挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
614/1147

594 エンデウィルズの戦い

 エンデウィルズに響き渡るかのようなT-レックスの咆哮で、周囲の空気が変わった。
 ざわついているというか……。他の魔物達もこちらの位置を察したらしく、続いて大通りにもう1匹――大きめの魔物が現れた。

 ――ドラゴニアン。竜人族などとも言われる亜人種だ。近縁と言われるリザードマンもそうなのだが、魔物との線引きは割と曖昧だったりする。
 鱗一枚一枚が大きくて刺々しいフォルム。初めて見るタイプのドラゴニアンだな。

 似たような生き物では……アルマジロトカゲというのがいたっけな。それが二足歩行になって鎧を纏い、2メートル超ほどの大きさになった、という感じだ。鎧を纏い――長柄の巨大なバトルアクスを肩に担いでいた。

 そして、他の小型の魔物達も姿を見せる。
 咆哮で魔物が呼び寄せられたらしく、多数の敵影が家々の陰から空中に浮かび上がっている。こちらは……何やら風船のような丸い体格の魔物である。
 単眼で枝のような腕を備えていて空中を浮遊している。
 あー……。空飛ぶ巨大ミジンコ……と言えば良いのだろうか? 身体は硝子質で全体的に白っぽい。内側から発光しているので妙に綺麗だが……。

「空を飛んでいるのは、プリズムフリーとエンデウィルズの住民に名付けられた魔物です」

 と、ヘルヴォルテ。なるほど……。
 見た目はともかく魔力の量は結構なものを持っているようだ。他にも歩兵に相当する地上部隊までいるようだが――。家々の陰、あちらこちらから顔を覗かせる。あちこちどころではないな。数が多い。相当なものだ。

 その地上部隊は――知っている魔物だった。青い体表の巨大蟻だ。カイザーアントの――ソルジャー級と呼ばれる巨大蟻の兵士。いつぞやシルン男爵領に向かう時に戦った蟻とは、比較にならない程の戦闘能力を持っている。指先が発達していて幾つかの腕には剣やら盾を装備していたりと……まあ、野生種であるなら知性も高いと思われる。

「街については気にしなくて良いわ。住民もいなければ家財道具もない。壊れても修復されるから」

 と、クラウディアが言ってくれる。

「気兼ねなく戦えると」
「そうね。思う存分」
「皆さんこちらへ!」

 アシュレイがそう言って、ステファニア姫と同時にディフェンスフィールドを展開して強固な防御陣地を作り出す。更にあちらこちらにコルリスが結晶の柱を生やして障害物を作り上げた。
 陣地の前にデュラハンとイグニス、ベリウスが並び、ピエトロが分身を増やして防御陣地をより鉄壁なものにしていく。

「あちらのトカゲの騎士に関しては私が相手を。斧同士ですし、恐らく噛み合うでしょう」
「分かった。最初に出てきた奴は俺が」

 グレイスがドラゴニアン。俺はT-レックスだ。あの巨体を活かして突撃されると防御陣地の意味がないからT-レックスは放置しておけない。仲間の援護射撃も受けられるし問題はあるまい。

「空中のは私達が相手をする」

 と、シーラとシオン達が一歩前に出た。

「皆様は敵の強さを計るおつもりのようですが……不要な頭数を減らすならば私もお手伝いしましょう」

 ヘルヴォルテが槍を構えて言う。

「クラウディア様の守りは任せましたよ」

 それから、そんなふうにベリウスに言った。ベリウスはにやりと口元に笑みを浮かべてヘルヴォルテに応える。

「空中から飛んできているあれは、見た目はともかく魔力が大きいみたいだ。飛び道具を使いそうだから注意。自爆みたいな特殊な攻撃手段もね」
「ん。分かった」

 さて……。では戦闘開始といこう。

「では――行きます」

 各々の敵を見据えたまま、地面を蹴ってグレイス達と共に飛び出して行く。
 T-レックスはすぐに俺に気付いたようで、向こうからも突っ込んできた。
 闘気を後ろ足に集中させたのか、石畳を蹴り砕いて巨体とは思えない速度で真っ向から飛び込んでくる。馬鹿げた相対速度で迫る巨大な顎。並ぶ杭のような牙。
 カペラの蹴りで真横に飛べば、顎が閉じられて、身体のすぐ横でがつんという重そうな音が響き渡った。
 間合いは離していない。T-レックスの顔の真横――その位置からウロボロスの先端に巨大な魔力塊を展開して叩き付ける。

