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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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568 戦士達の宴

「これはまた……闘志が湧いてきますね」
「ふむ。そなたは元々勇敢ではあるからな。焚きつけ過ぎてもいかんように思うが」

 同盟締結の宣言に対する俺の感想に、メルヴィン王が冗談めかしたように答える。他の3人の王達も、メルヴィン王の言葉ににやりと笑みを浮かべていた。

「ともあれ、後は食事をしながら騎士団の催しを楽しむと良い」

 部屋の中に次々料理が運ばれてくる。4人の王達はテラス席に陣取り、人目に付きやすい場所から、そのまま広場の催し物を見物するらしい。俺達はあまり目立たないように窓から外を見る、という形を取る。

 運ばれてくる料理は王城の料理人が今日のために手間暇かけて作っただけあり、どれも絶品だ。

「ん。王城の料理はいつも美味しい」

 と、シーラが、ナイフとフォークを動かしながら、そんな言葉を零す。シーラの耳と尻尾が反応している様子に、イルムヒルトやマルレーンもにこにこと笑みを浮かべていた。

 広場では音楽に合わせるように騎士団が飛竜や地竜達に跨り、空中を飛び回る。
 魔術師隊が列を組んで光球や煙幕を放ったりと、それぞれが分担して息を合わせ、魔法による演出を行っていく。
 魔術師隊の演出を受けながら編隊を組んで、航空ショーを思わせるぎりぎりの交差をしたり、速度を合わせて錐揉みしながらの急上昇といったアクロバティックな飛行を行ったりといった具合だ。

「すごい……」

 と、ラスノーテは目を丸くして瞬かせている。王城も初めてなら、こう言った大規模な演武も初めてだろう。見るもの聞くもの、それに出された料理、全てが珍しいといった様子だ。

「ほう。これは見事な」
「魔法の演出は、テオドールのそれを参考にしていてな。1人では賄えんから、ああして息を合わせて、ということになるが」
「ほう。テオドール殿はそんなところにまで影響を」

 メルヴィン王達は落ち着いたもので、そんな会話を交わしながら、ゆったりと食事と催し物を楽しんでいるようだ。

「魔術師隊の皆さんはすごく息が合っていますね」
「ああやって息を合わせるところも含めての演出という部分はあるわね」

 グレイスの言葉にクラウディアが頷く。それは確かにな。騎士団と魔術師隊の連携にも関わってくる部分だし。

「あれは実戦でも応用が利きそうですよね」
「そうね。騎士団と魔術師隊も、以前より交流が増えているそうだし、連携の訓練を積んでいるのでしょう」

 アシュレイの言葉にローズマリーが答える。うん。それは何よりではある。
 さて。騎士団はと言えば何やら、空中で飛竜を駆る騎士同士が入れ替わるなど、曲芸じみた新技まで披露していた。

 空中戦装備が行き渡って、落下する危険が無くなったから練習できるような技だろうとは思うが、見ているほうに与えるインパクトはかなりのものがあるようだ。迎賓館からどよめきが起こったりしていた。ファリード王にも受けが良いようである。

 騎士同士と飛竜達との連携、練度等々、高い水準の技量が要求されるのは間違いない。見た目にもインパクトがあるし、仲間がそういった高い技量を持っているというのは、これから共に戦おうということならば心強くもあるだろう。歓待の催しではあるが、そのまま士気の向上にも繋がっているというわけだ。色々考えられているな。

 ヴェルドガルの正規騎士団の催し物が終わると、続いて討魔騎士団もエリオットの号令一下、一斉に空へと舞い上がる。
 先頭を行くエリオットが、後方に水魔法で氷の的を次々に作り出すと、飛竜や地竜達に突撃用シールドを展開させたチェスターやメルセディアが正確に的を砕き、通常の飛行ではありえない、ジグザグの複雑な軌跡を描きながら交差していく。

 討魔騎士団は正規軍とはまた違う空中戦訓練をしているからな。飛行の仕方が異質であるのは傍目にも分かるだろう。
 特に――エリオットの動きが際立っている。レビテーションで慣性を殺し、シールドを蹴っての反射移動。そこからのミラージュボディでの分身と……これも衝撃的な光景だったようで、迎賓館のシルヴァトリアの騎士達などは総立ちで拍手をしていた。

 そんな調子で騎士団による催し物は、援軍の将兵達の士気を大いに盛り上げた。

「各人、実に見事であった。酒と料理を用意した故、今宵はそなた達も存分に飲み食いし、互いに絆を深め合うと良い」

 そうして催し物が終わるとメルヴィン王が立ち上がって広場に声を響かせた。将兵達の交流の時間を設けているのだ。



 楽士達が楽しげな音楽を奏で、各陣営の将兵、騎士達が交ざり合って酒を酌み交わす。王城の広場はそうして、いつになく賑やかな雰囲気に包まれていた。
 主にシルヴァトリアから色々な幻獣達が集まっているので、それを囲んで撫でていたりする将兵達もいた。

