挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

592/1323

572 王都の出迎え

 飲み水や食料品など、シルヴァトリアに来るまでに消費した物資を補充し、俺達はジルボルト侯爵領を後にした。
 手を振って見送ってくれる侯爵夫妻やテフラ達に俺達も甲板から手を振り返し、ゆっくりとヴィネスドーラに向かって進んでいく。

「綺麗……ですね」

 グレイスが呟くように言う。

「……ああ」

 景色を見て、俺は頷いた。みんなもその光景に見入っているようだ。
 空から見る冬のシルヴァトリアは白銀の世界が陽光を浴びて、きらきらと輝くような、何とも言えない美しさであった。
 手を振っていたジルボルト侯爵やテフラも、やがて白銀の世界の中に埋没するように遠ざかり、見えなくなっていく。

 シルヴァトリア本土は――流石に北国だけあって街道も雪で覆われているような状態だ。
 だが、積雪量そのものはそこまででもない。
 ……と、思ってしまうのは景久の記憶があるからだろうか。日本は、地域によっては世界有数の豪雪地帯だったりするからな。

 いずれにせよこの雪も人の活動を鈍らせるには十分な量なのだろう。街道を行き交う人通りは殆どない。
 防寒装備に身を包んで、ソリに物資を積んで運んでいく者。それから乗り合い馬車ならぬ乗り合いのソリが、拠点から拠点の間を行き来して隣町に用事のある者を運んでいる程度だ。

 多人数で移動するほうが防犯にもコストの削減にもなる。冬場のこういった一団は、護衛の兵士や雇われの冒険者達と共に街道を進むものだ。だから単独で行き来する者は今のところ見かけていない。
 まとめて移動ということになるので、必然的に大掛かりになり、拠点の間の行き来ややり取りの頻度も低下してしまう、というわけである。

 母さんの育った国の……冬の風景か。
 少しの間、甲板から景色を眺めていたが……まあ、いつまでもこうしているわけにもいかないな。早速ポーション作りを始めるとしよう。



「拠点の通過に関しては私達に任せて下さい」
「ポーションを作っている間の手間は取らせないわ」

 と、エリオットとアドリアーナ姫が言った。シリウス号でシルヴァトリア内を移動するにあたり、拠点ごとに外壁の監視塔などに顔を見せて挨拶をしていく必要があるのだが、エベルバート王もアドリアーナ姫も乗っているし、操船に関してもエリオットにしろジークムント老にしろ、元シルヴァトリア騎士であったり、出身国だったりなので、ヴィネスドーラ到着まで何も問題なく進めるだろう。

「ありがとうございます。では、そちらはお任せします」

 というわけで、シリウス号の操船はエリオットとジークムント老達に任せ、船の工房設備に向かった。
 大鍋でポーションを纏めて作っていくわけだ。まずは……魔力回復用のマジックポーションからだろうか。治癒魔法を使える人員も割と揃っているしな。
 竈に大鍋を設置。工房設備の竈はシリウス号が少々揺れても傾かないように固定できる特別仕様だ。

「水を持ってきた」

 と、シーラが船倉から源泉の水が入った樽を持って来てくれる。

「原料は作業台の隣に纏めておいておくわ」

 ローズマリーが魔法の鞄からポーションの素材を色々と取り出して並べていく。
 ポーションを詰める小瓶が入った木箱もマルレーンがレビテーションで浮かせて運んできてくれた。

「うん。ありがとう」

 それぞれの物品を確認してから礼を言うと、彼女達はそれぞれに頷いた。
 では、始めるとしよう。手順としては素材を決められた配合比にして、術式を用いながら魔力を込めつつ磨り潰すなどして加工し、それを大鍋に入れて、清浄な水で煮詰めてやれば出来上がりだ。
 このへんの作業はやり慣れている。大人数分の料理を纏めて作るのと同じように、大量に纏めて作れば無駄が無い。

「私達も手伝うわ」
「うん。それじゃあいつも通りに」

 クラウディアの言葉に頷く。配合比に関してはみんなも分かっているので、魔法で加工する工程以外は料理をするのと変わらない。
 包丁で素材を手頃な大きさに刻み、原料ごとに分けて計量。配合比を合わせたものを俺のところへ持って来てもらうというわけだ。
 みんな料理はやり慣れているし、ローズマリーは調剤も得意だからな。このへんは信頼して任せられる。確認のやり取りをしながら包丁の小気味よい音が響く。

