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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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585 対策と帰宅と

 迎賓館の貴賓室に集まった皆とは結構長い時間話をしていたと思う。
 途中で夕食を挟みながらということになったが夕食中もその話題は継続しており、それをメルヴィン王が苦笑すると、オズワルドやゲオルグ、ラザロなどは軍事行動中の野営のようで中々気合が入ってくるなどと笑い合っていた。

 そして黒い城を迎え撃つ場所であるとか、こちらに今ある手札で対応が可能か。今後作れそうな魔道具は、等々、話し合いは多岐に渡る。
 そして高位魔人達の能力とその対応策なども話し合われた。ヴァルロスについて見て思ったこと、その能力の正体に対する考察等々。
 そして話はヴァルロスに次いで、ザラディに及ぶ。

「――ふうむ。聞いたところ、ヴァルロスはテオドール以外には対処不能ではあるな。ヴァルロスもそうだが、ザラディの能力も――その根幹のところがよく分からんのだが」
「僕の推測では……ザラディの能力というのは、身の周りにある事象の中から危険度の高いものを感知しているのだと思います。これから起こりそうなことを、判断材料の中に加えていなくとも勘で当てられる、と言いますか」

 危険度の高いものに限るのか、そして射程や発動条件がどこまでは分からないが。
 刃物を投げつけようとする仕草を見せれば、一般人でも刃物が飛んでくるかも知れないから危険だ、と先のことを予測して判断、行動ができる。
 或いは地形から先の川の流れがどうなっていくのかを予測する、という例えでもいいだろうか。

 ザラディは仕草や地形を実際に見ていなくても察知可能ということだ。いや、実際はソナーの音波やレーダーの電波と同じように、俺達には通常見えない何かを感知している能力なのだろうが……可能性として起こりそうなことを予め見通し、良いことなら後押しし、悪いことなら回避できそうな行動を取るといった、正しく予知に類する能力として最終的に表出するというわけだ。

 そういった原理についての推測を説明をすると、みんなは何となく納得してくれたようだ。可能性による分岐だとか、並行世界の概念まで説明する必要があるかなと思ったのだが、それは杞憂ではあったらしい。

「戦闘でも厄介だな。自分の身に限れば精度を上げられると言っていたのなら、相手の動きを高い精度で先読みするということだろう?」

 と、ラザロ。そう、だな。瘴気を攻撃用として扱う力や体術面については不明だが、近接戦闘では相当厄介と予想される相手だ。先読みが可能なら、本来防御的な能力でも攻撃にも応用が利くというわけだし。
 だが、付け入る隙はある、と思う。決定された未来を見て行動しているわけではなく、今ある材料を見通して判断の中に加えているだけではあるのだから。

「先程刃物を投げる仕草を見せると例えましたが、実際に投げられたところで上手く対処できるとは限りません。対処し切れない程の飽和攻撃か物量。もしくは圧倒的な速度や膂力で攻めるであるとかが正解の1つかも知れませんね」
「……分かりやすいな。つまり相手の能力をこちらの戦闘能力で上回れば良いと」

 オズワルドやゲオルグはどうやら、俺の言う対策を気に入ったらしい。

「飽和攻撃や物量ならテオドールの領分、速度や膂力で対抗するのならグレイスや、わたくしのイグニス、シーラとイルムヒルトの連携、マルレーンのデュラハンで対抗などということになるのかしらね」

 ローズマリーは羽扇を広げて口元を隠しながらも思案している様子であった。
 まあ、個々の能力から考えていくならそういうことになるか。グレイスが静かに頷き、シーラやマルレーンはローズマリーの言葉にふんふんと首を縦に動かしている。

「まあ、言うのは簡単の典型だから……。実際は力押しじゃ厳しいかも知れない。通じなかったとか、通じるけれど察知されて逃げの一手を打たれたじゃ話にならないし。一応の対策は現在アルフレッドと考えてるけど……」

 逆に相手の攻撃を防御する場合は、ピンポイントで防御するのではなく、広範囲をカバーするような手で守るというのが正解になるだろう。まあ、このへんは今後の訓練に組み込んでいきたいところである。

「そして、一番情報が足りないのが、ミュストラという魔人か」

 メルヴィン王が腕組みをして唸る。

「この男については、ヴァルロスとはまた別な意味で注意が必要です。あの黒い建材に関わっているようですが……錬金術などで作ったわけではないのなら、もしかすると何かを生成したり操ったりする能力なのかも知れません」

 後は、ミュストラをモニター越しに見た時の違和感だな。言葉にしにくいところはあったが……不明瞭なりに何か違和感を感じたということをはっきりと伝えておく。

「……違和感、か。よく分からんが強そう、と見て良いのかの?」
「そうですね。それは恐らく」

 アウリアの言葉はかなりざっくりとした質問ではあったが、それはその通りだったので苦笑して頷く。

「いずれにせよ城への迂闊な突入は危険と考えるべきだね」

 と、ジョサイア王子。
 それは確かに。ミュストラに関して言うなら月の船を奪取されないように城の守りに付くという可能性もあるだろうし。というか、敵側の役割分担としてはそれが適任かも知れない。
 能力がはっきりしない内は遭遇しても深追いしないだとか、何が飛び出しても対応できる距離を取るだとか……どうしてもそういう消極的な対策になってしまうのは否めない。