 だが……何故かそれがコルリスの巣穴の近くであったりして。
 コルリスは勿論の事、アルファとリンドブルム、ラヴィーネにエクレール、ベリウス、フラミア、ラムリヤと……使い魔達がそこに混ざっていたりする。

 多分、ラヴィーネ達がコルリスの巣穴の近くで待機していたから、飛竜や地竜に、各国の幻獣達もそこに集まってしまったのだろう。まあ……問題はなさそうなので、予定通り将兵達の様子を見てくるとしよう。

「あのエリオット殿の動きは凄かったですな」
「シルヴァトリア王国の魔法騎士団では、ああいう動きを教えているのですか?」
「いやいや。あれは魔人殺し殿の技法でありましょう」
「うむ。あれと同じ動きをしているところを戦場で見たことがある」
「なるほど。魔人殺し殿と同じ訓練を積んでいるというわけですな。それはまた、羨ましい話だ」

 流石に酒盛りにまでは加わらないにしても、俺達も将兵達の交流の場に顔を出しておいたほうが士気の盛り上げになるだろう。
 一応魔人殺しの情報は偽情報を流しているが、この場に顔を出している将兵達は、分かっている面々ではあるし。

 というわけで、許可を得てからみんなと共に広場に降りていくと、各国の騎士達が早速交ざって酒を酌み交わしながらそんな話題で盛り上がっていた。
 先程の内容は彼らにとってかなりの刺激になったらしいな。興奮冷めやらぬといった様子であるが。

「おお、これはテオドール殿。それに皆様も」

 と、1人が俺に気付くと、こちらに視線が集まる。各国の面々に、顔見知りもちらほらといるな。

「こんばんは。皆さん盛り上がっていらっしゃる様子で」
「それはもう。武人としてあのような見事な演武を見せられたら、弥が上にも気合が入るというものです」
「明日からは我等もヴェルドガル騎士団と共に訓練を積むことになりますからな。実に楽しみです」
「討魔騎士団とはご一緒できないのが残念ではありますが、各国から武人が集まっておりますからな。そういう意味でもいい刺激になっております」
「なるほど。そうでしたか」

 彼らの言葉に俺が頷くと彼らは笑みを浮かべ、それから俺達に向かって敬礼をしてきた。

「我等一同、御武運と、旅のご無事をお祈り致しております」
「――ありがとうございます」

 そう言われて、将兵達に一礼を返す。これは……こちらとしても気合が入るな。
 明日すぐにベリオンドーラに到着というわけではないが、モチベーションは上がる。場の空気に当てられるというか、何というか。

 そうしていると、同じように将兵達に挨拶回りをしていたらしいエリオットがこちらにやって来る。俺達と一緒にやって来たカミラが、エリオットの隣に並んだ。

「ああ、エリオット卿。演武と部隊指揮、お見事でした」
「ありがとうございます。テオドール卿も挨拶回りといったところでしょうか?」

 エリオットは笑みを浮かべて一礼すると、俺に尋ねてくる。

「はい。僕達もこちらに顔を見せたほうが良いのかなと」
「では共に挨拶回りに参りますか?」
「そうですね。この後も予定がありますが、時間が許す限りはといったところでしょうか」

 エベルバート王は俺達と共にシルヴァトリアに向かうことになるし、ファリード王もそれほど長居はできないので、タームウィルズの滞在期間は短い。予定が詰まっているのである。
 夕食と酒盛りの状況が一段落したら、賓客と共に劇場や温泉に足を運ぶということになるだろう。時間が来れば呼びにくるはずだが、それまでは将兵達に挨拶をして来ようと思う。
 何というか……それで互いに士気が上がるのなら、お安い御用というところだ。そう思っていたのだが、広場に王族の面々も姿を現した。

「これは陛下――」

 と、将兵達が敬礼するが、メルヴィン王は笑みを浮かべて手で制する。

「良い。そのまま宴を楽しむが良い。余らが直接ここに姿を見せると恐縮させてしまうかとも考えたが、そなた達の鼓舞にも繋げたくてな。テオドールやエリオットと共に、将兵達の顔を見て回ることにしようと思ったのだ」

 メルヴィン王はそう言って、俺達を見て笑みを浮かべた。なるほど。
 王族の面々が姿を見せたので各国の王の名を称える声が、あちらこちらから上がった。そしてそれは同盟が締結されたことを祝い、称える声に統一されていき――やがて広場に将兵達の喜びと気合の声が響き渡ったのであった。
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