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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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556 領主と後嗣と

 カーターはと言えば……家に来て経緯を話した後、ハロルド達と共にステファニア姫達やエリオット、ピエトロから使い魔達の紹介を受けたりと、茶を飲みながらゆっくりとしていた。
 オルトナやラムリヤ、エクレールのような、比較的体格が小さくて見た目の剣呑さが少ないものから慣らしていき、段々とラヴィーネ、フラミア、続いてコルリスにベリウス……と、大きな体格であったり剣呑な見た目のほうへと移っていったらしい。

「ほら。大人しいですよ」
「んん……そうだね。よ、よろしく、ベリウス」

 シンシアはベリウスを軽く撫でて、カーターは少しおっかなびっくりと言った調子でベリウスに挨拶する。ベリウスはと言えば寝そべったまま顎を床につけて、前足を重ね合わせ、応じるように軽く首を動かしていた。あれはあれで威圧しないようにというベリウスの配慮なのかも知れない。

 ハロルドとシンシアは……カーターの話を受けて、割合カーター達に好印象を抱いたように見える。
 2人は使い魔達にも慣れたもので、ハロルドはコルリスに鉱石を食べさせたりしていた。

「話は終わったよ」

 と、そんなカーターにみんなとの話や、父さんやダリルと馬車の中で話したことの顛末を聞かせる。
 カーター達の両親と会って話をするつもりがあることや、その内容如何に関わらず、処罰等は考えていないことなどをはっきりと伝えて、安心してもらっておく必要があるだろう。

「でも……親父達はどこかに行っちゃってて……」

 俺から話を聞いたカーターは、そう言って目を伏せる。

「逃げているんじゃなく、隣町に話をしに行ったんじゃないかって俺は思ってるけどね。まあ、父さんが何か知っているかも知れないし」

 そんな話をしていると、家の前に父さん達を乗せた馬車がやって来たのであった。



「……ごめん、テオドール」

 玄関口まで父さん達を迎えに行くと、馬車から出て走ってきたダリルから頭を下げられた。

「ん、どうしてダリルが謝るんだ?」
「いや……。俺があの子らの親のところに、相談に行ったんだ。今のテオドールとの関係をどう思ってるのかとか、これからの事とか。だから……それが原因で今の騒動になってるんだと思う」

 そうか……。ダリルからしてみると、カーター達の要求を考えれば口裏を合わせてダリルを庇っていることに気付いてしまうだろうしな。そうなると今騒動が起こっている事の責任を、自分に求めてしまう、か。

「こうやって騒ぎになっているって事は、もっと慎重に行動するべきだったんだ。テオドールからしたって――」
「迷惑だ、なんて思ってないよ」

 ダリルの言葉に先回りするように言うと、ダリルは目を見開いた。

「それはダリルが、後嗣として考えた上での事なんだろ? 俺からは多分、何もしなかったと思うしさ。でも、馬車の中でも言った通りだよ。話をすること自体は拒否したりしない。だから……今回のことは良い機会なのかも知れないな。ありがとう、ダリル」

 改めて礼を言うと、ダリルは驚いたような顔をしていたが、やがて静かに頷いて目を閉じる。

「分かった。俺ももう、起こったことに悔やむだけなんてことはしない。起こった問題を上手く解決してやるのが領主の仕事なんじゃないかって思うし――そうするよ」

 そう言って顔を上げるダリルは、決然とした表情を浮かべていた。ダリルの言葉は、メルヴィン王やエルドレーネ女王、ステファニア姫達や馬車から出て来た父さんにとっても思うところがあるのだろう。メルヴィン王達は、静かにダリルのその言葉を聞いていた。

 何かを決断して行動すれば、良くも悪くも状況は変わっていく。あれこれと噴出する問題を解決するなり緩和するなりして、なるべく多くの者が笑えるような着地点を模索してやるというのが……為政者の仕事なのだろう。
 口で言うほど簡単なことではないし、そこには重責が伴うが……そういったことからは距離を置いている俺が、あれこれと語るのもおこがましい話ではある。少なくとも、ダリルの考えは好ましくはあるけれど。
 思考を切り替えるように、父さんに向き直る。父さんの背後――馬車の中から、カーターの仲間である子供達が顔を覗かせている。

