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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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603 聖堂の騎士

「――駄目ね。私とヘルヴォルテで、区画を制圧して支配域を奪って行ったこともあるのだけれど……」

 クラウディアは目を閉じて何かを探知しようとしていたようだが、やがて顔を上げてそう言った。

「ラストガーディアンがいるせいで、時間経過で中枢部からクラウディアの支配域が奪われてしまうっていう話だったね」
「そうね。ラストガーディアンの打倒を暫く諦めていたから、中枢部の支配域は全てあちら側に移っているわ」

 迷宮中枢部はラストガーディアンの支配域だ。よって迷宮内でありながらクラウディアの力が及ばない部分がある。
 だから、まずはクラウディアの居城と中枢部を繋ぐ入口を中心に探索範囲を広げていくという形を取る。

 その中でラストガーディアンの支配域をクラウディアの手に奪い返していけば……探索範囲をより安全に広げていける、というわけだ。
 通路などの構造は通常の迷宮と同様、月齢で変化するが……船内にいくつかある重要設備そのものは変化しないとのことだ。戦利品の転送も、クラウディアが一々転送円を描く必要があるが、問題無くできる。

「中枢部のガーディアンも、やはりヘルヴォルテ様のように特別なのですか?」
「ラストガーディアン直下のガーディアン達は……どうかしらね。ティアーズのように、戦うことしか知らないというのは確実にいるし、意思疎通が可能でもラストガーディアンが起動している以上は、あれの指揮にのみ従うというのもいるわ。そのために高い判断能力を有している、ということね」
「1つ言えるのは――区画を守っているガーディアンを撃破するか、船内にいくつかある重要設備に辿り着き、クラウディア様が術を用いることで、その区画の支配権が返ってくるということです」

 グレイスの質問に、クラウディアとヘルヴォルテが答える。
 区画は月齢で入れ替わってしまうので、どこにどのガーディアンがいるとも言えないらしい。
 マッピングしても月齢の経過で無駄になってしまうというのは上の迷宮と一緒。しかし探索のための安全な中継地点の確保であるとか、転移のためのポイントを残すことは可能……というわけだ。

 ともあれ、中枢のガーディアンを見つけたら積極的に撃破する価値がある、ということになる。ベリウスやヘルヴォルテのようにこちら側に引き込めなくとも、ガーディアン再生までの期間は区画をクラウディアの支配域に置くことが可能になるわけだから。

 まあ、状況把握や成すべきことは分かった。このまま、隊列を組んで進んでいくとしよう。
 広場から続く通路は――広々としているが遮蔽物がない。
 天井もそこそこ高く、立体的な戦闘を行うのは簡単だが……逆に言うと戦闘を避けるのも難しい、という状況だろうか。

 先頭は探知能力が必要となるので俺、シーラ、イルムヒルトとセラフィナだ。グレイスがその先頭集団に続き、ピエトロがその後ろにつく。ピエトロはいざとなれば分身で後衛に向かおうとする敵を陽動する作戦が取れる。

 アシュレイ、マルレーン、ローズマリーとクラウディアが隊列の中心に位置。ラヴィーネとエクレールもそれぞれ主人の近くに待機。イグニスとデュラハンは後衛メンバーを両翼から護衛。

 殿はヘルヴォルテとベリウスの迷宮出身組だ。ベリウスが最後尾なのは、探知能力の高さと射程の長さを活かして、背後から攻撃を受けることを避けるためというところである。
 頭上からの強襲があった場合には隊列中央の頭上を移動しているバロールが対応。カドケウスは同様に隊列中央の足元を守る、といった具合だ。全体の動きも……これで把握可能である。

「それじゃ、進んでいこうか」
「分かりました」

 各々頷き、隊列を組んで通路を進んでいく。
 音、温度、魔力反応に共に変化無し。広々とした通路だが、全く音が響かない。足場となっている魔力床の性質のせいだろう。かなり強い衝撃を与えないと音が聞こえない。

「こんな静かな場所、初めて。敵が近付いてきても、足音が聞こえないかも」

 シーラが言う。そうだな。では――。

「――起きろ」

 クリエイトゴーレムでアクアゴーレムを作り出し、俺達斥候組より少しだけ先行させる。
 これで曲がり角などでの出会い頭の不意打ちなどは潰せるだろうか。床や壁面の罠を見落とした場合の保険にもなる。
 マルレーンがランタンを用いてゴーレムに幻影を被せ、騎士風の姿に仕立て上げた。ふむ。これなら囮としての効果も上がるかな。

