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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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615 城砦完成へ向けて

 今回は籠城などといった長期戦はあまり視野に入れていないが……それも魔人との決戦だけの話である。
 サイモンと相談し、後々のことも考えて鍛冶設備も予め作っておくということになった。これなら砦内部の武器が足りなくなった時に増産可能となって、長期戦も可能になるだろう。そういったものを追加した上で、更に建造を進め、色々手を加えていくと平地の小規模な砦は、城砦と呼んでも差し支えの無い規模になっていた。

「改修とは言っていましたが、あの老朽化していた砦が、こんな要塞になってしまうとは――」

 サイモンは砦の本棟を見上げて唸っていたが、気を取り直すようにかぶりを振ると、兵士達に色々と指示を飛ばしていた。
 兵舎部分や冒険者ギルドの出向施設、一般人の宿泊設備などが完成すれば、野営地から必要なものを中に運び込むことができる。なので、まずはそちらを優先的に完成させたのだ。それを受けた兵士達は野営地で炊事の準備をしながらも手分けして砦の備品などを運び込んでいた。

 俺達は昼食なので作業の手を止めて一旦休憩である。昼食が終わったら地下道回りをいじったり、砦の三方向に瘴珠の安置施設となる塔を建てたり、外壁を作ったりしていく予定である。こうして見ると色々残っているが、砦の部分は魔法的な仕掛けを除き、骨組みに近いところは既に出来上がっている。

「魔物が出るとは言っていましたが、景色は長閑ですねえ」

 野営地の一角で、兵士達の搬入風景を見ながら、椅子とテーブルを借りてのんびりと外で食事の準備といったところである。
 魔法の鞄から出てきたバスケット――弁当の中身はサンドイッチ、サラダ、チーズなどだ。揚げ物も手軽にできるようになったのでカツサンドや唐揚げなども用意されている。

「後は、これね」

 と、ローズマリーが鞄から寸胴鍋をそのまま出してきたりしたのは中々のインパクトであったが。
 鍋の中身は野菜やベーコン、貝などを入れてじっくりと煮込んだトマトベースのスープだ。土魔法で即席の竈を作り、火にかけて温め直して頂く。赤い色合いがいかにも温まりそうなスープ、という印象である。そのスープが充分に温まったところで、皆で食事である。

「――ああ。このスープは美味しいな。後を引きそうな味っていうか」

 少し酸味があり、香辛料も利いている。温まるし、食欲を増進するのでお代わりが欲しくなる味だな。野菜の甘味と貝の旨味がマッチしていて塩梅も良い。
 感想を言うと、みんなが嬉しそうな表情を浮かべた。昨日から頑張って作っていたしな。

 砦作りはやはりというか、俺の作業量が多くなってしまう。その分だけみんなは弁当作りを頑張らせてもらうということだったので、俺はそちらには関わらず、みんなに任せるということになっていたのだ。

「野外での作業になる可能性が高いので、何か温まる物をと思いまして」

 グレイスがにっこりと笑う。

「ティーセットや水筒も入れられるし、鍋ごとでも大丈夫じゃないかと思ったのよね。一応、こぼれないよう蓋は固定したけれど」

 なるほど。そのティーセットも準備されているので、食後はのんびりお茶も楽しめるだろう。
 色々な具が挟まったサンドイッチ、唐揚げも良い出来だ。マンモス肉のカツサンドに、恐竜の唐揚げと、まあ、食材に若干特殊な物も混ざってはいるが、美味い物は美味い。
 さてさて。他の皆も昼食のようだ。アウリア達冒険者ギルドの職員と、サイモンと兵士達も別々に昼食の準備をしている。

 冒険者ギルドはタームウィルズの迷宮由来であろう食材が多い。宵闇の森産の巨大キノコのソテーであるとか、魔光水脈産のウニやイカ、貝を焼いたものであるとか……魔物素材由来の品が多いようで。

