挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
625/1061

605裏 技術と覚悟

 何も無かったように見える空間に、シーラの姿が一瞬一瞬、現れては消える。
 シーラの目標はカメレオンだが、敵方もシーラの動きを見て何か思うところがあったのか、カメレオンが真っ向から向かってくる。
 その姿に変化が生じた。体色を変えるというより、身に纏った黒装束ごと向こう側の景色が透けていく。シーラの外套に近い衣服なのか、それともカメレオン自体の持つ能力か、術なのかは判然としない。

 どちらも姿を消したまま、空中で交錯した。
 臭いや音、気配で互いの動きを察知しているのか、真珠剣とカメレオンの逆手に握った刃が金属音と火花を散らす。
 着地した一瞬だけ互いに姿を現し、即座に跳躍。氷の塔が乱立した中を斬撃が激突する音だけが幾つも響き渡り、シーラとカメレオンの姿が瞬くようにあちらこちらで姿を残す。

 何もない空間に現れたカメレオンが懐に両手を突っ込んだかと思うと、指の間に握られたダガーが纏めて放たれた。
 カメレオンの投擲したそれは微弱な闘気が込められており、速度と軌道がそれぞれ異なる。シーラの行く手を遮るように放たれた刃の速度は早く。シーラの今いる位置に目掛けて放たれたものは遅く。しかし最も強力に闘気が込められている。

 シーラは蜘蛛糸を放ってそれに応じた。飛んでくるダガーの雨を網で絡め取ったかと思えば、そのまま蜘蛛糸が闘気を纏う。シーラの手元の動きで網が狭まり、鞭のようにしなり、絡め取ったダガーをカメレオンに叩き付け返していた。

 ぐりぐりと立体的に動いた目が、迫ってくる刃付きの粘着鞭の動きを捉える。身をかわして跳躍したかと思えば、カメレオンは黒装束のマスクに手を掛けた。

「シャアアッ!」

 大きく開かれた口から、シーラ目掛けて長い舌鞭が一直線に放たれていた。凄まじい速度で放たれたそれを、寸前で転身してシーラが避ければ、背後にあった氷の柱の表面を大きく砕く。砕いたと思った瞬間には、舌はもうカメレオンの口の中に戻っている。

「ん。面白い」

 それを見たシーラが小さく呟いた。幻影能力と近接戦闘能力に優れたカメレオンを後衛に向かわせないのはシーラの仕事ではある。しかしそれとは別に、体術にしろ投擲術にしろ、学ぶべきところの多い相手ということのなのだろう。

 シーラ目掛けて迫ってくるその他の敵影――ティアーズ達は2人の戦域に近付くことができない。イルムヒルトの音響弾が、シーラに向かおうとするティアーズ達の空中制動を纏めて乱し、そこに弾幕が雨あられと降り注ぐからだ。

 結果として後方や周囲を気にせずシーラはカメレオンとの戦いに集中ができる。
 姿を一瞬だけ現したシーラと、後方で援護射撃を続けるイルムヒルトの視線が交わり、互いの口元に笑みが浮かんだ。



 後衛――防御陣地周辺は迫ってくるティアーズの群れをひたすら捌き続けている。
 遮蔽物に身を隠して射撃型ティアーズの弾幕から身をかわしつつ、近接型を隘路に呼び込む。

 氷の陰から飛び出したデュラハンが大剣でティアーズの一団を薙ぎ払う。即座に反撃に転じようとするティアーズの動きを、ラヴィーネの放った氷の蔦が絡め取り、思うように連係をさせない。デュラハンは空中を駆けあがって馬ごと転身する。一瞬デュラハンの動きに気取られた所へ――ベリウスが飛び込んでいった。ティアーズを噛み砕き、氷の柱を蹴り砕くような勢いで離脱していく。空中を回転しながらまだ遠くにいる別のティアーズの一団目掛けて火線を放ちながら氷の洞を飛び回る。

