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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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639 旋律と共鳴

 外部への影響は結界で遮断。結界内で検証する俺自身への影響は精神防御の魔法で防ぐ。
 そうした対策を施した上で、色々な歌や演奏をしてもらいながら循環錬気で体内魔力の動きを調べていくわけだ。
 準備ができたところで、早速検証に移る。まずは……呪歌、呪曲の使い方を詳しく聞く必要があるだろう。

「呪歌や呪曲の使い方や、練習方法について教えてほしいのですが」
「ええと。私は……この曲ならばこういう情景を思い浮かべて歌声や音色に魔力を込めていくっていうふうに習ったわ」
「ああ。それは私達もですね」
「同じく。種族は違ってもそこは同じということでしょうか」

 イルムヒルトの言葉に、他の面々も頷いた。迷宮村にしてもセイレーン、ハーピー達にしてもそこは同じか。

「情景もそうだけど、誰に向けて、何のために歌うのかをきちんと考えろって言われたなぁ」

 と、ドミニク。そこも共通しているようだな。皆の気持ちを合わせると歌の効力が増す、という奴だ。つまり異種族間であっても同じ目的のために歌い、奏でるなら、その効力を統合すること自体は難しいことではない。その点は……海王との戦いでも分かっていたことではある。

「小さい頃は、私達が魔力を込めて歌ったり演奏したりすれば、それは呪歌や呪曲になってしまうから気を付けなさいって言われたわ。ちゃんと伝えられているものには、歌詞や旋律にも効力を強めるための意味が込められているらしいけれど」

 ユスティアがそんなふうに教えてくれた。なるほど……。普通の歌との間に厳密な区別はなく、彼女達が魔力を込めて歌えばそれが特殊な効果を持ってしまうと。ユスティアの言葉を補足するようにマリオンが口を開く。

「呪歌、呪曲は、その名の通りまじないであり、呪いだから。誰に対して、何のために届けるのかをきちんと意識しなければいけないわ。漠然と歌うだけでもそれを耳にする者に効果があるけれど、そこをはっきりと意識することで仲間には影響を与えない、ということもできるの」
「それは……便利ですね」
「でしょう」

 と、にこにこと笑みを浮かべるマリオン。

「まあ、きちんと集中しないと余計な影響が出てしまうというのはありますが……」

 ラモーナが苦笑しながら言った。うん。練習の際はやはり、外部に影響を与えないように対策をしておくというのは必須だな。

「では……循環錬気で調べていきましょうか」

 その言葉に彼女達は頷く。そうして歌声を響かせ、音色を奏で始めると……すぐにその体内魔力に反応があった。頭部と心臓。そこから、身体の隅々へと。体内の魔力の流れに乗って広がる――さざ波のような独特の反応が広がる。

 演奏を横で聞いている者にも同じような反応があった。演奏している者に比べて小さいが――言うなればまるで音叉のように共鳴している。曲の効果とはまた別の反応だ。しかし全ての曲に共通している。
 呪曲を扱える種族に共通する性質、のようなものだろうか。

「これは……面白いな」

 歌の合間に体内魔力の反応の様子を伝えると、みんな興味津々といった様子で俺の話に頷いている。

「何となく、だけど。その感覚は分かるかも」

 イルムヒルトが言うと、他のみんなも顔を見合わせたりしながら頷く。感覚的なところでは彼女達にも今の話には実感のようなものがあるらしい。
 うーん。歌う側、演奏する側は、曲から受けるイメージを練り込んでいくものらしいから、曲調が効力に大きく影響しているのは間違いない。
 歌を教える時に同時に情景を伝えるというのは、共通のイメージを持つことで呪歌、呪曲の効果を安定して引き出したりする、という意味合いがあるのではないだろうか。

 仮にイメージが統一できていなくても、呪歌、呪曲を扱う種族は互いに音叉のように共鳴するからそこは必須ではない。そして異種族間でも共に演奏して効力を高め合う事そのものは容易い、という結果になる。
 まあ、セイレーンとハーピーでは生まれ育った環境が違うから、曲調から思い描く情景も若干違うのだろうが……。情景を統一する意味合いは補助的なものだ。大筋で方向性が同じなら問題はないだろう、と思う。

