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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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528 精霊の会合

 タームウィルズのどこかか。ラスノーテがマールに会いたいと言っていたことを考えると、水の精霊殿も指定する場所としてはありなのかも知れない。
 精霊王の飛び地となっているのは月光神殿の前と、それぞれの精霊殿だろうから、マールとしても移動に都合が良いだろうし。

 そう思って返信してみたのだが、今回は精霊殿以外でという、マールからの返事があった。今回の用件や精霊殿以外にして欲しい理由もそこに書いてあったが……。なるほどな。
 そうなると……やはりタームウィルズのどこか、地上でということになるのだろうか。王城はどうか、その他の場所は、などと通信機でやりとりしながら条件を詰める。

「やはり儀式場か温泉かしらね?」

 ローズマリーが言う。

「そうなるかな。温泉だと夜まで待つ必要があるし……儀式場かな」

 となれば、メルヴィン王やテフラに連絡を取って調整するというのが良さそうだ。



「これは、テオドール様」
「こんにちは、メルセディア卿」

 さて。メルヴィン王やマールへの連絡をしている間に、討魔騎士団の交代の人員が野営地にやって来た。人員を率いてやってきたのはメルセディアらしい。
 それに合わせて外部での休憩に入る討魔騎士団の面々がいるので、タイミングを合わせて俺達も迷宮から脱出することとなった。ステファニア姫とアドリアーナ姫は日参しているので、俺達と一緒に帰還する形になる。当然、使い魔であるコルリスとフラミアも一緒だ。

 迷宮での訓練は交代の人員が出たり入ったりという具合だが……いずれにせよ次の月齢の構造変化、満月の日に合わせるように全員撤収する予定である。

「そう言えば……満月の前日までに帰還するというお話でしたが、その際何かお手伝いすることはありますか?」

 エリオットに尋ねると、少し思案してから答える。

「帰還に際しては……迷宮に持ち込んだ野営用の物資を持って出てくるだけですから特に手間ではありません。魔物の襲撃などが重なればその限りではありませんが、その場合、一律で時間を区切るか、赤転界石で脱出を最優先するということで打ち合わせをしております」

 なるほど。安全な撤退を最優先というわけだ。

「もし樹氷の森にガーディアンが出現するようなことがあったら、その時は知らせるわ」

 クラウディアが言う。ふむ。それなら不測の事態にも対応可能だろうな。
 クラウディアなら迷宮入口に急行したりする必要もなく、即座にどこからでもガーディアンのいる場所に駆けつけられるわけで。

「僕達も迷宮に宿泊して、訓練していきます」
「樹氷の森、結構楽しいもんね」
「地下なのに……ハルバロニスと全然違う」

 シオン達が言う。3人ともこうして迷宮で訓練するのを楽しんでいる様子ではあるが。
 エリオットと討魔騎士団。シオン達3人に、ウェルテスとエッケルスという顔触れ。まあ……樹氷の森であっても戦力としては充分なものだろう。

 ともあれ討魔騎士団は満月に合わせて撤収したら造船所での訓練に戻り、そして休息を挟んで、俺達と共にベリオンドーラの調査へ赴くことになる。
 その間、ウェルテスとエッケルスは討魔騎士団の一員として彼らと寝食を共にしつつ、魔道具を用いた体術の習熟に励む、と。いずれにせよ、討魔騎士団の仕上がりは順調なようだ。



 討魔騎士団の野営地から程近い場所に脱出用の石碑があった。というより、石碑から近い場所を選んで野営地を設営したのだろう。

「それではエリオット兄様、お気をつけて」
「うん。アシュレイもね」

 アシュレイとエリオットが挨拶を交わす。
 休息に入る討魔騎士団の面々と共に、石碑から迷宮入口へと飛ぶ。光に包まれ、目を開くと地上に戻って来ていた。
 まずは……冒険者ギルドに足を運んでエルドレーネ女王にウェルテス達のことを報告しなければなるまい。
 螺旋階段を上がって月神殿から出たところで、討魔騎士団の面々と別れる。

「では、殿下、大使殿、我等はこれにて」
「はい。それでは帰り道、お気をつけて」

 彼らを見送り、その足でギルドへ向かう。

「ああ、皆さん。お帰りなさい」
「こんにちは、ヘザーさん」

 ヘザーが笑みを浮かべて迎えてくれた。エルドレーネ女王に会いに来たことを話すと、アウリアと共にいるということで、奥の部屋へと通してくれた。部屋の前でギムノスが女王の護衛として待機しており、俺達の姿を認めると一礼してくる。
 こちらもギムノスに挨拶を返し、ノックして入室すると、談笑しながらチェスを指していたらしい2人、と、月神殿の巫女頭のペネロープがこちらを見やる。

