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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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607 工房の魔法生物

 工房に到着してから、アルフレッドへの物資の説明をし、その後で少しみんなと休憩させてもらうことにした。
 グレイスの反動解消を行った分だけみんなにも、ということで。循環錬気を行ったり、自分の体調を魔力反応から詳しく診たりといった具合だ。
 今回は戦闘規模が大きかった分、全員の調子を整えておいた方が良いということで、何やらシーラ達とも循環錬気を行うということになっていたが……。

「魔道具を使ってるせいかな。みんな全体的に魔力が成長してるような気がする」
「ん。そのへんは実感がある」

 思ったことを口にすると、シーラが頷いてそんなふうに答える。
 シーラの場合は魔道具を前よりもずっと手軽に使えるようになって、継戦能力や攻防で切り出せる手札の種類が増している感じではあるかな。
 イルムヒルトは、元々潜在的な魔力が大きめだったが、それが増大している。呪曲の規模や影響力などにも影響が出るだろう。セラフィナもだ。音の感知範囲や操作の精度が増しているところが見られるなど、みんな全体的に成長しているようである。
 みんなもそれぞれ順調に戦力が増強されているようで。迷宮での戦闘、日々の訓練。しっかり成果が出ているのが目に見えるというのは良いことだろう。



 そうして循環錬気を終えて、少しのんびりした後で、アルフレッド達のところに顔を出した。

「ああ。そっちはもう大丈夫?」

 と、アルフレッドが尋ねてくる。

「んー。まあ、体調も整ったかな」

 魔力を大きく消耗すると、次の日ぐらいまでは独特の気怠さが続くのだが、循環錬気で整えておくと、それがかなり軽減される。

「こっちも作業は順調でね。話をするだけならいつでも大丈夫だよ」

 アルフレッドが机の上に置かれた魔法生物の核を見ながら言う。円型の金属の器に収まり、核の球体の一部が露出するように組み込まれていた。
 その金属の器からミスリル銀線が伸びて、別の魔石と繋がっている。セラフィナの性質を与えた魔石だ。

「おお、無事帰ったか主殿」

 と、魔法生物の核ではなく、魔石が振動して声を発した。合成したような独特の響きこそあるものの渋めというか、落ち着いた印象を受ける声質である。

「ただいま。そっちも順調みたいで何よりだ」
「うむ。こうして皆と言葉を交わせる喜びに浸っていたところだ」

 魔法生物はどこか嬉しそうに答えた。工房のみんなは、お茶を飲みながら魔法生物と話をしていたらしい。

「声質の調整に少し手間取ってたんだけど、僕としては良い仕事ができたかなって思うよ」
「我もこの声には満足している」

 アルフレッドに同調するように魔法生物が言った。
 その言葉に、工房のみんなが嬉しそうというか微笑ましいものを見ているような表情を浮かべる。中々和やかな雰囲気だ。

「後は魔石や雷水晶の回路を繋いで、柄に部品を組み込んでいけば出来上がりですね」
「私達としても本人が嬉しそうなので張り切り甲斐があると言いますか」
「どうかよろしくお頼み申す」

 と、ビオラとエルハーム姫に魔法生物の核が答える。うむ。みんなやる気十分というところだ。
 斧として組み上がったら、訓練を兼ねたテストと調整を経て、まずは迷宮の浅めの階層に連れて行ってみるかな。

「ところで、中枢はどうだったのかのう? 物資から見るにかなりの大軍を相手にしたようじゃが」

 ジークムント老が尋ねてくる。ああ。そっちの話もしなければならない。物資の使い道にも関わって来るしな。

「ガーディアンと戦闘になりまして……警備兵が大挙してきたからそのへんは大変でしたね」
「中枢の魔物を相手に、皆様の戦い振りは見事なものでした」

 俺の言葉を引き継ぐようにヘルヴォルテが頷く。みんなの言葉を交えてあれこれと遭遇した敵群についてや、戦闘の経緯などを話して聞かせた。
 パラディンとの戦闘について話が及び、第9階級2連発の下りを聞かせるとジークムント老達は少し引き攣ったような笑みを浮かべていたが。

「流石は先生です」
「うむ。主殿ならではだな」

 まあ、シャルロッテと魔法生物の核は寧ろ納得した、というような様子であったが。

「戦利品が山になるわけだ。使い道を決めるのも一苦労だね」
「まあ、そのへんも話し合わないといけないなとは思ってたけど。そのままであまり手を加えなくても使える物もありそうだよ」

 例えば、スターソーサラーの持っていた杖の先端部とか、ボーントルーパーの水晶槍だとか。
 使用者の戦法、体格に合わせてピッタリな持ち主を決めてやれば良いだけだ。
 そのへんのことを話すとアルフレッドは静かに頷く。

