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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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567 対魔人同盟

 みんなで馬車に乗って家を出る。そろそろ夕刻になろうかという頃合いだ。先日からの雪も、タームウィルズの場合はすぐに主要な道からは除けられてしまうので馬車による移動も支障がない。

「お待ちしておりました」

 王城セオレムに到着すると、すぐに女官達によって案内を受けた。
 今回は迎賓館ではなく、いつもメルヴィン王が練兵場広場で謁見をする際に使われる塔の方へと通された。
 何やら迎賓館や練兵場周りに風魔法によるフィールドなどが張られていて、広域で温かく過ごせるように配慮がしてあるらしい。割と大掛かりではあるが、タームウィルズに来ている顔触れを考えれば納得というところか。
 塔の上階に通されると、そこは迎賓館や広場を一望できるテラス席に繋がる一室であった。貴賓室といった風情であるが、かなり広々とした部屋だ。
 ソファやテーブルが並べられ、そこに飴細工や砂糖菓子などが綺麗に盛り付けられていた。
 窓からの眺めも良いが……魔法や弓矢による狙撃を避けるためにテラスの周りや窓には結界が張られているようだ。VIP中のVIPを通す部屋といったところか。この分ならカドケウスの護衛等も必要なかったかも知れないな。

 部屋にいたのはメルヴィン王を初めとし、エベルバート王、ファリード王、エルドレーネ女王に加え、ジョサイア王子にヘルフリート王子、ステファニア姫達3人。更にその護衛や数名の側近達という顔触れだ。
 過去のヴェルドガル国王であるイグナシウスもいるし、ロヴィーサやマリオンもここに通されているようである。

 精霊王達は、俺との約束があるからと、今回は出席できなかったらしい。ドミニクの故郷探しを頑張っているようだ。
 メルヴィン王は少々残念がっていたが、そういった気持ちはちゃんと自分達に届くからと、マール達は言っていた。

「ただいま参りました」
「おお、来たか。宴の幕開けはもうそろそろ、といったところだ。それまではゆっくりと寛ぐといい」
「ありがとうございます」

 空いているソファに各々が座ると、女官達がやって来てティーカップにお茶が注がれた。
 テラス席に出なくても、室内のソファから広場が一望できるようになっているようだ。

「とはいえ、エリオットには討魔騎士団の団長として、広場に向かってもらう必要もあるがな。その時が来たら知らせよう」
「畏まりました」

 エリオットが立ち上がり、静かに一礼する。
 宴というのは各国の国王と援軍の到着に対して、歓迎の意を示す歓待の宴であり、討魔騎士団のベリオンドーラ調査が成功することを祈願してのものでもある。そのため、かなり大きな宴になることが予想された。

 ふむ。迎賓館には援軍にやって来た将兵達が通されているようだ。彼らも歓待を受ける側だからな。国内の出席者と援軍の将兵達とで迎賓館側が手狭になってしまったから俺達はこちらに呼ばれたのだろう。グランティオスの将兵達も来ているようだし。

「丁度、そなたらの話をしていたのだ。何せ、そなたらは各国の国王の前で派手に大立ち回りを演じておるようだからな」
「そうだったのですか」
「うむ。今は余がカハールの奴めを征伐に行った時の話をしていたのだ。あの、闇を白々と照らす大火球は凄まじいものがあったな」

 ファリード王は上機嫌な様子であるが、俺としては俺の話を肴にされる席というのは若干居心地が悪いというか。まあ……共通の話題としてはそうなるのか。

「中々大変そうね」
「んー、そうだね」

 静かに目を閉じるクラウディアの言葉に、曖昧に笑って頷く。クラウディアは月女神としての自分が話題に上るとこういった感じなのだろうとは思う。
 俺だけではなく、グレイス達の戦いぶりも話題に出たりして、みんなも若干気恥ずかしそうな様子だ。ローズマリーは羽扇で顔を隠して表情を読ませないようにしているし、マルレーンはみんなの話題が楽しいのかにこにことしていたが。
 そうしていると、女官がエリオットを呼びに来た。

