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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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616 メルヴィン王の来訪

 明けて一日。今日も今日とてゴーレム達を引き連れて砦作りに勤しむ。
 所定の場所に到着したらゴーレム達に運ばせている木箱からメダルを手に取って、列の中から一体を再構成。通路を塞ぐ壁に変形させる。それと同時に、マジックサークルを展開しつつ壁にメダルを埋め込む。魔力を注ぎ込んで術式を制御。簡易ゴーレムではない、永続的な役割を持たせたゴーレムへと変換していく。

「開け」

 命令を下すと壁がぐにゃりと変形していき、通路の一部によく似たアーチ状の装飾になっていた。このアーチ状の装飾は通路の強度を高める意味と偽装の意味合いで、そこかしこに作ってある。部屋の入口も同じような装飾だ。

「閉じろ」

 もう1つの命令を下すと、アーチ部分が変形して壁になった。継ぎ目が見えるということもない。完全に周囲の建材に同化している。ハイダーやシーカーに使われている術式と共通した部分があるのだ。隠し部屋に扉がある場合、それを壁として埋めてしまうことも可能である。
 とりあえず……動作テストでは問題ないようだな。

「これは……どういった条件で動作するのかしら?」

 ステファニア姫はその作業風景を見ていて疑問に思ったのか尋ねてくる。

「発令所からの命令でも動作しますし、現場の騎士や兵士の判断でも動くようにできますよ。基本的には砦の責任者を登録をして……その責任者当人の命令であるとか、責任者が許可した人物なら臨時の命令権を持つことが可能です。ヴェルドガル王家の方々は上位の命令権を持っていたりしますが。色々と予想される、悪用防止などの対策も仕掛けてあるわけですね」
「それは安心ね」

 ステファニア姫は俺の返答に色々と納得がいったのか、笑みを浮かべて頷いた。
 ゴーレムの挙動としては開閉と修復など、動作が相当単純なので、メダルの容量にも必然的にかなり余裕がある。
 なので契約魔法なども組み込んでヴェルドガル王家の命令権だとか、一部例外的ルールや、ゴーレムの悪用防止策を設けてあったりするのだ。
 これには砦を誰かが奪って立て籠もるなどといった反乱行為に使われるのを防止する意味合いがある。直近ではその不安もないが、後々のことも考えてのことだ。魔人に奪われたりしても事だしな。

「いずれにしても、砦内部に慣れるための訓練は多少必要かも知れないわね」
「そうですね。その訓練は必要だと思います」

 と、アドリアーナ姫の言葉に頷く。
 ゴーレムには区画ごとにグループ分けしてあり、更に個別に番号を割り振ってあるので、発令所からの命令で、戦況に応じてどこそこの区画を丸々封鎖するとか、この通路を開閉するだとか、色々と臨機応変な命令が可能だ。

 そのあたりのところを、砦を指揮する人間は掌握しておかなければならない。
 砦の内部に敵が侵攻してきた場合に備えて、味方を迅速に避難させたり先回りさせたり挟撃したりと、実戦的な状況を想定して色々と訓練を積んでおくべきだろう。



 砦のあちこちにゴーレムを設置して窓枠や通路を塞いでいく仕事が終わったら、砦の内部にミスリル銀線や伝声管を張り巡らせたりと、細々とした作業を進めていく。

「あーあー。テオ君。聞こえるかい?」

 と、伝声管から発令所で作業をしているアルフレッドの声が聞こえた。

「聞こえるよ。そっちからは俺の姿は見える?」

 壁と一体化している監視用の魔法生物に向かって手を振る。魔道具が正しく動いているのなら、発令所のアルフレッドには俺の姿が見えているはずだ。

「こっちに手を振ってるね。これも問題ないようだ」

 うむ。動作テストは順調である。

「――っと。テオ君に連絡。監視塔からの報告では、南から王家の紋章をつけた竜籠と、それを護衛する騎士団が接近中とのこと。メルヴィン陛下がいらっしゃったようだね」
「了解。出迎えに行ってくるよ」

 今朝がた通信機に連絡があったのだ。砦の進捗状況を聞かれたので、骨組みは出来たので後は魔道具類を設置して完成度を高めていく段階だと答えたら、執務に余裕があるのでこっちに見に来る、とのことで。メルヴィン王もフットワークが軽いことだ。



「――おお。あの古びた砦がこのような姿になっているとはな」

 リンドブルムに跨って空を飛んで南に向かい、メルヴィン王を迎えに行く。
 護衛として騎士団長や討魔騎士団の面々も一緒だった。挨拶もそこそこに同行して砦まで案内すると、メルヴィン王は竜籠の窓から顔を出して楽しそうに笑う。

 地上ではみんなが整列してメルヴィン王の出迎えといったところだ。

「まだ中身は完成していなかったり、寝具などが足りないところがあるのですが」
「いやいや。現時点でも相当なものだ。それに、そなたから話を聞く限りでは、魔道具の設置には人手も必要なのではないか? 討魔騎士団の意向を確認してみたところ、野営用の寝具で充分とのことでな」
「それは……お気遣い感謝します」

