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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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520 冬の夜長に

 植物園を見て回り、温泉に浸かってから夕食をとり……と、のんびりと過ごしてから散会となった。

「では、お休みなさい、テオドール」
「帰り道、気をつけてね」
「ではまた、工房でということで」
「はい。またお会いしましょう。お気をつけて」

 と、ステファニア姫達3人と挨拶を交わす。ヴェルドガル王家の面々はそのままセオレムに帰る形だ。
 俺達はと言えば、一旦花妖精達を植物園へ送っていき、それから家に帰ることになるだろう。
 割と暗くなってきていたので、ビオラとミリアムは俺の家に宿泊ということになった。
 エルドレーネ女王達も俺の家に宿泊する。エルドレーネ女王の意向を受けてのものだ。その護衛役であるウェルテス、エッケルス達も一緒である。テフラも俺の家へ遊びに来る。
 エリオットは自宅に。東区のご近所さんなので馬車には同乗する形だ。
 ドワーフ職人達はと言えば……これから酒場に繰り出して酒盛りだそうである。このへんはブレないと言うか何と言うか。

「ではな、テオドール」
「はい、陛下。お休みなさいませ」

 挨拶を済ませて各々が馬車に乗り込み帰途につく。コルリス、フラミア、ラムリヤは王族の馬車の護衛役として、上空から付いていった。コルリス達も俺達に向かって別れの挨拶というように手を振ってくる。フラミアは炎を、ラムリヤは砂を操ってそれぞれ人の手を形作ってから振ってくるあたり、かなりコルリスの影響が見えるが。

 こちらも手を振り返すと、コルリス達は馬車に付いて行った。ふむ。念のために俺もカドケウスをつけて王城まで見送りをしておくか。
 カドケウスを変形させ、烏の姿を取らせる。カドケウスは羽ばたいてコルリスと並んで一緒に馬車についていった。
 うむ。では、まずは――植物園に花妖精達を送っていくことにしよう。
 妖精達を引き連れて温泉街を移動し、植物園に戻ってくる。

「またね!」
「お休みなさい、みんな」
「うむ。また今度遊びに来るぞ」

 と、セラフィナが元気よく花妖精達に手を振り、フローリアとテフラも声をかける。花妖精達もその言葉に頷いたり、こちらに手を振りながら嬉しそうに植物園に戻っていった。やはり暖かいので花妖精達も過ごしやすいのかも知れないな。



「――お休みの際はこちらのお部屋をお使い下さい」

 花妖精達を見送ってから馬車に乗って家に戻り、エルドレーネ女王達を客室に案内する。

「おお。これが……」

 セシリアから客室に通されたエルドレーネ女王は興味津々といった様子で室内を見て回っている。
 陸上の建物だからというより、ロヴィーサやマリオンから話を聞いているからかも知れない。空調の魔道具やロフトなどに興味がいっているのもそのあたりが理由だろう。

 最初それぞれに個室をと考えていたのだが、エルドレーネ女王によれば広い部屋に1人というのも味気ないということで、ロヴィーサとマリオンも同室である。
 ウェルテス達も部屋を分ける必要はないということで、3人ずつに分かれて同室に宿泊となった。
 それぞれ部屋に荷物を置いてから、続いて家の中の各所設備を案内しつつ遊戯室へと通す。後は就寝時間まで、遊戯室でのんびり過ごそうというわけだ。
 ベリウスはと言えば……のっそりと歩いていって、遊戯室の隅に座って寛いでいる様子である。

「ご苦労であった。そなたらも、今日はゆっくりと過ごすと良い」
「ありがとうございます、陛下。では、エッケルス殿」
「承知しました、ウェルテス殿」

 と、ウェルテスとエッケルスはテーブルを挟んで向かい合うとチェスを始めた。ギムノスはその近くに陣取って互いの駒の動きに注視している様子である。
 真剣勝負という雰囲気だが……ウェルテス達の性格から考えれば、あれはあれでしっかり楽しんでいるのだろう。

「うむ。では妾達も寛がせてもらうとするか」

 エルドレーネ女王はそんなウェルテス達を見て穏やかな笑みを浮かべ、それから腰を落ち着けた。それから俺を見て尋ねてくる。

「テオドール殿は、明日以降は迷宮に向かうのであったか」
「そうですね。ベリウスの実戦での能力を見る必要がありますので。ウェルテス卿やエッケルス卿用に調整した空中戦装備も、明日には工房で引き渡しできる見通しです。まあ、こちらは暫定的なものではありますが」

