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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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547 騎士団と宴会と

 観客と戯れるように踊る熱帯魚の群れ、色鮮やかな珊瑚やイソギンチャク、輝く水晶の洞窟。降り注ぐ光と、溢れ出る光。
 その中を泳ぎながら歌うイルムヒルト達とセイレーン達。神秘的な美しさもありながらセイレーン達はどこか楽しそうで、互いに語らい合うように歌声を響かせていた。それに影響されるようにイルムヒルト達も楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。

 そういった雰囲気は客席にも伝わるものだ。舞台も客席も演出の中に組み込まれて一体になったかのような感覚がある。
 澄んだ歌声と演奏が立体的に絡み合い、それに応じて舞台も柔らかく色を変える。観客達だけでなく、動物組も目を瞬かせていた。開場前にアルファとリンドブルムもやって来たので揃い踏みだ。
 コルリスなどはその内に音楽に合わせて首を軽く動かしていたりもするが。

 海底神殿の奥へと進んでいくように景色が全体が動き、合わせるようにイルムヒルト達の歌声と演奏も盛り上がりを見せる。
 そうして――全ての演目が終わると、観客達は立ち上がり大きな拍手を送ってくる。

 何度かのアンコールと、それに応じるイルムヒルト達。舞台は大きな盛り上がりを見せ、そうしてその日の特別公演の舞台は閉幕したのであった。



 公演が終われば、その後に宴会となる。客席からエントランスホールへと向かえばそこにはテーブルと料理が用意されているのだ。
 料理は魚介類が中心である。エルドレーネ女王達がこちらに来る際、色々と持って来てくれたのだ。

 それにこの前の幻霧渓谷に足を運んだ際の魔物の肉やキノコなどを合わせて料理してやれば、中々豪勢な晩餐の席になった。
 シーラがまた喜びそうだななどと思いつつ楽屋へ戻り、外套を脱いで扉をノックすると、イルムヒルト達とセイレーン達が笑顔で顔を見せる。

「お疲れ様、みんな」
「テオドール君も、お疲れ様!」
「ん、楽しかった」

 イルムヒルトがすっきりしたような表情で笑みを浮かべ、シーラがサムズアップで俺を迎える。

「ありがとうございます、テオドール様!」
「凄く楽しかったわ」
「グランティオスで歌っているみたいだったわ」
「うん。すごかったね」

 マリオンを始め、セイレーンの族長達も些か興奮気味だ。ユスティアやドミニク、シリルと一緒に抱き合い喜び合いと、かなり盛り上がっている。

「とりあえず、外套は返すよ」
「ん」

 シーラに外套を畳んで手渡していると、そこにグレイス達もやって来た。

「ああ、みんな」

 と声をかけると、グレイス達も笑みを浮かべる。

「舞台演出、すごかったです」
「アイアノスやグランティオスみたいでした」

 グレイスとアシュレイがそう言ってにこりと笑う。

「んー。そうだね。グランティオスの海底都市を参考にしたところはあるかな」
「魔光水脈や水の精霊殿みたいなところもあったわね」

 クラウディアが言うと、ローズマリーが首を傾げる。

「色々、見たことのない生き物もいたわね」
「色んな生き物がいて、楽しかった!」

 と、セラフィナが両手を広げて飛び回る。

「まあ、迷宮も混ぜてたね。後は色々想像で適当に。みんなの公演が良かったから、それに乗せられて後押しされたところはあるかな」

 そう言うと、イルムヒルト達が嬉しそうに笑う。
 迷宮周りのイメージに関しては水竜親子も気付いただろうとは思う。後は色々、ゲームやら何やら、前世の知識も総動員して細々としたところを補足し、幻覚の演出に反映していたわけだ。公演の盛り上がりに合わせてアドリブを利かせていたらエキサイトしてしまった部分はあるが、まあ終わってみれば反応も上々だったし過剰ということも無かっただろう。

「ありがとう、マルレーン」

 と、マルレーンにもシーラの外套と同様、ランタンを返しておく。
 マルレーンは宝物を抱くようにランタンを抱きしめて、にこにこと笑みを浮かべる。

「さて。それじゃあ後は宴会かな。みんなも着替えたらエントランスホールでね」
「楽しみに待ってた」

 俺の言葉にシーラが頷くと、イルムヒルトがくすくすと肩を震わせるのであった。



 エントランスホールに移動すると、みんなからも演出について色々と感想を聞かされた。

「特別公演というのが勿体無いところではあるな。確か、一点物の魔道具を使っていると聞いたが」
「うむ。グランティオスやアイアノスを参考にしたところと、そうでないところと見受けられたな」
「そうですね。メルヴィン陛下から下賜された宝物を使って、迷宮や本などを参考に色々と、というところです。幻術関係を研究すれば……あれほどの自由度はないにしても、決められた演目に従った演出ならできそうな気もしますが」

