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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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604 中枢の魔物達

 パラディンは俺を見据えたままで剣を構える。どうやら――俺を最初の獲物と定めたようだ。そう。それでいい。こいつの相手は俺がする。

「さて――」

 ウロボロスを構えながら魔力を練り上げ、間合いを測る。

 通路の向こうから大部屋に控えていた魔物がこちらに向かって突っ込んでくるのが見えた。パラディンの率いるこの区画の魔物達ということになるのだろう。

 ――戦うか、退くか。仮に退くならば転移魔法以外の選択肢はない。

 出口まで一本道ではあるが、途中に警報と転移の罠があるからだ。連中――特にパラディンを振り切れないと敵に罠を起動されてその場で挟撃を受けることになる。パラディンの先程の飛行速度から言うと、振り切れずにそうなる可能性が高い。

 クラウディアの転移魔法は、ラストガーディアンの支配域では負担が大きくなる。できる限り切りたくない選択肢。

「戦いましょう、テオ」
「そうね。ここで退いても、攻略できなければ月齢が変わるまで足止めを食ってしまうわ」
「今なら――敵団が到着するまでに迎え撃つ準備ができます」

 グレイスが言うと、ローズマリーとアシュレイ、そしてマルレーンも頷く。
 ……そうだな。ここで退いてはラストガーディアン打倒など覚束ない。そしてこちらの勝利の目を増やすという話をするのなら、迎撃のための準備を整えられるのもこのタイミングだとも言える。
 シーラ、イルムヒルト、セラフィナ、ピエトロとヘルヴォルテ。皆、表情を見る限り共に戦意は上々といったところだ。クラウディアが俺を見て頷いた。

 そして……俺がパラディンを倒せば、それだけで状況が大きくこちらの有利に傾く。
 目を見開き、パラディンに向かって突っ込めば、奴もまたそれに応じるように地面を蹴って突っ込んできた。

 真正面。ウロボロスとブレードが交差して激突。火花を散らす。そのままパラディンは俺に目掛けて左腕を翳した。右手にブレード。ならば左腕は――?

 予感に従って身を捻る。青白い光弾が俺のいた場所を撃ち抜いていた。

「ソリッドハンマー!」

 身体を捻る動作に合わせてマジックサークルを展開。背中側から叩き付ける様に大岩を振り回せば、パラディンが跳躍しながら身体を縦に回転させる。交差するように通り過ぎた大岩がブレードによって両断されていた。パラディンの足裏や背中にマジックサークルが閃き、魔力光を噴出しながら空中から切り掛かってくる。

 斜めに跳ぶ。シールドを蹴って軌道を変えてブレードを回避。地上戦から空中戦へ。ウロボロスとブレードをすれ違いざまに叩き付ける。
 パラディンは魔力を噴射して加速と姿勢制御している。突撃する時の速度と、それに伴うパワーは凄まじいものがあるが、小回りはこちらの方が上だ。

 細かく左右に跳んでブレードと光弾を回避。死角からウロボロスを叩き込むが、パラディンが加速。猛烈な勢いで離脱していった。
 腰から下が飛行形態に変形していた。凄まじい加速力で魔力光の尾を引きながら大きく弧を描き、左腕から光弾をばら撒きながらこちらに向かって突っ込んでくる。

 弾速の遅い誘導弾――! 
 避けた方向に光弾が軌道を変えるが、それよりも早くパラディンがブレードで斬撃を見舞ってくる。ウロボロスで斜め後方に受け流したところに、遅れて飛んできた誘導弾が群がって来た。最初に放った時にばら撒くように撃ったのはこのため――異なる軌道から俺に誘導弾を浴びせるためだろう。

 複数の光弾が炸裂してその場で爆裂が起こる。俺は――炸裂の寸前に、引き寄せたバロールに乗ってその場から離脱していた。
 四方八方から飛んでくる内の一発を見定め、誘導弾目掛けてウロボロスを叩き付けてシールド展開、正面の爆風を突破。
 背後から迫る誘導弾をぎりぎりまで引き付けてから、バロールに乗って一気に離脱したというわけだ。
 中々誘導弾も厄介だが――何より速い。転移を行って加速していくヘルヴォルテとは単純比較できないが……突発的な加速力に関して言うなら、今まで戦った中でもトップクラスだ。

 バロールに乗っての高速戦闘で対抗するしかない。魔力を練りながらこちらも加速。半飛行形態となったパラディンと馬鹿げた速度ですれ違いざまに切り結んでいく。
 幾度目かの交差の瞬間――変形していたはずの足が蹴りとなって下方から跳ね上がり、顎先を掠めていった。ブレードに集中させておいての蹴りか。

 魔力光噴出のベクトルが変わった。パラディンがあらぬ方向へ回転しながらすっ飛んでいく――と思えば変形を解いて、噴出点を細かく制御して体勢を立て直していた。

 慣性を無視するかのように軌道を無理矢理修正、人型のままブレードを構えてこちらに突っ込んでくる。
 ゴーレムならではの無茶な動きだ。レビテーションを使っているようには見えない。生身の人間があんな機動を行ったらまず意識を失うだろう。だが、上等だ。こいつを叩き潰して、前へ進む――!



