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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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519 水と光の舞踏会

 水中呼吸の魔法を用いて水の中でも思う存分活動できるようにしつつ、流れに乗ってみんなと遊ぶ。
 ただ泳ぐだけというのも芸がない。順番に両手を繋いで水流操作の魔法で加速してみたり、或いは水上を滑走したり、水のパイプを作り出してその内部を滑ってみたりと、色々だ。

 大きく波打つようにうねる水面。だが波頭は崩れない。ジェットコースターのコースのように、高低差のある水面上をアシュレイとマルレーンは共に手を繋いで滑っていき、そのエリアを抜けると2人して楽しそうにくすくすと笑う。

 マジックサークルを展開。プール前方の水が両サイドから持ち上がってアーチ状に繋がってトンネル状になり――色とりどりの魔法の光をあちこちに飛ばしてやれば、イルミネーションのように輝く水のカーテンの中を抜けていくような状態になる。

「ああ。これは……綺麗ですね」
「一時の魔法だと思うと、勿体ない気もするわ」

 両手を繋いでいるグレイスとクラウディアは、水面上に寝転ぶようにしてその水と光が作り出すカーテンとイルミネーションに目を細める。
 これは中々好評なようだ。グレイスはしばらくその光景を楽しそうに眺めていたが、やがて何かに気付いたように視線を巡らせると、ローズマリーに声をかける。

「マリー様。そろそろ交代を」
「え、ええ。ありがとう、グレイス」

 と、ローズマリーは頷くグレイスから笑みを向けられ、小さく咳払いをして場所を交代する。プールで羽扇が無いからやや手持ち無沙汰な感じはあるかな。おずおずと手を伸ばしてきて、俺と手を繋いで水上を滑っていくような形。

 しばらくそうやって泳いで、クラウディアとアシュレイが交代する。代わりにクラウディアはマルレーンと手を繋いで彼女の髪を撫でたりしていた。マルレーンは楽しそうににこにこと笑う。

「よろしくお願いします、テオドール様」
「うん。アシュレイ、こっち」

 そう言って、楽しそうに笑みを浮かべるアシュレイと手を繋ぐ。普段は男爵領の仕事もあって凛とした表情を見せることも多いアシュレイであるが、今は年相応の無邪気な笑みといった印象だ。

「ん。これは良い」
「まだ1人か2人は乗せられそうかも」
「魔道具も持ってきたから、私がイルムを引っ張って行っても良い」

 と、シーラの声とイルムヒルトの楽しそうな声。そちらを見やれば人化の術を解いて泳ぐイルムヒルトと、その尾に乗るように水面を進んでいくシーラの姿があった。イルムヒルトの肩の上にセラフィナもいたりする。
 あちらはあちらで楽しんでいるようだ。水流操作の魔道具か。プールに行くから用意してきたわけだな。

 そうやってみんなと交代して手を繋いだりして遊んでいたが……その内にイルミネーションに触発されたのか、トンネルの中に花妖精達がやってきて、ぼんやりとした光を放ちながら楽しそうに踊るように飛び回ったりと、かなり賑やかな光景になっていく。

 コルリス達もその光景に目を瞬かせているようだ。あれこれとやっていると、エルドレーネ女王達とステファニア姫達、ミリアム、フォルセト達にフローリア、ハーベスタと、みんなもプールサイドにやって来て流水プール回りが大分賑やかなことになってきた。
 こう。トンネルの中を浮遊して進んでいくハーベスタと花妖精達というのは中々ファンタジーというか何というか。

「これは素晴らしいのう」
「綺麗ですね、陛下」
「ええと……人化の術を解いてしまっても良いのでしょうか?」
「うむ……。思う存分泳ぎたいところではあるが、湯浴み着ではな。ふむ。着替えてくるか」

 と、人魚組3人はうずうずしている様子にも見える。着替え、というのは水蜘蛛の糸で作った衣服か。人化の術を解いても問題のない形状だろうしな。

 ミリアムとシオン達が同じような感じで目を輝かせているのはまあ、何時もの事として。

 ふむ。割合俺は存分に泳いで遊ばせてもらったし、プール付近に陣取って、魔法維持に集中しても良いかも知れないな。歓待の意味合いもあるわけだし、休憩所からこっちに料理を運んで来てもらうというのもできるだろう。