 上機嫌なメルヴィン王とエルドレーネ女王にそう答える。

「ふうむ。それはまた、先々が楽しみではあるな」

 ……そんなメルヴィン王の言葉にアルバートが目を閉じて頷いているわけだが。
 まあ、アルバートのキャパシティが限界にならないように追々という感じで魔道具にしていけばいいだろうとは思う。幻術関係にしたって、研究が必要だというのは間違いないし。

「すごかったね、ラスノーテちゃん!」
「魔光水脈に、似てた」
「この前行ったグランティオスも混ざってたよね」
「後で……絵にしておく」

 ラスノーテと、シオン達もそんな風に言葉を交わして笑みを浮かべている。シオンも真面目だし、マルセスカやシグリッタも物怖じしないからな。同じ年頃の子とは割合すぐに仲良くなれるところがあるようで。そんなラスノーテの様子を見て、ペルナスとインヴェルも穏やかに笑みを浮かべていた。

「――いやいや、魔法大国とは言っても、あれほどの幻術、そうそう我が国でもお目に掛かれるものでもないぞ。ましてや、演出の為だけにとなれば……」
「あれは大使殿ならでは、なのでしょうな。歌と演奏も負けず劣らず凄いものでした」
「いやはや。訓練の疲れも吹き飛ぶというものだ」

 討魔騎士団の団員達も、先程の公演の話で持ち切りだ。多国籍の騎士達が一堂に会してというのは、討魔騎士団ならではの光景だな。冒険者ギルドの副長オズワルドも加わっているのだから、宴会はかなり盛り上がりそうだ。

 と、そこに楽屋から、舞台衣装から着替えたシーラとセイレーン達がやって来て、みんなに大きな拍手と喝采で迎えられた。
 歌は彼女達にとっての日常であるために、拍手喝采に照れているセイレーン達もいるようだ。

「どうやら、士気もかなり上がったようですね」

 その光景にエリオットが笑みを浮かべる。

「僕としては目的が達成できたようでほっとしていますよ。劇場が初めてという方や、何度か来ている方にも楽しんで頂けたようですし」

 そう言った面では、祝いの席というだけでなく、歓待としても盛り上がったところがあるしな。
 そうして、エントランスホールに全員が揃ったところで乾杯が行われ、宴会が始まった。

「この酒……随分と美味いな」
「グランティオス王国から持ってきたものだと聞いたが」
「確かにグランティオスで寝かせたものではあるが、酒自体はドリスコル公爵領で作られたものだな」
「となると、ヴェルドガル王国とグランティオス王国の合作ということになるか」
「海の魚も……実に美味いですな。南方の内陸部では食べられないものばかりで」
「それを言うならこの肉料理もだな。海では望むべくもない」

 と、討魔騎士団達は料理と酒に舌鼓を打っている。色んな地域出身の者がいるから好みも分かれるところだろうが、概ね好評な様子である。
 シーラは……やはりというか魚料理に集中している様子だ。目を閉じながらもぐもぐと口を動かし、耳と尻尾が反応を示している。

 ミシェルはフォルセトやジークムント老とヴァレンティナ、それにアシュレイやローズマリーとも談笑しているようだ。農業や魔法関係の話が広がりそうな面子ではあるか。ミシェルも魔術師なのだし、色々刺激になるだろう。ミシェルはオルトナを呼んで、みんなに紹介している。

 他の動物組はというと……精霊達やアウリア、それにステファニア姫達3人とシャルロッテという面々と一緒だ。あちらはあちらで、動物達に鶏肉やら鉱石やらを食べさせたり撫でたりしながら楽しそうにしている。
 ルスキニアがはしゃいでいる様子で、両手を広げて身振り手振りと、先程の公演の話をしているようだ。そうしてそれをラケルドが笑みを浮かべ、プロフィオンとマールが穏やかに頷きながら聞いたりしている、という印象である。

 といった調子で……周囲に視線を巡らせてみれば、みんな一様に楽しそうな様子で、時間はのんびりと過ぎていくのであった。
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