 それからベリオンドーラにいた魔物の種類と、それに対抗する装備、戦法などの話。だが、こちらについても兵力やその種類が増強される可能性はある。そこについても注意を促していく。俺達が見た兵力からなる規模は最低限、と考えるべきだ。
 空中の戦力だけでなく、魔物の部隊による地上からの侵攻もある。こいつらは対魔人用の結界に引っかからないので、タームウィルズへの直接攻撃が可能だ。

「場所の選定はやはり海沿い、ということになるか。地上の魔物相手ならば我等も水辺で本領を発揮できる」
「私もお力になれるかと」

 と、エルドレーネ女王とアシュレイ。そうだな。グランティオスの将兵の援護にアシュレイは相性がいい。

「魔物が相手なら、儂等の領分でもあるのう」

 アウリアの言葉にオズワルドも頷く。そうだな。冒険者ギルドは専門家とも言えるし。
 それらについても諸々話をしてから迎賓館での報告と対策会議は散会となったのであった。
 練兵場の広場に出ていき、それぞれ帰り支度を進める。

「いやはや。姫様が使い魔をお持ちになったとは聞いておりましたが、これは――」
「ふふ、可愛いでしょう? 頭も良いし、力持ちなのよ」

 と、ゲオルグは練兵場に腰を落ち着けているコルリスを見て、苦笑とも何ともつかない曖昧な笑みを浮かべた。ステファニア姫はと言えば座っているコルリスの頭を撫でながらも、ゲオルグの反応を楽しんでいる様子であった。

「うむ……うむ。いや、姫様がお気に召しておいでなら良いのですが。話を聞いた限りでは調査任務でも重要な役割を果たしたようですしな」

 ゲオルグは苦笑しながらも気を取り直したようで、手を差し出して握手を求めてきたコルリスに応じるように爪の先を掴んで、軽く上下させていた。うん。まあ……ゲオルグはこう言った度量もある人物だろうしな。コルリスとも上手くやっていけそうな感じではある。

「では、ペネロープ様とビオラ嬢は私達が責任を持ってお送りします」
「よろしくお願いします」

 ペネロープとビオラはミルドレッドと近衛騎士団が直接神殿や家まで送っていってくれるらしい。アウリアとオズワルドも広場まで一緒なので警備体制は万全と言えるだろう。

「お休みなさい、ペネロープ」
「はい、クラウディア様。マルレーン様も、お休みなさいませ」

 クラウディアと一緒にマルレーンがにこにことペネロープに手を振って挨拶をする。俺達も各々話し合いに参加した人達と挨拶をし、リンドブルムやコルリス、フラミア、ラムリヤ達とも今日のところは手を振って別れる。
 そうして俺達は馬車に分乗して帰途についた。家のみんなにはタームウィルズに戻って来た時点で、通信機で帰ってきたことを連絡してある。
 無事であるかどうかについては、調査任務からヴィネスドーラに戻ってきた時に連絡済みなので、早めに安心してもらえたとは思うが。

 ともかく、カミラのところにはセシリアが連絡に行ってくれたそうで、俺達の帰りをみんなと一緒に待っているそうだ。
 東区の自宅に到着して馬車から降りると、玄関先に総出で出迎えに来てくれた。

「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいまみんな」

 セシリアとミハエラが迷宮村のみんなと頭を下げてくる。フローリアとハーベスタ、ラスノーテも一緒だ。中々賑やかな出迎えになった。

「お帰りなさい、エリオット!」
「ああ。ただいま、カミラ」

 と、俺達が帰宅を喜んでいる横で、馬車からエリオットが降りてくるのを見て、カミラが駆け寄っていく。エリオットはカミラを静かに抱き留めた。うん。仲睦まじい様子で何よりであるが。
 それをセシリアは微笑ましいものを見るように眺めてから、俺に向き直って言う。

「お留守の間は平穏で、取り立てて変わったことはありませんでした。実験中の発酵物についても、フローリア様やハーベスタによれば順調に発酵が進んでいると」

 セシリアが留守中のことを報告してくれる。
 ああ。それは何よりだ。良いところで調査任務に出かけることになったから、そのあたり気がかりではあったのだ。

「発酵も分かるんだ」

 フローリアに尋ねると、ハーベスタの鉢を抱えている彼女は屈託のない笑みを浮かべる。

「ええ。変なカビも生えていないし。土の中にいる子達と、私達は助け合ったりもしているから少しは感じられるの。ね、ハーベスタ」

 と、ハーベスタと顔を見合わせたりしている。ハーベスタもフローリアの言葉が解るのか、相槌を打つように軽く首を動かした。
 そうか。根の広がりなどに土壌菌の活動の力を借りているとか聞いたこともあるが……そのあたりで分かるのか。中々頼もしいことだ。

「お帰りなさい。みんなが無事で、嬉しい」

 そして……ラスノーテは少し舌足らずではあったが、魔法による意思伝達ではなく、はっきりと口で発音して挨拶してくれた。

「ああ。ただいま。留守の間も、練習してたみたいだね」

 そう言うとラスノーテははにかんだように笑みを浮かべてこくんと頷く。
 何時も通りの家の様子と、笑顔で迎えてくれるみんなの姿。うん。帰ってきたという実感が湧いてくるな。
 ベリオンドーラの報告もあって、気持ちがそっちに向いていたが……。まあ、今日のところはゆっくりと休ませてもらって、明日からまた動いていくとしよう。
 迷宮にはどちらにせよ向かわなければならないのだが……。そうだなクラウディアが直接管理しているという迷宮深層の城に向かってみるというのも良いかも知れない。クラウディアの支配が及んでいるので危険は少ないと言っていた気がするが、まあ後で相談してみるとしよう。
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