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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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599 魔斧と錬金術

 というわけで、早速工房で実験に移ることにした。斧の魔法生物作成にあたっては色々あるが……まず浮遊して斬撃を繰り出す、という仕組みをどうするか、といったところから術式を調整しなければいけない。そこが上手くいかないと机上の空論なので。

「それが実験用の斧?」
「うん。まあ形を似せただけのナマクラだけどね。重心と形が参考にできればいいだけだし」

 シーラの質問に頷いて答える。
 金属塊をクリエイトゴーレムの応用で斧の完成予想図と同じ形にし、それを飛ばして実験することでデータを取っていこうというわけだ。

「それじゃ、始めるかな。危険はないようにするけど、こっちには来ないようにね」

 振り返ってそう言うと、視線の合ったラスノーテは神妙な面持ちでこくんと頷く。うむ。
 マジックサークルを幾つか展開し、その術で戦斧を空中に浮かせる。

「ああ――。あの術ね」

 と、言ったのはローズマリーだ。
 土魔法第6階級――マグネティックウェイブ。ローズマリーが呼び出した竜牙兵と戦った時に使ったのだったか。
 早速磁界と磁力線を操って、斧の向きを制御したまま飛ばしたり回転させたりと、動きを操ってみる。
 柄の――持ち手に相当するあたりを中心に、さながら斬撃を繰り出すような動きをさせたり、石突きを中心に大きく回転させたり。はたまた刃の部分を中心に、柄で薙ぎ払うような打撃を見舞ったり。はたまた、石突きで空中にステップを刻んで踊るような動きをさせたりと色々な動きをさせて、マグネティックウェイブの制御法を調べていく。

 クレイゴーレムを作り出し、その強度を上げてやることで斬撃の威力がどの程度のものになるのかも調べていく。
 反発する力と引き寄せる力を細かく制御し、より細かな制動と更なる斬撃の加速を狙う。
 補助の役割も担う予定なので、仲間の少し後方に位置した場合の立ち回りを想定した挙動も考えていく。
 んー。そうだな……。連係するなら声によるコミュニケーションも必要、か? セラフィナの属性を持たせた魔石を組み込めば、発声も可能になるだろうが……。

 色々考えながら暫く磁力を制御して術式をこねくり回していると、鋭い弧を描いた斧が唸りを上げてクレイゴーレムの身体を袈裟懸けに断ち割るまでになった。
 ふむ。切り口を見る限りでは結構な鋭さで斬撃を繰り出せるようになってきたようだ。これなら実用に耐えるだろう。クレイゴーレムを再生させて更に実験を続けていく。

「どんどん斬撃が鋭くなっているわね」
「さながら、誰かが斧を持って振るっているような印象を受けます」

 クラウディアが言うと、ヘルヴォルテが斧の動きを見て静かに答える。
 まあ……長柄の武器だからな。俺としても理想的な動きをイメージするのは割と簡単というか。もう少し柄の短い斧ならグレイスの斬撃を参考にしてしまうところなのだが。

「あれは……テオが長柄の武器を持った時の動きに近いのではないでしょうか」

 と、グレイスがにっこりと笑う。うむ……。若干の気恥ずかしさがあるが。

「なるほど……。磁力の魔法で飛ばして、斬撃を繰り出してるわけじゃな」

 工房の中庭に出て来たジークムント老も、それを見て面白がっている様子だ。

「そうです。マグネティックウェイブで斬撃の種類を幾つか作っておいて、それを魔法生物自身に選択させて使わせるつもりでいます。実際は飛翔しながら様々な角度や位置から相手に技を繰り出すので、教えた種類以上に動きが豊富に見えるかなと。人間が持っていたらできないような軌道での斬撃等も教えられるでしょうし」
「魔法生物自身の判断で相手の動きを読んだり、避けにくい攻撃ができるようにする、と。面白いのう」
「他にも、もう一点。実際に武器として握っても、繰り出そうとしている斬撃の種類を読み取ってそれを補強したりもできるように、と考えています。こちらは上手く扱うには慣れが必要かも知れませんね」
「ふうむ。装備者の動きを補強する、か。魔剣ならぬ魔斧といったところかの」

