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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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619 ティアーズ解析

「冒険者達は砦に加わるよりは、タームウィルズでの迎撃が主じゃろうなあ」

 ヘルヴォルテとマクスウェルの冒険者登録が終わった後でアウリアと少し話をする。魔人との決戦を控えての、冒険者達に関しての状況などを聞いておきたかったのだ。
 決戦の日における冒険者の動きはと言えば、慣れ親しんだ街で土地勘を活かして結界を越えてくるような魔物の対策ということになる。地理を活かしながら魔物を相手にするとなれば、それは冒険者達にとっても真骨頂というわけだ。

 勿論、ベリオンドーラは瘴珠を囮に砦側への誘導を行う予定ではあるのだが、同時に別動隊がタームウィルズを襲撃する可能性も考慮しなければならない。タームウィルズ側にもしっかり戦力を置いておくことが大事なのだ。
 ベリオンドーラ本体がタームウィルズ側に向かう可能性も想定されるが、相手の規模と戦力を確認した上で石碑を用いれば、相手の出方を見た上での迅速な人員の移動が可能になる。こちらの手札を考えればどちらにどの程度の規模の戦力が送られるかに関わらず、両方の状況への対応が可能になる。

「敵が戦力を分散させてくるようなら、タームウィルズと砦の間での挟撃も視野に入ってくるところではありますが……」

 ザラディがいることを考えると、そう易々と連中にとって悪い状況に嵌ってくれるとは思えない。

「魔人の出方は予想は立てられても儂には断言できぬがの。冒険者達の話をするのなら、報酬が大きいというのもあって、連中の士気は割と高いぞ。一攫千金狙いで熟練の連中も集まっておるので質も中々のものじゃ。冒険者らしく強かに立ち回ってくれることじゃろうよ」
「士気が高いというのは良いですね」

 アウリアが冒険者の腕前に関して信用している節があるところも、結構心強い。何だかんだと、ギルド長に落ち着いて親しまれているが、アウリアも実際は歴戦の冒険者だったりするし。

「そこはまあ、そなたの存在に勝ち筋を見出している連中も多いということじゃよ」 

 アウリアはそう言って笑った。
 勝ち筋か。そうやって期待されるからには応えたいところではあるな。俺だって、冒険者としての肩書きは持っているのだから。

「そなたは、今深層に潜っていると聞いたが、どうなのじゃ?」
「物資は手に入りました。決戦の日までできるだけ力を高められるように、とは思いますが……。怪我も避けて調子を整えるのも同時に重要ではありますからね」
「なるほどのう」

 特に物資に関しては、ティアーズの大群やらのお陰で相当な量が手に入ったからな。
 今の時点では迷宮での実戦と中枢突破に主眼を置くより、安全マージンを残した戦闘やクラウディアの居城での訓練や工房での研究開発、製造に力を入れていく時期だろうと思う。



 さて。冒険者ギルドを辞した後、その足で俺達は工房へと向かった。魔光水脈からの帰りなので色々食材も手に入った。それはシーラに家へと届けてもらう。夕食は魚介尽くしだ。アンコウも楽しみであるが、それはそれとして。

「まずは――王城と砦との拠点間で連絡が取れるようにするっていうのが良いのかな」
「両方にハイダーを配置すれば、互いの状況が解るし、双方向でやり取りもできるからね。増産もそれほど難しくないから、それは早めに手をつけてしまおう」

 といった具合にアルフレッド達と話をしながら、やるべきことをリスト化して優先順位を付けていく。

「――後はティアーズ達に使われている技術の解析だけど」

 ティアーズやパラディンらの魔力推進についてだな。これは割と優先度が高めだ。

「魔道具として役立たせようと思うなら練習期間が必要だからな。作製期間も考えて早めに終わらせるのがいいと思う」
「パラディンはまだじゃが、ティアーズの分解は終わっておるぞ。何せ検体が多いからのう。それぞれ壊れていない個所を割り出し、組み上げれば完成品となるというぐらいのところまではやってある」

 それは助かる。ジークムント老の言葉に頷く。

「それは良いですね。では、これから解析に手を付けてみたいと思います」

 いきなりパラディンを解析するよりは難易度も安全性も違ってくるだろう。

「私達に手伝えることはあるかしら?」
「んー。見ていて気になることがあったら、色々言ってくれると参考になるかなと思う」
「そうね。月の民の技術だし、私も何か分かったらその時に言うわ」

 クラウディアの言葉に頷く。
 月の民の技術が使われているゴーレムということで、みんなも興味があるようだ。直感的な話も欲しいということで、俺の作業の見学するためにみんなで部屋を移動する。