「なるほどね。確かに手間も省けるね」
「防御衛星は……やっぱり魔術師用かな。魔力を消耗するけど、近接に寄られた時に攻防の補助になるから」
「でしたら、マリー様に使って頂くのが良いかも知れませんね」
「そうですね。前衛に出ることも多いですし」
「仕留めた本人が使うのは妥当なところかしら」

 グレイスの言葉にアシュレイが明るい表情で頷いた。
 クラウディアも賛成。マルレーンもこくこくと頷いている。

「――なら、色々試してからかしらね。使い勝手や魔力の消費具合などを見てから、使い続けるかどうか決めさせてもらうわ。イグニスや他の装備の邪魔になるようなら本末転倒だし、わたくしよりも向いている者がいるかも知れないもの」

 ローズマリーは羽扇で口元を覆い、目を閉じてそんなふうに答えた。ふむ。では暫定的にローズマリーに渡して、使い勝手を見てもらう、ということで。
 そうなると、同時にカメレオンの魔石もシーラ用に何かを考える、というところかな。

「水晶槍は……どうしようかな。伸ばすとそれだけ扱いにくくなるから、槍を愛用している者にそのまま渡すっていうのもな」

 魔力で操れるようだが、大きさを微調整するには少し慣れが必要だと感じた。ちょっとした間合いの差で影響も出てくるから、結局手に馴染んだ武器の方が良い、ということもあるだろう。
 大柄で膂力がある方が良く、使い方にしても純粋な槍というよりは突撃しながら間合いの外からの狙撃という、ボーントルーパーの戦法が一番理に適っているのかも知れない。
 となると、あの水晶槍を一番うまく扱えそうなのは……。

「――あー。コルリスやリンドブルムかな?」

 中庭に座り込んで窓から部屋の中へ顔を突っ込んでいるリンドブルムとコルリスに視線を向けると、両者とも目を瞬かせる。

「コルリスに槍を装備させるの? 使えるかしら?」

 ステファニア姫が首を傾げた。

「槍と言いますか……例えば手の甲に装備させて、伸び縮みする爪のように使ってもらおうかなと。地中や空中から少し離れた相手に射出したり、爪攻撃の延長として射程外から斬撃や刺突を繰り出せるようになれば結構有用な気がします」
 それにコルリスの場合は見た目にも結晶の鎧を身に纏ったりとカモフラージュ効果があるからな。

「中々面白いかも知れないわね」
「そうなると、専用の装具を作ってやる必要があるかな」

 説明するとステファニア姫とアルフレッドは乗り気の様子である。コルリスもステファニア姫からイメージを伝えられたのか、ふんふんと鼻先を縦に動かしていた。リンドブルムは俺と一緒に使い方の訓練をして貰えば良いかな。
 では、水晶槍の使い道も一応決定ということで。

 魔石と金属素材はいくらあっても良い。大きさが画一的なティアーズの魔石についても使い道もおのずと決まってくるだろう。戦利品について色々と話が纏まっていく。

「――で、パラディンとセントールナイト、ティアーズは解析していく、と」
「技術的に使える部分を参考にさせてもらおうというわけじゃな」

 ジークムント老が頷いた。

「そうですね。例えばあの魔力光の推進機構はかなり有用かと」

 それをイグニスやシリウス号に組み込むとか。
 イグニスに組み込んだ場合、瞬発的に真横に移動したりと、身体の動きからは全く予期できない動きをさせることが可能だ。
 パラディンが俺にやって来たこともそれである。身体を片側だけ加速させて錐揉み回転からの斬撃を見舞ってきたりと……かなり見切りにくい攻撃を仕掛けてきた。
 そういったことを説明するとローズマリーが薄く笑みを浮かべる。

「良いわね。確かに、元々無茶な動きができるイグニスには相性が良いわ」
「連係に問題は?」
「瞬発力が上がった分はわたくしの腕と修練で補えばいいだけのことだわ。仮に修練が足りなければ、単独行動させた時や、離れている場所から魔力糸で増強した時にだけ使わせればいいのだし」

 なるほど。自己の鍛練も込みでの話ということか。防御衛星もそれでまた活きてくるかな。

「そうなるとイグニスに、魔石をもう一個追加してやるのが良いかもね」

 アルフレッドが言う。確かに。消費が増えた分だけタンクを増設してやる必要があるだろう。どちらにせよイグニスの点検はするので、その際にスターソーサラーの魔石を増設してやるというのが良さそうだ。

「明日からは、また中枢へ?」
「んー。流石に連日っていうのはな。中枢探索の成果もあったし、休憩の意味合いも込めて鈍らない程度に訓練をしていくつもりだよ。後、工房の手伝いをするのも良いかもね」

 と、アルフレッドに答える。アルフレッド達がかなり張り切っているし、斧の完成もすぐだろう。
 そんなふうに答えると、魔法生物の核が感情を表すようにぼんやりと発光するのであった。
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