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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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570 シルヴァトリアへの旅

「あーあー。テオ君、聞こえているかな?」

 と、艦橋にアルフレッドの声が響く。伝声管からではない。セラフィナの性質を持たせた魔石が震えてアルフレッドの声を発振しているのだ。
 水晶板のモニターでは、工房設備からこちらに向かって手を振るアルフレッドの姿を捉えていた。

「ちゃんと聞こえてるよ」

 こちらからの声は伝声管を通してでないと向こうに届かない。工房設備に繋がっている管に向かって答えると、アルフレッドは満足げに頷く。

「じゃあ、立てている指は何本かな?」
「……2本だね」

 モニターを見ながら答える。アルフレッドは別にそうと意識したわけではないのだろうが、モニター越しにピースサインを見せていた。

「どうやら成功みたいだね。それじゃあ、ゴーレムをそっちに持っていくよ」

 アルフレッドはそう言って立ち上がり、斥候ゴーレムに向かって手を伸ばす。すると映像が大きく揺れた。例えて言うなら、録画中のビデオカメラを手に取ったようなものだ。
 この間から潜入用の斥候ゴーレムの改造を続けていたのだが……シルヴァトリアへの移動の最中も、五感リンクを術式化して物品に組み込んで、視覚と聴覚を離れた魔道具に転送するという実験を行っていたのだ。
 映像は水晶板モニターへ、音声は発振用の魔石に送ることで、遠隔から情報を直接得ることが可能になった、というわけだ。

 斥候ゴーレムから送られてくる映像が通路側に移り……そして艦橋の扉の前までやってくると、モニターを覗き込んでいたみんなの視線が扉側に移る。
 すると一拍の間を置いて、アルフレッドが扉を開いて艦橋に入ってきた。腕にゴーレムが抱えられている。モニター側にもアルフレッドに注目する俺達の姿が映し出されていた。

「これは面白いですね」

 ペネロープがそれを見て楽しそうに表情を綻ばせる。マルレーンと顔を見合わせ、楽しそうな様子である。
 ペネロープやマルレーンだけでなく、みんなも結構面白がっている様子である。新しい家電製品を手に入れた時の感覚……のようなものだろうか。録画能力はないが、ビデオカメラが手に入ったようなものだからな。

「魔力の消費はどうかしらね?」

 ローズマリーが尋ねてくる。
 アルフレッドが運んできたゴーレムを受け取り、その頭に手を触れて、消費している魔力の度合いをチェックする。

「んー……。斥候ゴーレム自体は……ほとんど消費してないかな。五感を繋いでいるのは、水晶板側だからね」
「なるほど。使い魔との場合でも術者側が魔力を消費するものですからね」

 アシュレイが納得したように頷く。

「だから結局、こっちの魔道具を使う者に負担がかかることになるわけだ」

 水晶板モニターを手に取って魔力を補充していく。
 こちらの魔道具は割と魔力を消費する部類だな。普通に五感リンクをするよりも消費が大きいような気がする。これで常時監視を行うというのは、結構大変だろう。交代の人員が必要になるな。

「けれどその分、潜入自体は長時間可能というわけですね」
「そうだね。拠点の監視と違って、移動やら擬態やらに活動用の魔力を使うことが多くなりそうではあるけど」

 グレイスの言葉に頷く。精霊殿などに送った斥候ゴーレムは基本的に位置を決めたら動かないからな。その分消耗も少ない。

「もし流通させるなら、悪用されないように色々契約魔法で制約を入れておかないといけないね」

 アルフレッドが思案しながら言った。
 そうだな。ここからの応用技術としては監視カメラなどがまず思いつくが……そういった用途を考えていく場合、通信機も鹵獲されて使われないように等、幾つかの対策が施されているから、それと同様に色々と悪用防止の対策を講じておかないといけないだろう。
 といっても、ヴァレンティナに処置を施してもらった特殊な魔石であるとか、通信機開発とベリウスの器作りから得られた技術や術式が用いられているので、複製は容易ではないけれど。

「ふむ。この技術が広まった場合、不逞の輩に奪われた場合は危険かと思っていたが……そのあたりも考えておるのだな」

 エベルバート王が感心したように頷く。

「悪用の方法がすぐに思いつくような魔道具ですからね。一応対策は考えておかないととは思います」

 さて。運用そのものに問題はないが、もう少し実験をしてデータを集めておきたいところではあるな。
 潜入監視用の斥候ゴーレムは消耗が大きくなるのが予想される。消費魔力の違いなども見ておきたいが……ふむ。

