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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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564 作戦会議とゴーレムと

 アルフレッドやヘルフリート王子も迎賓館にやってきたところで、更に話し合いを重ねていく。
 自分ならばタームウィルズを攻略するためにどうするか、という点から相手の出方を考えるわけだ。

 現時点で推定される敵の手札と、敵の隠し玉がこちらの前提をひっくり返すものならどうするか。
 最大の問題となるのはこちらに送り込まれている瘴珠なのか、それともベリオンドーラにある鍵に絡んだ何かなのか。

「もしベリオンドーラのお城で魔物を作れるとして、その集団で街を襲わせたとしても、本命はそれじゃない、と思う」

 俺の言葉に、シーラが小首を傾げながら言った。

「つまりは、混乱を誘っての陽動?」
「そうだな。盟主の復活が目的なら、タームウィルズへの攻撃は本命にならないと思う」

 総力戦で地上を攻撃するとしてもそれは混乱や戦力の分散を狙ってのものだと俺は思う。大軍をいきなり送り込めるのであれば、逆に精霊殿の宝珠襲撃の際にやっているだろうから。

「今までだって、迷宮の奥に精鋭を転移させてきたものね。テオドールが最初に戦った魔人……リネットだったかしら? あれの研究と技術かしらね」

 ローズマリーが顎に手をやりながら思案する様子を見せる。それに応えたのはクラウディアだった。

「仮に迷宮の理を超えて内部に転移してくるのであれば、私はそれを察知できるけれど……。それも今まで通りとは限らないわね。私の探知能力を誤魔化す手段がないと考えるのは油断だわ」
「それも、あるかもな。だから、迷宮にゴーレムを送るっていう手を考えた」

 と言うと、皆の視線がこちらに集まる。

「通信機に対して連絡手段を持つゴーレムを作るわけだ。元々自分の意思が無いゴーレムなら、クラウディアが迷宮村で使っていた、村人を魔物からの襲撃を避けるための腕輪を装備させてやれば……」
「迷宮の魔物と同様に扱われるわ。攻撃を仕掛けない限り、各所のガーディアンにも襲われたりはしないでしょう。但し、ラストガーディアンは除くけれど」
「有事の際に、私達にだけ連絡を取れるゴーレムを作る、というわけですね」

 クラウディアが目を閉じ、アシュレイが感心したように頷く。
 そういうことだ。侵入されてからでも転移魔法で対処に向かうことが可能になる。

「そうなると……配置場所は王城、月神殿、精霊殿、月光神殿あたりになるでしょうか」
「かな。この際、ゴーレムに余計な機能は付けない。最低限の機能に特化しているだけで良い」

 グレイスの言葉に頷いてアルフレッドを見やる。

「そうだね。ゴーレム自体はテオ君が作るわけだし、そこに必要なものを組み込むだけでいいから大した手間ではないと思う。エルドレーネ陛下の提案なさった、広域拡声器の魔道具も含めてすぐに作れると思うよ」

 アルフレッドは任せてくれとばかりに答える。

「セラフィナちゃんの協力があれば、そういうのに向いた魔石もすぐつくれるものね」
「うんっ」

 ヴァレンティナが笑みを向けるとセラフィナも元気良く答える。
 ベリオンドーラ出発も差し迫ってはいるが、それほど多機能にするわけでもないし、ゴーレム作成についても色々勉強したからな。既存の技術の応用で7体ぐらいは然程時間もかからずに作れるだろう。

「総力戦となっても対応は可能、か。さて。そうなると……残る問題はあの瘴珠か」

 メルヴィン王が腕組みをしながら言う。
 ……瘴珠か。
 あれは盟主の封印に関わっているものだ。盟主の復活を目論むのなら、連中にとってもどうしても必要なものでもある。

 こちらに渡しても良いと思っているのなら、破壊されても構わないと考えているのだろうし、隠蔽されても探し出せるか、或いはそれも無効化するような仕掛けがあると見るべき……というのは今までにも話してきた。

「使い方に関してはいくつか可能性を考えてきたけど……敵を引きつける餌としてこっちが逆用する、っていう手も有りかな」
「こっちからも陽動を仕掛ける、みたいな?」

 イルムヒルトが首を傾げる。

「そう。俺達の手にあっても、魔人達の手にあっても構わないって連中が考えてるにしてもさ。連中が利用しようとする時は必ず来るわけだから」

 利用しようとする時があるならば、それは封印解放の日になる。瘴珠をどうにかしようと考えるなら、こちらもギリギリを見極めないといけない。

「宝珠を奪えないなら瘴珠をこちらに送り込んで、後で何かしらに利用するというところまでは間違いあるまい……。敵方の次善の策の状態が今であるなら、仮に敵に回収されたとしても元の状態に戻るだけで、今より状況が悪くなるわけではあるまい。それさえも罠という可能性もあるが……。分としてはこちらの方が良いのではないかと、余は思う」

 メルヴィン王が言った。
 そうだな。瘴珠がトロイの木馬か時限爆弾かは分からないが、拠点で抱えている状況というのは、どうにもよろしくない。破壊にも盟主復活のリスクが付き纏うとなれば、いっそ連中に返してしまうぐらいの大胆さで動くのも1つの手だろう。

