挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

609/1267

589 流星舞踏

「同意していただけるなら場所を変えたいのですが」
「それは構いませんよ」

 実戦なら場所を選べない、などと言うつもりもないし。クラウディアの自宅で暴れるつもりもないというか。

「ここに来るまでに、訓練場を見ていますか?」
「リトルソルジャー達が訓練をしていた広場ですか?」
「はい。そこでお待ちしています。準備ができたらお出で下さい」
「分かりました」

 頷くとヘルヴォルテは立ち上がり、一礼して部屋を出て行った。
 話が早いというか何というか。恐らく、ヘルヴォルテとしても興味のある部分だったのだろう。
 ヘルヴォルテに納得してもらうには……この場合は言葉ではなく、実力を示すことだろうと思うのだ。その上で協力してもらえるなら心強い。
 クラウディアにも一応意図を説明しておいたほうが良いかも知れない。
 そう思ってクラウディアを見やれば、穏やかに笑みを浮かべていた。

「ヘルヴォルテのこと、気を遣ってくれるのね」
「そういう意図での話ではあるけどね。感情が分からないって言ってたけど、分かりにくいだけでちゃんとあるんじゃないかって思ったからさ」

 そう言うとクラウディアは目を閉じた。

「そうね。人との関わり方に不器用だしあまり感情を出さないけれど。考えているのは私の安全だけではなくて、他の人の気持ちも見ようとしてくれている。村の住人達も迷宮では抑制されてしまうから、感情を学べる機会が少ないのだけれど」

 そうだな。だからまあ、認めてもらって積極的に関わっていく、というのが良いだろうと思うのだ。そういう性格だからクラウディアも心配しているようだし、それなら俺もクラウディアの力になれるように動くだけだし。

「感情の動きが小さいということは……自分が傷付くことにも無頓着なのかしらね。騎士が傷付いて心を痛める主君もいるでしょうに」
「それは……あるかも知れないわ。そういう点、少しだけテオドールに似ている、かしらね」

 ローズマリーの言葉にクラウディアが答えると、その場にいたみんなが同意するように頷く。

「あー……。まあ、反省はしてるんだけどね」

 んん……。高位魔人と戦った時など、色々みんなに心配をかけているからな。
 俺も人のことはとやかく言えないのかも知れないが、それならそれで協力してラストガーディアン討伐を考えた方が互いの怪我も少なくできる可能性が高まる。うん。まあ、そういうことだ。
 ともかく、ラストガーディアンのことを抜きにしても、認めてもらって俺達の話も聞いてもらえる状態を作る、ということで。



 みんなと共に練兵場の見える回廊へ向かう。そこに、ヘルヴォルテはいた。
 練兵場で訓練していたビーストナイトやリトルソルジャー達も、隊列を組んでヘルヴォルテと共にクラウディアに対して一糸乱れぬ動きで一礼する。
 動きが騎士団のそれだな。ヘルヴォルテの城の魔物への統率能力は大した物のようだが。

「こうやって統率ができるのなら、模擬戦が終わった後に城の魔物と訓練するというのもいいかも知れませんね」

 ビーストナイトは体術や武術の面でかなりの実力がありそうだし、リトルソルジャーは立体的な動きで連携していく上で、良い訓練相手になるだろうという気はする。
 そう言うと、ヘルヴォルテは静かに頷いた。

「可能です。お望みならばいくらでも。私も貴方以外の皆さんの実力が見れますし、それは本来の迷宮の果たす役割でもあるはず」

 迷宮本来の役割、か。

「テオドール」

 ヘルヴォルテのほうへ出て行こうとしたタイミングで、クラウディアに声を掛けられる。

「ん?」
「私はあの子の手の内を知っているけれど、何も言わないわ。今回の戦いは、ただ見ていることにする」
「うん。それでいいと思う」

 みんなのところから一歩前に出て、広い空間を挟んでヘルヴォルテと向かい合う。

「模擬戦というのは初めてなのですが、闘気や魔力を上手く扱えば当たっても死にはしないでしょう」

 大きな槍を構えるヘルヴォルテの全身から、闘気が立ち昇っていく。

「余程気を抜かなければ、ですね。治癒魔法や薬の備えもありますのでご心配なく」

 ヘルヴォルテの言葉に答える。
 闘気の扱いに習熟していれば槍が直撃しても貫かないように手加減はできるが、当たり所が悪ければ死ぬこともある。そうならないように気を抜くな、というわけだ。
 俺の答えにヘルヴォルテは頷いた。

「そうですか。私もそれ以外の点では――城を預かるガーディアンとしての能力を遠慮なく発揮させてもらうつもりでいます」

 そうだな。そう来なくては。

「分かりました。では、始めましょうか」

 こちらもウロボロスを構え、魔力を高めていく。余剰魔力の青い火花が辺りに飛び散る。
 向こうも、こちらに応じるように力を高めているのが解る。チリチリと頬の辺りに走る感覚。
 動いたのは――ヘルヴォルテからだった。
 閉じていた目を見開き、槍の石突きを広場の足場に叩き付ければ。そこからマジックサークルが広がって魔力が辺りを覆っていく。

