挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

601/1263

581 ベリオンドーラからの帰路

 東に進路を取り、そこから南下することで、まずはシルヴァトリア王都ヴィネスドーラへの帰途についた。
 決戦の日もそう遠くはないし、分かった情報を元に対策を練らなければいけない。
 という背景もあり、帰り道に関してはあまり長居できないから、無事であることを知らせに立ち寄る、ぐらいになりそうではあるが。

「欲を言えば継続的な潜入を行って、城内部の構造図や、相手の作戦などに関する情報まで入手したかったのですがね」

 ティーカップを傾け、中身を飲み干してからそう言うと、ジークムント老が苦笑した。

「いやいや。何も分からず、推測するしかなかった状況から、これだけのことが分かり、人員の損失もない。充分な成果じゃよ」
 ふむ。高位魔人達の能力に関する幾つかのヒント、敵の規模や種類、そして移動要塞と化したベリオンドーラ。このあたりが報告すべき内容となるか。

「そうね。使い魔に潜入されたかも知れない、となったら……わたくし達を発見した時点で偽情報などを流すという手を後で思いつく可能性もあるわ。その前に遮断されてしまったというのは、逆に混乱させられることも無くなったとも言えるでしょう」

 と、ローズマリーが言った。そうだな。そういう絡め手もあると考えれば、シーカーからの通信があの時点で途絶えてしまったのは逆に運が良かった一面もあると言える。
 それはシーカーだけに限った話でもない。カドケウスを動かして諜報を行う際も、偽情報には気を付けないといけない。
 その言葉に、クラウディアも頷く。

「だとすると、後からシーカーが動かせるようになったとしても、連中の会話内容は疑ってかかる必要があるわね」
「仮に、距離で通信状態が良くなるとするなら、ベリオンドーラの接近を探知する役割は果たしてくれるかも知れないし……敵の策に引っかからないように注意しつつ、動くしかないな」

 一先ずは最低限の情報は得られたというところで満足するしかないか。ああいう性質の予知能力があると知っていれば、威力偵察だとか破壊工作だとかの手は最初から勘定に入れない、とすることでもう少し情報収集できたのだろうが……まあ、それも結果論か。

「お茶のお代わりはいかがですか?」

 そんなふうに色々考えていると、空になったティーカップにグレイスがもう一杯お茶を勧めてくれた。

「ありがとう。それじゃ、もう一杯」

 そう答えるとグレイスが静かに微笑みを向けてくる。

「お菓子も焼き上がりました」

 と、丁度良いタイミングでアシュレイとマルレーンがにこにこと、焼きたての菓子を器に盛って運んで来てくれた。

「ん。そっちも貰おうかな」
「はい、どうぞ」

 イルムヒルトの奏でるリュートを聴きながら香ばしい焼き菓子をかじり、お茶を流し込む。近くにやって来たリンドブルムやラヴィーネ、コルリスにベリウス、アルファ達を軽く撫でたりして人心地をつけて、思考を前向きにしていく。
 んー。何故だか艦橋まで乱入してきている動物組である。若干手狭ではあるが、逃げる際に別のところから収容している暇が無かったのかも知れない。まあ、別にいいけれど。

「今回は色々後手に回ってしまったけれど。みんなで行った訓練は無駄にはならないはずだわ」
「そうね。討魔騎士団の騎士達は鍛えられているし、決戦の日も冬だもの」
「鍛練は備えであり、決して裏切りません。今回は少しだけ条件に合わなかったと言うだけのお話です」

 討魔騎士団達の気持ちを慮ってか、ステファニア姫達がそんな会話をしている。ああうん。浮遊城だのヴァルロスだのを見て、士気の低下が起こらないようにといったところか。
 流石に将兵の気持ちを分かっているという印象ではあるな。討魔騎士団達はステファニア姫達の言葉に静かに頷いていた。

