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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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549 タームウィルズの休日観光

 明くる日。予定通りにグレイス達とミシェル、ラスノーテ、グランティオスの面々と共にタームウィルズの観光に出かけた。
 まずは王城の観光からということで、馬車に乗って王城へ向かい、エルドレーネ女王やステファニア姫達3人と合流する。

「こんにちは」

 待っていた面々に挨拶をすると女王や姫達も相好を崩して挨拶を返してくる。

「おお。今日は中々良い日和よな」
「今日はよろしくね」
「はい。今日は護衛役ということで」

 といった調子で挨拶を交わす。コルリス、フラミア、ラムリヤがそれぞれ手や尻尾、砂の腕を振って挨拶してくるのでこちらからも手を振り返しておく。

「ふふ、おはようございます」

 セイレーンや水守り達にとってもコルリス達は一緒にシリウス号に乗って戦った顔見知りでもある。軽く撫でられたり、オルトナからも挨拶されたりしていた。
 まずは王城観光から……というところだが、まあ……街のどこからでも見える場所ではある。内部を見るにしても一般人は立ち入れない場所というのもあるだろう。なので、今回はステファニア姫が案内をしてくれるということになっている。

「そうね……。それじゃあ、南側にある庭園に行きましょうか。季節柄、それほど花は咲いていないけれど」



 南側――つまり水道橋がある方角ということになる。南側の山間部から引かれてくる水は、タームウィルズの中枢である王城セオレムに来てから街の各所に流れていくのだ。
 日当たりの良い場所に石造りの庭園が作られていた。水路が張り巡らされており、そこに植え込みや東屋、人工池や彫像、噴水などがあって、軽く散歩するには丁度良いぐらいの大きさである。

「冬でなければもっと沢山花が見れる場所なのだけれど」

 と、ステファニア姫が些か残念そうに言う。

「いえ、冬の花も見れますし。それに色々参考になりますよ」

 東屋や彫像の装飾であるとか。建築様式が街の中心部に似ているところを見るに、ここも迷宮由来だとは思われる。

「やっぱり、こういう建築様式って、月の都が由来だったりするのかな?」
「ええ。似ているところはあるわね。私が地上に降りてから変わったところはあるのかも知れないけれど」

 俺の質問に庭園を静かに眺めていたクラウディアが笑みを浮かべる。

「クラウディア様のお話を聞いた今なら納得できるわね。この池は水道橋が作られる前からあったそうよ。底から水が湧いてきて水位が一定に保たれているから、仮に水道橋が破壊されてもある程度は大丈夫、とは言われているわ」

 ローズマリーが人工池の周囲にある白い手摺部分を軽く撫でながら言った。
 ああ、確かにな。王城セオレム内だけで完結していなければ魔力嵐の災害からの避難場所としては機能しないだろうし。

「面白い話だけど……それなら、水道橋を後から付けた理由もあるんだよね?」
「水は生命線だからよ。将来、街が今より大きくなったり、仮に池が枯渇したりしても問題が起こらないようにと、時のヴェルドガル国王が建造を命じたという話ね」

 なるほど。水源はあっても迷宮由来ではどうなるかの確証が得られないから、というわけだ。クラウディアの事情や性格などを鑑みれば杞憂ではあると思うが、そういった背景を知らなければ、水源を使えなくなった場合の対策もする、というわけか。

「その水道橋自体も、浄化の魔道具が取り付けられていたり、魔法で構造強化してあったりと、結構なものなのよ」

 ステファニア姫が笑みを浮かべる。
 うん。王城に関しては色々と、外からでは知り得ない面白い話が出てくるな。
 俺達はそれでもセオレムの非常識さについて慣れている部分はあるが、エルドレーネ女王達やミシェルは目を丸くしている。ラスノーテは迷宮生まれの迷宮育ちだからか、それとも他と比較する材料がないからか、割合普通に話を聞いていたが、興味深そうにはしている様子であった。



