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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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601 魔法生物完成に向けて

 イメージトレーニングの要領で、斧を使っての技、攻防における駆け引きであるとかを色々と教えていく。
 剣に槍、弓やその他の武器の利点、欠点。その対処法、注意しなければならない魔法。今まで出会った魔物への対処法。どうやって動けば相手の攻撃を防御や回避ができるか。仲間との連係方法等々、諸々戦いのことを教えていく。

 その内に結界内部で斧のイメージを向こうも持ち出してくるようになり、イメージの空間でシミュレーションするように戦闘訓練を行えるようになり、中々に密度の濃い時間を過ごすことができた。

 そうして暫くの間対話していたが魔法陣を維持するにも、対話を維持するにも魔力を使う。
 ローズマリーとフォルセト、ベアトリス側の負担も考えて、そろそろ切り上げてはどうかと切り出すと、魔法生物は静かに頷いた。

(うむ。我も今日学んだことを振り返り、考えたいことが多い。名残は惜しいが仲間に無理をさせるわけにもいかぬ。一旦切り上げるということも必要であろう)

 と、静かに答えてくる。残念そうではあるが、同時に満足しているという感情も伝わってきた。

「そうだな。色々教えたから」

 こちらも小さく笑って答える。

(ではな、主殿。我の身体が完成し、主殿達と共に肩を並べられる時を楽しみにしている)
「そうか。それじゃあ、その時にまた会おう。名前も……その時にで良いんだな?」
(うむ。まだ我は何者でもない。斧としての形を得て、その務めを全うできるようになった時に名を頂戴しよう)
「分かった」

 そうして一時の別れの挨拶してから再会を約束して術式を終了させると、魔法生物の意識が遠ざかっていくのが分かった。
 ゆっくりと目を開く。外はすっかり真っ暗になって、何やら料理の良い匂いが漂ってきていた。しばらく身動きをしなかったので、立ち上がって軽く伸びをし、キマイラコートを羽織る。

「おかえりなさい。対話が結構長くなっていたわね」
「ただいま。中々内容が濃くなってさ」

 ローズマリーが尋ねてきたので笑って答える。

「手こずったわけじゃなく、随分と対話が捗ったから、という感じねぇ」
「良い傾向ですね。安心しました」

 と、ベアトリスとフォルセトが笑みを浮かべた。

「色々と話をしてきました。技術面で必要なことも大体伝えたので、後は術式を書き上げて、斧を組み上げるだけなのかなと」
「それは良いですね。セラフィナさんの魔力資質を移した魔石なら準備ができているそうです」
「アルフレッドが準備を進めているけれど……回路を先に組めば会話だけならすぐにできるようになるのではないかしらね」

 ああ。それは良い。なら、俺も早めに必要な術式を全て準備してしまうとしよう。

「それと今、セシリア達も工房に来て夕食の準備を進めているわ」
「ああ。そうなのか。工房で食べることになったのは、対話を長く維持し過ぎたからかな?」
「上手くいっていたのなら良いことでしょう。マルレーンは寧ろ、工房で夕食をとるのが嬉しそうだったけれど」

 ローズマリーは羽扇で口元を隠しながら言った。ふむ。まあ確かに、外で夕食というのも普段と雰囲気が違って中々楽しいものだからな。

「さて。それでは、この子も移動させてあげましょうか」

 フォルセトが布を敷き詰めた箱に魔法生物の核を収容する。

「そうですね。賑やかなところのほうが喜ぶかも知れません」

 そう言うと、魔法生物の核が礼を言うようにゆっくりと発光したのであった。



 夕食にはキノコと恐竜肉の入ったスープ、蒸し魚にサラダなどが用意されていた。工房の中庭にみんなで椅子と机を並べて、中々賑やかな夕食の時間となった。
 量が多いということもあり、早速恐竜肉を料理に使ったようだ。

「美味」

 と、シーラは中々恐竜肉が気に入っているようだ。イルムヒルトがそんなシーラの様子にくすくすと笑う。
 俺が対話をしている間に工房にやって来たのか、リンドブルムとアルファも姿を見せていて、動物達にも恐竜の骨付き肉が振る舞われている。食いつきが良いので、どうやら動物達にも恐竜肉は好評のようであるが。
 話題は自然と魔法生物の核との対話の内容の話になった。