 ――結界術の類。攻撃用の術ではない。

 マジックサークルの正体は不明。しかし系統、種類だけは読み取れた。では一体何を目的とした術か。その答えを得るより早く、互いに相手を目掛けて突っ込んでいた。

 闘気を纏った槍の穂先が彗星のように尾を引いて、こちらに向かって繰り出される。すれ違いざまの攻防。猛烈な勢いで頬の横を掠める槍を見送り、通り過ぎる勢いで踏み込みながらウロボロスによる横薙ぎの打撃を見舞う。正面から踏み込んでの翼目掛けて背後を叩くような一撃。
 しかし、当たらない。こちらに回避されたと見るや、ほぼ直角に近い角度でヘルヴォルテは上昇して行ったのだ。それをネメアとカペラの膂力を用いて、追う。

 ヘルヴォルテは翼をはためかせて振り返り、その場に留まるとこちらを迎え撃つ。槍の穂先とウロボロスの先端が絡み合うようにぶつかり、火花を散らす。
 互いに長柄の武器。手元の動きで武器の先端の動きを増幅して、相手の武器を巻き込んで弾き飛ばすような使い方が可能だ。

 互いの手の内を読み合うように刺突を繰り返しながら、一瞬一瞬の交差で武器を絡め合う。その中に、踏み込んで回避しながらの一撃を織り交ぜていく。闘気と魔力が干渉してぶつかるたびに火花が散った。
 こちらの踏み込んでの一撃を、ヘルヴォルテは左手に展開したマジックシールドで逸らす。闘気を纏った槍による薙ぎ払い。側転するように空中を蹴って飛び込めば、間合いを堅持して穂先の間合いで迎え撃つ。
 お手本のような綺麗な槍術。いや、武術の腕や癖を理解し、先読みするための様子見といったところか。冷静にこちらの動きを観察している様は、彼女らしいと言えばそうだ。

 では――こういうのはどうか。
 敢えて大きく動く。ヘルヴォルテの反応は早い。俺の身体の動きを先読みして槍で巻き込もうとしたが、その瞬間杖の先端で魔力が炸裂していた。巻き込もうとした槍の動きが逆に乱される。
 その瞬間を見逃さず、傾斜を付けたマジックシールドを展開しながら槍の穂先を逸らして突っ込む。向こうもウロボロスに対してはマジックシールドでの防御が間に合う。しかし――!

 魔力衝撃波。ガード越しに予期しない衝撃を受けたヘルヴォルテは、それでも僅かも表情を変えず、躊躇せずに動いた。

「下がりなさい」

 声と共に、全身から闘気の衝撃が放たれていた。膨れ上がるような全方位攻撃。
 闘気の集中を察知して咄嗟にシールドを張って受けたが、重い衝撃に大きく後ろに弾き飛ばされていた。一気にヘルヴォルテの身体から闘気が噴出する。
 突き込むような体勢。しかし、槍のリーチが届かない間合い。飛び込まず、その場から槍を繰り出せば、巨大な闘気の砲弾がこちらに向かって飛んでくる。

「ソリッドハンマー!」

 真正面から大岩を飛ばしながら、ミラージュボディを発動。崩された体勢はそのままで、ネメアとカペラの力で上へ飛ぶ。
 足元で岩が粉砕される音が響いた。ヘルヴォルテは――俺本体を正確に追ってきた。というよりも、あの目で見られた途端にミラージュボディの分身が散らされたのだ。魔眼、というよりは浄眼の類。幻術の類を無効化するというわけだ。
 先程話をした時に鼓動の動きとか言っていたので、風魔法で音も偽装していたのだが。それも通用しないらしい。

 加速。猛烈な勢いで突っ込んできたヘルヴォルテの姿が一瞬で掻き消える。
 速度や動きを、目で追えなかったわけではない。本当にその場から消えたのだ。
 背筋を走る予感と共に、シールドを展開しながら身体を捻る。寸前まで俺のいた空間を、横合いから突っ込んできたヘルヴォルテの身体ごとの突撃が薙ぎ払っていった。

「今のを躱すとは――」

 僅かに驚いたような声が遠ざかり、そしてまた掻き消えていた。次の瞬間には真上からヘルヴォルテが突っ込んでくる。魔力を大きく展開して壁を作って一撃を逸らす。

 あらぬ方向からの出現と突撃。前触れの無い消失と、加速に継ぐ加速。あらゆる角度からヘルヴォルテが現れては消えて、その速度を次第に上げていく。
 全身に纏った闘気。恐らく攻防一体の技だろう。突撃そのものを狙っても生半可な攻撃は弾き散らされ、貫かれる。恐らくまともに捉えられなければ止めることはできまい。
 一撃食らえばそれで戦いは終わりだ。模擬戦で無ければ、何度も跳ね飛ばされて反撃の手も無く沈むだろうから。