 ウェルテス達の空中戦装備については、水流操作や水上歩行の魔法などを組み込んだものが支給される予定だ。
 元々はアシュレイの使っていた空中戦装備のバージョンアップ版である。水の性質を与えた魔石が組み込まれて純正強化がされているわけだ。支給が割合迅速だったのはそのあたりが理由である。

 水を作り出して纏うこともできるのでウェルテス達にとっては機動力を強化するだけではなく、攻防共に補助的な役割を果たすことが可能と予想されるが……まあ、2人の意見を聞きながら改良していく必要も出てくるだろう。まだ完成とまでは言うまい。

 ともかくその装備を身に着けて扱いにある程度慣れたら、ウェルテス達も迷宮に降りて討魔騎士団達と共に、実戦訓練に参加というわけだ。

「水竜親子にも会ってこないといけないわね」
「ああ。そうだな」

 クラウディアの言葉に頷く。魔光水脈の水竜親子にはグランティオスの民がこちらの近海にやって来る可能性があると、話を通しておく必要がある。
 あの水竜親子はクラウディアとは面識がある上に、ヴェルドガルに協力的で隠遁に近い暮らしをしている。かなり理性的でもあるので、縄張りだなんだと言わないだろうが、だからと言って何も言わないというわけにもいくまい。

「その……妾もそれに同行させて貰うというのは可能であろうか? グランティオスの民に関わること。妾が水竜殿に直接お会いして挨拶するのが本来ではあるかと思うのだが」

 んー……。それは確かに。
 エルドレーネ女王は若干申し訳なさそうな様子だが、迷宮の奥に向かうということで、護衛しながらだと大変だと考えているのかも知れない。無理だと言われたら諦めてしまいそうな様子ではあるかな。

「分かりました。では一度、迷宮まで御同行願えますか?」
「すまぬな。面倒をかけてしまう」
「いえ、水竜親子のいる場所は魔物が出ませんので、それほど危険はありませんよ」
「おお、そうであったか」

 若干意外そうな反応ながらも、エルドレーネ女王は表情を明るくした。
 迷宮は魔物が数多くいる危険な場所だという認識は間違っていない。その中でも水竜が暮らしているような場所となると色々想像して身構えてしまうところはあるのだろう。しかし、実際の行き先は水の精霊殿なので、寧ろ危険は少ないと言える。水竜に対して敵対的であるなら安全などとは言えないけれど。

「念のために脱出用の赤転界石をお渡ししておきますので、もしはぐれたりした場合は迷わず脱出をお願いします」
「うむ。承知した」

 エルドレーネ女王は神妙な表情で頷いた。

「まあ、実際のところ極力危険はないようにしますので、それほど構えなくとも大丈夫かと」
「それは助かる」

 脱出の備えと、迷宮についての多少のレクチャーをして、後はカドケウスを護衛につけておけばとりあえずは安心だろう。ウェルテスとエッケルスも護衛として付いてくるだろうしな。 
 赤転界石の使い方もどこかに叩き付ければ脱出用のゲートが開くというわけで、非常に分かりやすかったりする。冒険者と違って、探索が目的でないのなら脱出のタイミングを間違えるということもないわけで。
 そのあたりの話を、茶を飲みながらエルドレーネ女王に説明する。

 エルドレーネ女王はヴェルドガル側とするべき話は既に終わっているので、水竜と顔を合わせてくれば、今度こそのんびりとしていられるはずだ。
 女王は劇場にはまだ足を運んでいないが、このあたりは満月になったらアウリアと共に、イルムヒルト達の演奏を見に行くという約束になっているそうである。

「では……話も纏まったところで、チェスなどいかがでしょうか?」
「喜んで」

 一通り迷宮での注意事項など、話が終わったところでそんなふうに誘ってみると、エルドレーネ女王は笑みを浮かべて頷くのであった。
 まあ特段喫緊の用事というわけでもないし、今日のところはこんな調子で夜更かしして、明日は遅めに動くぐらいでも丁度良いだろう。
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