 サイモン達は地産地消と言えば良いのか。森で狩ってきた猪の肉などを鍋にして野菜と共に煮込んで味付けをした物がメインのようだ。中々ワイルドな食事風景である。

「うむむ。そちらの料理も美味そうじゃな」
「こっちはその貝の串焼きが気になる」

 アウリアとシーラが互いの料理を見ながら言う。2人は視線で意思疎通をしたのか、利害が一致したらしく、徐に握手をして割り当てられた唐揚げと串焼きに刺さっていた大きな貝を交換したりと、昼食を少しづつシェアしていた。

「美味」
「うむ」

 もぐもぐとやっている2人は互いに満足そうで何よりではあるが。

「おお。こりゃすごいな」
「殿下の使い魔は、ベリルモールと仰るそうだ」
「鉱石を食べるんだな……」

 やはりコルリスの食事風景は初めて見る者にはインパクトがあるようで。兵士達が昼食の手を止めてコルリスの食事風景に見入っていたりする。
 コルリスはと言えば、今日は他の誰かに食べさせてもらうのではなく、樽の中から鉱石を爪の先で掴んでマイペースに口に運んでいるが。
 動物達もみんなと一緒に昼食だ。リンドブルムやラヴィーネ達は俺達のすぐ傍で骨付き肉を齧っていたりする。

 そうして和やかな雰囲気で昼食をとった後は、魔法生物達にも魔力を補充しつつお茶を飲んだりして寛がせてもらった。
 イルムヒルトのリュートを聴きながらアウリアやサイモンを交えて談笑したりといった具合だ。

「……そう言えば、砦の規模が大分大きくなっているし、備品が不足してしまうのではないかしら?」
「それは確かに。我等だけなら今まで通りで良いのですが、魔人戦に向けて人員も増えるわけですからな」

 クラウディアが首を傾げてそう言うと、サイモンが頷いた。

「砦の内部を見ておいて、必要になりそうな備品の種類と数を纏めておいた方が良さそうね。予測を立てておけば、王城側の準備も捗るでしょうし」

 と、ステファニア姫が言う。

「では、私どもでも試算をしてみることにしましょう。何かありましたら声をかけていただければと思います」
「分かりました」

 ふむ。サイモン達も午後からは少し忙しくなりそうだな。俺も、作業を継続して頑張るとしよう。



 コルリスの作った地下道を舗装し、構造強化で固め、海側からの玄関や秘密の抜け道などを作っていく。
 地下通路の終点は満潮時の高さに合わせた玄関ホールのような大部屋に形成した。玄関ホールの一角は何段か階段状に高くなって、その上がプールになっている。
 水を湛えたプールの内部も階段状だ。干潮時であれ満潮時であれ、海から直接上がって来れるというわけだ。

 高潮などで水がプールから溢れた場合は、排水口から導水管によって水が外へと排出される。これにより、地下道が水没することなく砦の内部に入って来れる、という仕組みになっている。水圧に耐えるか等々、セラフィナとチェックしていると、プールから人魚の姿に戻ったロヴィーサが顔を出した。

「どうでしょうか?」
「良いですね。大人数でも入って来れますし、これなら外から目に付かずに動けるかと」
「後はここに伝声管を引いて来れば、砦本部の発令所と連係が取れるというわけです」

 これによって海と陸の間で作戦や撤退のタイミングを合わせるのも容易になるだろう。
 海側の門に関してもゴーレムを用いて、海底の地形そのものにカモフラージュする予定だ。

 まあ、ゴーレム化に関しては最後にと考えているので、ここは一先ずこれで良いだろう。



 続いて監視塔を建造する。望遠の魔道具や音響砲、狼煙といった設備を設置し、利便性を高くするために監視役が本棟に戻らずとも交代できるように待機部屋と仮眠室、小規模な風呂、厨房、食糧庫を作っておく。
 ここにも発令所直通の伝声管を引き、警報装置も設置する予定だ。

 今回は備えが無かったが、森のある東側の監視塔にはライフディテクションを仕込んだ魔道具があると便利かも知れない。魔物等が平野部分に近寄っている時に、いち早く察知することが可能になるからだ。

「……よし。監視塔も一先ず魔道具以外は完成かな」

 監視塔の屋上から顔を出してあたりを見回す。野営地を囲む氷壁の上から森側を監視していたアシュレイとマルレーンが、俺を目に留めたのかこちらに顔を向けて手を振っている。手を振り返すと彼女達もにっこりと笑った。うむ。

