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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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630 族長の家にて

 イルムヒルト達とハーピー達は、各地の楽器や魔力キーボードを用いながら、互いの知っている歌や曲のやり取りをしたりと、音楽で交流を深めていた。
 クラウディアもイルムヒルトから頼まれてリュートを奏でたりと、賑やかでありながらも和気藹々と時間も過ぎて行ったが、やがて眠たげな子供達も出始め、そうなると広場で演奏しているというのも、ということで散会となったのであった。

「それじゃあ、明日またここで」

 と、ドミニク。

「うん。のんびりとして来ると良いよ。石碑も設置できるからドミニクの滞在や移動にも余裕があるし」
「うんっ」

 ドミニクは明るく頷き、両親やリリー達と連れ立って家に向かう。やっと帰ってこれたわけだし、家族や親戚と水入らずで一緒に過ごす時間というのは必要だろう。リリーもにこにこと嬉しそうだ。
 ドミニクの家は族長の家から断崖を挟んだ向こう側で、広場からも見える位置だ。リリーの家もその隣である。まあ、族長の家からでもタイミング良くお互い窓から見れば挨拶もできるような位置関係ではあるか。

 俺達は集落のお客ということで、族長の家に宿泊させてもらう形だ。ヴェラに案内してもらう形で、まず客室に通された。

「お部屋が広いですね。天井が高いからそう感じるのでしょうか」
「ああ。そうかも知れない」

 グレイスの言葉に頷く。ハーピー達は窓から直接行き来できるからな。窓も広いし、天井も高い。ハーピーの家ならではという印象だ。
 マルレーンが椅子の座面を軽く押したり、テーブルに触れたりして首を傾げている。
 ロックファンガスの家具は何というか……同じ材質でありながら円卓にも椅子にも寝台にも使われているのに、それぞれ弾力や硬さなどが違うのだ。

「ロックファンガスは、収穫の時期や加工で用途が変わったりする、ということかしら?」

 ローズマリーがマルレーンの様子を見て言う。

「そうなります。頃合いを見て収穫し、薬液に浸けて状態を定着させるのです」

 ラモーナが答えてくれた。うむ。ローズマリーのロックファンガスへの興味は色々尽きないようではあるな。
 そんな俺達の様子を見て、ヴェラが言った。

「他の集落の同族達ならいざ知らず、人の客は滅多にないことなのだ。寛げる環境かは分からないが、何か不便なことがあったら遠慮なく言って欲しい。水は魔道具で用意ができるから、風呂なども入れる」
「ああ。それは助かります。魔道具作りも、やはり族長が?」

 そう尋ねるとヴェラは首肯した。

「確かに私も行うが……他の者も可能だ。人化の術が上手い者が人里に学びに行く、というのは昔からやっていたことなのでな。そのあたりの知識や技術には、多少の蓄積もある。魔石については、山に侵入してきた話の通じない魔物から得るだとか、或いは修行中だからと申し出て、人に作ってやる代わりに魔石を余分にもらうなどの交換条件を付ければ材料にも困らない」
「集落の中で完結した生活を送るのに、過不足が無いように、ということね」

 クラウディアの言葉に、ラモーナが頷く。

「そうですね。呪歌を用いなければ魔力をそれほど使う場面もないので」

 ハーピー達は呪歌を扱うにあたり十分な魔力を持っているし、魔道具を普通に生活の中に組み込むのは理に適っていると言える。表だって交易はしていないが、魔道具を作る交換条件としてということなら、喜んで依頼する者もいるだろうな。

 しかし、魔道具作りに一日の長があると。
 そうなると、魔法技師の仕事をできる人員が沢山いるというわけで。そのあたりで協力をして貰うことも可能だろうか。工房だけでなくヴェルドガルを挙げて色々と準備をしているので、人手不足なのだ。
 立ち話で済ませるような内容でもないので思考を巡らしながら、荷物を置いたり家具の様子を見たりしていく。
 寝台はロックファンガスが使われていることを除けば普通のベッドに近い。眠るのには中々快適そうではあるか。

「この布団の中身は、羽毛ですか」
「ああ。それは、過去にこの土地で暮らしていた人間達の案でな。抜け落ちた羽毛が勿体ないから何かに利用できないかと、寝具として使うという案を採用したものだ。中身については作る際に洗ってあるが、気になるなら動物の毛皮で作った寝具に換えよう」
「ああ、いえ。羽毛布団は軽くて暖かいので好きですよ」
「ならばいいのだが」

 と、俺の返答にヴェラが笑みを浮かべる。
 ハーピーの羽毛布団か……。何となく、アルケニーの糸と同じくかなりの高級品という気がしてならないが……ふかふかしていて暖かそうだし、寝心地が良かったら譲ってもらえないか交渉してみるのも良さそうだな。

