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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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548 音楽交流会

 そうして――特別公演と宴会は賑やかな雰囲気のままに終わりを迎えた。
 水守りとセイレーン達はどうするのかと言えば、とりあえず今日のところは俺の家に宿泊し、明日はエルドレーネ女王と共にタームウィルズ観光というところだ。
 迷宮入口と月神殿、境界劇場はもう見ているので、王城、造船所、植物園を見て回り、最後は火精温泉に浸かってのんびりしてからグランティオスに帰る、という流れになるらしい。

 ミシェルもそれに同行し、タームウィルズ観光をしてからシルン男爵領に帰ることになるのだろう。
 俺達はミシェルをシルン男爵領へ送って行き、そしてガートナー伯爵領へ、母さんの命日に合わせて墓参りをしてから、いよいよ討魔騎士団達と共にベリオンドーラの調査に向かう、というわけだ。

「タームウィルズでもまた公演を行う、というのも良いかも知れませんね」
「それは素敵ですね。お話が広まれば月光島にも来ていただける気がしますし」

 セイレーンの族長達と話をしながら家の中を案内する。他のセイレーン達からは……特に異論はないようだ。まあ、聞くまでもなく全員乗り気だろうという気もするが。

「公演なら定期的に、というのが良いのかも知れませんね。例えば……新月の前日に、だとか」
「新月の日ではなくて、前日、ですか? 確か、迷宮が変化するのが新月と満月とお聞きしたのですが」
「そうです。満月の日は危険なのですが、新月の日は順路が変化するだけで、宝箱の中身が刷新されたりするので、寧ろそういう日は冒険者が気合を入れて迷宮攻略しているわけですね」
「逆に新月の前の日はあまり探索もされない、と」
「そういうことです。まあ探索されないというわけではないのですが、迷宮探索の優先度が低くなる日と言いますか」

 新月の前日などは迷宮内部の宝箱なども捜索され尽くしてしまっている時期だ。冒険者達からすると迷宮探索するにしても一番旨味のない頃合い、ということになるわけだ。
 要するに満月に次いで、新月の前の日が、最もタームウィルズの冒険者達に都合のつけやすい時期ということになる。

 まあ、これは冒険者を客層として呼び込むのならという話ではあるが、人の多い時期を狙えるなら狙っていった方が良いだろうし、冒険者はあれで顔が広い人種というか、色んなところと繋がりがあるからな。口コミ効果なども期待できるだろう。

「客室はここから、突き当たりまでを自由に使って下さい。人数に合わせたつもりですが、割り当てに問題がありそうなら、他にも使える部屋は余っていますので、言って頂ければそちらへ案内します」
「ありがとうございます」

 マリオンが笑みを浮かべる。別に個室でなくても良いということで、複数人で一部屋を使うという形だが、グランティオスの人魚達は皆、和気藹々とした雰囲気である。
 陸上の家が珍しいからか、それともみんなで旅行的なところから来る楽しさのようなものがあるのかも知れない。

「部屋の割り当てが終わったら、遊戯室へ案内します」
「はい。よろしくお願いします」

 そう言って、彼女達は頭を下げるのであった。



「セイレーンの子もいるのねえ」
「は、初めまして」
「はい、初めまして」

 迷宮村出身の子供は少し緊張した面持ちだ。どこか気恥ずかしそうではあるが、セイレーンの族長達に囲まれて髪を撫でられたりと、可愛がられている様子である。
 部屋の割り当てが決まった後で、予定通りに遊戯室へ案内した。
 今日は別に皆とゲームで遊ぼうというわけではなく、どちらかと言うとグランティオスの面々を迷宮村の人々に紹介して、交流の時間を作るという意味合いが強い。

 ユスティアとドミニクも泊まりに来ているし、南方に旅をした折に貰った楽器やらも用意してある。迷宮村の住民も交えて音楽交流をしようというわけだ。だから……音楽交流会とでも言うのがしっくり来るか。

 迷宮村の住人は種族問わず大体音楽が娯楽に直結していて、歌や演奏、踊りは皆得意であるらしいし、セイレーン達との相性は良いだろう。

「とりあえず、最初は色々とお話を聞きたいわ。その……実際に歌ってとなると、私達の場合、そればかりになってしまいそうだし」

 と、族長がやや気恥ずかしそうに言うと、水守りの面々が小さく笑った。

「陸上は色々楽器があって羨ましいわ」

 と、セイレーン達は南方の楽器やイルムヒルトのリュート、シーラのドラムセットやシリルのバグパイプなどに触れて目を細める。
 グランティオスでは主に竪琴やハープなどの弦楽器、その他、割合単純な構造の打楽器が主、ということらしい。海中故に使える楽器も限られてくるのだろう。弦楽器にしても水蜘蛛の糸を弦にしたものでないといけないらしいし。
 楽器だけでなく、迷宮村の歌や踊りの話等々、色々と多岐に渡って盛り上がっている様子だ。
 必然として、迷宮村の住人を保護しているクラウディアの知っている楽曲に皆の興味が集まるわけで。

