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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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602 迷宮の中枢へ

「上から来た分は任せた!」
「うんっ!」

 シオンが言うなり手にした武器を振るえば青白い斬撃の軌跡がその場に残される。滞空させておいてシオンの任意のタイミングで飛ばしたり、後で自らの剣に結集させることで強烈な斬撃を繰り出せるという、シオンの得意としている技だ。

 クラウディアの居城――練兵場の広場にはコルリスやステファニア姫が作り出した結晶や岩の柱が地面から無数に飛び出し、障害物を形成しているのだが――その柱の間を埋めるように滞空させておけば、即席で障害物をさらに増やすことができるようになるというわけだ。

 シオンはそのまま、正面から突っ込んできたビーストナイトを迎え撃つ。互いに訓練用の武器を叩きつけ合い、鍔迫り合いをしたのも一瞬のこと。闘気を漲らせた獅子のビーストナイトが押し込むような動きを見せるが、それには逆らわずに力を受け流して地面すれすれを横に飛ぶ。

 シオンがコルリスの作り出した結晶の柱を足場に跳ね返ればビーストナイトもまたシオンとの空中戦についてきた。一旦横に飛び、柱を足場にシオンとすれ違いざまに斬撃を応酬する。
 ビーストナイトにシールドの魔道具は無いが、空中で軌道を変えるシオンには闘気の弾丸をばら撒くことで空中戦での形勢が不利にならないように上手く持って行っている。

 一方――空中ではマルセスカがリトルソルジャーの一団と交戦していた。
 スピードを活かして跳び回り、包囲されないように立ち回るマルセスカ。リトルソルジャーはマルセスカの動きについていけないと見るや否や、空中で立体的な槍衾を作り、さながら1つの生物のように動く。四方八方に槍を突き出して回転しながらマルセスカに対応するその姿は――鋼でできたウニのようとでも形容すればいいのか。
 スピードで後背を突かれて各個撃破されてしまうのを防ぐための防御隊列といったところか。マルセスカがいくら速くても、自分の担当する空間のみに集中していればそうそう破れないといったところだ。

「数には数で対抗するのが基本……」

 シグリッタのインクの獣の群れがリトルソルジャーの一団に迫っていく。それに合わせてマルセスカは更に加速し、複雑な軌道を描いて飛び回った。シグリッタの援護で崩れたところを攻めようという腹なのだろう。

 基本的には城の魔物達がオフェンス。ステファニア姫達がディフェンスだ。ステファニア姫達のところまでビーストナイト達に接近されたら負け、という感じではあるが――本陣の周囲は結晶で防御されており、地上をコルリス、空中をリンドブルムが守っていて、中々城の魔物達も攻めあぐねているという状況である。

 地上から来る黒豹のビーストナイトをコルリスが迎え撃つ。結晶の鎧を展開して猛烈な勢いで双剣と爪とで切り結んでいた。
 そこに――赤い光芒が走る。ステファニア姫とアドリアーナ姫の援護射撃だ。殺傷能力のない、見かけだけの訓練用の光魔法といったところである。
 一応ランクの高い魔法で援護射撃をしているという想定で、直撃すれば戦闘不能扱いだ。その代わり何秒に1回とか、全部で使えるのは何回まで、という縛りを入れてあったりする。

 狙い澄ました一撃だけあり、黒豹の鼻先を光が掠めていくが――ギリギリで避けられていた。しかし体勢を崩したところにコルリスが容赦なく切り込んでいく。そこに割って入ったのが狼のビーストナイトだ。コルリスの攻撃が命中する寸前で割って入り、今度は入れ替わり立ち代わりにコルリスに斬り込んでいく。

 しかし2対1ではなく、2対2だ。風景に同化したフラミアが、炎の幻影でコルリスの腕を一瞬一瞬増やしたり、結晶の鎧から飛び出す槍を見せたりして、コルリスに対して容易に攻撃を仕掛けられなくしていく。

 フラミアの位置は五感に優れるビーストナイト達も掴んではいるようではあるのだが、そこはそれ。巨体のコルリスが後ろに行かせない。無理に突っ込もうとすれば、結晶の鎧から実体が飛び出して横合いから攻撃されてしまうだろう。

 リンドブルムは――鷹のビーストナイトと空中で切り結んでいた。離れては訓練用の魔道具から水の弾丸をばら撒き、近寄られては闘気とシールド、爪と牙、尾で応戦といった具合だ。
 小回りが利くのはビーストナイトの方だが、リンドブルムは突撃用シールドなどを上手く展開して、槍を手にしているビーストナイトと互角に渡り合っている。
 リンドブルムは――何やら思う存分空中戦ができるのが楽しそうにも見えた。何度かすれ違いざまに鷹と切り結ぶと、口の端を歪ませ牙を見せて笑った。

 ――と言った調子で、集団戦の訓練は中々に白熱したものになっていた。
 見ている限りビーストナイト達は身体能力や五感、武術に特化しているという印象だ。それぞれの動物の種類によって能力にも違いがあるようで。総じて言うなら白兵戦の訓練の相手としては、これ以上ないといった具合である。

「こちらとしても学ぶべきところが多いですね。新しい戦闘隊形や戦法を開発できそうです」

 少し離れた城の高所から、俺達と共に集団戦の全体を見ているヘルヴォルテは、うんうんと頷いている。
 感心しているような仕草ではあるが、表情は何時も通りといった感じではある。それを見たクラウディアが、柔らかく笑みを浮かべた。