 期待していたような衝撃は無かった。T-レックスが顔の横にマジックシールドを展開させていたのだ。額から突き出ている水晶が紫電を纏い――次の瞬間、首を大きく振るようにして放射状に電撃を放ってくる。

 こちらも雷魔法を用いてT-レックスの雷撃を曲げる。地面に幾条もの雷撃が突き刺さったかと思えば、下から闘気を纏ったT-レックスの尾が跳ね上がった。
 地面を蹴り砕いて空中に飛びあがり、回転をしながらの尾撃を見舞ってきたのだ。
 ――が、その一撃も横に転身して避けている。豪風を纏った巨木のような尾が通り過ぎた瞬間に胴体目掛けて突っ込む。

 こちらの動きに合わせてマジックシールドが展開された。
 小回りの利かない巨体であるが故に攻防が間に合わないならシールドで補うと言うわけだ。だが、防御手段がそれだけでは足りない。
 シールド越しに魔力衝撃波を叩き込んでやる。まだだ。一瞬遅れた後足の爪による反撃は許さず、衝撃波を打ち込むのに使った魔力を術式に転換してやれば、一点に収束された暴風の弾丸となって空中からT-レックスを地面目掛けて吹き飛ばしていた。巨体がエンデウィルズの民家に突っ込んで派手な音を立てながら瓦礫の中に埋もれる。

「受けられるか?」

 ソリッドハンマーを3つ4つと作り出して、瓦礫の中に叩き付けてやる。
 T-レックスは――即座に動いた。瓦礫の中から顔を上げたかと思えば、闘気を纏った頭突きでソリッドハンマーを真っ向から迎え撃つ。血走った目で右に左に頭を振り回せば、重い音が響いて巨石が砕ける。
 堪えてないな。タフネスも相当なもののようだ。それとも、闘気による防御だろうか。

 ……巨体でありながら空中までついてくる程の軽快な動き、闘気に魔法、雷撃と、随分と多彩な技を見せてくれるものだ。深層に出現する大型の魔物だけあって、相当高いポテンシャルではあるようだな。

 俺も……色々と試したいことがあるんだ。技術的に高いレベルを持っているというのなら、こいつに付き合ってもらうとしよう。地面に降り立ち、T-レックスを真っ向から見据えて、ウロボロスを構え、魔力循環で力を高めていく。

「さて」

 そうしてマジックサークルを展開すれば――周囲から環境魔力が集まってくる。俺の身体の周囲を光の粒が舞った。



「――来る」

 シーラとシオン達は真っ直ぐにプリズムフリーの集団に突っ込んでいく。シーラの声が響いたその一瞬後に――プリズムフリーの単眼から一斉に照射された熱線が薙ぎ払った。
 かなりの熱量を持っているようで、石畳に当たればその部分が赤熱するほどの威力がある。が、当たらない。不規則な軌道を描き、姿を瞬かせるように飛ぶシーラと、鋭角な軌道でシールドからシールドを蹴って反射を繰り返して進んで来るシオン達の動きをプリズムフリーは一瞬見失った。

 シーラ達が真っ向からプリズムフリーの集団に向かって突っ込んでいったのは、空中から他の面々の戦いに援護攻撃や連係をさせないためだ。プリズムフリー達を引き付け、分断し、そして空中戦を制する。

 一気に間合いを詰めるが、シーラはそのまま素直には攻撃を仕掛けなかった。横っ飛びに離脱していく。シーラが切り込むはずだったタイミングで横合いから飛来した熱線がその空間を薙いでいく。プリズムフリー達も相互に連係を図っているのだ。

 だが、それもシーラには見切られていた。そこに――イルムヒルトの矢が飛来する。
 一本はマジックシールドで弾かれたが、もう一本はシーラの動きに気を取られていたプリズムフリーに直撃した。
 胴体部分に突き刺さって身体が揺らぐが、まだ撃墜はされない。遠くに位置するイルムヒルトに向き直るが――そこを真下から突っ込んできたマルセスカに、すれ違いざまに断ち切られていた。斬撃を顧みずに高速でマルセスカは上空へ離脱していく。

「爆発とかは、しない?」
「みたいだね。シグリッタ!」
「……ん。的を増やして、動きを乱して押しきる……わ」

 プリズムフリーの特性を見て取ると、空中にシグリッタの本が浮かんで忙しなく頁が捲れていく。インクの動物の群れがプリズムフリーの一団目掛けててんでばらばらの方向から殺到した。合わせるようにシーラ達が飛ぶ。

