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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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632 ハーピー達の都市訪問

 荷物を積み込み、人員の点呼を終えてからシリウス号の艦橋に皆で移動する。

「監視部屋の魔道具は……ここに使われているものと同じもののようですね」
「ヴェルドガル王国の技術力は、大した物だな。この船そのものもそうだが」

 ヴェラやラモーナは興味深そうに艦橋の中を見渡している。

「いえ、この船に関してはシルヴァトリア王国の技術が基幹になっています」
「ほう」
「詳しく話すと長くなるのですが、魔人絡みでシルヴァトリア王国でも騒動がありましたので。そこからシルヴァトリア王国とも技術協力を」

 シルヴァトリアの一件は王太子絡みの不祥事もあるので、魔人の陰謀と一括りにして説明してしまう。

「魔道具の案とか、船体を作ったのはテオドール」
「ああ、それは納得できるところがあるな。土魔法の魔法建築による手際を見れば魔人殺しであるというのも頷ける」
「船を支える魔石も、テオドール様でなければ手に入れるのは無理だったと思いますし」
「確かに、アルファもテオドールでなければ認めてくれなかった、とは思うわね」

 シーラの言葉にアシュレイとクラウディアがそんなふうに言う。操船席の隣に控えるアルファが意味有りげに笑った。

「まあ、アルが術式を上手く魔道具にしてくれるからというのもありますが」
「そう言って貰えるのは嬉しいけどね。テオ君の術式が洗練されているから僕の仕事もやりやすいところもあるからね」

 アルフレッドはそんなふうに謙遜しているが、ヴェラは首を横に振った。

「いやいや。魔法技師はただ魔石に術式を刻めば良いというものでもあるまい。術式が洗練されているというのは、それだけ高度な術者ということだ。そのテオドール殿が信頼を置いているということは、アルフレッド殿の腕前も確かなものなのだろう」

 そう。魔法技師の腕前や知識が微妙だと魔石の容量を無駄に食ってしまったり、術式の細部に微妙な間違いが出てしまったりするからな。
 こっちの意図をしっかり掴んで、間違いなく魔道具の形にしてくれるというのは俺としても色々やりやすい。
 魔法技師としての素養があるヴェラならではの意見だろう。若干照れ臭そうにしているアルフレッドの姿に、マルレーンもにこにこと嬉しそうな様子だ。

 さてさて。ヴェラ達に艦橋を見てもらったところで、皆には席に着いてもらい、シートベルト等を締めてもらう。高速飛行中は甲板に出ないように等の諸注意をしてから操船席の水晶に触れた。

「それではシリウス号、発進します。速度が安定するまでは席を立たないように」

 岩山の横に付いていたシリウス号がゆっくりと高度を上げていく。充分な高度を取り、方角を合わせてから、シリウス号が動き出す。
 景色が穏やかな速度で流れ出すと、ハーピー達から歓声が上がった。段々と速度を上げていくに従い、ハーピー達のテンションが上がってくるのが分かった。

「おお、この大きさで、これほどの速度で飛べるとは……!」

 と、モニターを見て盛り上がっている。ふむ。空を飛ぶのには慣れているだけに、ということだろうか。高速飛行なので景色を楽しんだりといった風情には欠けるが、ハーピー達にとっては寧ろこういうのも合っているらしい。

「ここに触れて魔力を送るとね。ほら、遠くも見れるんだよ」
「すごいね、ドミニクお姉ちゃん!」

 隣り合って座りモニターを操作しながら、ドミニクとリリーは楽しそうにしている。リリーもはしゃいでいる様子であるが……そうなるともう、この反応は種族的なものなのだろう。

「ハーピー達は飛べるようになると、競うように速度を出したり、変わった飛び方をしたりといった遊びをするからな。こうした高速飛行には割と童心を刺激されてしまうものなのだろう」

 と、ヴェラが皆の様子を見て苦笑している。なるほどなぁ……。
 そうしてシリウス号が段々と速度を上げていき、安定飛行に入ったところでいつものようにグレイス達がお茶を淹れてくれた。

「ありがとう」
「はい」

 お茶を受け取って礼を言うと、グレイスがにっこりと笑みを向けてくる。
 高速で流れていく景色を見ながら、ハーピー達は楽しそうに歌を歌っている。ドミニクから聞いて知っている曲だったか、イルムヒルトやユスティアが伴奏をしていたりと、シリウス号の艦橋は和やかな雰囲気のままで、タームウィルズに向かって飛んでいくのであった。



「おお、あれが噂に聞くタームウィルズの王城か」

 やがて遠くにセオレムの尖塔が見えてくると、ハーピーの1人がそんな声を上げた。

「ヴェルドガル王国の王城、セオレムです。一応、一部の例外を除いてセオレムに空からは近付いてはいけない、ということは覚えておいて下さい」
「分かりました。いずれにしても街中では、できるだけ人化の術を使うようにと考えております」

