クラウディアが目を閉じて頷く。彼女も迷宮村の住人と共に暮らしていたので、呪歌曲については詳しいから、色々思うところがあるらしい。
 確かに、呪いというのは、頭の中にある思いだけでは成立しない。主張や何かしらの表現として伝えることで成立するものだ。曲によって呪の形が決まってくるのも、そういう部分から来るもの、なのかも知れない。

 そうして歌う者、奏でる者の思いの強さが呪いの強さ――効力の強さとして比例する、というわけだ。共鳴による増幅や、集団で意思を統一して思いを込めることで威力を増強するというのは呪いであり、同時に歌曲だからこそ、だろうか。

 まあ……考察はこの辺で良いだろう。みんなも楽しみにしているようだし、準備も整っている。早速演奏を始めるとしよう。
 何台かの魔力キーボードにゴーレム達がついて、ドラムセットも用意。そうして演奏が始まった。



 ゴーレム達は制御された通りに、キーボードで異なる楽器の音色を重ねて様々な曲を奏でていく。さながらゴーレムシーケンサーとでも言えばいいのか。物珍しさもあってみんな楽しんでくれているようだ。

 コンサートと言うほど大した物でもないので、別の作業をしながらでも良いとは伝えたのだが……アルフレッド達もジークムント老達も、楽しそうに耳を傾けてくれている。工房の作業の息抜きになればこちらとしても何よりだとは思うが。

 馴染みのある曲、ない曲。賑やかな曲に、静かな曲、壮大な曲、勇猛な曲と……色々試しては循環錬気で魔力反応を見て、共鳴の仕方からその効果を紙にメモしていく。

「音楽か。うむ。うむ。良いな」

 と、マクスウェル。何やらリズムに合わせて核が明滅していたりするが。
 そんなマクスウェルを見てクラウディアは小さく肩を震わせると、ヘルヴォルテを見て言った。

「どうかしら、ヘルヴォルテ」
「私は音楽についてはよく分かりませんが……こうして皆が楽しそうにしている時間というのは、嫌いではない、のだと思います。それから迷宮の村での、お祭りの日に少し似ているなと」

 クラウディアから尋ねられたヘルヴォルテは少し首を捻って、思案しながらそんなふうに答えた。そんなヘルヴォルテの反応にクラウディアは穏やかに微笑んで頷く。グレイスとアシュレイ、マルレーンも彼女達の様子に、にこにこと楽しそうだ。ローズマリーは羽扇で口元を隠しているので表情は不明だが、先程ほんの少しだけリズムを取っていたところを見ると、今の状況を割合楽しんでいる様子ではあるかな。

 動物達も奏でられる曲を聞きながら日向で寝そべったりして、大きな欠伸等をしている。シャルロッテはそんなラヴィーネやベリウス、フラミア達のブラッシング等をしながら時々音楽に合わせて身体を揺らしたりしている。

「この曲はさる貴族の後継ぎが――不仲な貴族家の令嬢を想って作り、贈った曲と言われています。相手家の当主はこの曲に感動して令嬢との交際を認め、それが両家の和解に繋がったと」
「儚げな曲に聞こえたけれど……顛末を聞くと良い話ね」
「音楽の力というのは素晴らしいですね」
「わたしもこの曲、好き」

 マリオンとラモーナが、そのエピソードに表情を綻ばせる。
 リリーもドミニクの膝の上に腰かけ、イルムヒルトやユスティアに髪を撫でられたりとご満悦な様子だ。

「ああ。そのお話は実話だそうよ。何代か前のヴェルドガルの宮廷貴族同士の話だったはずよ」
「中々素敵な話だわ」

 と、ステファニア姫達もコルリスに鉱石を食べさせながら頷き合っていた。

「曲に関する逸話があると、同じ曲を聞いてもまた印象が違ってくるかも知れませんね。実験も兼ねてではありますが、もう一度同じ曲を演奏してみます」

 ただ淡々と聴かせるだけというのも何なので、一度演奏してから曲にまつわるエピソードを交えて、もう一度同じ曲を奏でることで反応の違いを見てみる。
 すると……確かに共鳴の強さに変化があった。思い入れや感情が呪曲の効果を増強するというのも実証できたわけだ。