 戦闘で破壊された氷の壁と柱は、アシュレイが即座に修復。そして――氷の中ならば音が響く。時折ラヴィーネとベリウスが咆哮を上げて、反響で情報を送ってくる。

「右上に回ったよ!」
「分かりました!」

 砦の中を飛び回るラヴィーネから送られてくる各種の情報。そして反響で敵の位置を探るセラフィナ。2人で敵の動きや大体の位置、規模を把握。ある程度近接型を呼び込んだところで地形を変えることによって、敵の侵入速度やその方向を抑制、掌握していく。

 それはさながら、生ける氷の砦だ。目を閉じて極度の集中をしているアシュレイ自身は無防備ではあるが、その周囲をマルレーンの幻影とソーサー、そしてピエトロの分身達が守っている。
 エクレールからの情報によって本来通れるはずの場所を幻影の氷で塞ぎ、砦の奥にいるアシュレイ達の居場所、姿をも包み隠す。
 ピエトロの分身、そして分身の幻影がティアーズを引き付け、攻撃を更に分散させていく。

 ヘルヴォルテも、その戦術に乗るように動いていた。ティアーズの目につく位置に転移し、攻撃を引き付けたかと思えば、嘲笑うように消える。

 ヘルヴォルテの動きは幻惑的ではあるが、目標は明確だ。ボーントルーパーの優先的な撃破である。
 離れた位置から、文字通り針穴を通すように水晶槍を放てるボーントルーパーは厄介な相手だ。ティアーズへの牽制と陽動を行いながらも、その実はボーントルーパーの動きに集中していた。

 氷の中へと踏み込んだボーントルーパーが――突如広がった闇の空間に飲み込まれた。その正体はマルレーンの使役する闇の精霊、シェイドによるものだ。
 何の攻撃力も持っていない、視界を遮るだけのもの。しかしそれで充分だった。

 闇が通り過ぎたその後には――黒い茨がボーントルーパーの手足に絡みついて動きを封じていた。クラウディアの手にしている杖から放たれたものである。

「――ヘルヴォルテ」
「はい。姫様」

 それを見逃すヘルヴォルテでもない。クラウディアの言葉に応えるように虚空から静かに声が響き、次の瞬間にはボーントルーパーをヴァルキリーの槍が串刺しにしていた。



 星々の輝き――と言えば良いのか。実体を持った球体群がスターソーサラーの身体の周りに浮かび上がる。
 それがスターソーサラーの武器であり、鎧でもあった。弾丸となって接近してくる敵を討ち貫くのが、攻撃用の流星。ぐるぐるとスターソーサラーの身体の周りを旋回しているのが防御用の衛星。

 空中に浮かびながら杖を振るって星々を操る魔術師は、さながら楽団の指揮者といった風情だ。
 立体的且つ多面的、広範囲を同時攻撃できるスターソーサラーもまた、後衛に向かわせてはならない相手である。

 イグニスとローズマリーの2人を同時に相手しながらも、スターソーサラーは一歩も退かない。

 杖の動きに呼応するように、流星が舞う。迫ってきたイグニスがシールドを蹴って真横に飛べば、その背後にあった氷の柱に流星がめり込む。即座に着弾した場所から飛び出した流星が、イグニス目掛けて飛んでいく。
 少し離れた位置から射撃して援護しているローズマリーにもひっきりなしに流星が飛んでくる。それをローズマリーは跳躍して避ける。
 イグニスの支援を行う以上は近接戦闘、空中機動の訓練とて行っている。シールドによる防御、エアブラストによる急加速での回避を交えながらローズマリーとイグニスが飛び回る。

 イグニスを突撃させ、敵弾を引き付けながら応射。目まぐるしく飛び回りながらもローズマリーはスターソーサラーの技の特性を把握していく。

「本体から遠のけば威力が落ちる――。なるほどね」

 逆に言うなら、接敵しなければならないイグニスは最大威力の流星と衛星に身を晒さねばならないということだ。
 今までの感じからすれば、まともに食らってもイグニスの装甲が破壊されるというほどではないが――その動きを止めるぐらいの威力はあるだろう。
 直撃してイグニスが弾き飛ばされたとしたら、追撃として流星の集中砲火を浴びることになる。