 集団戦をしばらく続けたら、休憩を挟んで1対1で個々人の近接戦闘を鍛えるだとか、リトルソルジャーから射撃してもらって、それを回避する訓練だとかも予定しているが……うん。中々濃い訓練になりそうだな。



「――やっぱり、近接戦闘は厳しいわね」
「ビーストナイトを地上で対応する、というのはね」
「今回は――稽古を付けてもらったという感じかしら」

 そうして訓練を終えて、休憩の時間となった。
 ステファニア姫達も近接戦闘の訓練をしたわけだが……まあ、地上に留まって真っ向からビーストナイトの攻め手を魔法で凌ぐという内容だったので割と骨が折れたようだ。

「でも、内容的には良い物でしたよ。もう少し続けてビーストナイトの動きや手の内が分かってくるようになれば、迎撃のために用意する魔法も効率的になって来て、訓練の内容も充実していくのではないかと」
「んー……。そうね。手の内が分かって来ればまた違ってくるのかしら。攻め手と受け手、後は保険で、もう一種類ぐらいの魔法を用意できるようになれば楽になるのだけれど……」

 と、ステファニア姫は俺の言葉に真剣な表情で思案している。

「そのあたり、魔道具が補助してくれる空中戦なら、地上より有利になるかも知れませんね」

 ステファニア姫達も空中戦の訓練を積んできているからな。色々空中のほうが回避手段も豊富というところはあるかも知れない。

「次は空中戦での近接戦闘訓練もしてみますか」
「そうね。接敵された場合の対処は大事だし」

 と、アドリアーナ姫は笑みを浮かべるのであった。

「僕達も、色々勉強になります」
「速く動いても関係のない陣形とかされちゃったもんね」
「でも……結構楽しい……わ」

 シオン達にもいい刺激になっているようだ。城の魔物達は単純な身体能力だけでは圧倒できない連係をしてくるからな。次に訓練する時はああするこうすると、色々話し合っている。戦闘での試行錯誤というのは良い物だ。シオン達にとっても有意義なものになりそうである。

 コルリスとフラミア、リンドブルムは集団戦では中々良い動きだったな。視線が合うとどこで覚えたのか、コルリスが親指を立てて応じてきた。
 ……うむ。まあ、こちらもサムズアップで返しておくとしよう。



 訓練内容は中々充実したもので……ステファニア姫達とシオン達に関しては、これからクラウディアの居城で訓練を続けていけば、実りの多いものになるだろう。
 そして……俺達に関しても予定通りだ。パーティーメンバーと共に、迷宮中枢部の様子見といったところである。
 中枢には降りない面々も一緒にやって来て見送りに来てくれた。

「それでは、行ってきます」
「ええ。気をつけてね」

 と、ステファニア姫達と言葉を交わす。

「こっちから帰れるわ」

 クラウディアがマジックサークルを展開し、中枢に向かうための虹色のゲートから少し離れたところに地上に脱出するための簡易ゲートを開く。
 赤転界石を使った時のようなゲートではあるが、クラウディアは脱出用ゲートも転界石無しで作り出せるらしい。

「では、私達は一足先に地上へ戻っております。御武運を」
「ええ」

 アドリアーナ姫の言葉にクラウディアが笑みを浮かべて応じる。

「準備は良いかな?」
「はい。準備できています」
「同じく」

 パーティーメンバーが各々頷く。

「よし。行こう――」

 そうして俺達は虹色のゲートに。ステファニア姫達は脱出用のゲートに、それぞれ飛び込んだ。
 光に包まれ――そしてそれが収まると、妙に明るい、開けた場所に俺達はいた。
 俺達のすぐ近くに光の柱があった。これは中枢部から外に出るためのゲートだろう。広場の中央付近に俺達は立っているというわけだ。
 何というか……月の船の内部に当たるとは聞いていたが。

「すごく静か。臭いもしない」
「温度もそうね。生き物の気配は感じないわ」

 シーラとイルムヒルトが周囲の状況を報告してくれた。確かに静かだ。俺達の出す音以外は、静寂に包まれている。

「どうやら敵影は無いようですね」

 と、ヘルヴォルテ。
 となれば、周囲を観察する余裕ぐらいはあるかな。

「ここが迷宮の中枢、ですか」
「不思議な場所……ですね」

 グレイスとアシュレイが足元を見ながら言う。マルレーンも目を瞬かせて周囲を見回していた。
 マジックサークルにも似た、青白く発光する複雑な図形や紋様が、真っ暗な何もない空間に浮かび上がっていて……その魔法陣にも似たものが床や柱を構成している、という具合だ。
 壁や天井は、無い。真っ暗な空間が広がっているばかりだ。

「マジックシールドにも似ているように見えるわね」

 ローズマリーが床を見ながら言う。
 軽く柱を拳で叩いて、魔力の反射から様子を見てみる。相当な強度を持っているようだが……反応が返ってこないな。

「そうね。魔力で構成されているし、魔法陣以外の部分も何もないように見えるけれど、周囲の構造は見通せないようにできているの。部屋と通路以外を移動するのは難しいわ」
「壁抜きや床抜きは諦めて、地道に下に降りるしかないってことかな? 外側はどうかな?」

 魔法陣の端――黒い空間に向かって土魔法で小石を飛ばしてやると、小石が端に差し掛かった瞬間、光る壁に弾かれるようにして床に転がった。
 見掛け上は壁など何もなく、黒い空間が広がっているだけに見えるが……術式で空間を遮断された部屋になっている、という理解で良いらしい。見通せないというか、光を吸収してしまうのだろう。恐らく天井も同じようになっているものと予想される。

 さて……。では慎重に探索を進めていくとしよう。
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