「このまま船内をあちこち移動させて、ゴーレム本体の魔力消費がどれほどのものか調べておきたいのですが……もしよければ交代で実験に協力していただけますか?」

 と、モニターを覗きながら斥候ゴーレムに向かって手を振っているステファニア姫達に言うと、彼女達は嬉しそうに頷いた。

「お役に立てるのなら喜んで」
「実験も面白そうだものね」
「私も協力します」

 うむ。興味がありそうな感じではあったからな。多分、内容的にもステファニア姫達の好みのものだと思うのだ。

「では、説明します。この水晶板でゴーレムに指示を出すことも可能なので――」

 と、実験の目的や手順を説明していく。
 ゴーレムをあちこち動かし、目当てのものを発見した時に通信機へ報告を入れさせるなどをして、ゴーレム本体がどの程度魔力を消費するのかなどを調べておきたい。
 つまり誰かに船内のどこかに隠れる役になってもらい、それを探して報告させるといった具合の――言うなれば、かくれんぼを行ったりしながら、ゴーレムの消費具合を定期的に見て行く……という実験だ。

 探す役がゴーレムで、水晶板越しに色々指示したりという流れになるかな。ちょっとしたゲーム感覚だ。
 ステファニア姫達と、シオン達が交代で隠れたり操作したりしながら、使用感などを確かめていくということで、話は纏まった。

「隠れる側は、カドケウスを連れていくと捗るかと。みんなが隠れた時点で、探す役に合図を送れますので、効率的になります」
「分かりました」

 シオンが猫の姿をしたカドケウスを抱えると頷いた。

「それじゃあ、行ってくるね」
「また……後で」

 早速、最初に隠れる役ということでシオン達が艦橋を出て行った。1人で隠れるのは退屈だろうしな。一緒に隠れて普通に話などをしていてもらっても構わない。音での情報収集も実験に含まれるし。

 そうして、シオン達が船内に隠れたのを見計らって、ステファニア姫達に声をかける。

「もう斥候ゴーレムを動かしても大丈夫だと思います」
「分かったわ。それじゃあ、お願いね」

 ステファニア姫が斥候ゴーレムの頭を撫でて、船内の捜索へと向かわせる。ゴーレムはちょこちょことした足取りで艦橋を出て行った。

「実際なら……擬態をさせたり、人目につかないように移動させるわけよね。それを想定した動きをさせていかないといけないわ」
「そうですね。討魔騎士団の皆さんにも見つからないよう、慎重に指示を出していきましょう」
「分かったわ。後は……彼女達が隠れていそうな場所を考えていかないとね」

 モニターを見ながら相談したりと、姫3人は割合真剣な表情である。うむ。要点は押さえていてくれるし、実験はとりあえず彼女達に任せておけば良いだろう。

「それにしても、いつまでも斥候ゴーレムというのも味気ない気がするわね。何か名前を付けてあげるというのはどうかしら?」

 クラウディアが言うと、みんなが頷いて俺を見てくる。
 んー。例によって俺が名前を付ける流れということになるのだろうか。

「ええと……ハイダーとシーカー、とか?」

 そのままハイドアンドシークで、かくれんぼから取った形だ。
 拠点監視用は隠れて待ち伏せているのでハイダー。潜入調査する側がシーカー。まあ、実際はシーカーも隠れながら調査しているわけだが。
 後はハイダーとシーカーに番号を割り振ってやればいいだろう。

「うん。良いんじゃないかな」

 名前の由来を説明すると、アルフレッドが笑みを浮かべた。では、とりあえず名称も決定ということで。

 そうして――シーカーの実験をしながらも、シリウス号はシルヴァトリア目掛けて進んでいく。航路としてはまず、ジルボルト侯爵の領地を目指して飛ぶ形だ。あちら側でテフラとも落ち合う約束をしているのである。

 海図と磁石、移動速度などを計算しながら現在位置を割り出しつつ進んでいくと……やがて陸地が近くなってきたのか、海図通りの島々が見えてきた。もう少し進めばジルボルト侯爵領に辿り着くだろう。
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