 それは流石に危険だ、とローズマリーは見積もっていた。例えば、手足の関節などに影響が出たら、それだけで勝ちの目が遠のくことになる。
 イグニスを操り糸で強化するのも、今の時点では控えるべきだ。正面のイグニスを無視して、側面や背後から攻撃を加えられるのだから、イグニスがローズマリーの盾として用を成さないばかりか、こちらが間合いを詰めた分だけ威力も速度も上がっていく。

 スターソーサラーからローズマリー本人は一定の距離を取って、魔法や爆裂弾、随伴させたマジックスレイブ等でイグニスの援護を行いつつ、スターソーサラーの制御能力、精神力を削っていくような戦い方が理想となる。

 ローズマリーが前に出るとしたら、スターソーサラーの限界を見極めてからか、或いはその制御能力が機能しなくなった時だ。

 イグニスは飛来してきた流星群から身をかわしつつ、その1つを選んで戦鎚を叩き付けた。
 寸分違わず狙った流星を打ち砕くが、それを見て取ったスターソーサラーはフードに覆われた顔の中に腕を突っ込むと、代わりとでもいうように星を取り出してみせた。新しい星が宙に浮かび、イグニスへの攻撃に加わる。
 破壊した星は機能しなくなるが、追加することも可能。それでどの程度消耗するかは分からないが、持久戦にも強そうだとローズマリーは眉根を寄せた。

 魔法による射撃も衛星に阻まれて迎撃される。衛星はスターソーサラーの周囲から離れない。相当な強度を持っていることが予想される。

 このまま――イグニスに相手をさせてスターソーサラーを引き付け続けるのも有効な手ではあるだろう。

「下らない」

 それを――ローズマリーは薄笑みを浮かべて愚策だと切って捨てた。
 スターソーサラーを叩き潰せば、仲間の援護に向かえる。それ以外の道は無いし、それが1対1で戦える状況を作ってくれている仲間への解答でもある。
 では、どう攻略するか――。

 飛来する流星。スターソーサラーが今までに見せなかった動きを見せた。ローズマリーに向けた掌を、強く握る。

 背筋を走る悪寒に従って、ローズマリーは大きく後ろに飛ぶ。ローズマリーに向かってきた流星が発光し、次の瞬間一抱えほどもある火球となっていた。
 焦すような熱波を感じながらも大きなマジックサークルを展開したローズマリーに、スターソーサラーが向き直る。そこに――。

「――行きなさい」

 マジックスレイブから操り糸によって魔力を送り込まれ、出力を増強されたイグニスが、これまで以上の速度で突撃していた。
 衛星と流星が壁を作るようにイグニスの動きを阻む。構わず戦鎚を叩き込み、星々の幾つかを砕くが、突破には至らない。
 壁面と化した星々に阻まれ、イグニスが大きく後ろに弾き飛ばされていた。スターソーサラーは何が飛んできても対処できるようにローズマリーに注視したままだ。

 そこに中衛と後衛が撃ち漏らしたのか、射撃型のティアーズが飛んでくる。スターソーサラーの援護をする、とでもいうようにその隣に控えた。

 その――次の瞬間。ローズマリーが薄く笑った。

「わたくしの仲間が――撃ち漏らしをするとでも?」

 スターソーサラーの近くまで接近したティアーズが、手にした2つのフラスコ同士をぶつけ合った。薬液が混ざり合い、緑色の炎が広がってティアーズと、スターソーサラーが諸共に炎上する。

「コォオォオォオ!」

 奇妙な悲鳴を上げながら全身を炎に包まれたスターソーサラーが身を捩る。
 元々が撃ち落とされて落下していたティアーズだ。背面にローズマリーのマジックスレイブが張り付き、密着状態から操り糸を送ることでローズマリーの支配下に置いていた。イグニスを強引に突撃させたのも、マジックサークルを展開したのも目を逸らさせるために過ぎない。