 そう答えると、メルヴィン王はにやりと楽しそうに笑みを浮かべた。
 確かに。魔法騎士であるエリオットを始めとして討魔騎士団には魔法関係にも強くて魔道具の設置も任せられる人員が揃っているというのはあるが……。先程の笑い方を見るに、メルヴィン王も砦を早く見たかったのかなという気もする。

「糧食も樹氷の森で調達した保存食に余りがありますから、これも訓練の一環です。砦への物資の輸送も既に手配中とのことです」

 と、エリオットが報告してくれた。なるほどな。
 砦が近付いて来たところで降下していく。竜籠がゆっくりと地面に降り立つと、サイモン達がメルヴィン王の到着を迎える。

「これは陛下」
「うむ。サイモンも元気そうで何よりだ」

 臣下の礼をとるサイモンに、メルヴィン王が笑みを浮かべる。

「書状にも書いたとおりだ。サイモンには、テオドールや討魔騎士団と共に協力して、魔人との戦の折、この砦の防衛に尽力して欲しいと思っている。無論、魔人との戦いが終わった後もな。この砦と、街道を行く者達の安全を守ってやって欲しい」

 街道の難所と呼ばれる場所をずっと守ってきたのはサイモンの手腕だからな。
 メルヴィン王の話によると、街道を行く旅人や行商人を魔物から守ったことや冒険者達と共同作戦を立てて大型の魔物を仕留めたことも幾度もあるらしい。
 なので騎士達や冒険者達からも信頼されている、とのことだ。叩き上げで指揮官としても有能な人物。勇敢かつ冷静で土地勘もある古参の騎士。起用しない理由はないだろう。

「それは……勿体ないお言葉にございます。身命を賭して、その任を全うしたく存じます」

 サイモンはメルヴィン王の言葉に色々と感じ入るところがあったらしい。メルヴィン王への挨拶を終えると、エリオットとも挨拶をしていた。

「エリオット殿のお噂はかねがね。このサイモン、非才の身ではありますが全力でテオドール殿と、エリオット殿、そして討魔騎士団の補佐をさせて頂きたく存じます」
「これはご丁寧に。過分な評価に身が引き締まる思いです。どうかよろしくお願いいたします」

 と、エリオットとサイモンは握手を交わす。サイモンは改めて俺とも握手を交わした。
 そうして面通しが終わったところで、いよいよメルヴィン王達を砦の中へ案内する。

「開門!」

 と、俺が声をかけると独りでに西側外壁の分厚い門が開いていく。外門もまたゴーレム化されていたりするのだ。
 門から入り、砦の敷地内へ。本棟の分厚い門をくぐり、砦の内部へと。
 命令に従って壁が通路へと変じていくその様に、メルヴィン王は感心したような声を上げる。

「うむ……これは何とも素晴らしいな」
「通路の交差する場所を操作することで、侵入者を堂々巡りさせたり挟撃を行うことも可能です。今は……最短で発令所へ向かっておりますが」

 と、砦の内部を案内しながら、まずはメルヴィン王を発令所へと案内をした。
 発令所は砦の中枢。最も防御の厚い場所となる。壁に各所を映し出すモニターや伝声管などが作られている。
 そして部屋の一角に大きめの魔石が5つ6つと並んでいた。

「シリウス号の艦橋を彷彿とさせる光景よな」
「そうですね。まだ完成してはいないのですが、発令所にいながら砦の内外の状況を把握し、各所に命令を伝達することが可能です。その魔石は――魔力を込めておくことで、ミスリル銀線を通し、各所に仕込まれたゴーレム達に魔力を伝達します。ゴーレム達は単純な動作しかしないので、有事でなければあまり魔力は消費しないと思われますが」

 説明してから、モニターに映っている区画を見やりながら伝声管でゴーレムに命令を下す。

「西棟1階。区画2から4まで通路閉鎖」

 そう言うと、開いていた通路が閉じられる。土魔法の模型は発令所の机の上に置かれていたが……これも既にゴーレムとして改造済みだ。その命令に連動して、模型の通路が塞がる。通路や窓の状況確認をするためのものである。

「おお。これは面白いな」

 と、メルヴィン王が愉快そうに笑う。

「西棟1階。区画2から4まで解放」

 命令を解除してやると閉鎖されていた通路が開いた。当然、模型も連動して動く。

「こういった具合です。砦を十全に活用するためには多少の訓練は必要かと思います。砦全体に仕掛けを行き届かせるためには、魔道具や魔法生物を設置する時間が必要ですが」
「うむ……。これは……砦そのものを指揮するという感覚かも知れんな」

 メルヴィン王の感想は的を射ている。指揮官として訓練を積んだ人間なら、砦全体を動かしていくのに適役だろう。その場に扉や通路を封鎖できる部下が常駐している、と考えればいいだけの話だ。

「ここまで何か問題は?」
 と、問われる。

「魔道具の設置等はじきに、というところですね。後は不具合が無いか確認し、訓練を積めばいいのですが……。残る問題があるとするなら、封印塔に瘴珠を安置する時期でしょうか。これは早すぎても敵方に対応されますし、ぎりぎりを見計らって動くのが良いのかなと」
「そうさな。やはり、精霊王の封印が弱まる前を見計らってということになろう」

 とりあえず、砦も形にはなったか。後は色々仕込んで訓練を積み、完成度を上げていくだけだな。
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