「それでは行って参ります」
「うむ」
「カミラも、また後でね」
「はい、あなた」

 そう言ってカミラはエリオットを穏やかな笑顔で見送った。

「エリオットか。あの者もまた優れた戦士だな」
「うむ。シルヴァトリアでも指折りの実力者であったからな」

 ファリード王が言うとエベルバート王が頷く。それからエリオットの話題にもシフトしたりしていた。こういった雑談なども、自己紹介なども兼ねているところがあるのだろう。

 メルヴィン王とエベルバート王は元々友人関係であったようだし、ファリード王にしろエルドレーネ女王にしろ、性格的な部分では合うところがありそうで4人の王は楽しげに談笑をしている。

「――いやはや。砕かれた慈母像を欠片を繋ぎ合わせて修復したのは神業であったな」
「何と。欠片から元通りに、とは」
「それは……一度見てみたくはあるな」

 エルドレーネ女王がグランティオスでの慈母像の復元の話をして、エベルバート王やファリード王が感心したように声を上げる。
 そういった話で盛り上がっていると、やがてメルヴィン王が視線を広場へと向けて言った。

「ふむ。そろそろ始まりといったところか」

 広場では騎士団と魔術師隊が既に準備を整えて、隊列を組んでいた。
 程無くして鎧にサーコートを纏った出で立ちのエリオットと、彼に率いられた討魔騎士団も姿を見せ、広場の一角に隊列を組んで陣取る。
 ビオラとエルハーム姫が作った防具で揃えた討魔騎士団の姿は、内情は寄合所帯であるが部隊としての統一感があって、中々に人目を引く。
 討魔騎士団も日々厳しい訓練を積んでいるからか、統率が取れているのが傍目にも明らかで、堂々としたものだ。

 ラッパが吹き鳴らされると、厳粛な空気と共に広場と迎賓館のざわつきが静まっていく。

「では――余らも行ってくるとしよう」

 そう言ってメルヴィン王達、国王4人が立ち上がった。テラス席に向かい、横並びに姿を見せると、拍手と歓声で迎えられる。
 メルヴィン王がヴェルドガルを代表し、歓声に応えるように両手を広げる。そうして高まる歓声を受けながらも、身振りでそれを制し、場が収まるのを待ってから口を開いた。

「今宵はよく集まってくれた。こうして各国からの盟友と、高潔にして勇敢なる戦士達をここに迎えられたことを喜ばしく、そして心強く思う。まずは余の盟友達に。そして結ばれた同盟に感謝の意を示したい」

 盟友――シルヴァトリア、バハルザード、グランティオスの三国の王達の事を示す言葉であると共に、4ヶ国間で結ばれた同盟関係、それぞれの国民、()いては騎士達に対しても盟友という言葉を掛けているところもあるだろう。
 メルヴィン王の言葉をエベルバート王が引き継ぐ。

「余らは……それぞれが魔人によって国難を受け、そしてヴェルドガル王国の若き英雄によって助けられた身。ならば、その恩を今こそ返すために力を集めるは当然のこと」
「そう。若き英雄はデュオベリス教団の教祖を討ち下したばかりでなく、魔の者の力を借りた大逆者の鎮圧にも快くその力を貸してくれた。我等バハルザードの民は受けた恩を忘れぬ。戦士の誇りを忘れぬ。それ故にここにいる。我等の剣と戦士の誇りはヴェルドガル王国と共にある」
「それは海の民も同じこと。古き魔人の脅威を退け、グランティオスに慈母の威光と平穏を取り戻してくれたことを忘れぬ。肩を並べ戦った戦友が苦難の時を迎えようとしている今、力を貸さぬようであれば子々孫々までの笑い種であろうよ」

 ファリード王とエルドレーネ女王が言葉を続ける。そうして4人の王は一斉に酒杯を掲げ、声を揃えた。

「故に、我等は一堂に会し、ここに対魔人同盟を締結し、結束することを宣言する! 国難を退け、平穏を取り戻し、共に栄えんことを月女神と精霊王に誓うものである! 魔人殺しの英雄と、討魔騎士団達の任務の成功を祈願し、そしてここに集まった戦士達に武運があらんことを願うものである!」

 そう言って――4人の王が同時に酒杯を呷った。
 その光景に居並ぶ将兵、貴族達から大きな歓声と喝采が巻き起こる。4人の王は満足げに頷く。ラッパが吹き鳴らされて、勇壮な音楽が奏でられ始めるのであった。
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