 それに戦う相手としても、持つ者がいない武器と切り結ぶというのは色々勝手が違って戸惑うところがあるだろう。


「やあ、ただいま、テオくん」
「ん、お帰り」

 工房の入口に馬車が到着し、アルフレッドとカドケウスが降りてきた。

「興味深いことをしているわねぇ……」

 と、もう1人。一緒に女性が現れる。
 気怠げな様子の――三角帽子がいかにも魔女といった風体の人物だ。外行きの格好をしているようだが、眠そうというか怠そうなのは相変わらずである。

「こんにちは、ベアトリスさん。お久しぶりです」
「ええ。元気そうで何よりだわぁ」

 錬金術師ベアトリス。カドケウスを製作してもらう時やローズマリーの作った薬を調べてもらう時に協力してもらった人物だ。
 王城では魔人対策の一環として、タームウィルズ在住の有能な魔術師や錬金術師にも声をかけ、魔術師隊と連係したり協力してもらえないかという流れになっているそうなのだ。協力というか、しっかり給料の出る依頼に近い形だが。

 まあ、その流れの中で、アルフレッドから工房に協力者がいないかと話をされたのでベアトリスのことを紹介したのだ。
 俺が工房で実験をしているということで、アルフレッドはベアトリスの協力の了解を取り付けに、早速出かけて行った。まあ、俺の紹介ということでカドケウスを一緒に同行させたが……その日の内に足を運んでくるとは。

「カドケウスの主が、高度な自我を持った魔法生物を作ると聞いたものだから、面白そうだから来てみたのよねぇ……」

 とのことである。なるほどな……。まあベアトリスが協力してくれるならより完成度も高まるかな。
 魔法生物の自我や性格、基礎的な知識を形成するには、魔法生物の核――今回はドラゴニアンの魔石になる予定だが――に、色々なことを学習をさせてやる必要があるのだ。
 その点カドケウスは最初から使い魔であり、影水銀が元々欲求の薄い生物であるので……五感リンクから学習していけば充分ではあったのだが。
 逆に言うと使い魔ではない魔法生物で、更に高度な自我を持つとなると、それなりの準備が必要だ。アルファやベリウス等は最初から魔石に魂が宿っていたが……今度は白紙から作るということになる。

「では、早速ですが――」
「そうね。色々と話を聞かせてもらいたいわ」

 と、魔法生物絡みということでフォルセトとローズマリーが、ベアトリスと何やら魔法生物や、それに関係する術式絡みの話を始める。
 3人で偽装していないマジックサークルを展開したりと、色々話をしていたようだが……やがて3人が握手をした。フォルセトは納得顔で頷き、ベアトリスもにやりとしている。ローズマリーは何やら羽扇で隠してはいるものの、こちらの角度からは羽扇の下がしっかりと見える。何やら楽しそうというか悪そうというか……そんな笑みを浮かべているな。

「やはり高い水準の術者が集まると、頼もしいですね」

 と、アシュレイがそれを見て感心したように言う。マルレーンもそれを見て楽しそうににこにことしているが……。
 んー、まあ、意気投合というか、互いのレベルの高さを認め合ったという点では間違いないのだろう。魔法生物作りもその分、気合の入ったものになるのだろうが……。

「それじゃあ、わたくし達は最初の段階だけやっておくわ」
「基礎的な部分――言語などは分かるようにしておきます」
「まあ、作る物が空飛ぶ斧ではねぇ。私達には教えられないこともあるから、性格形成とか知識はあなたが引き継いでくれるかしら……?」

 と、3人は俺を見て言う。

「了解です。僕は実験を続けていますので、準備が出来たら教えて下さい」

 そう答えると、3人は工房の中に入っていった。部屋の一室を借りて魔法陣を作り、魔石を魔法生物の核とするための術式を施しにいくのだろう。

「協力を求めておいてなんだけど、結構すごいことになりそうだねえ」

 と、アルフレッドが笑った。
 まあ……3人ともこういう仕事だと妥協しなさそうだしな。俺は俺で、マグネティックウェイブの制御術式を魔道具化するために紙に書き付けておくとしよう。
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