「やはり、クラウディア様の教えてくれた楽曲というのには興味がありますね」

 セイレーンの1人が言うと、みんなが頷く。迷宮村の各種族の知っていた楽曲ではなく、クラウディアの、となるとやはり月の都から(もたら)されたものということになるからな。
 クラウディアは少し気恥ずかしそうに頬を赤らめたものの、そういうことならとリュートを手に取った。

「手伝ってくれるかしら?」
「勿論です、姫様」

 そうすると、迷宮村の住人達も楽器を手に取り、クラウディアに合わせるように音楽を奏で出した。
 前に聞いた……クラウディアが迷宮村の子供達に聞かせていたという子守歌とはまた違うな。幽玄な響きを持った、どこか特徴的な音色だ。
 クラウディアと迷宮村の住人達はそれらと同系統の楽曲をいくつか奏で……それが終わると遊戯室が拍手に包まれる。

「これは……月の都の音楽っていうことになるのかな?」
「そうね。宮殿で親しまれていたものよ」

 クラウディアは俺の質問に笑みを浮かべて答える。
 文化的に貴重なものだな。現時点でクラウディアと迷宮村の住人しか伝えていないものだろうし。

「後は、迷宮村に保護された各部族の伝えている楽曲だとかもあるわね」
「では、それは私達が」

 と、迷宮村の住人達が楽しそうに歌や踊りを披露する。今度はグランティオスのセイレーン達が観客側の立場というわけだ。俺も……演出する側だし、ゆっくりと音楽を楽しませてもらおう。

「いくつか……知っているものがありました」

 セイレーン達が迷宮村の住人の……特にセイレーン達の楽曲を耳にして、目を丸くしている。

「ああ。それはひょっとして……」

 アシュレイが目を丸くする。

「そうね。迷宮の村から、事情があって外に出た者もいるから……。そういった人達が伝えたか、或いは元々が同じ部族だったのかも知れないわ」

 外に出る事情というと……アシュレイが想像したのと同様、イルムヒルトのように、魔力資質絡みで迷宮への誤魔化しが利きにくい者達、ということになるだろう。

「興味深い話ね。民俗学は専門ではないけれど」

 ローズマリーがその話を聞いて静かに頷く。色々と知的好奇心が刺激されている様子だ。
 いずれにせよセイレーン達は昔から曲を失わずに歌い継いでいるということで。それはそれで凄いことではあると思う。

「私にとっては……どちらであっても嬉しいことだわ」

 そう言ってクラウディアはマルレーンと視線が合うと微笑み合った。
 クラウディアにしてみれば、保護し切れなかった魔物達のルーツを汲む者が迷宮村の外で生きていたということか、或いは迷宮村を出て行った者が無事に外のセイレーン達と合流できたということを意味するからな。

 イルムヒルトの例を見れば分かるが、クラウディアとしても色々手回しはしたのだろうけれど、補助や把握ができる範囲にも限界があっただろうし……そのあたりを繋いでくれる証拠のようなものがでてきたというのは、嬉しいことなのだろう。
 その言葉を受けて、イルムヒルトは口元を綻ばせると楽器を手に取る。

「それじゃあ、次は私達が演奏するわね」

 そう言って、イルムヒルトは両親達……迷宮村出身のラミアやナーガ達と顔を見合わせて頷くと、音楽を奏で始めた。
 こちらはラミアとナーガの部族に伝わる音楽、ということになるか。

 迷宮村の音楽文化は各種族が集まってその中で醸成されたものだが、各部族の伝えるものになるとそれぞれの特色が強く出る。ラミアやナーガの民族音楽は、中々エキゾチックな雰囲気、と形容するのが良いだろうか。

「ふふ、今日はなんだか、音楽尽くしですね」

 1曲が終わったところで、グレイスがお茶のお代わりを俺のカップに注ぎながらそう言った。

「そうだな。でもまあ、こういうのも悪くないよ」

 グレイスに答えると、彼女は頷いて小さく微笑む。
 そうして……その日は音楽と共に更けていくのであった。
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