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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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621 将兵とゴーレムと

 模擬戦的な訓練ということで、伝声管を使って状況や条件を最初に周知する。

「まず参加者ですが、飛行部隊は外で戦っていて、門を破られたという想定で、砦の防衛戦力のみで対処に当たるようにお願いします。敵軍の地上部隊である魔物達が、結界を乗り越えて砦内に侵入してきたという状況ですね」

 アクアゴーレムの攻撃には殺傷能力こそ無いが、手足など末端に攻撃を食らえば負傷扱い、身体、頭などの身体の中心部で、防具が無い部分に攻撃を食らえばその場で脱落、という……まあ、サバイバルゲーム的なルールの上での模擬戦を行おうというわけだ。

 足に攻撃を食らったものは、仲間に担いでもらうなりしないといけないなど、それなりに細かい部分を訓練内容として盛り込んでいる。
 仲間が怪我をした際、迅速に後方へ撤退させつつ、構造を利用して戦う、といったことも考えなければならないからな。

「実戦的ですね。こちらも将兵の損耗率を考えながら動かねばなりません」

 と、サイモンが言って、砦の全体図を見ながら腕組みをする。

「敵部隊として攻撃を仕掛けてくるのは基本的にアクアゴーレムですが……それだけでは単調になってしまうところもあるので、僕の使い魔も参加させてもらいます。防衛側の想定外の戦力が紛れ込んだり、予想外の事態が起こるというのは、ままあることですので」
「カドケウスが参加とは……これは強敵ですね」

 エリオットが真剣な面持ちになる。まあ、カドケウスの攻撃も殺傷力はないものにするので模擬戦の範疇ではあるが。
 さて。ルールが周知されたところで実際に動いていく。
 一旦外に出て、大量のアクアゴーレム達を作り出す。砦が有事の際の迎撃体勢を整えたというところから戦闘開始だ。

 門が破られ、アクアゴーレムの一団が砦内に突入。
 砦内を2手に分かれて進軍。一方は俺が、もう一方はバロールがアクアゴーレムの制御を握って、進軍の後方から再生などを行いながら付いていく形となる。

「来るぞ! 応戦しろ!」

 隊列を成すアクアゴーレムに対し、狭い通路で弓矢を用いたり槍を用いて迎撃。アクアゴーレム達も水弾や水の槍を用いて応じる。
 ベリオンドーラにいた魔物は数が多い。それに沿った想定となるように、まともに攻撃を受けたアクアゴーレムは、隊列の後ろで次々と再生して進軍していく。後から後から魔物が湧いてくる、というような状態だな。

 砦を守る将兵達も練度だけでなく武装も良かったりする。軽量の取り回しのよい盾が、次々とマジックシールドを展開して飛び道具を遮断して、攻撃を凌いでから反撃してきたりといった具合だ。小さな盾と大きな盾の利点を兼ね備えた、拠点防衛用としてはかなり優れた装備である。
 このへんは、以前フォレストバードにモニターしてもらった装備品などが元になっているのだ。

 だからこちらも、あの手この手でアクアゴーレムの連係を用いて攻める。
 通路の上部を飛行して攻めてくる魔物もいるだろうし、ブレス攻撃などをする魔物もいるだろう。そういった魔物達の動きをアクアゴーレム達に再現させて、色々と多彩な攻め手を繰り出させる。

「しまった!」
「くそっ! 負傷した!」

 受け切れない攻撃に、負傷者も出てくる。自分で動ける者は後方へ。足に攻撃を食らった者は仲間の手によって隊列の後ろに下がり、後列の人員と入れ替わるように撤退。
 因みに後方で治療を受ければ時間経過で復帰も可能、というルールも設けてあったりする。

 槍を交えながらじりじりと押されるように将兵達が後退。曲がり角が見えてきたところで、部隊長格が声を上げた。

「今だ!」

 と、その言葉を合図に隠し部屋の扉が開いて、中からゴーレム兵が飛び出してくる。将兵達が呼応。挟撃を仕掛けて、アクアゴーレムを潰す。同時に兵士達が一斉に曲がり角の向こうへと下がって行った。
 中々上手いな。隠し部屋のゴーレム兵などで足止めをしながら、あの曲がり角の先で通路の構造を変え、別方向に誘導したり分断したりする作戦なのだろう。
 こちらとしては内部構造を知っているので作戦に予想もつくが、それをアクアゴーレム達の動きに反映しては攻め込んできた魔物達の動きとしては適当ではないので、敢えてその誘いに乗るように動いていく。

 曲がり角の先は更に2つに分かれた通路。本当は将兵達が先回りするためにもう一方向の通路を使って逃げたのだが、そちらは塞がっている。実際は左右どちらも外れだが、攻め手の動きに即してのものとなると、アクアゴーレムの部隊を分割して奥に攻め入るしかない。更に2手に別れて進んでいく。

 その通路を曲がり角まで抜けたところで――発令所からの操作で通路の一方向が塞がれた。魔物の分断がこれでできてしまう、というわけだ。
 分断された少数部隊は、術式の自動制御任せで進軍させる。分断されてしまったために増援がない……。つまり、再生しないということで良いだろう。俺とバロールは数の多い本隊を連れて、更に奥へと進んでいく。