 そして……そこからは俺にしかできない工程である。大きなすり鉢を用意し、そこに刻んだ材料を突っ込んで、磨り潰しながら魔法を用いていく。
 大きなすりこぎ棒でかき混ぜていると、薬草等々の材料が原型を無くして、段々と大きな草団子のような状態になっていく。

「もう大鍋に水は移していいのですか?」
「うん。水の量は分かってるし、材料側で分量は合わせてるから」

 そう答えると、アシュレイが頷いてマジックサークルを展開させる。樽の中から水が生き物のように伸びていき、大鍋の中に移っていった。火にかけて沸騰を待つ間に、水の量に対して適正な量の草団子を作っていく。
 大鍋の水が沸騰したところで材料を入れ――後はかき混ぜながら煮詰めるだけだ。



 魔力回復用、外傷治療用、そして体力回復用と……ポーションを作って出来上がりを確かめ、それらをそれぞれ形の違う小瓶に小分けして詰めていく。漏斗で次々に流し込んだものを、マルレーンやイルムヒルトがコルクの蓋をしめていく。そうして出来上がったものをセラフィナが一本一本木箱に収めていった。

 液体なので割と嵩張るが、瓶自体には構造強化が施してあって、ちょっとやそっとでは割れたりしない。
 効能もテフラ山源泉の水を原料にしているために相当なものなので、行動の邪魔にならない程度に携行してもらうのがいいだろう。

 そうして作業を続けていると、シーカーがちょこちょことした足取りで部屋にやって来た。

「ん?」

 紙を手にしている。受け取って開いてみれば――ヴィネスドーラが近くなってきた、とのことである。なるほど。目的地が近くなってきたからそろそろ準備をした方がいいというわけだ。
 んー。シーカーをメッセンジャーにしたのか。これはステファニア姫あたりのアイデアだろうか。遊び心があって悪くはないが。

「分かりました。作業が一段落したら艦橋に向かいます」

 シーカー越しに艦橋へ答えると、それでシーカーは工房設備を出て戻っていった。

「それじゃあ、今やり掛けの分が終わったら上に戻ろうか」
「分かりました」

 みんなが頷いて、手分けしての作業が続いていく。やがて区切りの良いところまで終わったので後片付けをしてから艦橋へと戻ると……モニターの遠景にはヴィネスドーラが見えてきているというところだった。
 中々、丁度良いタイミングになったようだな。段々とヴィネスドーラが近付いてくる。

 外壁の監視塔に声をかけ、敬礼する兵士に見送られながら、王都の街並みの上空へと進む。
 飛行船についてはヴィネスドーラの人々も知っているからか、眼下に見える住民達も手を振ったり敬礼したりと、歓迎してくれている様子だ。

「そう言えば……ヴィネスドーラは、道が綺麗ですね」

 都市全体を見回しても道に雪が積もっていたり凍っていたりというのがない。道以外の場所――例えば民家の庭などに関してはそうでもないのだが。

「うむ。冬場は雪を溶かして側溝に流し込むことができるようになっているのだ」

 エベルバート王が笑みを浮かべて答えた。道に融雪機能のようなものがあるわけか。北方の魔法王国らしい備えではあるな。
 そのまま――ヴィネスドーラの王城へ向かってシリウス号を進ませる。

「王城手前の広場に停泊させるのが良いでしょうか?」
「そうだな。そのように話を通してある」

 操船しているエリオットの言葉にエベルバート王が頷く。
 ザディアスなどは遠慮なく王城に飛行船を横付けさせて砲口を向けていたからな。あいつが元王太子であるということを加味しても、どうかという振る舞いだったが。

 正門には既にシルヴァトリアの重鎮達が姿を見せていた。賢者の学連、七家の長老達の姿もそこに並んでいるようだ。並んでいる、というより……七家の者達のほとんどが顔を連ねているような。
 もしかして、出迎えのためにみんなで待っていてくれたのだろうか。

「大層な歓迎ぶりですな」
「うむ。テオドールが戻ってくるからな。ジークムント殿にステファニア姫、アドリアーナも一緒となれば、こういう歓迎ぶりになるのも仕方のないことであろう」

 ジークムント老の言葉に、エベルバート王が笑みを浮かべる。
 確かに。色々シルヴァトリアとは縁の深い面々が多いしな。

 壮麗な城と、整然とした街並み。高く聳える学連の塔。ヴィネスドーラも久しぶりだ。そうして、シリウス号は広場の上に差し掛かるとゆっくりと高度を落としていき、その場に停泊する。
 では、下船の準備を始めよう。みんなにも挨拶をしてこないといけないしな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