「では、帰ったらまた訓練ですね」
「そうですな。テオドール殿が我等のために駆けつけて下さった時は心揺さぶられるものがありました」

 エリオットの言葉にモニターで周囲を監視していたウェルテスが答えると、他の騎士達も気合の入った表情で頷いていた。ふむ。討魔騎士団に関しては士気の低下は起こらなさそうだな。

「それで……戦ってみて、どういう印象だったのですか?」

 と、フォルセトが真剣な面持ちで尋ねてくる。

「強い……ですね。あの能力も危険ですが、本人の体術自体も相当なものなので。ハルバロニスの武術への予備知識が無かったら、ああいう柔の技はもっとやりにくかったのではないかと」

 感じたことを正直に話す。強さはそう、なのだが。得られた情報の中で明るい情報としては奴の考え方や性格がもう少し分かりやすくなったことだ。

「逆に、余計な事をしないという確信は得られました。戦力の消耗を避けたがっているし、勝ったその後のことを考えているから、お遊びで街を焼いたり、ベリオンドーラで通りがかったついでで人里を攻撃、といった真似はしないでしょう。必要なところに必要なだけの戦力を差し向けてくると思われます」

 魔人集団とは言え、統率が取れているならその点は安心ではある。いや、敵の統率が取れているのを安心というのも違うような気もするが。
 皮肉な話だが、ガルディニスなどがいなくなったことで連中の結束が高まっているところがあるのかも知れない。

「そう……そうかも知れませんね。だからこそ、話はできても説得して思いとどまらせることはできないと、痛感しました」

 フォルセトはそう言ってかぶりを振ると、決然とした表情になって顔を上げる。心配そうなシオン達にフォルセトは笑みを向けてから、こちらを見て言った。

「犠牲を無駄にはしないというのは、こちらの台詞です。みんなの思いは、私達と共にあるのですから。今度こそ、ヴァルロスを止めなければなりません」

 そうだな。あれはヴァルロスの意志の強固さの土台になりこそすれ、フォルセトの考えを乱すようなものではない。

「僕達も頑張ります」
「良かった、フォルセト様」
「そうと決まれば、今日見たものを、絵にしておくわ……」

 シオン達もフォルセトが笑顔を見せたので安心したようだ。シグリッタの絵は色々と有用だな。要注意人物の顔も分かるわけだし。

 しかし……奪った命を無駄にしないために止まらない、か。
 あいつは、地の底に留まったハルバロニスの民よりも外に出て行った盟主達のほうに共感を覚えていた口だ。その上で、当時のバハルザード王国の悪政や混乱に否定的な目を向けていた、ということらしい。

 自分の与り知らないことで押し止められて、力を持ったから外に出ていき、何かをしようと考える。そういう点では似ているところもあるかも知れない。俺を勧誘したのも、そういう背景があるからだろうか。
 魔力循環を知っていれば、俺が月の民由来の何某かであると気付く。奴にとっては、同胞意識を多少なりとも覚えるもの……なのだろうか。そうでなくても、人間との共存も視野に入れているわけだしな。

 だが、俺にとっては有難迷惑な視点というか。
 あいつの考えているであろう不老不死の魔人による為政者、弱者への庇護に、罪人の食料起用による魔人と人間の共存であるとか。それらの考えは……個人的感情を抜きにして理解はできても、どうしても首を縦には振れない。

 犠牲になる周りの人達のこともそうだし、奴の思い描く不老不死の為政者も……心まで永遠不変ではいられない。いずれは破綻するだろう。
 クラウディアの考えを聞いたり、今まで戦った魔人達の事を見ていると……そう思うのだ。

「奴に、勝てそうかの?」
「それは……」

 ジークムント老の質問に思案する。思案するが答えは出ない。しかし、勝てるビジョンが見えないというわけではない。

「――分かりません。勝てると自信を持って言えるような相手ではありませんが、だからと言って負けるつもりもありませんし」

 勝機、という話をするなら、それはどちらにでもあるだろう。有利不利はともかくだ。
 とりあえず、今回分かったことを参考に対策を練る、というのが今後の方針だろうか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