 殿は――ベリウスの首の内、2つが振り返って確認しながら前に進んでいる。流石地獄の番犬といったところだ。便利だな。

「――待った」

 そうして進んでいたが、ゴーレムの動きを止めつつ腕を横に伸ばして、隊列の動きを止める。

「何か見つけたのかしら?」

 ローズマリーが尋ねてくる。

「うん。床の魔力反応に、他の場所と違うところがある」

 ある場所を境に、通路全体に跨る形でおかしな魔力反応を示している範囲がある。

「……普通に進んだら絶対に踏む、ぐらいの幅があるな。魔法の罠の類だと思うけど……」
「少し見せてもらえるかしら?」

 クラウディアが前に出てきて通路の紋様を細かく見ていく。

「これだわ」

 その内に、クラウディアが紋様の一角を指差す。
 青白い光を放つ床の紋様の中に――特徴的な三角形の魔法陣があった。

「何の罠?」
「警報ね。罠が仕掛けられている場所を踏むと、船内の警備兵――魔物が通路前後に転移して駆けつけてくるわ」
「いきなり挟撃を受けてしまうわけですか。厄介ですね」

 クラウディアの言葉にアシュレイが目を丸くする。……入ってすぐの長い一本道にこういう罠を仕掛ける、か。

 ……侵入者を内部に踏み込ませずに、きっちりと迎撃するならあちこちに行かれる前に出鼻のところで挫くように戦力を集中させる、か?
 月の船の防衛プログラムなのか、それともラストガーディアンが意図してやっているのかは分からないが……中々厄介だ。

 月の船内部の魔物の強さを見るつもりで来たのだが、最初の戦闘が大規模な物になる可能性がある。小規模な敵団を見つけて一度戦闘しておきたいところではあるのだが。
 まあ、ここまで一本道であった以上はこの罠床も越えて進んでいかなければならないが……。

「こういうのを踏まないように――常時飛んでいくのが良いのかも知れない」
「そうねえ。私達ならそのまま進めるものね」

 イルムヒルトがにっこりと笑う。そうだな。それなら罠床の感知範囲などお構いなしに進めるし。
 そうと決まれば話は早い。みんなで上を移動して罠を飛び越え、そのまま空中を進む。

 そうして――そこから少し空を飛んで進んでいると通路の壁に、床や柱と同じような青白い紋様で描かれた、四角い枠が見えた。

「横道です」

 ヘルヴォルテが言う。通路を進んできて、初めての分かれ道だな。

「魔力反応に異常なし」
「ん。音も臭いもしない」
「同じく、温度も感じないわ」

 さて――。だが何も感じないから何もいないとは限らない。鎧兵のような類の魔物はじっとしている限り感知が困難だからだ。
 従って、曲がり角で敵兵が待っている可能性を考慮し、先制攻撃を避けるために本隊は立ち止まり、ゴーレムを先行させた。
 そして横道の部屋に2体のゴーレムが踏み込んだ瞬間――。

 通路の奥から飛来した水晶の槍のような物に一体が胴を貫かれ、もう一体が閃光によって頭上から薙ぎ払われた。横に続く扉部分の上に待機していた奴がいるらしい。

「そこそこ大きめ――! 他にも何かがこっちに接近中!」

 シーラが身構える。
 最初に飛び出してきたのは――人の頭ほどの大きさの、流線型の物体だった。通路の頭上部分に隠れていた奴だろう。大型ではない。通路の奥から飛んできた槍とは別口の敵だ。

 浮遊する金属質の身体。涙滴型の胴体を持ち、胴体と同じぐらいの大きな手を両脇に備えている。その手を横に広げると、指先に相当する部分から青白い魔力の刃が展開した。翼のように展開してそのまま先頭にいた俺に切り掛かってくる。
 ウロボロスで魔力刃を受け止めれば、周囲に火花が散った。そいつは後部にマジックサークルを展開すると、魔力を噴出させて――小さい身体とは不釣り合いな力で押し込もうとして来る。こちらもシールドで身体を支え、その場で双剣と切り結ぶ。

