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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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544 醤油作りと甘酒と

 さて。味噌の仕込みが終われば次は醤油、というタイミングで、工房組も家にやって来た。早速地下室に招待してアルフレッド達やジークムント老達も醤油作りの見学兼、手伝いに加わった。

「今度は……豆や小麦を使って、魚醤みたいな調味料を作ってみようかなって思ってる」
「魚醤というと……液状のタレみたいな感じかな?」
「うん。まあ、上手くいけばだけどね」

 アルフレッドの言葉に頷く。
 というわけで……豆砲弾が既に茹で上がっているので、小麦を乾煎りしていく。大きめのフライパンを竈の火にかけて振るっていく。
 乾煎りされている小麦が小気味よい音を立てる。フライパンを軽く上下させてやると小麦が跳ね上がってフライパンの中でかき混ぜられる。

 その光景が面白いのか、ラスノーテはフライパンの中で跳ね上がって戻ってくる小麦を目で追いながら楽しそうにしていた。ふむ。ラスノーテはこういうのを見るのは初めてだろうしな。

「重そうな平鍋なのに……先生は器用ですね」

 と、シャルロッテも感心している様子である。

「まあ、動かし方にコツがあるっていうか」

 タームウィルズに来てから料理当番もしていたしな。その成果と言うか何と言うかである。
 小麦をしっかりと炒ってから器に移し換え、すりこぎで大雑把に細かくしていく。それから風魔法で熱を冷ましてから種麹を混ぜる。
 茹で上げた豆砲弾を大豆ぐらいのサイズに刻んでから、消毒された底の浅い木の器に移し、冷ましながら小麦と種麹の混合物をふりかけ、更に混ぜ合わせる。

「これで良いのかしら?」
「えーと。そうだね。これぐらいで良いと思う。そうしたら布をしっかり絞ってから被せる」

 ローズマリーの言葉に頷き、みんなに煮沸しておいてもらった布を渡してもらい、絞って水を切ってから被せれば醤油麹の仕込みは完了だ。

「ふむ。浅く広げたから乾かないように、というところかの? 色々考えておるのう」
「まあ……そんなところです」

 ジークムント老の言葉に頷く。このあたりは先人の知恵ではあるが。
 通常なら2日程で醤油麹が出来上がるはずだ。だが、今回は発酵促進の魔法を実験する意味合いもあるので、目印を付けた器のほうには魔法を用いて、それぞれ発酵部屋に安置しておく。
 ぼんやりと光を放つ醤油麹の元を循環錬気で見てみれば、しっかりと菌が活性化しているのが分かった。
 うん……。菌の活動を循環錬気で見るというのも有効なようだし、術式と併用して活性化にも使えそうだな。

「これで仕込みは完了ですか?」

 グレイスが尋ねてくる。

「後はこれを発酵部屋に移して、温度管理をしながら混ぜ合わせたりかな。これの発酵が進んだら塩水を加えたりして、時々混ぜたりしながら更に寝かせておく」

 通常なら仕込みから完成まで10ヶ月程だ。魔法で促進した場合どの程度の期間になるかは未知数ではあるが……まあ、様子を見ながら進めていく必要があるな。
 まあ、時間のかかるものではあるので、タームウィルズ不在の間の面倒の見方を使用人達にも伝えておくのが良いだろう。
 ……んー。ゴーレムに組み込むためのメダルもあるし、管理用にゴーレムを作って面倒を見させるというのも有りかも知れないな。そのへんも後で検討してみるか。


 さて。魔法を用いた米麹はといえば……味噌作りだ醤油作りだと作業を進めている間に熱が上がってきていたので、他の作業が終わった段階で一度混ぜ合わせる必要があった。通常ならほとんど丸一日かかるはずが、僅か数時間で温度調整をすることになったわけだ。

 見た目にも麹菌の繁殖が進んでいるのが分かる程で、この分だと……魔法を用いて進めた場合、予想以上に醤油や味噌の出来上がりが早い可能性がある。少なくとも、明日には魔法を用いた方の米麹と醤油麹が完成するだろう。
 通常の手順で水に浸けておいた豆砲弾が残っているが、そちらに対しても米麹を用いて更に味噌を仕込むことができる。