 ローズマリーの魔法火炎瓶は術式制御にも影響を及ぼす。目に見えて流星、衛星の動きが乱れる。そこに――ローズマリーの術が発動した。

「はあぁあ!」

 気合の声と共に、振り被るように魔法を解き放つ。両腕から無数の魔力糸が伸びる。スターソーサラーにではなく、イグニスに操り糸を接続しているマジックスレイブに向かって。
 ローズマリーからマジックスレイブへ。マジックスレイブからイグニスへ。中継して送られた魔力がイグニスの力を爆発的に高める。シールドを蹴って凄まじい速度で踏み込む。それでも邪魔をしようとした星々を弾き散らして肉薄する。炎上するローブが灰になって散るその中で、星空の中心に心臓のように脈動する赤い星がローズマリーの目に垣間見えた。

「そこッ!」

 ローズマリーの命を受けたイグニスが、鉤爪を突き込む。引っ掛けて抉り出した赤い星を、頭上に掲げ――爆音と共にパイルバンカーが炸裂した。
 赤い星を金属杭が貫けば、スターソーサラーの奇妙な絶叫が小さくなっていく。
 ローブの裏地に広がっていた星空も一点に向かって収束していき、やがて消失する。浮かんでいた流星、衛星も同時に砕け散っていた。後に残ったのは撃ち貫かれた赤い星と、スターソーサラーの持っていた杖だけだ。

「まあまあ、といったところね」

 操り糸の規模を増大して一挙に魔力を放出したからか、立ち眩みに似た感覚に見舞われながらも、ローズマリーは笑うのであった。



「――魔法も、使う」

 カメレオンの手札の多彩さにシーラが僅かに目を見開く。

 カメレオンがマジックサークルを閃かせれば、シーラの周囲に無数の細い火柱が立ち昇る。四方八方から迫ってくる火柱を左右に跳んで散らし、開いた隙間からシーラが飛び出す。そこに繰り出されるカメレオンの舌鞭。身を捩ってギリギリのところで回避しながら雷撃を加えれば、カメレオンが奇声を上げながらマジックサークルを閃かせた。

 後ろから追ってきた火柱同士が激突して爆発するが、その爆発圏内に既にシーラはいない。雷撃を加えて即座に離脱していた。後には周囲の氷が砕かれ、溶かされ、朦々と霧状の水蒸気が立ち昇るばかりだ。

 シーラとカメレオンの戦いは技対技、暗器対暗器、互いの術を見切っての騙し合いのような様相を呈していた。真っ当な剣術の腕前に関して言うなら、五分に近い。
 同等の体術。同等の迷彩能力と隠密能力を有するために決め手が足りない。
 互いにはっきりとまでは姿が見えない故に、必殺の間合いに踏み込めずにいる。

 もし強引に踏み込んでくるのなら、そこに切り札を用意しておく。シーラの場合は――例えば肘や足に仕込んだ、インビジブルリッパーの不可視の刃だ。だが向こうも強引な攻め手に来ないということは、切り札の存在を予期しているということで。恐らくは向こうも同じような切り札を用意しているのだろう。故に、読み合いと騙し合いだ。

 舌鞭も速度は驚異的ではあるが、一度見ている。手札にあると知っていれば備えることも反撃することも、シーラの反射速度ならば不可能なことではない。だが、シーラの動体視力を以ってしても見切れない程の速度で飛んでくる攻撃である。できるだけ使われたくない手札であることも確かだ。だから、こちらもまた舌鞭を抑止するために雷撃という手札を1つ使った。見せてしまった。

 では次の手は? 手札を見せたのはカメレオンも同じだ。
 マジックサークルまでは透明にすることができないらしい。姿を消しても発光していた。
 ならば魔法の行使はその位置をよりはっきりと際立たせるだけ。次に同じように魔法を行使すれば、術の発動より早く反撃に転じることも不可能ではあるまい。

 自分ならばどうする。相手ならば。姿を現し、そして消しながら。風切り音を立てる刃を避け、真珠剣を振るう。氷の柱を蹴って立体的な挙動で切り結び、弾き弾かれながらも、シーラは思考を巡らす。

 カメレオンが身を翻したその瞬間――マジックサークルが閃いたのが見えた。魔法行使。紋様は前と同じ。テオドールに聞いたマジックサークルの偽装方法も考慮に入れつつ、シーラは、姿を消しながら迷うことなく飛んだ。

 最短距離をマジックサークルの輝きに向かってシーラが突っ込む。
 四方八方から火柱が立ち昇るが、既にシーラの姿は術の範囲外に飛び出し、マジックサークル目掛けて肉薄している。真珠剣で、すれ違いざまに斬り抜ける――!

