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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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577 廃都への潜入

「あの城は――恐らく魔人達の手で修繕されたようですね。城に損傷は見られませんが、都周辺の外壁部分は、破壊されたままで手付かずのようですし、あちらが本来の城にも使われていた建材ではないでしょうか」
「……どうやら、そのようじゃな」

 俺が言うと、ジークムント老はかぶりを振った。
 ベリオンドーラの都を――かつて取り囲んで守っていたはずの外壁は、魔人との戦闘の激しさを物語るようにあちこち崩されて、雪に覆われて打ち捨てられていた。
 所々、雪と氷の隙間から白っぽい石材が覗いているので、城にもこれと同じような石材が使われていた可能性はある。

 シリウス号の速度を落としながらも、じりじりと距離を詰めていく。もう少し間合いを詰めたいところだ。外から観察するにもモニターの望遠を使ってこれでは、些か距離が開き過ぎている。

「城の周辺は、何か魔法が掛けられているのでしょうか。雪が溶けていますね」

 グレイスが言った。

「本当だ。水魔法か火魔法かの術式かな」

 雪が溶けてかつての都の残骸や瓦礫が姿を覗かせている。
 城の敷地をその周囲一帯から円形に雪と氷が除けられているのを見るに、温度を保つための術式が施されているのは明らかだ。

「ん。何か――沢山いる」

 シーラがモニターを差して警戒の色が混ざった声を漏らした。
 距離が詰まるに従って見えてくる。ライフディテクションも、それを射程に捉えたのか反応を示している。生命反応の点が城の周辺に幾つも瞬いた。
 城に繋がる街の大通り、城の周辺、黒い尖塔の周囲を飛び回る影。
 魔物だ。アーマーリザードと呼ばれる、生まれながらに硬質の鱗を持ったリザードマンに似た魔物。

 好戦的で俊敏、強固な身体を持つと聞いているが……こんな北方にいるはずのない魔物だ。そいつらが雪の溶けた瓦礫の街の――大通りを隊列を成して進んでいる。警備なのか訓練なのかは分からないが。

 そればかりではない。城周辺を巡回するように進んでいるのは、棍棒を手にしたグランドトロールだ。尖塔の周囲を舞っているのはシャドウレイヴンと呼ばれる烏人型の魔物。
 その他様々な魔物が、城とその周囲に配備されていた。城の内部にもいる、と考えればちょっとした軍団という規模だろう。

 だが、そういった連中は寒冷地に適応している魔物ではない。そもそもあんなふうに警備をするような動きを仕込める性格の種族でもない、ということを考えると……。

「城の……月の民の遺産で、ああいった連中を作り出し、制御しているということかしらね。けれど仮に、城内にもあの調子で配備されているとしたら、質と規模の兼ね合いが私の予測より上を行っているわ」

 迷宮が集めてくる魔力とは違うから、リソースには限りがあるという話ではあったな。
 その規模と質の兼ね合いが、どの程度のものか俺には何とも言えないが、クラウディアの予測範囲よりも上を行っているということになるらしい。

 大発生……か。魔物の質を下げればBFO内でそう呼ばれるだけの群れをつくることもできるだろうか。

「何か、他にも絡繰りがあるのかも知れないな」
「確かに敵の手札に見えないところはあるけれど……今言えるとしたら、あれは警備のための魔物ではないという点かしらね。場所に合わないから、攻め込むための兵だと見るべきだわ」

 ローズマリーが羽扇を閉じてそう断言すると、アシュレイが首を傾げる。

「城周辺の雪を溶かして環境を整えているのも、ああいう魔物達のためでしょうか」
「それもあるでしょうね」
「ならば、ヴェルドガルとの戦いを見据えてのものでしょう」

 アシュレイの言葉にローズマリーが頷くと、エリオットが言った。そう、そうだろうな。あの魔物は攻撃用だ。雪を溶かしておくのは必要になる時まで待機させておくためだろう。

「外から見て分かるのは、こんなところかの」
「いえ。まだ確かめたい事があります。甲板から直接あの城を見せてもらおうかと」

 そう言って俺は艦橋から出て、甲板へと向かう。みんなもそれに続いた。
 光魔法を用いて望遠レンズを作り、そしてモニター越しではなく片眼鏡で黒城を見る。
 そして――気になっていたことが、1つ確認できた。あの黒い建材……やはりまともな物ではないらしい。

「黒い建材自体が、妙な魔力を帯びています。そのせいで城自体が魔力で覆われていて、ライフディテクションで内部を見通すことができない」

 内部の生命反応も見通せてしまえば楽だったんだがな。城の陰に隠れた魔物の反応が見えなくなったから、おかしいとは思ったのだが。

「厄介ね……」

 ステファニア姫が眉を顰めた。

「悪いことばかりではありませんよ。ああいった濃い魔力に覆われている場所は、魔力の流れでの探知がかなりやりにくくなる。要するにシーカーを送り込んでも、魔力反応による探知で見つけられてしまう心配は大きく減る、ということです」

