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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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521 境界都市の新顔達

 新しいゲームにはみんなも興味があるらしく、盛り上がりに任せてそのままチェス対戦会へと発展した。
 ルールを覚えれば駒を動かすだけ、という部分があるからか、セラフィナもマルレーンと楽しそうにチェスを指したりしていた。

 強いのはクラウディアとローズマリーだろうか。戦法などまだ確立されていない段階だが、きちんと理に適った動かし方をして、互いの先を読むので良い勝負をしていた。
 グレイスとアシュレイも中々のものだが、グレイスは攻め、アシュレイは守りにやや偏っているところが見られる。

 こういう点、指し方にも普段の戦闘に求められる役割からの思考が見られるような気がするというか。シーラはナイトやクイーンを活用して引っ掻き回すのが好みのようだし。
 まあ、もう少しみんなが習熟してくれば所謂定石の動かし方から互いの手の読み合いになって、チェスらしい展開をしていくことになるのだろう。
 そうなっても個性が指し手に出る部分はあるのだろうが、ここまで分かりやすくそれぞれの特徴が出ているのが見られるというのは、今のうちだけかも知れない。

 そんな調子で遊戯室でのチェス対戦会は和やかに夜半まで続いたが、マルレーンが船を漕ぎ出したあたりでお開きとなったのであった。

「――では、お休みなさい」
「うむ。明日はよろしく頼む」
「お休みなさい」

 エルドレーネ女王達とそんな言葉を交わし、俺達も部屋へ戻ることとなった。
 眠たげなマルレーンはローズマリーに肩を抱かれるようにして洗面台へと向かう。俺も就寝前の諸々の準備を整えて、寝間着に着替えて寝室へと戻ると、少し遅れてみんなも寝室へとやって来た。

「んー。風呂で循環錬気できなかった分はどうしようか」
「明日、2人でお風呂にご一緒するというのはどうでしょうか。もう遅いですし」
「そう、だな。少し変則的だけど」

 今日隣で眠るマルレーンも、もう眠そうだしな。ここからまた循環錬気に時間を使っているとマルレーンだけでなく、他にも誰か寝落ちしてしまいそうだし。

 というわけで……そのまま寝台に横になる。隣に来るのはマルレーンとクラウディアだ。
 マルレーンは眠たげではあったが嬉しそうに笑みを浮かべ、俺の腕に抱きつくようにして目を閉じる。マルレーンの柔らかい髪を軽く撫でて、逆側にやって来たクラウディアとも、そっと手を繋ぐ。細い、華奢な腕ではある。冷たく感じるのは体温に差があるからだろう。

「テオドールの手、温かいわ」
「風呂に入ってから時間が経ってるからかな」

 そのまま循環錬気を始めると、クラウディアは心地良さそうに目を閉じる。

「それじゃあ……湯冷めしないようにしないといけないかしらね。テフラの加護もあるけれど」

 クラウディアの横にローズマリーが横たわる形だ。クラウディアはそう言って、ローズマリーの手も取る。ん。そうだな。そのままクラウディアに触れたローズマリーも循環錬気に組み込んでいく。

「確かに……循環錬気は内側から温まるわね」

 と、ローズマリーは俺と視線が合ったが、少し頬を赤らめ、小さく咳払いをすると静かに目を閉じる。
 マルレーンの隣にアシュレイが横たわり、その隣にグレイスが来る。マルレーンは微睡みの中でそんな話が聞こえていたのか、アシュレイに手を伸ばす。

「ありがとうございます、マルレーン様」

 アシュレイは微笑んでその手を取り、マルレーンはこくんと頷く。そしてアシュレイとグレイスが手を繋いだ。
 グレイスとローズマリーが空いているほうの手でみんなに布団をかけて……寝室の明かりが落とされた。

「それではお休みなさい」
「うん。お休み」

 グレイスに答える間にも循環錬気が皆にも広がっていく。
 細かな魔力の波長に違いはあるがみんなの魔力を確かに感じる。それを束ね、混ぜて1つのものにして広げていく。
 ほのかに身体の内側から暖かいものを感じながら……俺達はゆっくりと波の中を漂うように眠りへ落ちていくのだった。



 そうして――明けて一日。

「ん。これは、良いもの」

 というのは、シーラの弁である。座卓に陣取り、背中を丸めている。
 和室に炬燵を設置したのだ。正確には炬燵に相当する魔道具であるが。
 一定の程良い熱を発するだけなので魔道具としては単純な部類だろう。冬になったら和室で使おうと作っておいたもので、補充した魔力を使い切れば熱も収まるという安心設計である。うん。後は蜜柑でもあれば完璧なのだが。