 というわけで……着替えて来たエルドレーネ女王達は人化の術を解いて、存分にイルミネーション付きの流水プールで泳ぎ回っていた。
 ステファニア姫達やシオン達、それからミリアムもコルリスやベリウスに乗って、花妖精達と楽しそうに遊んでいる。
 フローリアは……泳ぎが苦手なのか、それともハーベスタがいるからなのか、プールサイドに腰かけ、ハーベスタを膝の上に抱えるような格好で、足をぶらぶらさせて楽しそうにしている。

 俺はと言えば、プールサイドだ。火精温泉の設備は風のフィールドで覆われており、その内部を魔法で温めてあるので、この場所でも大して寒くはない。プール自体も温水だしな。まあ、テフラの加護があるから俺達の場合はどちらにせよ寒くはないのだが。

 だが、濡れたままでいるというのも何なので、湯浴み着を着替えにグレイス達は一旦建物の中へ戻っていった。冬用ということで、ガウンのような上に羽織る湯浴み着があるのだ。防寒用なので着たままでは泳げないが。

 俺は水魔法で湯浴み着の水を飛ばし、魔法を維持したり、光や水の動きに変化を加えたりしながら、カドケウスに上着を持って来てもらった。
 更に休憩所から椅子とテーブルも運んで来てもらったので、そこに腰かけて魔法を用いていく。本物のイルミネーションさながら、浮遊する光にグラデーションをつけるなど色を変えて見たり、パターンをつけて明滅させてみたり。

「中々賑やかなことになっておるようだな」
「これは陛下」

 と、そこに男湯から上がってきたのか、メルヴィン王達もやってきた。夕食も次々と運ばれてくる。

「楽しませて貰っておるぞ。邪魔ではないかな?」
「いえ、まだ制御には余裕がありますので」
「そうか。流石よな」

 メルヴィン王は上機嫌な様子で腰かける。
 そうしてプールのイルミネーションを見て目を細め、静かに頷く。

「うむ……。そなたのこういった魔法の使い方は良いものよな」
「ありがとうございます」

 そう答えて静かに一礼する。メルヴィン王としては……魔法を使うにしても戦闘用などよりもこうやって誰かを楽しませるようなものの方が好みなのだろう。俺が矢面に立つのも心苦しく思っているようだし。
 逆に言えば、こういう魔法の使い方をしていられる状況というのは心安らぐもの、といったところだろうか。

「水のトンネルは魔道具を設置すれば維持できそうだね」

 と、アルバートが笑みを浮かべる。そう、かも知れない。一部分だけトンネルにしておくというのも面白いかも知れないな。魔道具では今ほど光を多彩に動かせはしないだろうが、簡単にライトアップしておく程度のことも可能だろう。

「おお。あれが再生したケルベロスだね」

 プールを周回してきたベリウスを見てジョサイア王子が目を丸くする。

「はい。ベリウスと名付けました」
「ゴーレムという話であったが、まるで生物のようであるな」
「そうですね。分類としては魔法生物の類かも知れません」

 やはり、最初に見るとゴーレムという印象からはかけ離れて見えるものらしい。そんな話をしていると、グレイス達も着替えて戻ってきた。
 というわけで、プールサイドでイルミネーションを見ながら、のんびりと夕食である。

 王城の料理人が出張で料理を用意してくれているので、中々豪勢なメニューだ。魔物の肉料理に、魔光水脈の魚介類。新鮮な果物の盛り合わせに趣向を凝らした飴細工と。
 特に飴細工などはイルミネーションの光が反射していて中々に見物である。思いもしない効果がついたからか、王城の料理人もその光景に嬉しそうな様子であった。

 まだ泳いでいた面々も、プールサイドから上がって水を拭いて上着を羽織ってきたり、泳ぎ足らない場合はまだ泳いだりと、思い思いに過ごしている様子だ。

 プールから上がったコルリスには、花妖精達が鉱石を食べさせたりしている。

「うむ……。地上の料理というのは実に多彩ですな」
「グランティオスでは祝い事などがあると地上の料理も饗されたりしますぞ」
「ほほう」

 と、地上の料理を食べるのが初めてらしいエッケルス達は、舌鼓を打っている様子であった。

 イルムヒルトが楽士代わりにリュートを奏で出す。マリオンが応じるようにプールサイドに腰かけて歌を歌い、花妖精達は空中で楽しそうに踊り出し……夕食と音楽も相まって、さながら舞踏会のような雰囲気だ。そんな光の演出の中で、夕食の席は見た目にも華やかなものになったのであった。
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