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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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537 異界大使の研究

 米料理は中々好評で、みんなで食べて完食となりそうな見込みだ。フォルセトはそれを見て機嫌が良さそうに笑みを浮かべる。

「どうでしょうか。足りないのであればもう少し炊きますが」
「いや、割合腹持ちが良いのかも知れんのう」
「そうですね。残りを完食すればお腹いっぱいになる気がします」

 ふむ。みんな概ね満足という反応だ。

「それは良かった。食べ残した場合は、時間が経つと味が落ちてしまいますので。その場合は、水分が失われないように蓋をしておくのが良いです。そうでないと、硬くなったりしてしまいますから」
「なるほど。水分ですか」
「つまり、生では食べられない?」

 グレイスが頷き、シーラが首を傾げた。試食会ということで生米や籾殻も陳列する目的で用意されているからな。生米に関しては気になるところではあったのだろう。

「はい。生米は保存には向いていても食べるのには向いていないので……色々手を加える必要があったり、栽培にしろ何にしろ、手がかかるのは事実ですね」

 と、フォルセトが色々と米についての話を聞かせてくれる。うん。デメリットも話をしておく必要は確かにあるな。
 脱穀に精米、それから火を起こし、綺麗な水を用意して器で炊いて食べる……と。改めて見ると食べるまでに色々手順が必要なのは確かだ。

「生米の状態から別の方法で食べられるならとは思うのですが」

 フォルセトは少し残念そうに言った。生米の状態から、ね。となるとポン菓子が思い浮かぶが。
 縁日などで実演販売されているという印象が強いが……他の穀物類にも応用が利くし、生米の状態から作れて携帯食や保存食にもなるという点を考えると、案外利用価値が高いように思える。
 そういう観点からもあって良いものなのかも知れない。確か……熱と圧力を加えて一気に解放することで作れるはずだ。

「ええと……生米で実験してみても良いでしょうか?」
「何か思いついた?」
「んー。少しね」

 みんなの視線が集まり、シーラの質問に頷く。
 ポン菓子を作る実験をしてみようと思うのだ。景気よく弾けて割合派手なので、イベントを盛り上げるには丁度良いしな。
 生米を空中に浮かせて、マジックサークルを展開する。
 風魔法を利用して生米を閉じ込め加圧しつつ、内部で回転させ、火魔法を併用して加熱していく。そのままポン菓子を製造する要領だ。

「ふむ。火の力と風の力か」

 ラケルドが興味深そうに目を細める。

「空気を閉じ込めて圧縮……高熱に晒していると」

 ローズマリーがマジックサークルから術式の内容を読み取る。

「敢えて水を加えずに熱と圧力だけを加えてみたらどうなるかなと。本来なら米に含まれている水分が熱せられて膨らむのを、空気を圧縮して一定の空間内に閉じ込めることで力尽くで抑えている、というわけですね。一応制御に失敗するとそこそこ危険なので、離れていて下さい」
「そうね。術式の制御に失敗したら周りに米が飛び散ってしまうでしょう」

 クラウディアが苦笑するが、まあ、みんなにそれほど緊張したところがないのは信頼されているからか。
 そんな話をしながらも空中に浮かんだ米に向かって加熱と加圧を続けていく。
 確か……10気圧程だったか。圧力鍋の何倍もの加圧が必要だと聞いたことがあるから、相当の高圧が必要なのは間違いないようだ。程々の頃合いになったところでみんなに向かって言う。

「ここから、一気に解放することで瞬間的な膨張を促します。大きな音がするかも知れません」

 と言うと、みんなが頷いた。距離を取って離れながらも作業風景を見守っているミシェルやラスノーテなどは神妙な表情だ。

「では――」

 圧力をかけている米の空気部屋に隣接させるようにもう1つの空気の壁で囲った大きな部屋を作り出し、そこに向かって解放、瞬時に減圧を行う。
 手の平を突き出し――握ったその瞬間。どん、という下腹に響くような大きな音と共に、米が弾け出た。隣の空気部屋に向かって派手にぶちまけられるが、地面には落ちないようになっている。雪が舞い落ちるように底にたまった物を、風で集めて回収していく。

