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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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609 魔斧の試技

 マクスウェルに訓練の手順を伝えたりと準備を進め、みんなと共に工房の中庭に出たところで、ベアトリスもやってきた。気怠そうというかやや眠そうだが。

「おはようございます」
「これはベアトリス殿」

 と、マクスウェル共々ベアトリスに挨拶する。

「ええ、おはよう……。そろそろ魔法生物が完成すると聞いて来たのだけれど、その子がそうかしら?」

 斧を見ながらベアトリスが言った。
 なるほど。連絡が行っていたらしい。試運転が済んだら出来栄えを報せがてら挨拶に行くつもりだったが、向こうから来てくれたというわけだ。

「そうです。名前は……本人から聞いた方が良いかも知れませんね」

 と言うと、ベアトリスは心得ているとばかりに口元に笑みを浮かべて頷いた。

「主殿よりマクスウェルという名を頂戴した次第」
「良い名前ね。無事に完成したようで何よりだわ」

 ベアトリスの答えに、マクスウェルは一礼する。

「これから、中庭で動きを試してみようということになっていたのですが……見ていきますか?」
「そうねえ。折角足を運んだのだものねえ」

 ベアトリスが頷く。では、見学していってもらうということで。

「どうぞこちらへ」
「みんなで見学ということで、お茶とお菓子も用意していたんですよ」

 と、ティーカップにお茶を注いでいたグレイスが、もう1人分のお茶を用意しながら言う。焼き菓子もアシュレイがお皿に乗せて運んできて、それを各テーブルに配置して回る。

「ありがとう」

 ベアトリスはフォルセトやジークムント老達と同じテーブルについて、のんびりと見学といった雰囲気である。マクスウェルの受け答えがしっかりしていたからか、それとも技術交流的な側面もあるからか、ベアトリスは割合上機嫌そうな様子だ。
 さてさて。まずは斬撃が当たった場合の威力を見るということで。鎧兜を簡易ゴーレムに仕立て上げて立たせておく。

「それじゃあ始めようか」
「うむ。準備はできている」

 マクスウェルの核が赤い光を帯びていく。片眼鏡で見れば魔力が充実していくのが見て取れた。
 合図を送ると、長柄の部分を輪っかが覆うように特殊な形状のマジックサークルがいくつか展開し、弾かれるように長大な戦斧が射出された。
 ――射出。斧をして射出と表現するのもどうかと思ったが、実際そうとしか形容しようのない初速だ。
 赤い光を斬撃の軌道に残しながら回転して勢いをつけ、大上段から兜を断ち割り、鎧ごと左右に両断していた。
 斬撃の勢いそのままにマクスウェルは鎧の後方へと回転しながら離脱した。
 中央から唐竹割りにされた鎧が、少し遅れて左右に崩れ落ちて金属音を立てる。

「今のは、驚きですね」

 グレイスが少し目を丸くして言うと、シーラが頷いて答える。マルレーンは屈託ない笑みを浮かべながら拍手を送った。

「攻撃を当てる時の魔力の使い方とか……テオドールに似てる気がする」
「刃への魔力の込め方は、主殿に教わったもの故」

 ふむ。俺やシオンがやっているが、刀身に魔力を込めて威力や鋭さを強化するという技法だ。鎧の切り口も滑らかなもので、勢いと自重、技法が一体となったものであるのが見て取れる。
 実際は闘気や魔力、魔法を攻防に組み込むので、動かない鎧を切っても真価が見えたとまでは言えない。試運転用の肩慣らしといったところだが……それは追々迷宮などで見せてもらえば良いだろう。

「今のは良いね。問題は無い?」
「うむ。刃こぼれもない」

 と、若干嬉しそうな答えが返ってくる。

「それじゃ、次は的を増やしていこうか」
「承知した」

 マクスウェルの好きなように色々な動きを試してもらう、ということで。
 マジックサークルを展開。アクアゴーレムをあちこちに配置する。アクアゴーレムは攻撃を食らっても即座に再生できるので、こういう実験には丁度良い。

 合図を送ると、マクスウェルが弾かれたように動いた。トマホークを投げつけた時のように横に高速回転しながら飛んでいき――胴薙ぎにしたかと思えば、回転する支点を変えて斬撃の軌道と間合いを変化させ、次のアクアゴーレムを肩口から袈裟懸けにしていた。