 しかし、そこにカメレオンの姿は無かった。ぼんやりと輝く小さなマジックスレイブが1つあるだけだ。振り抜いたシーラの脇腹を切り裂くように、カメレオンが虚空から姿を現し、斬撃を加えていた。
 にたりと笑うカメレオンの表情。

 だが――その口元が凍り付く。切り裂いたはずの手応えに違和感があったからだ。シーラの身体が形を失い、不定形の水になってカメレオンに浴びせられる。 
 次の瞬間、頭上から降り注いだ雷撃が、水を浴びたカメレオンの身体を捉え、焼いていた。

 そう。一度見せた手札を使うのは悪手だと、シーラは見せたはずだ。
 その上で同じ手札を見せてくるというのなら、それは油断をしているか、或いは誘いに他ならない。自分ならば、一度見せた手札を用いて誘いをかけると、そう判断したからシーラは真っ直ぐは行かなかった。
 クリエイトゴーレムの応用による水人形の分身だ。それが真珠剣の能力を引き出したシーラの新しい武器だ。テオドールのゴーレム製造技術が向上したが故の副産物であるが、真珠剣とも雷撃とも、相性が良い。

 雷撃は筋肉を委縮させ、身動きを奪う。直上からシーラがシールドを蹴って降ってくる。渦を纏った真珠剣をすれ違いざまに浴びせる。

「こっちは本物?」

 首を傾げたシーラが念のためというように、地面に落ちたカメレオンから大きく飛んで距離を置くが――カメレオンは大の字に氷の上に倒れ伏したままで、立ち上がっては来なかった。



 大きな体と馬の半身を持つセントールナイト。だからと言って防御が甘いなどということはない。人型の半身が腰から真後ろまで回転するからだ。
 ゴーレムならではの対応力。後ろに回り込んだグレイスと、疾走しながら斬撃を応酬する。武器を叩きつけ合い、弾かれる反動に任せて間合いが開く。大きな跳躍と共に上半身だけがグレイスの方を見据えたまま、馬の半身がぐるりと反転する。そしてそのまま突撃してきた。

 斬撃と斬撃の交差。幾度かすれ違いざまに切り結び、やがて並走するようにグレイスとセントールナイトが互いの得物を叩き付け合う。
 倍ほどの体格を誇るセントールナイトに対して、如何にも小柄で細身のグレイスではあるが、膂力と瞬発力では全く見劣りしない。
 通路の床、壁、天井を所構わず疾駆しながら斬撃を叩きつけ合う。戦輪杖の一撃を繰り出したかと思えば、跳ね返るように逆端が跳ね上がる。
 グレイスは転身して回避。踏み込みながら回転の勢いに任せて斧を打ち込めば、セントールナイトは杖の柄で斬撃を受け止めていた。

 叩き付けられた斬撃の勢いに逆らわず、横っ飛びにセントールナイトが跳躍する。
 青白く発光する戦輪が、杖の両端から外れてグレイス目掛けて迫る。意思を持つように迫ってくる2つの戦輪を双斧で弾き飛ばす。その時にはセントールナイトは体勢を整え終えていて、金属の重そうな杖を風車のように振り回しながら踏み込んできた。

 大上段から旋回してきた打撃を受け止める。受け止めたグレイスは、そのままの勢いでセントールナイトの下へと滑り込む。巨体で押し潰そうとするようにセントールナイトが膝を折る。
 斧に勢いを乗せて振り回せるだけの空間はない。しかし、打撃なら話は別だ。膨大な闘気を掌底に乗せて、直下から打ち上げるように繰り出す。