「色々条件を付けたりして検証してみましたが……そうなると新しい呪歌、呪曲を作る試みにも道筋がつくような気がしますね」
「おお、それは素晴らしい……!」

 俺の言葉にラモーナがそんなふうに言った。みんなして表情を明るくして身を乗り出してくるあたり、本当に歌が好きなんだなとは思うが。

「まあ、そこまでいかなくても、混成部隊の合同練習をする際に今までで分かっていることを念頭に置けば色々円滑に進むかなとは思いますが」

 みんながふんふんと真剣な表情で頷く。
 しかしこうなると……このまま実験を進めた方が良さそうだな。彼女達も呪歌呪曲の開発に期待しているみたいだし。

「それで、新しい曲の開発方法ですが――ラミアやセイレーン、ハーピーの性質を魔石に与えて、それを魔法楽器に組み込み、色々な曲や旋律を奏でて魔力の反応を見てみるわけです。共鳴の度合いが強い曲を選んで、後はそこに、効力を増強するような詠唱なども歌詞として組み込んで……曲調から思い浮かぶ情景を、みんなで話し合って統一すれば――」

 彼女達の力を効果的に引き出せる曲を作り出すことが可能になるのでは、というわけだ。
 属性付与した魔石を魔力キーボードに組み込めば、様々な曲で実験ができるだろう。
 キーボードは王城に届けるものと、グランティオスに渡すものの他に予備も作ったのだ。今回はそれを改造していく。

 問題は、現時点ではまだキーボードをそこまで弾きこなせるものがいないということだが――ああ、そうだ。それをどうにかする手もあるな。
 では楽譜や魔石の準備、それから魔力キーボードの改造を行ってから、色々な曲を奏でてみるとしよう。



 というわけでヴァレンティナに魔石の性質変化を頼み、その作業をしてもらっている間にリンドブルムを呼んで、ペレスフォード学舎や王城に足を運んで色々な楽譜を借りてきた。

「ただいま」
「ああ、お帰り、テオ君」
「お帰りなさい。魔石の準備もできているわよ」

 工房に戻ってくると、みんなが中庭でお茶を飲んで待っていた。俺が楽譜を集めている間に魔石絡みの作業も終了したようだ。呪曲の影響を外に漏らさないよう、中庭にも結界を張ってくれていたようだ。準備万端といったところである。

「こんにちは、みんな」

 と、ステファニア姫達も中庭にいたみんなに挨拶をする。王城に行った際にステファニア姫達とも顔を合わせたので、これからする実験について説明したところ、興味がありそうだったので誘ってみたわけだ。アドリアーナ姫と共にコルリスに乗って王城から同行してきた。

「新しい楽器で色々な曲を弾いてみるということでしたが……どなたが演奏するのですか?」

 と、俺のティーカップにお茶を注ぎながらもグレイスが尋ねてくる。

「んー。ゴーレムに演奏させようと思ってるんだけどね」
「ああ。決められた通りの動きで制御してしまえば、楽器の演奏も完璧にこなせるというわけね」

 俺の返答に、ローズマリーが納得したように頷いた。
 そう。こっちの世界では新しい楽器であるキーボードに、そこまで習熟した者がいるわけではない。なのでゴーレムの動きを曲に合わせてプログラムして演奏させてしまおうというわけである。

「まあ、実験は実験なんだけど、基本的には聞いているだけで良いから演奏会みたいなものだね」

 結界や魔道具でガードしないと色々影響も出てしまうのだが、その点については抜かりはないしな。お茶を飲みながら皆でキーボードの演奏を聴くというのも悪くはあるまい。
 キーボードや各種材料、必要な物は用意してくれていたので、早速木魔法でミスリル銀線や、ヴァレンティナから渡された魔石を組み込んでいく。

 そうして一通り作業が終わったところで、まず既存の呪曲――体力増強の呪曲等を演奏して、きちんと効果が乗るかを確かめるところから始める。

「起きろ」

 マジックサークルを展開。木魔法でコルクのような弾力性を持ったウッドゴーレムを作り出す。キーボードが汚れたり傷つかないようにというわけだ。

「それでは、まずは体力増強の呪曲を演奏してみます。防御用の魔道具は外しておいて下さい」

 そう言ってゴーレムにセイレーン達の間に伝わる呪曲を演奏させる。ゴーレムが内に蓄えた魔力をキーボードに注ぎ込み、旋律が響きわたると属性を付与された魔石が輝きを放ち――奏でられる旋律に魔力が宿って広がっていく。

 ゴーレムに演奏させる傍ら循環錬気で見てみれば――イルムヒルト達の魔力も共鳴反応を示していた。よしよし。効果が確認できた。
 では……ここからだな。借りてきた楽譜で色々な曲を演奏して、共鳴効果の高いものを探してみるとしよう。
 効果の方向性については、曲調で概ねの判断が付きそうだ。

 ふむ……。景久の記憶にある、地球側の曲の旋律を試してみるというのも面白いかも知れない。例えば……BFO内で使われていた曲だとか。
 学舎から作曲理論やら何やらの教本も借りてきているし、やり過ぎない程度に試してみるか。
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