「行きます!」

 アシュレイが床面にメイスの先端を突き立てるようにして大きなマジックサークルを展開する。魔道具からディフェンスフィールドが広がり――同時にアシュレイの足元から氷が通路いっぱいに大きく広がっていく。水魔法のブースト。サークレットが煌めきを放てば空間全てを制圧するように天井まで水が覆い、瞬時に凍り付き、無数のツララと柱が突き出て、さながらアシュレイを中心に氷の城が生まれていく。地上部隊も空中部隊も、大軍を持って攻め入るには難しい隘路となった。

 低温が精霊の祝福で守られた者以外の行動力を殺ぐ、攻防一体のアシュレイの領域。そこにマルレーンのソーサーや、ローズマリーのマジックスレイブが浮かぶ。

「では、始めましょうか」
「はい、姫様」

 クラウディアとヘルヴォルテがマジックサークルを展開。ヘルヴォルテが氷の上を槍の石突きで叩けば、転移用の結界が周囲に広がっていく。
 城での模擬戦程の範囲はないが、防御陣地に近寄ってきた者を迎撃するには十分な規模。クラウディアの協力を得れば、ヘルヴォルテは城の外でも局所的な結界を作り出すことができる、ということだろう。

 対する敵団は――まず空中で編隊を成したまま進んで来る無数のティアーズ達。それぞれ装着している武装の違いから完全に役割分担ができているようだ。
 ティアーズで統一された空中部隊に比べ、地上部隊は多彩だ。大型の魔物や中型の魔物が何種類かいる。まず、先程戦ったボーントルーパー。

 それから地上から先陣を切って駆けて来るのは半人半馬―――ケンタウロスを彷彿とさせるフォルムの、白い装甲で身を固めた人馬一体のゴーレムだ。

「セントールナイト。主にパラディンが随伴させている大型ゴーレムよ」

 クラウディアがそれを見て眉根を寄せる。
 高機動で空中を飛び、変形によって遠近両方いけるパラディンと、地上を制圧する目的で随伴されるセントールナイトというわけだ。
 両端に戦輪を付けたような、特殊な形状の長柄武器を手にしている。ガーディアンではないのでパラディンに比べれば戦闘能力は見劣りするそうだが、かなりの大型で、これは防御陣地に踏み込ませるわけにはいかない相手だろう。

 地上すれすれを浮遊して飛んでくるのはローブを纏った魔物だ。錫杖を手にしているその姿はいかにも魔術師タイプといった風情で、フードのその下は――何の冗談か、星空が瞬いていた。スターソーサラーと呼ばれる魔物らしい。

 それに続いて、黒装束に逆手に持ったナイフと、アサシン風の出で立ちの魔物が走ってくる。黒頭巾から僅かに覗く目は――ぎょろりと突き出ており、ぐるぐると忙しなく動いていた。カメレオンの特徴を備えた目だ。

「私は――あの大型の魔物を」
「ではわたくしがあの魔術師を倒すわ」

 グレイスはセントールナイト、ローズマリーとイグニスがスターソーサラーの対処。

「あの目玉の飛び出したトカゲっぽいのは――多分私と相性が良い」

 シーラが言う。残ったボーントルーパーやティアーズの大群は――デュラハン、ヘルヴォルテ、ベリウスは中衛として、前衛が囲まれないように援護に回ったり、敵が後衛に向かうのを阻止。
 ティアーズを最も手っ取り早く沈黙させるには、力技で叩き潰してしまえばいいということになる。数の多さもヘルヴォルテの高速転移なら補える。

 そして後衛は防御陣地から前衛と中衛の援護を行いつつ踏み込んできた相手の迎撃ということになるだろう。

 敵団とパーティーメンバーの戦端は――ベリウスが開いた。敵を引き付けるだけ引き付けて――防御陣地の奥から大きく息を吸い込む。にやりと口の端を歪ませたかと思えば、敵が特に密集している空間目掛けて3条の火線をぶっ放した。
 それぞれが微妙に角度を変えた火線が突き刺さると、巨大な火球がそこに膨れ上がり、次の瞬間爆裂する。
 後続の足並みが崩れてセントールナイト達と分断されたそこに――前衛と中衛組が切り込んでいく。

「そこまでです」

 闘気を漲らせたグレイスが砲弾のような速度で飛び出し、セントールと激突する。巨体による突撃を闘気と膂力で押し止め、そのまま両手の斧でセントールの戦輪杖と斬撃を応酬する。

 そこに後ろから迫ってきたボーントルーパーが槍を構えて狙いを定めるが――射出は叶わなかった。頭上に転移してきたヘルヴォルテに槍で刺し貫かれていたからだ。

「そのまま。眼前の戦いに集中を」
「はいっ!」

 グレイスとヘルヴォルテの視線が一瞬交差する。ヘルヴォルテが仕留めたボーントルーパーを蹴って飛べば、そこにティアーズの近接型が殺到してくる。
 ヘルヴォルテが動きを止めれば四方八方から広がって切り掛かる。しかしティアーズが切り込んだ時にはそこにヘルヴォルテはもういない。転移魔法で別の場所に現れ――代わりにそこに防御陣地からの弾幕の雨が降り注いでティアーズの一団を呑み込んでいた。

 良い連係だ。互いの動きを一度は見ているから合わせられる。さて。各々、戦闘開始といったところか。
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