「というわけで……色々必要な情報は伝えたし、斧のほうもみんなと話ができるようになるのが楽しみだってさ」
「そうなのか。育成がそれだけ順調なら、僕も早めに会話ができるようにしておくよ。そうだなぁ。明日テオ君達が迷宮探索から戻ってくる頃までには」

 と、アルフレッドがコルリスに鉱石を食べさせながら言った。

「それは助かるけれど、無理して身体を壊さないようにね」
「うん。まあ、体調管理はしてるから」

 ふむ。まあ何というか、アルフレッドの場合良い仕事をするために睡眠をとる、という感じがしないでもないが……。
 魔法生物の核がその言葉を受けて礼を言うように発光し、アルフレッドが笑みを浮かべる。

「私達も頑張らないといけませんね」
「そうですねぇ。本人も楽しみにしてるようですし」

 と、エルハーム姫とビオラが頷き合い、どこをどう加工するか、その担当などを話し合っている。
 完成予想図は土魔法で模型を作ってあるので、出来上がりまで要する時間も然程かからないだろう。 
 あのT‐レックスの水晶も……ヴァレンティナによれば最初から魔石に近い性質を備えているそうで。かなりの量の魔力を溜め込んでおく他、雷魔法関係の魔法などなら結構な容量で術式を刻むことができるらしい。
 雷の術式についてもいくつか用途があるので、そちらも術式を作っておかなければなるまい。

「セラフィナって言うの。よろしくね!」
「私はイルムヒルトよ」

 と、セラフィナとイルムヒルトが魔法生物の核に挨拶をすると、核が明滅して応じる。
 それを見て、みんなも自己紹介をしていた。

「お話ができるようになるのが楽しみですね」
「名前はもう決まっているのですか?」

 アシュレイが目を細め、グレイスが俺に尋ねてきた。

「いや。本人が斧として完成してから名前を付けて欲しいってさ」

 魔法生物の面々はその気持ちが解るということなのか、何となく頷いたり小さく声を上げたりと反応を示していた。マルレーンもエクレールが首を縦に動かしている姿ににこにことしている。

「彼らにとっては良い環境なのかしらね」

 クラウディアがそんな魔法生物達の様子に、小さく笑って目を閉じた。

「錬金術師としても、色々向上心を刺激されて良い環境ねぇ、ここは。これからも時々お邪魔させてもらってもいいかしら?」

 ベアトリスはのんびりと夕食を楽しんでいるという雰囲気だったが、アルフレッドにそう尋ねる。

「勿論です。これからも力を貸していただけると助かります」
「魔人絡みで、今王城の魔術師達も大変みたいだものねぇ。私もタームウィルズでずっと仕事を続けたいし、できることは手伝うわ」

 ふむ。ベアトリスに今後も協力してもらえるなら心強いな。
 何にせよ、今日は少し夜更かしして魔法生物絡みの術式を諸々完成させておくとしよう。



 そして明けて一日――。
 まずは工房に向かい、出来上がった斧絡みの術式を書き付けた紙を届けてから迷宮入口の広場へと向かった。昨日に引き続き、シオン達とヘルヴォルテも一緒だ。
 王城からステファニア姫とアドリアーナ姫を乗せたコルリス、それからリンドブルムも同行してきて広場に降り立った。

「おはようございます」
「ええ、おはよう。今日は気合を入れていかないとね」

 そういって笑うステファニア姫達はビオラ達の作った鎧を装備してきている。訓練ということで、しっかりとした装備で臨むことでより実戦に近くする、という意図があるようだ。そんなステファニア姫達と朝の挨拶をして、迷宮入口へと向かう。

 さてさて。今日の予定としては、まずクラウディアの居城で、城の魔物達との訓練を行い、その後で中枢部に降りてみる、というものだ。今日は直接クラウディアの居城に飛ぶので、昨日のように予定外の大規模戦闘などは無いだろう。
 ステファニア姫達は流石に中枢までは連れていくわけにもいかないので、城での訓練まで、という事になっている。
 いずれにせよ中枢部に降りるということで、俺も気合を入れていかねばなるまい。
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