挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

578/1266

558 そしてこれからの為に

11月27日、18:30頃、
「557 少年の胸中に」にて、領民達との過去の経緯が分かりやすくなるよう、若干の加筆を行いました。
話の流れには変化はありません。
 立ち上がって欲しいと伝えても、領民達は動けずにいた。
 もう一度立ち上がって欲しいと言って、手を取って身体を支える。それでようやくハドリーがよろめきながら身体を起こした。

「申し訳ありませぬ……」
「いえ。その言葉は明日、母さんに伝えて下さい。僕は、もう良いのです」
「はい、必ず……」

 首を横に振って答えると、ハドリーは俯く。

「服が濡れたままでは身体に障るでしょう。少々魔法を使いますよ」

 雪の上に跪くような形になっていたからな。高齢のハドリーには堪えるだろう。断りを入れてから水魔法で衣服を乾かし、体温が下がらないように火魔法のエンチャントを用いる。

「……これは」

 自身の変化にハドリー達は目を見開いた。

「魔法の才がある、とはお聞きしておりましたが」

 ハドリーはそう言って目を閉じる。
 領民達からしてみると、それは母さん譲りの魔法の才能という受け取り方になるのだろう。
 母さんの面影があると言われるけれど、そういうところも領民達にしてみれば思い出してしまうから、見ているのが辛かったのかも知れない。
 あの事件以降、なるべく接することがないように距離を置こうという対応は、そういうところからも来ていたのだろう。
 驚いたような表情を浮かべる領民達が、やがて1人2人と立ち上がる。

「ハドリー達には伯爵家に滞在して貰うことにしよう。この寒さだ。体調を崩してもいかん」

 話が一段落したところで父さんが口を開く。

「分かりました」
「カーター達は、後から迎えをこちらに向かわせるよ。家出などの事情はこちらから説明しておく」

 少し声のトーンを落とし、父さんが言う。ん……。そうだな。
 後で俺達も父さんの家に足を運ぶわけだし、領民達ともその時に顔を合わせることになるだろう。それまでに、親子で話をしておいてもらうという形でいいだろう。
 さっきの話の顛末は、約束通りカーター達に俺から伝えておく。
 その上で色々考えてもらって、少し時間を挟んでから話をしたほうが、お互いに冷静に話ができる部分はあるだろう。



 まだカーター達がいるのでダリルは家に残ることにしたようだ。
 父さん達は馬車で伯爵領へと戻っていった。それを見送った後、母さんの家の居間で、先程のハドリー達との話の顛末を聞かせる。
 カーター達は静かに俺の言葉に耳を傾けていた。

「――俺とグレイスは、確かに謝罪を受けた。明日、母さんの墓前に一緒に行くっていう約束もした。だから……カーター達も、これ以上はあまり強く言わないでやって欲しい」

 あの時の行動は恐怖もあるだろうけれど、家族を守りたいという思いもあってのものだ。
 そして、あの日からの生き方に後悔を見て取ることができたから、彼らの言葉を信じることにした。
 まあ、だからと言ってすぐに笑い合えるかと聞かれると難しいところではあるが、それは時間を使って解決するしかないのかなとも思う。

 家族を思うというのは、子供達もそうなのだろう。
 後悔を抱えて生きている両親達を心配していたからこそ口論になったのだろうし、家出して俺に会いに行くという行動に出たのだろうから。
 俺と領民達の話が一応は付いたとはいえ、そのことが原因でまた別にわだかまりができるなどというのは望んでいないし。
 俺が今日彼らに会って思ったことなどを交えて話をする。

「分かりました。あの……お願いがあるんですが」

 それが終わると、カーターは顔を上げ真剣な表情で頷き、俺に尋ねてくる。

「ん?」
「俺達も……リサ様のお墓に一緒に行っても良いですか?」
「ああ。それは、母さんも喜ぶと思う」

 こっちは当事者であるとか何とか、関係が無い話ではあるな。そう答えると子供達は顔を見合わせて笑みを向け合っていた。
 そっとグレイスを見ると、彼女も微笑みを返してくる。

「カーター達は、母さんのことを知っているのかな?」
「かなり小さい時に、一度風邪を治してもらったことが……。とても、優しそうな人だなって……」
「俺もです」

 カーターを含め、3人程面識があるらしい。年齢からすると物心がつくかつかないかの頃に、といったところだろうか?
 3人とも同じ理由なので、或いは領内で風邪が流行った年があったのかも知れない。