「ティアーズよ! 気を付けて!」

 クラウディアの注意の声が響く。
 ティアーズ、ね。クラウディアから既にレクチャーは受けている。
 見た目は特殊だが――言うなれば、臭いも音も温度も無い浮遊ゴーレムだ。
 装備品もそれぞれ異なるそうだが――こいつは近接戦闘用の刃を装備したタイプなのだろう。ティアーズは俺が相手をしているのも含めて2体。こちらは両腕に飛び道具を装備したタイプらしく、シーラが既に相手をするために動いている。

 そしてやや遅れて、シーラが大型と形容した魔物も姿を現した。
 全身が骨のような細いパーツで構成された魔物だ。全体的なフォルムはアルケニーに近い。多脚を備えた胴体の上に、人型の上半身が乗っかっている、という感じだ。
 片腕に盾。もう片腕に水晶のような槍を装備している。ボーントルーパー、というらしい。頭部も骸骨を模したものであるが――表面に魔力のラインが走っているところを見るに、骨は見た目だけの話だろう。

 ボーントルーパーは入口から飛び出すと、通路の天井に、多脚の足で逆さに張り付いた。

「――強さを計らせてもらうわ」

 言葉と共に飛び出したのは――イグニスだった。ローズマリーの作り出したマジックスレイブを随伴させているが、ローズマリー本人は前に出ていない。
 ボーントルーパーが右手に持った水晶槍をイグニスに向かって繰り出す。間合いの遥か外と思われたそれは――猛烈な勢いで伸長するとイグニス目掛けて迫る。
 それをイグニスは左手に備えた手甲を用いて大きく逸らしていた。止まらず、突っ込む。一瞬にしてボーントルーパーの手元に水晶槍が縮み、剣のサイズになった。
 大上段。鎚の一撃をボーントルーパーが受け止める。
 威力偵察を行うならイグニスは持ってこいというわけだ。前回グレイスが近接戦闘で深層の魔物を打ち破ったから、次はイグニス単体で中枢の魔物の力を計ろうというわけである。

「では、私は後衛の守りに付きます」

 心得ている、というようにグレイスが後ろに飛ぶ。敵は小規模。防御陣地まで構築する必要がなく、1対1で彼我の戦力差を観察できると。
 エンデウィルズの戦いの際に大規模戦闘になってしまったからどうなるものかと思っていたが――不意打ちを仕掛けるための小規模部隊だ。戦力を計るための緒戦の相手としては上々だろう。

 至近でウロボロスを振り回し、ティアーズの斬撃を打ち払う。ティアーズは飛び回りながら両手の魔力剣を縦横に振るう。
 中々の手応えだ。近接戦闘も結構こなせるらしい。だが――。

「遅い――!」

 ウロボロスに魔力を込めて打ち払う。両手の武器が弾かれてガードが空いたところに掌底を叩き込み、衝撃波を内部へ打ち込む。一瞬動きが止まったそこに――魔力を込められたウロボロスが独りでに大きく弧を描いて飛んできて、大上段から打擲を叩き込んだ。下から掌底。上からウロボロスの打撃を食らう形だ。
 ウロボロスを掴んでそのまま巻き上げ、ティアーズを天井へと吹き飛ばすと天井に一度激突して通路に転がった。浮かび上がっては来ない。

 装甲はそこそこ。内部に衝撃を通されると案外脆いな。だが、ティアーズの真価はリトルソルジャーと同じく、集団戦や不意打ちで発揮されるものだろう。単体ではそこまででもない、といっても侮れない。

 シーラのほうに目をやれば――青白い光弾の弾幕の中に身を晒していた。
 現れては消え、消えては現れるシーラの動きをティアーズは追い切れていない。

「まだ――テオドールの訓練の方が厳しい」

 シーラはばら撒かれる光弾をすり抜けて、ティアーズに肉薄する。装甲と腕の接合部に水の刃を叩き込む。真珠剣の切っ先が接合部に激突、刀身の纏った水がティアーズの装甲内部を浸透していく。シーラがティアーズを蹴りつけて大きく後ろに飛びながら雷撃を放てば――こちらも地面に転がって動かなくなった。
 浸水させて通電、か。装甲を持っている相手には有効な手だ。雷撃が内部の制御機構にダメージを与えたのだろう。

 やはり――単体であれば個々の戦闘力に問題はない。
 後はボーントルーパーか。壁や天井を足場にして立ち回る骨騎兵に、イグニスは真正面から打ち掛かっていく。
 膂力はローズマリーの強化無しで五分、といったところだ。猛烈な勢いで天地を入れ替えながら、互いの武器を交錯させる。金属音が迷宮中枢に響き渡る。