 斧らしい豪快な一撃を見せたかと思えば、技巧も見せてくれる。
 長柄武器の熟練者が手元の動きで武器全体の動きを増幅して操るような、巻き上げの技法を見せたり、フェイントを交えながら細かく素早い牽制を繰り出したり。かと思えば石突き側が跳ね上がってゴーレムの顎を下方から殴り飛ばしたりと、様々に動きを変える。

 正面から突撃していったかと思えば、ゴーレムと激突する寸前で全体が跳ね上がるように回転、背中に向けて打ち下ろしの一撃が見舞われた。磁力で制御、加速しているので凄まじい速度だ。

「先程のは……斧のみならではの動きですね。人間が握っていたらああいう軌道にはなりません」

 ヘルヴォルテは表情を変えなかったものの、感心したように頷いている。

「途中から速くなったように見えたけれど……磁力の制御によるものかしら」

 クラウディアも色々と分析しているようだ。それぞれ着眼点に特徴が出ているな。

「うむ。思うように動ける。では、魔法主体の戦い方も試してみるとしよう」

 マクスウェルの声。ゴーレム達の中央まで飛び込んだところで、先端の水晶からゴーレム達全体を巻き込むように雷撃を周囲に放つ。
 斧や柄を帯電させたまま、更に複雑にタイミングや角度を変えてゴーレムを両断していく。
 雷も近接戦闘では良い武器になるな。雷への対策が取れなければ武器を合わせるだけだとか、防御するだけで感電することになる。掴まれた場合の対処にもなるだろう。

 全方位への雷撃を放ったり、矢のように雷撃を飛ばしたり。バリエーションも色々あるようだ。

 先程試し切りした鎧を磁力で引き寄せると、それを鈍器のようにアクアゴーレムに叩き付けるというような芸当まで披露してくれた。これはこれでマグネティックウェイブの上手い使い方とは言えるだろう。

「色々、テオドールの影響が見えるわね」

 と、ローズマリーがそれを見て、目を閉じながら思案しているような様子を見せた。んー……。多分、竜牙兵を磁力で放り投げた時のことを思い出したのだろうが。



 1人で戦う時と、集団で戦う時は自ずと動きも変わってくる。集団戦で仲間の背後に浮かび、背中側を守る時の動き。共に1人の敵と戦う際の連係方法。そして実戦での切り札。
 それらの動きも1つ1つ確認して、マクスウェルの試運転は完了した。
 消耗した魔力も他の魔法生物同様、補充しなければならない。柄の部分を手に取り、肩に担ぐようにして魔力補充してやる。

 折角なので他の魔法生物も纏めて魔力を補給していく。右肩にウロボロス、左肩にマクスウェルを担ぐ。
 膝の上にカドケウス、頭の上にバロールを乗せ、着込んだキマイラコートごと纏めて魔力を補給。まあ、これが道具型の魔法生物にとっての食事のようなものである。

 マルレーンも……増産中のハイダーやエクレールを膝の上に乗せてにこにこと笑みを浮かべながら魔力の補充をしている様子だ。
 そんな調子でのんびり茶を飲みながら補充を続けていると、マクスウェルが言った。

「うむ。あっという間に魔力が満ちていくな。主殿の魔力は質が良いように思う」

 との感想である。
 ウロボロスやネメア、カペラが喉を鳴らす。カドケウスは小さく頷いたり、バロールは目蓋を瞬かせることで答えていたので魔法生物達としてはマクスウェルの言葉を肯定しているのかも知れない。

「さっきの動きを見ている限り、概ね問題ないかな。後で迷宮に降りてみよう」
「喜んで主殿の供を務めさせてもらおう」

 うむ。行き先は……そうだな。魔光水脈あたりが手頃な気がする。若干特殊な状況も作れるし、食料品も色々手に入るからな。

「でもまあ、色々やってもらったし迷宮は明日からにしよう。今日のところはマクスウェルにタームウィルズの街中を案内するっていうのも良いかも知れない」

 そう言うと、マクスウェルの核が一瞬間を置いてからぴかぴかと点滅した。

「おお。それは何と言うか、心躍るものがある」

 うむ。武器で魔法生物ではあるが仲間だからな。対話した時も人々の生活に興味を示していたし、街中を見てもらって色々学んでもらうというのもマクスウェルにとっては大事なことだろう。
 同じように社会見学中のシオン達、ラスノーテやヘルヴォルテも連れて、あちこち見て回ったりするのも良いだろう。
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