「父さん、カーターはこちらで保護しております。他の子供達も交えて、カーターから聞いた話の経緯を説明してしまおうかと思いますので、どうぞ家の中へ」
「うむ。私も……領民達から相談を受けていてな。その話もさせてもらおう」

 そうでなければ馬車の中で聞いてくるというのも考えにくいしな。
 まずはカーターにしたのと同様、顛末を話して安心してもらうというのが先決だろうと思う。



「ごめんなさい……って言っていいのかな」
「ありがとうっていうのも……多分違うし」

 カーターやみんなとの話であるとか、そう言った経緯を子供達も交えて話をした。
 領民の子供達は俺に何と言うべきか、戸惑っている様子だ。謝るつもりで俺のところに来たのに、当事者の子供が謝る必要はないと、先に言ってしまったからな。

「大丈夫。気持ちは伝わってるよ」

 そう答えると、子供達は顔を見合わせた後でこちらに向き直り、真剣な表情で頷いていた。

「というわけですので、脱走したことについては関係者共々不問にして頂けると助かります」
「分かっているよ。脱走の手際が中々に見事でな」

 俺が冗談めかすように言うと、父さんは応じるように軽く笑って答えた。
 兵士達もな。相手が犯罪者というわけではないし、仮に犯罪者であれば牢のように中の様子が窺える場所に閉じ込めたと思うので、その場合は易々と脱走されるということもあるまい。同様の事件が起きた場合の再発防止策なども考えてくれるだろうしな。

「では……私からの話もさせてもらおう」

 父さんは話が一段落したところで、真剣な表情になって言う。

「先程も少し触れたが、領民達はテオやリサに対して行ってしまったことについて、謝罪をしたいと、私のところへ話をしに来たのだ。お前が……私とは疎遠であるからとな。もしも自分達の行動が伯爵領に対して迷惑をかけるような結果になってしまっては責任を負いきれない部分があるからと……事前にそうして良いかどうかの、話をしに来たわけだな。私は彼らの話を受けて、ある程度の道筋や段取りを整えると約束をしたのだ」

 ……ああ。父さんのところに行ったのは、そういうわけか。
 確かにな。父さんとは魔人絡みのこともあるので対外的には疎遠であるように振る舞っているところがある。
 俺はメルヴィン王の直臣だし……もし領主と不仲である権力者に対して不興を買ってしまった場合、自分達の責任で済む範囲を軽く超えてしまう可能性がある。
 領主に対して事前の許可を求めるというのは、理解できる話だし当然の流れだろう。
 だが、そういう点で言うのなら……彼らの気持ちは既に決まっているのだろう。

「領民達は、隣町に当事者の説得に行っているのではないかと推測していたのですが」
「その通りだ。子供達の捜索をしていた兵士には、そう言った説得には横槍を入れさせたくないから、ある程度情報を与えていたり、いなかったりするところがあるが……行き先自体はきちんと把握している。子供達が保護出来ていれば、連絡は事後になってしまうのも、この場合は致し方あるまい」

 そうだな。子供達の家出は言うならば、気持ちが先行してしまってのすれ違いなのだし。
 父さんは土壇場で問題が起こって色々慌てたと思うが、俺と会う時には保護が完了していたわけだ。晩餐会の準備もあるし、保護したと思ったらまた脱走されたなどということになって、街と母さんの家を行ったり来たり……色々と大変そうではあるな。

「では、隣町への連絡は」
「それについてはもう人をやって動いているよ。この前は飛行船で来たから、彼らはお前がまだ到着していないと思っているかも知れんな」

 ああ。それはあるかも知れない。
 だがまあ、馬車の中での話をした後なら、一先ずの道筋はついたわけだし、子供達も今度こそ保護ができているから俺が到着していることについても連絡を取れるというわけだ。
 後はもう一度、俺に会うかどうかの確認を取れば、事前の準備は完了といったところだろう。

「なるほど。では、そう時間もかからずに戻って来るかも知れませんね。彼らが心の準備を整えられている状態なら、こちらは何時でも会う用意はありますので」
「分かった。その言葉は間違いなく伝えよう」

 父さんは、そう言って静かに頷いた。
 軽く深呼吸をする。どんな話をされて、それに俺がどう答えるかはまだ分からない。いずれにせよ、遅くても後数時間もすれば、彼らとも会うことになるのだろう。
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