 短距離転移魔法。しかし寸前まで発動の兆候が無い。代わりに、先程ヘルヴォルテが展開した結界が魔力反応を示している。
 つまりは、これが先程の結界の正体。特別な場所を防衛するガーディアンとしての能力であり、事前に作り出した結界の中でなら無制限に、高速での転移を可能とする術。
 この城内限定なのか、それとも他の場所でも使えるのかは分からないが……。

 だが――面白くなってきた。口元に笑みが浮かぶ。

「バロール!」

 凝縮させた魔力で足場を作り、バロールを推進力にして飛ぶ。バロールを直接制御し、先を読ませないように不規則な軌道を描く。それを――先読みで追うように転移と突撃、そして闘気による巨大な薙ぎ払いや刺突を繰り出してくるヘルヴォルテ。
 死角から飛んできたかと思えば真正面から突っ込んでくる時もある。こちらが方向転換して正面に捉えて杖と槍の応酬をする瞬間も。
 目まぐるしく流れる景色の中を、ヘルヴォルテと共に舞う。刹那の交差。槍とウロボロスが激突して火花を散らしていく。

 加速加速。まだ。まだだ。まだまだ速度が追い付いていない。循環循環。魔力を練り上げ、研ぎ澄ませろ――!
 直線移動からの転移を繰り返すヘルヴォルテとは違う。避けながらも並走できるまでに速度を加速させていかなければ、その動きを捉えることができない。

 無茶な軌道で生じる負荷はレビテーションの細かな制御で補い、シールドで支える。更に魔力を集中させてバロールの出力を高めていく。馬鹿げた速度での高速戦。一瞬の激突の後には火花だけをその場に残して相手は遥か後方に遠ざかり。かと思った次の瞬間にはもう切り結んでいる。
 ぶつかり合った後に、転移。真上からから放たれた闘気の砲弾を身体を捻って避けながら雷撃を放てば、当たる前にヘルヴォルテの姿が消失する。出現しそうな大体の位置にファイアストームを叩き込めば、それを突き破って闘気を纏ったヘルヴォルテが突っ込んでくる。
 すれ違いざま。或いは出現する一瞬一瞬に。相手の繰り出す技を読み合い、互いの先手先手を奪い合っていく。

「この状況で――笑いますか」

 ヘルヴォルテの声。激突。遠ざかる姿。消失と出現。そして交差。

「そっちだって!」
「笑っている? 私がですか?」

 そう、ヘルヴォルテは薄く口元に笑みを浮かべていた。
 自分では気付いていなかったのか。
 戦いでありながら、遊びにも似ている気がする。模擬戦だからという部分もあるが、相手の動きの、先の先を読み合うような展開になっているからかも知れない。
 思考を読み合い、それに対する手を打ち合う。相手の研鑽された技に対しての称賛。それを上回ろうとする努力。そこにあるのは高揚だ。
 言葉によるコミュニケーションとは違うが、これも相手の思考を理解するための方法の1つではある。だから、景久はこういった接戦を好んでいた。

 幾度かのやり取りの後に、こちらの速度がヘルヴォルテに追いついた。並走する形で互いの武器をぶつけ合い、広場の端の壁面目掛けて飛んでいく。激突する寸前でヘルヴォルテは転移し、俺は壁に沿うように飛んだ。

 今――。身体に纏っている探知用の魔力の網を、放出して一瞬だけ拡大する。同時にマジックサークルを展開した。
 一瞬遅れて俺がいた場所の右手側に出現して突っ込んでくるヘルヴォルテ。しかしそこに俺の姿はない。出現場所を探知した俺が転移魔法でヘルヴォルテの背後へと飛んだのだ。振り切ることはできない。

「月の民の系譜ならばッ!」

 その、瞬間。ヘルヴォルテは振り返りもせずに咆哮した。月の民の系譜ならば、転移魔法の手札ぐらいある、と。
 闘気の集中。ここであの、全方位への衝撃波――!
 そう。転移魔法を使う者なら使われた時の対策ぐらい考えるものだ。だから俺も、構わず動いた。掌底をその背中目掛けて打ち込む。殆ど同時に互いの技が炸裂した。

「貫けっ!」

 螺旋衝撃波。魔力で作った足場の上で、全身の動きと魔力を連動させた掌底を叩き込む。膨れ上がる相手の衝撃波とぶつかり合い――そして互いに吹き飛ばされていた。俺は衝撃波を受けて後ろに跳ね飛ばされ、そしてヘルヴォルテは壁をぶち抜いて城の中へと突っ込んでいた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