 後はベリオンドーラの様子を調査し、こちらの立てた推論が合っているのか間違っているのかを見極め、状況に即して修正を加えていくだけだ。



 そうして、王城での話し合いは終わり――時間の許す限りギリギリまで準備をし、対策を考えながら過ごすこととなった。
 話し合いの後に向かったシルン男爵家の夕食の席でも、ケンネルなら、ドナートなら、ベリーネならどうするか。先代シルン男爵ならどう動くか、などという話題が飛び出す始末だ。まあ、これはこれで有意義な時間の使い方ではあったと言えよう。

 出発のその日まで、討魔騎士団は造船所で空中戦の訓練だ。ウェルテスとエッケルスは空中戦装備を手に入れてからまだ日が浅いが、元々身体を浮かせて行動するというのは彼らにとっての得意分野でもあったために、他の皆と比べてもかなり上達が早く、コツを掴むのが上手いとのことで、頼もしい団員だと皆から認められている様子である。

 俺達は俺達で、造船所での訓練に加わりつつ、シリウス号内部の工房設備を用いてゴーレムを作ったりしていた。

「これが新しいゴーレムかの。ふむ」

 と、甲板にやってきたジークムント老が、出来上がった斥候ゴーレムをしげしげと見やる。

「まあ、見た目は地味になってしまいましたが」
「いやいや。斥候用と考えれば、これは長所じゃろ」

 星球庭園の庭師――パンプキンヘッドの制御メダルや、樹氷の森のスノーゴーレムの制御メダルを組み込んで、性能を強化してあるが、基本的には斥候用として仕上がっている。

 見た目は目立たないように小柄で、基本的には石ころや土塊に似ている。
 色々と偽装に気を遣ったので、膝を畳んでじっとしていれば自然の石や土塊にしか見えないという、まあ……地味だが中々悪くないのではないだろうか。

 素体は金属製であるが光沢は抑えられており、頭が大きく身体は小さい。よく見ると目に相当する部分があり、必要なら手足を伸ばしてちょこちょこと動き回ることができる。セラフィナなどは、これに乗って移動するのが最近のお気に入りだ。

「鎧を解除すると丸くて結構可愛いのよ、この子」

 と、足元をちょこちょこと歩いてきた斥候ゴーレムを、ステファニア姫が抱き上げる。ああ。うん。ステファニア姫も妙に斥候ゴーレムを気に入っているな。

 内部にはクラウディア謹製の迷宮村住人の装備しているものと同じ腕輪、それから通信機と同じ構造の魔道具が組み込まれており、自分のいる区画に侵入者を発見すると、こちらに報告を飛ばしてくる。

 同様に、ゴーレムが機能停止した場合も組み込まれた契約魔法により、自動で警戒のメッセージが送られてくる、という寸法である。このあたりは通信機に使われている技術の応用だな。

 ステファニア姫が言及した通り、土魔法で生成した石、或いは土の鎧を身に纏っているだけなので、天井、壁、床等々土魔法でくっ付いて同化、擬態し、色々な場所、角度から目立たないように監視が可能だ。

 視覚と聴覚に優れているのも、ベリウスの器を作成した技術からのフィードバックだ。
 あのメダルは、ことゴーレムに関することなら、制御術式を色々記述できたりと中々使い勝手がいい。

「まあ、少し多めに作ってしまいましたが」

 最初は7体作る予定だったが、全部で10体になった。1体目が出来上がれば、同じ術式で量産していくだけなので。

「ベリオンドーラの調査にも使えるんじゃないかとか、アルフレッドが言い出したものねぇ」

 ローズマリーが羽扇の向こうで笑いながら肩を竦める。あー。うん。10体目に関しては今現在アルフレッドが調整中であるが。
 当初の予定より増えた3体はアルフレッドの提案通りベリオンドーラの調査に使うつもりではいる。こちらの3体に関しては腕輪を外し、もう少し判断能力などを強化したりと、移動中にもう少し改造を加えるつもりでいるが。

「実験は終わっておるのかな?」
「ええ。精霊殿と王城で、既に実験済みです。拡声器の設置はどうですか?」
「うむ。こちらも滞りなく終わったぞ」

 ジークムント老とそんな話をしていると、甲板にアルフレッドとマルレーンが上がってきた。

「はぁ。よく働いたよ」

 一仕事やり終えたという感じでアルフレッドが両手を大きく上に伸ばして身体を(ほぐ)している。マルレーンが手に持っている丸い物体は、鎧を纏う前の斥候ゴーレムだ。
 マルレーンが斥候ゴーレムを甲板の上に置くと、少しちょこちょこと歩いたところで土の鎧を作り出し、そのまま甲板の縁まで行くと、じっと動かなくなった。
 何というか。基本的に目立たないように動こうとするのだ。こちらに来るように呼ぶと、土塊が甲板の上を滑るように向かってくる。
 それを拾い上げ、アルフレッドに声をかけた。

「お疲れ様、アル」
「ありがとう。少し船室で眠って来ても良いかな?」
「勿論。寧ろゆっくり休んで欲しいんだけどね」
「了解。でも調整が失敗してたら、起こしてね」

 そうだな。その場合、しっかり睡眠を取ってもらってから起こすとしよう。シリウス号の中に向かっていくアルフレッドの背中を見送る。
 さてさて。これで出発前にやれることは全てやった、というところだろうか。明日明後日中には、船でバハルザードやシルヴァトリアからの援軍が到着するとのことだ。

 封印解放の日にはまだ間があるが、旅の疲れを癒したりタームウィルズの風土に慣れたり、連携のための訓練をしたりと……時間が必要なところもあるからな。
 ともあれ、彼らと顔を合わせてから俺達も出発するということになるのだろう。
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