 最初はその光景に驚いていたようだが……みんなから拍手が起こった。

「面白いのう。確かに、米は膨張しておるようじゃが……食用には適しておるのかの?」

 ジークムント老が興味深そうに出来上がったものを覗き込む。

「試してみましょうか」

 机の上にある器に盛って、1つ手に取って口に運んでみる。軽くサクサクとした食感がある。うん。確かにポン菓子だな。

「元が米なので、割合淡泊な味かも知れません。塩や砂糖を振ってみるのも良いかも知れませんね」

 ということでみんなも試食してみるという流れになった。

「中々……香ばしいんですね」
「ふわふわしてるね。不思議」
「さくさくしてて好き……かも」
「普通に炊いたのとは全く違う食感ですね。これは驚きました」

 シオン達やフォルセトも興味深そうにポン菓子を口に運んでいる。ハルバロニスの面々に驚いてもらえたのは何よりではあるが。
 砂糖と塩が運ばれて来て、それを僅かに塗して食べてみたりと、菓子らしい食べ方をしてみたり。

「これなら、水分が飛んで固まってしまう……ということはないだろうね」
「逆に湿気ったら食感が変わるような気もするけどね。水分が極端に少ないから」
「その場合は……炒ってやればいいんじゃないかな? 腐りにくいなら保存食にもできそうだけど」

 アルフレッドも中々興味深そうだ。んー。これを再現しようと思うのなら、魔道具化が必須になってくるだろうし、興味を示すのは分かる。
 とりあえず、麦などの穀物でも可能だったはずだから、米の普及より魔道具が先になってもポン菓子を作るのは可能だろう。ともあれ、定番の駄菓子という感じではあるのでみんなに気に入ってもらえたら良いのだが。

 そうして――ポン菓子作製の実演などを交えて、その日の試食会は終わり、みんなで遊戯室などでカードやビリヤード、チェスやダーツなどをして楽しむという流れになったのであった。
 ミシェルや水竜親子、精霊王達も割合楽しそうにゲームをしていたので、試食会と招待に関しては概ね成功というところだろうか。

 さて。今日からはラスノーテも家に滞在することになっているし、ミシェルも満月の召喚儀式が終わるまではタームウィルズに留まる形になる。となれば、彼女達も揃って劇場のイルムヒルト達の公演も見て行くことが可能になるだろう。



 そして、明けて一日。今日は工房を見学したり訓練などをしながら過ごすという予定だ。だが、やることも色々あるので、俺は朝一番でペレスフォードへと向かった。

「今日はまた、普段とは違うものを借りていくのですな。言語の教本に、冒険記、漂流記、それに魔物の図鑑……はて」

 と、ペレスフォード学舎の書庫を預かる司書のディーン老は、俺の持ってきた本を見て首を傾げる。普段は魔術関係の本だとか、魔法建築絡みで建築に美術関係などの本が多いからな。

「そうですね。色々予定ができましたので」

 今日借りていく本だが……内容としてはラスノーテの教材である。
 竜の姿での意思疎通の魔法ではなく、普通の言語を身に付けてもらえば気軽に話もできるし本も読めるというわけだ。
 後は冒険記、漂流記などで各地の知識や生き延びるための知恵、気を付けるべき点などを学んだり、魔物の図鑑であちこちの知識を得る、と。
 全部今すぐ読破とはいかないが、俺から色々話をする場合にもこういった教材があれば話の内容を濃くできるだろうしな。

「ふうむ。これは魔術書なのですな」

 ディーンは一冊一冊のタイトルや著者名を紙に羽ペンで書き付け、貸出の手続きを進めていく。

「はい。それも必要になるかなと」

 聞くところによると木魔法や水魔法、土魔法などの複合で発酵を促進する魔法、というのがあるらしいので、その研究のための書物だ。

「大使殿の魔法には色々驚かされておりますからな。次は何をなさるのか、少し楽しみにしておるのです」

 と、ディーンは人の良さそうな笑みを浮かべた。
 あー……。魔法建築絡みの本を借りていったのも知っているしな。その後に色々自宅や劇場を作ったというのも耳にしているだろうし、中々面白がられているようだ。

「発酵食品を作ってみようかなと。まあ、どうなるかは今のところは分かりませんが」
「ほうほう」

 まあ……チーズなどを作るための魔法ということで、醤油や味噌のために使うには色々術式の応用なり改造なりが必要なのだろうが、そのあたりは調べて術式を分解して、だな。
 幸いというか、麹カビの活動が活発になる温度、湿度などはフォルセトが把握しているので、上手くいけば発酵の促進そのものはそこまで難しくはあるまい。
 魔法で製法に道筋をつけてから通常の製法を確立するということになりそうで、順序が逆になってしまう気もするが。

 ともあれ、必要な本は集まったので工房に戻って色々進めていくとしよう。
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