「マジックシールドを持ってるし、飛ぶ速度も結構早い。まともに切り込むと、多分防がれる。連係も案外上手いから、後ろにも注意」
「分かりました!」

 深層の魔物は当たり前のようにマジックシールドを活用してくるが――シーラの指示に従うならこちらも連係して死角から切り込めば良い、ということになる。
 だが敵が得意とする連係攻撃もまた、彼女達の得意とする土俵なのだ。ゴーレム達との訓練もそうだが、誰かが引き付け、誰かが切り込む役となる。注意を散漫にし、連係を乱すためのインクの動物達もいる。そうして――忙しなく放たれる熱線の雨の中に、シーラ達は斬り込んでいくのであった。




「なるほど……今のヴェルドガル王国は実力者揃いというわけですか」

 そんなシーラ達の様子を見たヘルヴォルテが静かに頷く。そして正面に向き直った。

「――来なさい」

 殺到して来る蟻兵士を、ヘルヴォルテは地上で迎え撃つ。一閃。青い閃光が横一文字に虚空に刻まれると、先頭の蟻兵士の首が宙を舞った。
 間合いに一歩踏み込んだ蟻の身体を、ヘルヴォルテの槍の切っ先が薙いだのだ。突き刺すだけでなく、穂先で斬撃を繰り出すことも可能な形状の槍だ。

 足を止めたそこに――防御陣地からの射撃が雨あられと降り注いだ。密集隊形を取っていた先頭集団は避けることもできない。闘気を盾に集めて耐えようとしたが――ベリウスが三つ首から容赦も呵責もない火線をぶっ放せば、密集していた蟻兵士達が吹き飛ばされていた。

 後続の蟻兵士達はそれを見るや否や、被害を減らしながら戦うのは難しいと、手にした盾に闘気を集中させると陣形を大通りいっぱい横に広がるように動いた。一糸乱れぬ動きで横列を組み、そして進軍してくる。
 知性が高い故に被害を減らそうとは動くが、それが無理と分かれば数の力で圧倒、か。恐れを知らない、昆虫らしい合理的な動きだ。だが――。

 どん、と音を立てて、地面から水晶の柱が次々飛び出して蟻の隊列を乱す。コルリスだ。振動と魔力の臭いで位置を察知。地下から姿を見せずに蟻兵士達の隊列を乱していく。地下を泳ぐように進むコルリスの通った軌道上に、次々と水晶柱が飛び出していく。

 単なる攻撃では無い。障害物を大通りに残し、進軍を乱すための隘路を作り出していく。
しかし蟻達とて地底の住人。すぐさまマジックサークルを閃かせると石畳を掘削して地下から攻撃してくるコルリスに対抗しようとする。

 だがもうすでに、コルリスは障害物をばら撒いて広がっての行軍をしにくくするという、その役割を終えているのだ。地面をぶち破って姿を現し、爪で蟻を下方から吹き飛ばすと高空へと離脱していく。蟻兵士達はそれを――どことなく呆然としたように見送った。

「こうなると下方――地面からの攻撃にも備えなければいけませんね」

 アシュレイの足元から、石畳が凍り付いて、その領域を急速に広げていく。水魔法で凍らせて、土魔法による掘削が通用しないようにするというわけだ。

「……聞こえた。地上の蟻は、音で連係してるみたい」

 セラフィナが言う。超音波により一糸乱れぬ連係。しかしセラフィナにその種が割れてしまえば――。
 悪戯っぽく笑ったセラフィナが、音を奪い、かき乱す。蟻の兵士達は混乱したように周囲を見渡す。隘路を進軍していく者、右往左往する者。強引に前に出ていくものは飛び道具で各個撃破されていく。フラミアの炎による幻影が切り込んでいき、進軍を思うようにさせない。

 しかしそれでもまだ諦めない。やはり蟻達は地下からも進軍していたらしい。凍り付いて進めなくなったのか、途中で地上に姿を現して防御陣地に向かっていくが――穴から姿を現した蟻をデュラハンがすれ違いざまに一閃し、イグニスが力技で叩き潰していく。
 陣地近くを飛び回るコルリスが、空中から巨大な結晶の槍を作り出して石畳に打ち込んでいく。地下のトンネルをぶち破り、後続の蟻を断ち切っていった。

 後衛の防御陣地。そして制空権、都市部地下からの攻撃は、どうやら問題無さそうだ。グレイスの戦闘も拮抗しているようではある。では――俺も目の前の戦いに集中させてもらうとしよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