 そんな調子で砦内のあちこちで将兵達と模擬戦を繰り広げた。
 アクアゴーレムの動き――つまり実力は、ある程度のところで固定されている。
 そうなると突出した実力を持った騎士が要所要所で守りについているところを崩せなくなってくるが……そこはカドケウスの奇襲攻撃や物量で突き崩したりして進軍していくわけだ。

 それでも将兵達は組織立った撤退を行いながら、通路を使っての時間稼ぎやら挟撃やらと、色々と良い動きを見せてくれていた。結構長い間模擬戦をやっていたが、それだけの練度を砦の防衛部隊が備えているということだ。

 模擬戦の勝敗云々というより、怪我をした仲間を上手く後ろに戻し、敵を長時間足止めしたりといった損耗率を抑える方法、砦の構造を活かして分断したり挟撃したりする方法を迅速に行うにはどうするか等々、そういった点に主眼を置いた模擬戦となった印象だ。

 模擬戦が終わった後は早速発令所で感想戦というか反省会というか。色々と模擬戦の内容を振り返って話し合ってみる。
 エリオットは空で戦闘を行う立場なので、砦内の攻防戦の指揮は直接取っていない。模擬戦を静かに見守っていたが、傍目から客観的に見た意見というのも重要になってくる。

「――いや、良い訓練でした。負傷者の交代などは、相手がいてくれると実戦に近いものになりますね」
「そのあたりは大使殿が直接模擬戦に参加してくれていますからな。将兵達も緊迫感を持って動いていたように思います」
「撤退が際どい個所、発令所から指揮をしにくい場所も何点か割り出せましたし、実に有意義なものになりましたな」

 と、エリオット達は話をしながら頷いている。
 ふむ。そのあたりの構造を改善してやることで、より防御が厚くなるかなというところだ。

「問題が出そうな個所に隠し部屋や隠し通路を増設したり、監視用の魔法生物の配置を考えて指揮をしやすくする、というのが良さそうですね」
「弱点の補強というわけですな」
「ゴーレム兵の武装に、足止めに特化したものを装備させるのも良いかも知れませんね」

 といった調子で話し合いながら補強個所をピックアップし、どう改造するのが良いかなどを決めていく。



 そうして話し合いをしてから、改善するべき個所で俺が手を付けられるところには早速改造を施してからタームウィルズに戻ってきた。

「それじゃあ、私達は一旦王城へ報告に行ってくるわ」
「良い報告ができそうで何よりよね」

 と、ステファニア姫とアドリアーナ姫が笑みを浮かべる。迷宮前の広場からコルリスの背中に乗って、ステファニア姫達が王城へと飛んでいった。
 改善点については色々アイデアも出ているので、アルフレッドにも知らせて相談しておかなければならない。俺達は俺達で馬車に乗って工房へと向かう。
 戻ってきたことを知らせ、腰を落ち着けて模擬戦とその後の話し合いについて色々とアルフレッドに話して聞かせた。

「砦の仕上がりは予想以上ってことだね」

 アルフレッドは感心したように言った。

「実際、かなりの練度だと思ったよ。後はゴーレム兵の兵装を増やしたり、監視の目も増やしたりしてやれば、更に防御も厚くなるんじゃないかな」
「ん。分かった。改善点については、こっちでも仕事をしておくよ」

 と、それらを記した紙に目を通してアルフレッドが頷いた。

「まあ……砦の将兵達も交代で休憩してるし、アルも無理はしないように。あー。そうだな。この後、家に来るっていうのはどう? 魔光水脈で獲ってきた食材が色々あってさ」
「いいね。それじゃあ息抜きがてらっていうことで」

 と、アルフレッドが立ち上がって大きく背伸びをした。うむ。王城での報告が終わったらステファニア姫達もやって来る予定だからな。
 そんなわけで、みんなの仕事が一段落したところで、工房の面々と連れ立って自宅へ向かう。
 さて……。俺としては1つ楽しみにしていたことがあるのだ。

「少し発酵部屋に行って様子を見て来るよ」

 家に帰ってアルフレッド達を遊戯室に通してから、皆に言う。

「ああ、そろそろと仰っていましたからね」
「うん。発酵もいい具合に進んできたかなって」

 笑みを浮かべてグレイスに答える。
 発酵部屋の味噌と醤油の状態は順調だ。カビも生えずに発酵が進んで……俺の、というより景久の見知ったそれに近い状態になってきている。
 発酵促進の魔法を用いているために出来上がりまでの期間を見極めるのが難しくなっていたが……今日あたりは、そろそろ調味料として使っても良いんじゃないかというところまで来ているのだ。

 最近魔光水脈に足を運んでいることが多かったが、これは味噌と醤油の出来上がりが近付いていたからというのもある。やはり魚介類との相性が良いからな。
 アルフレッド達やステファニア姫達も招待したし、今日の夕食に使えれば良いなと考えていたのだが。さて……どうなっていることやら。
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