「あの時は、親父やお袋も、これで安心だ、なんて。楽しそうに笑っていたなって……」

 そう言ってカーターはティーカップに注がれた茶の水面に目をやりながら、どこか遠いところを見るような表情をする。

「今回のことで……そういうのが戻ってくると良いね」

 俺の言葉に、カーターは顔を上げ、少しだけ照れ臭そうに頷いた。
 子供達の反応や考え方を見る分には、親子関係も段々と良くなっていってくれそうな気もするが。

「何か困ったことがあったら、相談に乗るし、できることがあるなら力になるよ。俺だって後嗣なんだし。本当ならカーター達には、聞かせるつもりも無かったんだ」

 と、ダリルが言った。
 結果は結果としても、ダリルは子供達に知られてしまった事に責任を感じているらしい。
 だが、ダリルの言葉は子供達にとっては心強いものだったようだ。
 わだかまりを溶かしていってくれるのは、時間だけではない、か。ダリルもそうだが、父さんも良い方向に向かうように気を配ってくれるんじゃないかと思う。

「いえ、ダリル様には俺達、感謝してます。あの話が無かったら、ずっと事情なんて知らずにいたんだろうし」
「そう、かな」
「はい」

 子供達が小さく笑って頷いて、ダリルは少し自信無さげではあったもののはにかんだような笑みを返した。
 そんな話をしていると、子供達を迎えに馬車と護衛の兵士達がやって来た。

「それじゃ、俺達も戻るよ」

 そう言ってダリルが立ち上がると、子供達も後に続く。

「うん。後でまた」

 ダリルと子供達は、馬車に乗って伯爵領へと戻っていった。雪景色の中を去っていく馬車を見送って、家の中に戻る。

「ん。色々大変だった」

 と、戸口のところまで戻ってくると、シーラが布で俺の髪や衣服についた雪を軽く払ってくれた。

「ありがとう。俺も……結構肩が凝ったよ。杖を振り回していれば解決するってものでもないし」

 そんなふうに冗談めかして肩を竦めると、みんなが小さく笑う。幾分か空気も柔らかくなっただろうか。

「ね、テオドール、見て見て!」

 と、セラフィナが俺が空気を変えようとしたことに応じるように、テーブルの上でくるくると踊り出す。
 と、スプーンやフォークがセラフィナに合わせるように立ち上がり、列を成してテーブルの上でくるくると舞った。コツコツとテーブルを鳴らしてリズムを取る。

「ああ。面白いな、こういうのも」

 俺がそれを見て言うとセラフィナも嬉しそうに笑みを浮かべた。丁度劇場でも幻術を使った演出だとか考えているしな。
 演出としては、こういうのも有りかも知れない。決して壮大ではないが身近な物が踊る分、コミカルで割合楽しくなるような印象があるというか。

「踊りには、音楽が付きものね」

 そう言ってイルムヒルトがリュートでセラフィナの踊りに合わせるように穏やかながらも、どこか楽しそうな曲を奏で出す。セラフィナの踊りとイルムヒルトの曲を、みんなでテーブルを囲んでのんびりと眺める。

 その内にマリオンも歌い出したり、マルレーンも前から練習していた笛の成果を見せてくれたりした。技術的に突出しているというわけではないが、丁寧に奏でていて、聞いていて心地良い。
 使い魔達も音楽に合わせて軽く首を動かしたりと、中々和む光景だ。それ見て茶を飲んで、大きく息をつく。伯爵家に行く時間まで、こうやって過ごさせてもらおうかな。今日はもう、何もしない。

 母さんの墓参りに帰って来て色々思わぬ騒動はあったが……何とか落ち着くべきところに落ち着いたのではないかという気はする。
 領民達も墓参りに来るから、いつも通りというわけではないが……何となく、気持ちが軽くなったような気がする。

 領民達への答えがあれで良かったのか。自問しても答えはない。
 そもそも正しいとか、正しくないとか、そういう性質の問題ではないとは思うが……こうしてみんなと穏やかな時間を過ごして、笑い合えているというのが結果の全てなのだろうと、そう思う。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