「方法としては循環錬気で実際の魔力の動きを見て、そこから用いられている術式を割り出して行く感じかな。オリハルコンに魔力変質させて、その仲介をさせる形を取る」

 と、移動しながら手順を説明する。このあたりは以前にも魔道具作りの方法として工房のみんなと話したことがあるな。

 早速ティアーズが分解された状態で置いてある部屋に移動し、ウロボロスを手にしながら中身を見て行く。
 ティアーズの外装と武器は外から見たままだが、細かくパーツを分けられ、広げられて部屋の中央に置かれていた。部屋の端には、比較的損傷の少ないティアーズ達も積み重ねられるように置いてある。

 さて……。どうなっているのか。分解されたティアーズを見て行く。
 まず外装と二次装甲があって……その中身が核心部分だ。
 ティアーズの魔力を蓄えておく魔石らしきもの。魔力を伝えるためのミスリル銀線。関節やアームなどを構成する末端部の細かな部品等々……。

 こうして見てみると、ゴーレム製作をしていると割と簡単に判別がつくようなものが意外に多いことが分かる。
 用いられているのは月の民の技術ではあるが、ゴーレムであることに変わりはない、ということなのだろう。 
 パーツを1つ1つ検分し、分かりやすいものは除外していく。

「ええとこれは感知系……かしらね?」

 ローズマリーが部品を見ながら言う。

「多分ね。視覚や聴覚みたいな感知系がどうなってるのかも、余裕があったら調べたいところだけど……」

 感知系に関しては俺達は俺達でそれなりのものを仕上げているし、一先ずは後回しにさせてもらおう。

「推進用の部品というのは……やはりないわね。ティアーズやパラディンらは任意の場所から魔力光を出せたはずだわ」

 と、クラウディア。
 確かにティアーズやパラディンの動きを思い出してみれば、外部にマジックサークルを展開して、そこから魔力光を噴出していた。

「そうなると……制御用の部品の中に、そのための術式があるってことかな」

 ああ。それなら多分これだ。ティアーズの動きを制御するための術式が刻まれた部品。南瓜や雪だるまのメダルに相当するものだ。角錐を上下に重ねた水晶のようなパーツ。

 まず動力部分を手に取り、こちらの魔力で励起させて動力となる魔力の特徴をオリハルコンに記憶させる。
 俺が流す魔力をティアーズの動力のそれに近くなるように、オリハルコンに変質させて、ティアーズの制御部品を動かしてみようというわけだ。

 状態の良いティアーズを残骸の中から取り出し、装甲などを剥がして動力部分と制御部分を取り外す。代わりに俺が、それらの役割を担おうというわけだ。
 言うなればティアーズを魔法的にハッキングする感じだろうか。

「それじゃあ、魔力と術式を流していくかな。ティアーズが攻撃行動をしたりする可能性があるから、見学するにしても気を付けること」
「分かりました」

 と、みんなの表情が若干引き締まる。うむ。念の為にグレイスの封印も解いておこう。
 ウロボロスとオリハルコンを通して循環錬気。制御パーツの中に刻まれている術式を1つ1つ検分して、そのまま動力の無いティアーズを動かすのに用いてやる。

 ミスリル銀線の端に手を触れたまま術式――というよりは魔力の動きをそのままを精密に再現してやると、壊れていたはずのティアーズが浮遊したり接近戦用の魔力剣を展開したりと、色々反応を示してくれた。
 よしよし。解析も乗っ取りも成功だな。

 攻撃を繰り出そうとしたところで魔力を切ってやると、浮遊していたティアーズが静かになってだらんとぶら下がる。んー……。これは外れだな。戦闘用の動きなども術式で制御してあるらしいが……。

 その調子で1つ1つ検分していく。そうやってティアーズを動かしている内に、特徴から明らかに違うというものも見えてくる。段々と解析も効率的になっていき……やがてお目当ての術式らしきものが見つかった。

「これ、かな?」

 そういって術式を動かしてやると、ティアーズの後方にマジックサークルが展開し魔力が噴出。勢いよく飛んでいきそうになった。一旦魔力を切り、ミスリル銀線の束をしっかりと握ってすっ飛んでいくのを阻止する。

「見つかりましたね」

 アシュレイがその光景に笑みを浮かべた。

「後は……この術式を元に基本形を類推して、魔道具として扱いやすい形にしていくっていうのが良さそうだ」

 これなら……ティアーズそのものの改造もできるかも知れない。
 破損状況の大きいパラディンからどの程度の情報が得られるかは分からないが、この解析結果はパラディンに対して色々行う際にも役に立ってくれるだろう。
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