 ハルバロニスの隠蔽術とて効果時間に限りがある。それを用いずともシーカーを送り込めるとなれば潜入可能な時間も伸びるし、発見もされにくくなる。

「クラウディア。他に外から見て分かることは?」
「現時点では……何とも言えないわね」

 クラウディアが目を閉じる。
 そう、だな。ここまでに得られた情報は通信機でヴェルドガル等に伝えるにしても。

「となると予定通りに、かしら」

 アドリアーナ姫が尋ねてくる。

「はい。予定通りに通信機で連絡を送り、地下から進んでシーカーを送り込みます」



「――どうでしょうか?」

 コルリスの腕に、長老達から貰った指輪を加工した腕輪をエルハーム姫が付けてやると、台座についた魔石がぼんやりと紫色の光を宿す。俺達の付けた指輪と同じような反応だ。

「どうやら大丈夫なようですね」

 リング部分を引き伸ばしたりして、更に補強などして加工したものだ。構造強化の魔法で保護しているので頑丈でもあるし予備もある。コルリス用の魔道具だ。

 さて。地下を通って前に出るのは俺といつものパーティーメンバー、それに加えてコルリス。コルリスとの意思疎通を行うためのステファニア姫、ということになる。シリウス号側の動きを見るために、カドケウスを残している。

 討魔騎士団は指輪の数が足りないために基本は後方支援だ。フォルセト、シオン達も後方に控えてもらう。フォルセトは隠蔽術の維持という役割があるし、シオン達は五感が鋭いので、地上部分で妙な動きがあったら知らせて貰えるだろう。
 アルファには後ろで待ってもらう。シリウス号に待機していてもらわないと困る。

「地上でもし動きを察知されたような気配が見えた場合は、陽動を行います」

 と、エリオットが作戦の確認をしてくる。

「はい。よろしくお願いします」

 陽動と言っても交戦目的ではない。シリウス号と討魔騎士団が姿を見せるだけだ。その場合は、陽動に引っかかった敵であるとか、あの城であるとかに地中から大魔法をぶっ放して、破壊工作をしてからさっさと撤退などという作戦を立てている。

 少なくとも、連中は外壁そのものの修繕やら警備やらはあまり考えていないらしい。生命反応、魔力反応、共に無し。

 シリウス号を北側外壁の陰に隠れるように移動させ、そこから接近任務に加わるみんなと共に、ベリオンドーラの地に降り立つ。
 水魔法で雪と氷を持ち上げてやると、コルリスがそこから地面を掘り進めていく。両手の爪を使って、土を豆腐のように除けている。

 掘り返した土は討魔騎士団のエルマーが水魔法を用いて雪を被せ、目立たないようにしてくれた。

「では、行ってきます」
「うむ。気を付けるのだぞ」
「僕達も頑張ります、テオドール様」

 後方支援組に甲板から見送られて、俺達はコルリスの後に続く。魔法の明かりを飛ばして暗闇での視界を確保。
 土魔法を用いて、コルリスが掘り進めた土を俺達の後方へ送り、崩落しないよう天井部分を固めたりしながら前へ前へと進んでいく。地上に察知されないよう、余裕を持たせた深度だ。

 音や振動はしない。セラフィナが消してくれている。そのせいもあって、とても静かだ。みんなも、緊張からか、それとも察知されないためか。できるだけ静かにしているようではある。

 コルリスはと言えば……時々鼻をひくつかせ、周囲の警戒をしながら進んでいるようであった。土中に魔物がいたり、特殊な能力を持つ魔人の警備がいる可能性も、確かに否定はできないからな。そうなればシーカーを悟られないように配置して撤退するしか方法はない。

 カドケウス側の視界にも特に変わったところはない。モニターに見えるベリオンドーラの城にも、巡回中の魔物達にも特に変化はなし。シリウス号の背後――周辺にも敵影は見えない。討魔騎士団の団員達はそれぞれの見るべきモニターをしっかりと注視している。

 カドケウスを周辺地形図に変形させ、俺達の今進んでいる現在位置を反映させて、艦橋で固唾を呑んで見守っているみんなにも、今の状況を分かりやすくしていく。そうして――俺達は緊張の中で城のすぐ間近まで到達した。

「シーカー1号を」
「分かったわ」

 3体のシーカーを抱えているのはクラウディアとマルレーン、ステファニア姫だ。クラウディアが天井部分の土にシーカーを埋め込むと、土をかくようにして地面の中へ潜っていき……地上部分目指して進んでいった。周囲の土や石を身に纏って擬態できると言ったが、シーカー達は地表と同化するような移動方法も可能なのだ。当然、建材が石ならそこにも潜り込みながらの移動ができるが……あの城はどうだろうか。

 内部もあの黒い建材が使われていると非常に厄介なのだが。
 艦橋側にもそれを伝える。アドリアーナ姫の操るシーカー1号のモニターが作動し――地上部分にシーカーがほんの僅かだけ、顔を出しているのが見えた。

 さて。このまま進んで、城の中に直接シーカー2号、3号を送り込みたいところではある。コルリスが更に掘り進めていく。

 そうして、城の直下に差し掛かろうかという、その時だった。コルリスが少し下がって、指先を軽く振っている。手を振っているのではなく、不意に何かにぶつけてしまって痛かった、というような反応だ。

「硬いものにぶつかったみたい。掘れない何かがあるようよ」

 ステファニア姫が言った。掘れない、何かね。
 みんなと顔を見合わせる。

「コルリス。先頭を代わってもらっていいかな」

 そう言うと、コルリスはこくんと頷いて先頭を譲ってくれた。
 土魔法で、正面の土を広い範囲で除けていく。そしてその下から現れた物は――。

「これは……」

 暗い銀色に輝く、滑らかな質感の金属だ。地上の黒い城とはまた違う。
 正体不明の金属の表面に、時折緑色に輝く魔力のラインが走っていく。

「……全く、悪い予想ばかり当たるものね」

 クラウディアが忌々しそうにかぶりを振る。そして、言った。

「迷宮のそれとは比べるべくもない規模だけれど、これは月の船の1つよ」
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