 一瞬。ボーントルーパーの技が冴えた。袈裟懸けに撃ち込まれた大鎚の一撃を踏み込みながら盾で逸らし、大きく後ろに引いていた槍が、そのまま猛烈な勢いでイグニスの喉元に撃ち込まれていた。

 普通ならそれで終わり。しかし、イグニスは生身の人間ではない。お構いなしにイグニスも踏み込む。逸らされたはずの鎚が大きく上半身ごと回転して、前以上の速度を持ってボーントルーパーの肩口に叩き込まれていた。

「――残念」

 嘲るようなローズマリーの声。打撃と同時に随伴していたマジックスレイブから操り糸がボーントルーパーの腕や後ろ足に絡みつく。打撃の衝撃に乗じて、ローズマリーの操り糸がボーントルーパーの四肢を掌握した。
 ガードが開いたそこに――胸骨の部分に鉤爪が引っ掛けられた。次の瞬間、爆発音が響く。手甲から飛び出したパイルバンカーが胸骨をぶち破り、頭蓋を内側から脳天目掛けて粉砕する。

 パイルバンカーが引き抜かれたそこに、大上段から戦鎚が振り下ろされた。それでボーントルーパーも沈黙する。
 いずれも無機質な連中なので分かりにくいが……魔力反応を見る限り活動停止をしたふり、というわけではなさそうだ。
 ボーントルーパーも胸骨内部か頭蓋内部に、制御のために必要な機構があったのだろう。それを粉砕されたのかも知れない。

「充分に通用するわ。斥候部隊程度の規模なら問題はなさそうね」

 ローズマリーが動かなくなったボーントルーパーに一瞥を送り、そんな感想を漏らした。

「同感だ。でも、あの伸縮する槍もそうだけど、ティアーズも小さいから不意打ちには注意しないといけないかな」

 そう言うとマルレーンが神妙な面持ちで頷いた。
 横道の部屋の内部を探る。光魔法で鏡面を作って、立ち入らずに内部を調査するが――ふむ。どうやら不意打ちするためだけに用意された小部屋のようだ。もう何もない。
 だが……ゴーレムを先行させる手は通用するな。相手が動いてからなら、シーラもその音などから気配を察知できるようだし。

 よし。一先ずは――不意打ちを避けつつ進んでいくことにしよう。

「シーラは? 怪我してない?」
「ん。大丈夫」
「イグニスも、問題無いわ。装甲の厚いところをわざと狙わせたわけだしね」

 ダメージらしいダメージが無いことを確認したら次は剥ぎ取りだ。ボーントルーパーの槍とティアーズ1体を外へと転送し、残りは魔石を抽出する。

 それから隊列を組み直して更に奥へと進んでいく。
 そうして通路を進んでいると――遠くに大きな門が見えた。青白い四角い枠が通路の奥に立ち塞がっている。クラウディアが足を止める。

「あの扉の向こう……いるわ。ガーディアンよ」
「一本道の最後に大部屋を用意して迂回路を作らない、か。やっぱり、確実に迎撃するためだな」

 侵入者は策ではなく、力でねじ伏せるという方針か。もしかすると、この区画を預かるガーディアンの性質を反映しているのかも知れない。

「……向こうも気付いた――! 来るわ!」

 クラウディアの言葉と共に、通路の奥で何かが煌めく。
 通路の遥か向こうから――こちらに向かって飛来する何かがあった。白を基調とした飛行物体。
 鋭角的なフォルムを持ったそれが、魔力光を後方に向かって噴出しながら猛烈な勢いでこちらに迫ってくる。そしてはっきりと視認できる距離まで来たところで、それが変形した。その瞬間――余剰魔力が波となって、びりびりと頬にひりつくような感覚を伝えてくる。

 ティアーズを大型にして飾り付けたような姿をしていたのが、人型の――白い騎士にも似た鎧姿へと展開していた。これは……可変型ゴーレムとでも言えば良いのか。

「パラディン……!」

 クラウディアが言った。中枢のガーディアン……パラディンか。
 ウロボロスを構えて魔力を集中させると、奴は俺を見据えたまま右腕に装着したブレードを、さながら騎士がそうするように胸の前で構えて見せた。
+注意+
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