 ステファニア姫が注意事項を伝えると、ヴェラが代表して答える。
 一部の例外というのは、例えば王侯貴族の竜籠だとか許可を受けている飛竜、幻獣等だ。要するに関係者なら許可されるということだが、それでも竜籠等で乗り入れられるのは練兵場付近までで、王の塔周辺の飛行は禁じられている。
 んー。そうだな。

「これから着陸する造船所の敷地内なら、思う存分飛んでも問題ないかと思いますよ。人化の術をずっと使い続けるというのも窮屈そうですし、造船所を活用できるように手配しておきましょう」
「おお。それは良いですね。ありがとうございます」

 ラモーナが嬉しそうに笑みを浮かべる。では、早速そのあたりのことを通信機で連絡を入れておこう。
 ハーピー達は飛ぶのも好きなようではあるし、シリウス号の高速飛行でここまでやってきて、色々触発されてしまっているところもありそうだしな。

 街中で速度を出して飛行するとなると流石に問題が出るかも知れないが、その点、造船所なら思う存分飛び回っても問題無い。加えて海が近いのでセイレーン達とも交流しやすいという利点もある。
 討魔騎士団も造船所で空中戦訓練などもするが、ハーピー達とは空中機動について互いに色々参考になったり刺激を受けたりするところもあるのではないだろうか。まあ、今は砦での訓練中ではあるが。

「それからタームウィルズでの注意点ですが――」

 西区は若干治安が悪いことなど、一般的な注意点を伝えていく。
 とはいえ、ハーピー達は対魔人同盟の一角として加わるから公的な立場を確保しているわけだし、西区そのものも盗賊ギルドが裏から仕切っているので、俺やシーラの関係者であれば、手出ししようと思うような輩もいないだろう、とは思うが。

 そうこうしている間に、段々とタームウィルズが近付いてくる。速度を落としながら造船所上空に到達。台座に座標を合わせ、ゆっくりとシリウス号を降下させていき――そして船体が停止した。



 造船所には既に王城から馬車の迎えが来ている。ヴェラとラモーナは明日エルドレーネ女王と顔合わせということでそのまま王城へ向かうことになった。俺も明日、そこに同席する形だ。ハーピーの戦士達、それから職人達も対魔人同盟として加わるので、王城では持て成しの準備が進められているそうだ。

「明日はマリオン達も来るそうだよ」

 通信機に連絡が来ていたのでユスティアの姉のマリオンがやって来ることを伝えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。

「やっぱり、ハーピーの皆と一緒に訓練したりするためかしら?」
「うん。そのへんの事もある。こっちに常駐するようになるかもね」
「良かったね、ユスティア」
「ええ。ドミニクもね」

 嬉しそうなユスティアの様子に、ドミニクやイルムヒルトも機嫌が良さそうな様子だ。
 さてさて。ラモーナ達と違って、ドミニクの母親やリリー達に関しては非戦闘員であり、ドミニクの普段の生活等を見に来たという目的がある。このまま俺達と共に、冒険者ギルドや劇場周りを少し見学してきた後で、俺の家に泊まる予定である。

「ではな。明日また会えるとは思うが」
「はい、ヴェラ様」
「それと……テオドール殿」

 ヴェラは馬車に乗り込む前にドミニクの家族に声をかけていたが、その後で俺を見てくる。

「何でしょうか」
「冒険者ギルドの関係者には、私からも礼を言いたい」
「では……予定を聞いておきましょう。先方の都合が良いようでしたら明日同席して頂くことも可能かと」
「それは助かる」

 そう言って、造船所でヴェラ達と別れる。さて、では俺達も移動するとしよう。王城から手配してもらった馬車に色々と荷物を積み込んだりしながら、皆で馬車に乗って冒険者ギルドへと移動することとなった。

 ハーピー達は興味深そうに馬車の窓から外の景色を見ている。大きな街は初めてらしい。
 そうして冒険者ギルドと劇場のある広場に到着した。みんなで広場に降り立つ。ハーピーの男達は鳥人のままではあるが、それほど注目を集めなかった。
 俺達やステファニア姫達が一緒ということもあるからか、皆何やら納得したように通り過ぎていく。……うん。それはそれとして、街中の案内をさせてもらうことにしよう。


「ここが境界劇場です」

 と、ドミニクの親戚達に言うと、みんなして目を丸くする。

「こんなに立派な場所だったのですか」
「ここで沢山の人に歌を聴かせられるというのは……楽しそうですね」
「楽しいよ。あたしはテオドール君が作った劇場、好きだな」

 両親達の言葉にドミニクは笑顔で答える。

「それから、あの建物が冒険者ギルド、あの建物が月神殿です。迷宮の入口も月神殿の中にあります」

 あれこれと、広場から見える建物について説明していると、劇場の中からアウリアが出てきた。
 ……うーん。また売店で買い食いをしていたのだろうか。
 とりあえず綿菓子などを持っていたりはしなかったので、普通に紹介しても良いタイミングのようだが。

「おお、テオドール」
「こんにちは」

 と、こちらに気付いて挨拶してきたアウリアに俺も挨拶を返し、アウリアとハーピー達とを互いに紹介することにしたのであった。
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