「これがあると、朝は助かるかも」

 シーラの向かいでにこにことしているのはイルムヒルトである。イルムヒルトは太腿の上にセラフィナを置いて、一緒に炬燵布団を被って暖を取っている。うむ……。イルムヒルトは上機嫌な様子だ。ラミアは若干朝に弱いところがあるからな。これだけ好評なら、イルムヒルトの両親の部屋に設置するのも良いかも知れない。

「ふうむ。また変わった様式の部屋よな。確かに、この魔道具は暖かくて良い」

 と、エルドレーネ女王にも炬燵は好評なようである。和室はまた他の建築とも違うので奇異に映るところがあるようだが。

 少し遅めに起きて朝食をとり、そこでウェルテスとエッケルスの魔道具の話題繋がりで、新しい魔道具――つまり炬燵の話題が出たのである。お披露目ということでみんなで母屋側の和室に見に来て貰ったというわけだ。

「暖かい……」

 シグリッタもかなり気に入った様子だ。卓上に顎を乗せて全力で満喫しているその様子にフォルセトとシオンが苦笑して、マルセスカが楽しそうに笑う。
 そうして交代で炬燵を試してもらったり茶を飲んだりしていると、そろそろウェルテス達の魔道具を受け取りに工房に向かう頃合いという時間になったのであった。



「――大きさはどうかな?」
「丁度良いかと。ありがとうございます」

 アルフレッドに問われて、エッケルスは静かに頭を下げる。
 水に乗って空を飛んだ際に姿勢を保持するためのマジックシールドが組み込まれた鎧であるとか、水を生成する手甲と脚甲、水に乗るためのブーツ等々が空中戦装備となる。

 まあ、慣れが必要ではあるだろうが、ウェルテスとエッケルスは水を作り出すとそれに闘気を乗せて小さな渦などを作り出していた。
 決められた動きをする魔道具ならば、水作製の魔法などに意識配分をしなくて済む分、戦闘に集中できるようになるというわけだ。

 同様に、シーラの装備もバージョンアップされた。真珠剣の柄に水の魔石を組み込んで刀身から水を出したり渦を作り出したり、水に闘気を纏わせて斬撃として飛ばしたり、帯電させてみたりと色々手札が増えている印象だ。

 シーラとウェルテス達はそのまま工房の中庭で、魔道具の使用感を確かめるように水を操ってそれを飛ばしたりと色々装備品を試している様子だ。

「魔道具の場合は制御は道具任せにできる部分がありますので、そのあたりの発動に慣れていく必要がありますね」
「ふむ。魔力量を増やす鍛錬になるかも知れませんな」
「では……できる限り普段からこの魔道具を使って行動するというのはどうでしょうか。討魔騎士団の方々は我々の先を行っている。追い付くには2倍3倍の訓練と努力が必要でしょう」
「良いですな。それでいきましょう」

 そう言ってウェルテスとエッケルスは頷き合う。あー、うん。普段から使うというのは……まあ、単純明快ではあるが割と効果的ではある。他人に訓練としてそのやり方を提案しようとは思わないが、2人はそれが苦ではないというか、寧ろ望むところなのだろう。

「魔力が枯渇しない程度に自制できるのなら反対はしませんよ。マジックポーションなどが必要なら用意します。火精温泉に通うのも有効かも知れませんね」
「ありがとうございます」

 アドバイスすると2人は揃って一礼した。
 このあたりのさじ加減は本人に慣れていってもらうしかないな。最初はマジックポーションなどに頼ることになるかも知れないが、段々と配分も分かって来るだろうし。

 ウェルテス達に関しては感情的なわだかまりはともかく、考え方や性格などの相性は良さそうに思える。このまま順調に時間を重ねていけば信頼関係も築いていけるのではないだろうか。
 そうして少し時間を使って魔道具を使っての立体的な動きのレクチャーなどをして、2人がある程度の空中機動ができるようになったところで迷宮に向かうこととなった。

「水竜の親子か、ふうむ」
「竜ではありますが、穏やかな性格ですよ」

 エルドレーネ女王は些か緊張した面持ちであったが、そう声をかけると、笑みを浮かべて静かに頷く。

 月神殿までは馬車に乗っての移動であったが、ウェルテス達は有言実行というか、足元に水を作り出して、それに乗って移動する形を取っている。
 ベリウスも馬車に随伴する形なので割合人目を引いてしまうが……このあたりは寧ろ堂々としてもらうことで周囲に慣れていってもらうのが良いだろう。
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