 まあ、それはさておき……荷物などを纏めたところで、寝たり風呂に入ったりする前に幾つかするべき話をしておくとしよう。



 ヴェラとラモーナ、それにステファニア姫達を交えて応接室に場所を移し、これからの話をする。

「――ふむ。砦を作り、色々と魔人達を迎え撃つ準備をしているわけか」
「今から私達が戦力として加わると、連係をするにしても色々考える必要がありますね。協力体制を取るにしても、付け焼刃では足を引っ張ってしまうことも考えられます」

 ヴェラとラモーナは現在の状況について色々話をすると、真剣な表情でそう言った。
 そうだな。互いの実力というのが分からないので、具体的な話を進めにくい部分というのはある。どちらかというとハーピー達は少数の部隊になってしまうだろうし。
 となると、規模で勝るこちらの組織の中にハーピー達を組み込む、という形になるのだろうが、どこにどう配置するのが最も彼女達の実力を引き出せるのかという話になってくる。
 とは言え……ハーピー達の能力で、もっともはっきりしている部分については、俺としても言及できることがある。

「呪歌、呪曲で主力を支援をする部隊が、グランティオス王国から出向している部隊にいるのですが――。どうでしょうか。セイレーン達と呪歌呪曲の絡みで連係を深めていくというのは」
「ああ、それは良さそうだ。呪歌の類は頭数が多い程、力を増すからな」
「確かに。私もユスティア殿には他種族とは思えない程親近感を覚えました。皆も楽しそうに交流していましたからね」
「私も、ハーピーの皆さんと話していて楽しいです。ドミニクとも話が合いますし」

 と、ユスティアが頷く。そう。ハーピーとセイレーンで住む場所こそ違うが、見ている限り歌に関してはかなり意気投合しているし、親近感を抱いているところがある。
 そのあたりでセイレーンと連係をしてもらうと互いの力を高め、補い合える部分があるし、少ない日数で最大限の訓練効果が見込めるのではないかと思うのだ。

「石碑を用いれば簡単に行き来ができるとなれば、私もヴェルドガルに足を運んでおくのが良いだろうな」
「ヴェルドガル王国としては、皆様の助力を嬉しく思います。もしタームウィルズに足を運んで下さるなら、国賓として精一杯の歓迎をさせていただきましょう」

 ステファニア姫が言うと、ヴェラは静かに頭を下げた。

「国賓となれば……ハーピーの代表としてということになりますか。一集落の族長に過ぎない私には過分な配慮ではありますが、貴国との友好は願っても無いこと」
「グランティオスとしても、ハーピーの皆様とは今後も友好関係を続けていきたいところです。女王陛下も、近々タームウィルズを訪れることになるかと」

 ロヴィーサも笑みを浮かべそう言った。

「それはまた……。是非、お目通りを願いたい。グランティオスとの交流となれば、皆喜びましょう」

 エルドレーネ女王とヴェラは、何となく性格的に相性が良さそうではあるかな。

「対魔人同盟として協力いただけるなら心強いことです。勿論、シルヴァトリアも歓迎の立場を取ります」
「同じく。バハルザードも歓迎致します」

 アドリアーナ姫とエルハーム姫も言った。正式な締結文書などの手続きや発表などはまた後日ということになるが、各国の王の名代としての言葉であるため、対魔人同盟に関することとしては、ほぼ決定に近い話だ。

「対魔人で共闘して頂くというのは有り難い話ですが……戦力が出払って集落の守りが手薄になるのも問題があります。いくつかそうしたことへの対策もありますので、もし良ければ何か考えてみましょう」
「ああ。それは有り難い話です」

 と、ラモーナが笑みを浮かべる。
 ゴーレム兵による防衛、ハイダーによる外部監視モニター、ハルバロニスの隠蔽術だとかが考え付く。タームウィルズに戻ったらフォルセトにも相談してみよう。
 石碑があれば手軽にハーピーの集落にやってきて、結界を張ったり魔道具やゴーレムを設置してからタームウィルズに戻ったりと、あれこれに動けるようになるしな。

 石碑を集落に置ける許可も下りているから、ドミニクも数日こちらに滞在して家族との時間を過ごせるだろう。
 タームウィルズでどんな生活をしているのか、家族や族長達に見せることも可能になる。そのあたりも実際に見てもらう方が安心してもらえるか。

 そうすると……明日はヴェラやラモーナを王城へ案内したりということになるか。石碑で先にタームウィルズに送ってから、シリウス号で戻ってくるという形がスムーズかも知れない。では、今日の内に通信機で連絡を回しておくとしよう。
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