 それから迎賓館であるとか練兵場広場や竜舎を見て回って、王城見学は一段落した。
 竜舎に顔を出した際、リンドブルムも暇そうだったので一緒に連れて来た。護衛ということで、馬車の車列の上空からコルリスと共に移動中だ。
 コルリスの背中の上にはフラミア、ラムリヤ、それにレビテーションの魔道具を身に着けたオルトナが乗っかっている。見た目のシュールさはともかくとして、護衛力の高さは相当なものだろう。

 南側の城門から街へと出て、ステファニア姫やローズマリーの話に出た件の水道橋を眺めながら、西区へと移動する。水道橋にしても高い技術力が窺える代物ではあるか。迷宮由来でないというなら尚更だ。水道橋に絡んだ蘊蓄を聞いてからだとまた違って見えるな。

 さて。続いて造船所を見て回るわけだが。討魔騎士団の面々は身体を休めているということもあり、見張りの兵士達と、ローズマリーの警備人形がいるぐらいで、静かなものだった。
 造船所に顔を出すとどこからともなくアルファがやって来る。リンドブルムも含め、動物組は動物組で固まって大人しくしている様子だ。

「綺麗……」
「シリウス号か。うむ。素晴らしい船であるな」

 ラスノーテがシリウス号を見上げて呟くように言い、エルドレーネ女王が頷く。

「私も前にエリオット卿の結婚式の際に見ていますが、凄い船ですね。シルヴァトリアとテオドール様との技術協力で生まれた船だとか?」
「ですね。装甲板や浮遊装置などはシルヴァトリアの技術が使われています」
「ちなみにこの造船所もテオドールが作った」

 シーラが言うと、ミシェルやグランティオスの面々の表情が一瞬固まるが……温室や月光島のことがあるからか、感心したように頷くと言った反応をしていた。

「あれは凄かったですね。大きなゴーレムが沢山出てきて……」
「確かに見物でした」

 アシュレイが言うと、グレイスが微笑んで答える。

「いや、まあ、元の地形を削って作ったという感じですね」

 一応補足はしておく。何と言うか……王城の蘊蓄と並んで観光用の話として語られるというのも些か妙な感覚ではあるが。



 どうせなのでシリウス号の内部見学と、タームウィルズ周辺の遊覧にも出かけた。
 グランティオスの面々はともかく、ミシェルやラスノーテはシリウス号に乗るのも初めてなので。ゆっくりとタームウィルズの周囲を旋回し、景色を見ながらイルムヒルトの奏でるリュートを聴いたりと、色々観光を満喫してもらっている。

 艦橋から見えるモニター越しの景色であるとか、甲板から見える水平線だとか……高所から見る風景というのはラスノーテにとっては勿論、ミシェルにも物珍しいものらしい。

「凄い景色ですね……。飛行船まで乗れてしまうなんて」

 と、ミシェルが言う。ラスノーテもマルレーンと共にモニターを操作してみたりと、食い入るように景色を見ていた。

 そうして遊覧から戻って来れば……続いては植物園見学である。
 南側、西側と通って造船所に来たし、北側へ向かってそちらから東側に回って温泉街へ向かえば、丁度タームウィルズ一周コース、ということになるか。



 移動のさなかに工房に立ち寄ったりペレスフォード学舎を見たりしながら、植物園へと向かった。

「いや、タームウィルズは活気のある良い街よな」

 エルドレーネ女王は、街を見て回って為政者として色々思うところがあるのか、そんなふうに零していた。

「近隣から色々な人が集まっていますからね。一攫千金を狙って迷宮に来る冒険者達も多いですし、他所とはやはり少し違うかも知れません」
「なるほどのう。確かに。だが、良い刺激にはなっておるよ。妾もグランティオスの復興と発展……それに何より、治世に努めねばのう」

 と、エルドレーネ女王が頷きながら言う。うん。モチベーションに繋がってくれるのなら何よりではあるかな。
 そうして植物園に到着すると、早速花妖精達が歓迎に出てくるのであった。
 ふむ。この後火精温泉に向かうわけだし、観光としては色々盛り沢山な内容になっている気がするな。

「ああ――やはりここは良いですね。実に素晴らしいです」

 ミシェルが植物園で早速テンションを上げているが……火精温泉と人魚達という組み合わせも似たようなものという気がしないでもない。
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