 となると、先祖伝来の呪曲などは、やはり思い入れも強くなるだろうな。
 友好の証として互いの曲を練習するだとか、同じ効果を持つ曲を混ぜて、それぞれに思い入れのあるフレーズを組み込む、というのも合同で演奏した時の曲の力を高めるかも知れない。所謂マッシュアップという奴だ。

 そして、今まで奏でた曲の傾向から、新しい呪歌、呪曲の候補足り得る歌曲の候補も見えてきた。
 多分、彼女達の文化にはなかった曲の中に、今までにない効果を齎すものが多く眠っている。それは普段の暮らしの中で必要とされない効果だったから、かも知れない。

 となれば――。こちらの世界からかけ離れた曲となればどうなるだろうか。やはり……BFO内での曲に移るとしよう。

「ここからは――更に色々実験してみます。変わった曲だと、また違った効果も得られるようですので」
「今度は何をするつもりなんだい?」
「んー。こういう書籍から作曲の作法なんかを参考に、術式の制御能力を応用して、色々な……まあ、変わった曲を組み立ててみようかなって考えているんだけど」

 アルフレッドの質問に、音楽関係の書籍を手に取って答える。その返答に、アルフレッド達は怪訝そうな表情を浮かべた。

「上手く行くかどうかは分からないけど、少しだけ待っていてもらえるかな」

 そんな断りを入れてから、景久の記憶を呼び起こしていく。
 さて――初めての試みだが、どうなることやら。ウロボロスを握りながら、キーボードに触れる。
 オリハルコンで魔力を変質させて、キーボード内部にある魔石側と仲介させることで――様々な音色を奏でるための術式を用いて、思考の中で音色を再生する。
 これは魔法の詠唱を思考内で行い、魔力の動きを身体に馴染ませるという無詠唱の感覚に近い。詠唱による魔力の動きを各種楽器の音色に置き替え、思考内で音楽を奏でる、というわけだ。

 術式を制御する感覚と共に、思考内で再生される音色を制御。
 マジックサークルを楽譜の代用として展開し、記憶にある形に出来うる限り近くなるように、何度も組み立て直していく。術式としては意味を成さないマジックサークルがぐるぐると目まぐるしく形を変える。

 ああ。どうやら……これなら、楽譜に起こしたりというのも出来そうだな。
 土魔法で判子のように刷ってやれば手間もかからないだろう。そうして、コツを掴めばどんどん作業効率が上がっていくのが分かる。
 それらをゴーレムの動きとして反映されるように落とし込んでいけば――出来上がりだ。
 BFO内で使われていた曲は、ゲーム内で何十時間と延々聞いていただけに組み上がるのも早かった。

 と言っても、セイレーンやハーピー達が習熟している楽器で構成しなければならないので、BFOと全く同じとはいかないが……魔力キーボードと演奏用ゴーレムがあれば足りないパートをある程度補うぐらいはできるし、主旋律を歌声に置き換えたりするのも良いだろう。

「では、物珍しい曲、ということで」
「え。もしかして教本の理論から作曲したってこと?」

 アルフレッドが首を傾げる。

「んー、いや、編曲……に近いかな。術式の制御能力とキーボードの術式を使って、思考内で色々な旋律やら三和音やら、音楽的なお約束を使って、上手い具合に行くように大量に捏ね繰り回してだね」

 俺が作った曲ではないし、今の環境に合わせてアレンジもしているし。

「それは――」

 そう答えるとラモーナの表情が引き攣った。一方で他の面々はどこか納得したような印象だ。シーラは目を閉じて頷いている。

「魔法建築ではなく……魔法編曲とか魔法作曲、という感じでしょうか?」
「ああ。そうかも」

 アシュレイの言葉に頷くと、彼女は楽しそうに頷く。
 今回はお手本となる形があるからそれを目標に突き進んだだけだが……作曲法としても使えるとは思う。術式の展開と同じ速度で色々試せるので便利ではあるだろう。今まで見てきた様々な楽譜と旋律も、参考資料として使えるし。
 セイレーンやハーピーの曲をミックスする際にも使えそうだな。これについては彼女達の心理的な面からも効果が大きそうなので試してみよう。

 それから……BFOで使われていた曲はどんな効果を持つのか。俺としても色々楽しみではある。
 オープニングの壮大なファンファーレ、酒場のムーディーな曲、月神殿で使われていた神秘的な曲。それから迷宮内での不安を煽る曲、ボス戦時のアップテンポな激しい曲だとか――今までに演奏してきた中には無かった曲調のものが色々あるのだ。
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