「おお、テオドールか」
「無事に戻ったようで何よりだ」
「これはテオドール様」
「はい。只今戻りました」

 と、3人に頭を下げる。マルレーンは嬉しそうな様子でペネロープのところまで小走りに駆けていく。ペネロープはマルレーンを受け止めるようにそっと抱きしめていた。

 それにしても……綿菓子の棒や、かき氷の器などがテーブルの隅に置かれているのを見るに……劇場あたりまでは足を運んだのかも知れない。目と鼻の先だしな。
 冬場に部屋を暖かくしてかき氷を食べるというのも何だが……。まあ、エルドレーネ女王ものんびりできたようで何よりではあるか。

 ペネロープがいるのは、エルドレーネ女王が迷宮入口を行き来するようになることを考えると、面識を持っておく必要があったからだろう。
 もしかすると、そのためにアウリアとエルドレーネ女王は面会をセッティングしたのかも知れない。

「ウェルテス卿とエッケルス卿は予定通り討魔騎士団に合流しました。今後は討魔騎士団の一員として寝食を共にしつつ、魔道具の扱いに習熟していく予定です」
「承知した。見送り済まなんだな、テオドール殿」

 と、エルドレーネ女王は些か申し訳なさそうな様子である。

「いえ。樹氷の森は危険ですのでお気になさらず。討魔騎士団は寄り合い所帯ですので、一緒に昼食を作っているところを見るに2人とも上手くやっていけそうかなと」
「そうか。だと良いのだが」

 俺の言葉に、エルドレーネ女王はその光景を想像したのか、目を閉じて微笑んだ。

「妾もあまり日を置かず、タームウィルズに足を運ぶことにしよう。討魔騎士団の面々にも親しんで、信頼関係を構築しておきたいからな」
「それは良いお考えかも知れませんね」

 と、ペネロープが微笑む。

「次の満月以降は、討魔騎士団も迷宮外で過ごす時間が増えるかと」
「うむ。承知した」

 エルドレーネ女王への報告としてはこんなところか。俺としても、特にエッケルスに関してはそれとなく注視しておくとしよう。討魔騎士団内は問題の起こりにくい環境ではあるだろうが、配慮しておいて悪いということもあるまい。

「ああ、それと……これから儀式場でマールと会う予定なのですが、ドミニクとユスティアを連れて行っても大丈夫でしょうか?」

 そうアウリアに尋ねると、彼女は心得ているとばかりに頷いた。

「ふむ。風の精霊王殿への伝言で、進展があったということかな?」
「そうなります」

 と、頷いてから状況を詳しく伝える。

「御三方も挨拶に向かわれますか? ステファニア殿下とアドリアーナ殿下は同行なさるとのことです」
「そうさな。では」

 と、3人は顔を見合わせて頷くのであった。



 そして予定通りにドミニクとユスティアを連れて儀式場へと向かった。
 温泉だと営業時間外まで待たなければならないし、そうなると夜になってしまう。
 王城から駆けつけて来たメルヴィン王達に、王女達、エルドレーネ女王に、アウリア、ペネロープと、割合あちこちの重要人物も一緒ということになってしまったが……さて。

 儀式場に向かってから馬車で降りると、テフラが顔を見せた。

「おお、テオドール」

 テフラが上機嫌な様子で挨拶してくる。

「急な話でごめん」
「いや。我は構わんぞ。テオドールやマールとは友人であるし……彼らも精霊の力が集まっている場所となれば顕現しやすいであろうからな」

 と、テフラが笑みを浮かべる。そう……。彼ら。彼らだ。
 今回姿を見せるのがマールだけではないから、精霊殿は落ち合う場所として適さなかったというわけである。他の精霊王が他の精霊殿に足を運んでしまうと、封印のバランスに関わってくるとのことで。
 彼らは皆、一度月光神殿の前で顕現してから、地上に姿を見せるとのことである。つまりは――。

「テオ、あれを」

 と……グレイスが儀式場の一角を指差す。

「ふむ。来たようだな」

 テフラが言った。グレイスが指差したあたり――源泉の上から水が渦を巻いて、そこからマールが姿を現す。
 その隣。儀式場の庭園に敷かれた石畳が隆起したかと思うと、人の形を取って――威厳のある灰色の老人の姿として顕現した。
 そればかりではない。上空で風が渦を巻き、緑色の髪を持った少女の姿となる。
 最後に、少女が巻き起こしたつむじ風の中から赤々とした火柱が立ち昇り、燃え盛るような髪を持つ青年が姿を現した。

 それぞれ、地の精霊王、風の精霊王、火の精霊王だろう。
 片眼鏡で見ると、精霊達の動きがやたら活発になっているのが分かる。
 みんな一様に浮かれているような、楽しそうな様子であるが……精霊力が高まっているということなのだろう。わざわざ片眼鏡で見るまでもなく、肌で感じるほどだ。

 いやはや。しかしまあ、精霊王揃い踏みとは。マールの話によると、グランティオスでの一件で精霊王達が皆、俺に興味を持ってしまったとか。それで、風の精霊王に関する話をすると共に、俺に会いに行こう、という話になってしまったのだとか。

「こんにちは、テオドール」

 マールが俺を見て笑みを浮かべると、他の精霊王達3人の、興味深そうな視線がこちらに集まるのであった。
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