 ……ともあれ、今日の仕事は一段落だ。米麹と醤油麹の温度管理は、夕食後あたりにまた見てみれば丁度良い頃合いになりそうだ。

 というわけで地下室から移動し、作業も一段落ということで乾杯しようという話になり、甘酒を飲むことになった。

「香りや喉越しに少し癖があるので、ハルバロニスでも好き嫌いは分かれる飲み物なのですが、身体は温まりますし、飲んだ後には力が出るとか疲れが取れると言う者もいますね。お酒とは言っていますが、これは酒粕を入れていないので酔ったりはしませんし」

 と、フォルセトが小さめのカップに甘酒を注いでいく。
 ふむ。確かに、甘酒は人によっては苦手という場合もあるから、最初はお試しということで少量で試飲してみるというのが良いのかも知れない。気に入ったならもう一杯、という感じで良いだろう。
 乳酸菌に栄養バランスにと、色々健康面でも優れた飲み物だとは言う。江戸時代には甘酒の販売が奨励されていたとは言うが。

「僕は好きですよ、甘酒」

 シオンは穏やかに笑って甘酒の注がれたカップを手に取る。

「私も好きー」
「……同じく」

 なるほど。3人とも甘酒好きというわけだ。フォルセトが甘酒を仕込んだのも、3人が好きだからなのだろう。
 みんなに杯が行き渡ると、こちらに視線が集まる。んー。実験が一段落したから乾杯ということなら、俺が音頭を取るのが筋、ということになるか。

「それじゃあ……実験の成功を祈願して」

 杯を掲げて、乾杯の音頭を取る。

「かんぱーい!」

 と、セラフィナやルスキニアの元気な声とみんなの声が重なる。それからみんなで一斉に甘酒を口にした。
 んー……。懐かしい味だ。砂糖などは使っていないようだ。割合さっぱりした味わいで飲みやすいと思う。発酵具合も丁度良いな。

「ほう。甘くて美味しいのう」
「ん。結構好きかも」

 アウリアやシーラはどうやら甘酒が気に入ったようだ。気に入った者はお代わりをしたりと、そのまま楽しむ。
 俺ももう一杯貰うとしよう。フォルセトの作った甘酒は、飲みやすくて好きな味だ。

「僕にももう一杯貰えますか?」
「気に入って頂けましたか?」
「そうですね。好きな味ですよ」
「それは何よりです」

 フォルセトが相好を崩す。好き嫌いがあるとは言ったが、フォルセトの仕込んだ甘酒の出来が良いので、概ね好評なようだ。

「これは美味しいですね」
「確かに、他にはない風味ですが甘くて美味しいです」

 と、グレイスとアシュレイ。
 グレイス達も少しだけでは物足りなかったのか、お代わりをもらっている。
 にこにことしているマルレーンと、羽扇で口元を覆いながら甘酒のお代わりに並ぶローズマリー。それを見て穏やかに微笑むクラウディアという構図である。

「これは、好きな味です」

 カミラも甘酒が気に入ったようである。口元を押さえながらも表情を綻ばせていた。

「そうかい? では、もう一杯貰ってくるよ」
「ありがとう、エリオット」

 そんな会話を交わしながらエリオット自身もお代わりを貰い、2人で楽しそうに甘酒を飲んでいる。エリオットとカミラは相変わらず仲睦まじい様子で何よりである。
 そうして暫く遊戯室で甘酒を飲んだりしながらのんびりとしていたが、頃合いを見計らってエリオットに話しかけることにした。訓練完了を祝して打ち上げをするという話をしていたからな。

「すみません、すっかりお話が遅くなってしまって」
「いえ。実験を見てみたかったのは私の方なので。それに、みんなで収穫したものから何か作るというのは楽しいですからね」
「でしたら、良かったです」

 エリオットは穏やかに笑って俺の言葉に頷く。では……打ち上げの話をするか。

「打ち上げですが……満月の日に、劇場に集まってもらうというのはどうでしょうか?」
「討魔騎士団全員で、ですか? 今からで席が空いているでしょうか?」
「んー。殆ど満席かと。ですので、通常の公演が終わってからの特別公演という形ですね」

 それならば俺としても召喚儀式の後で余裕を持って動けるしな。

「なるほど。それは皆喜ぶと思います」

 折角だしマリオン達にも声をかけてみるというのも良いかも知れない。セイレーン達はみんな劇場に興味津々といった様子だったし、月光島の舞台装置回りにも慣れている頃合いだろうと思うのだ。
 一度招待して劇場で歌ってもらうというのは、向こうも喜んでくれるのではないだろうか。
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