 重い打撃音と共にセントールナイトの巨体が打ち上げられた。しかしそれでも堪えた様子もなく、空中で反転する。追撃を防ぐかのように戦輪を操りながら、セントールナイトの額の辺りにマジックサークルが展開する。
 グレイスが身を捩って避けるのと、光の弾丸が放たれるのがほぼ同時。寸前までグレイスのいた場所を白光が貫いていた。

「打撃では装甲を抜けませんか――!」

 直上から突き刺さった光の弾丸を避けながらも即座にグレイスが飛ぶ。セントールナイトも天井を蹴ってそれに応じた。杖の一方に戦輪が装着され、もう1つの戦輪が宙を舞う。

 戦輪が装着された杖はその分だけ間合いが伸び、槍や長刀のように性質が若干の変化をする。間合いが伸びた分を活かして無数の突きを繰り出しながら、もう1つの戦輪を操り、グレイスに横合いからの斬撃を見舞う。双斧で正面と横、それぞれの攻撃に応じる。
 戦輪杖を引き戻す動きに合わせるように、足裏に闘気を集中させたグレイスが爆発的な速度で踏み込む。すれ違いざまに斬撃を見舞っていた。
 一瞬一瞬、要所要所で、グレイスの速度と読みが上回る。その動きは長柄の武器の動きを知り尽くしているが故のものだ。身近でテオドールの動きを見ていればこそ。

 グレイスとセントールナイトが床の上を滑っていき、互いに離れた場所で向かい合う。

 セントールナイトの胸の装甲が――斬撃によって切り裂かれていた。だが、浅い。グレイスは傷付けた装甲部分を見据えたまま、斧を構える。
 寸分違わず同じ場所に打ち込めれば、それで勝敗は決するだろう。そしてそれをグレイスは不可能だとは思わない。しかし――。

 ばぎん、という金属音がして、セントールナイトの身体を覆っていた外部装甲が外れて床に転がっていた。戦輪が杖の両端に装着される。
 床を擦るようにしている馬の前足と、太い後ろ足の真下に――マジックサークルが浮かび、セントールナイトの身体に、青白い魔力のラインが走る。装甲の構造強化に回していた魔力が、余剰のエネルギーとなり、その全身に火花を散らした。

「――勝負を仕掛けてくる、というわけですか」

 攻防1つ1つで上を行かれるのなら。杖術、槍術が通用しないというのならば。小細工を捨てて、持てる最高の技で真っ向勝負を仕掛けるだけだ。
 その気持ちはグレイスとて分かる。自分とてそういう状況に追い込まれればそうするだろう。セントールナイトの自我がどの程度のものかは分からないが、その姿と戦法に、グレイスは共感めいたものを感じた。だから。

 ――受けて、立つ。

 赤く染まった目を見開いたグレイスの全身から、膨大な量の闘気が噴出した。紫電がグレイスの四肢に走る。
 半端な技では凌ぐことも返すこともできまい。こちらも――最高の一撃を以って応じる。

 闘気と魔力を高めながら、向かい合っていたが――その瞬間は来た。示し合わせたように同時に床を蹴る。影さえ留めない速度で踏み込んだ、紫と青の閃光が空中で交差した。
 青白い砲弾のような突撃を繰り出したセントールナイトと、刹那の交差に闘気を放出し、両腕の斧を振り切ったグレイスと。互いに背中合わせに地面に降り立った。

「――ぐ」

 小さく声を漏らしたグレイスの脇腹から血がしぶく。セントールナイトの戦輪の一端が、グレイスの脇腹を切り裂いていったのだ。
 僅かに遅れて、セントールナイトの戦輪杖とその上半身が、諸共に十字に分断されて崩れ落ちていった。

「肉を切らせて骨を、とは言いますが……。ぎりぎりでしたね。見事でした」

 動かなくなったセントールナイトを見やり、グレイスは脇腹を押さえて眉根を寄せる。武器ごと断ち切ったために、深手ではない。程無くして傷口も塞がり、再生もするだろう。

 しかし一撃に闘気を絞り出したために脱力感があった。ティアーズはまだ数が多い。その相手をする前に、ほんの少しだけ休ませてもらうことにしようと、グレイスは小さく息をつくのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