 後は……瘴珠の封印塔と、外壁の建造か。封印塔は外壁の後で良いかな。封印塔はその性質上、警備する必要のない場所となるからな。

 魔法的な仕掛けと罠に委ね、砦の内部にありながらも孤立した場所となる。だから、最後に建造すれば良い、というわけだ。そのためのスペースも、外壁と砦本棟との間――中庭に相当する場所に確保してある。
 監視塔から飛び降りて、掘削で新たに作られたゴーレムやヒュージゴーレム、用意されていた石材などを用いて外壁を建造していく作業に移る。

 まず外壁部分を掘り返し、土台と溝を作ってから魔石の粉末を流し込んでいく。そこからゴーレム達を再構成。一塊の岩を形成するように、一気に外壁を形成していく。
 表面は、手掛かりや足掛かりが一切無いようにする。吸盤のようなものでも張り付けないように、表面をザラリとした質感に仕上げる。
 上に向かうに従って微妙に反り返るような構造であるため、まともには登れないだろう。まあ、ここまでやっても空を飛ぶ魔物、魔人に対しては対空装備以外の意味がないのだが。あくまでこれは、地上部隊に対する備えだ。

 概ねの形が出来上がったところで内部をくり抜き、覗き窓や外壁上部から矢や音響砲を射掛けられるようにしていく。
 さて……外壁に関してはもう一仕事だ。表面の石の色合いを微妙に操作し、紋様魔術を刻みながら構造強化することで、物理的にも魔法的にも強固なものにするという作業がある。これならばちょっとやそっとでは傷もつくまい。……相手に魔法を無駄撃ちさせるなら、表面を薄くコーティングして紋様魔術は隠しておくか。因みにこれを、砦の本棟にも施す予定である。
 暫く紋様魔術絡みの作業に没頭していると、ようやく終点が見えてきた。外壁を一周してきたのだ。

「これで外壁は出来上がりかの?」

 そこでジークムント老が声を掛けてきた。

「骨組みはそうですね。少し試してみようと思います」
「試す?」
「外壁の――比較的薄めの部分にソリッドハンマーを叩き込んでみます。少し離れて、マジックシールドを展開していて下さい。セラフィナもね」
「うんっ」

 俺の肩からセラフィナが離れ、ジークムント老の傍らへと飛んでいく。

 さて――。目標としては射撃用の覗き窓の辺りか。周囲に人がいないのを確認してからソリッドハンマーを展開、思い切り叩き付けてみる。

 鈍い音が響いた。激突した個所を中心に、紋様魔術に沿って魔力の輝きが走る。手加減無しで叩きつけたのでソリッドハンマーは砕けたが……外壁は無事だ。内部への衝撃なども魔力反射で見てみるが、問題は無い。充分な強度と言えるだろう。

「……とんでもない要塞になりそうじゃな」
「まあ……迎え撃つのがベリオンドーラですからね」
「ふうむ。確かにのう」

 そう答えるとジークムント老は目を閉じて思案しながら頷く。

「結界に関しては、もう手を付けても問題無いかと」
「うむ。ではそうさせてもらおう」

 ジークムント老が光球を打ち上げると、外壁のあちこちからヴァレンティナ達の返事というように光球が打ち上がった。タイミングを合わせてマジックサークルを展開。外壁にも結界が生じる。

 これで封印塔を3本建造したら、魔道具の設置やゴーレム化の作業、井戸周りの改造をしていけば完了だ。細々とした作業が多いが、もう拠点としては充分に機能するし、風呂等も使えるので案外住環境は快適なように思える。

 魔道具を設置する作業なら魔術師の面々も沢山いるから、分業も可能である。寝台ならシリウス号側にもあるし、みんなで数日泊まり込みの作業も可能だ。問題はあるまい。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます!

お陰様で書籍版境界迷宮3巻の発売日を無事迎えることができました!
今回は加筆に加えてページ数事自体も増量しているので、楽しんでいただけたら作者としても嬉しく思います。

ウェブ版の更新共々頑張っていく所存ですので
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
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