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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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518 海の住人達と温泉と

「実に良い泉質だ。魔力が豊富で疲労が溶けていく」
「疲労が取れるどころか、気力が充実してくるような気さえしますな」

 と、ウェルテスとエッケルス達は火精温泉の湯に浸かりながらその泉質に感嘆の声を漏らしていた。
 温水が苦手なんじゃないかなどと心配していたが、蓋を開けてみれば苦手どころか、寧ろ相性が良さそうにさえ見える。静かに目を閉じて心地良さそうな様子である。

「ふむ。この分ならエルドレーネ女王達も気に入ってくれているのではないかな?」

 それを見たメルヴィン王が相好を崩す。

「そうであれば嬉しいですね」

 メルヴィン王に笑みを浮かべて答えながら、湯船の縁に持ってきた桶にお湯を汲む。そうすると、湯を汲んだ桶に花妖精がやって来て桶に漬かってから心地良さそうにする。
 花妖精達には浴槽だと水深が深過ぎる。なのでこうして桶に湯を汲んで湯船代わりにするというわけだ。
 セラフィナもこうやって風呂に入る時があるようだし。なので、女湯でも同様の光景が広がっていることだろう。

 花妖精達には水中呼吸の魔法はかけてあるので、温泉内で溺れるようなことはあるまい。といっても、妖精の場合は精霊に近い存在なので呼吸だとか諸々の生命活動が普通の生き物と同じかどうかは怪しいところだ。まあ……念の為である。

「中々賑やかなことになりましたね」
「私は割と嫌いじゃないよ。こういうのは」

 ヘルフリート王子とジョサイア王子はそう言いつつも妖精達に桶に湯を汲んでやったり、冷めて来た桶の湯を取り替えたりと、今の状況を楽しんでいるようである。2人とも中々に面倒見が良いというか。

「ありがとう、助かるよ」

 と、エリオットは洗髪剤を妖精達に流してもらって礼を言ったりしている。
 王子達も先程髪や身体を洗った時に、妖精達に桶でお湯をかけてもらったりしたからな。そのお返しというところはあるのだろうが。

 ドワーフ達はと言えば……打たせ湯に打たれていたり、水風呂とサウナを行ったり来たりしている。まあ、このあたりは平常運転か。ジャグジー風呂ではピエトロが寛いでいたりと、男湯はのんびりとした空気だ。

「ふむ。蒸し風呂か」
「一度試してみますか」
「そうですな。その後は打たせ湯か泡風呂と行きますか」

 設備の説明は既にしてある。ウェルテス達はサウナが気になっていたらしく、連れ立ってサウナに入っていった。

「んー。張り合ったりはしないと思うけど」

 と、それを見たアルバートが首を傾げる。

「まあ、根性を試すようなものじゃないって伝えてあるし」

 身体に合わないようならすぐに出るようにとも伝えてあるし、一緒に入っているドワーフ達もサウナの使い方や注意点は心得ているから大丈夫だとは思う……が、一応後で様子を見ておくか。



 それからしばらく湯に浸かって風呂を出たが、とりあえずは心配していたような対抗心の張り合いなどもなく、水風呂とサウナを行ったり来たりと、ウェルテス達はドワーフ達と共に、実に真っ当にサウナを楽しんでいる様子であった。

「いやいや、中々話せるのう、お主ら」
「ふむ。我もこうして陸の者とここまで話が合うとは思っても見なかったが」

 ……何やらドワーフ達と意気投合している様子だが……。まあ、性格的には実直だからな。性格面でのドワーフとの相性は良いだろう。

「お三方とも。蒸し風呂はどうですか? 体調が悪くなったりはしていませんか?」
「ああ、テオドール殿。お陰様で寛がせて貰っております」
「お気遣いありがとうございます」
「なあに。儂らも一緒におるから心配はないぞ」

 そう言ってウェルテス達が一礼し、ドワーフが大笑する。

「分かりました。よろしくお願いします」

 ふむ。体調も問題は無さそうだな。念のためにバロールを残しておけば男湯を出ても大丈夫だろう。




 男湯を出て設備の状態確認に向かう。このへんもいつも通りだ。
 従業員が定期的に点検しているが、魔道具絡みでもあるからな。カドケウスと手分けすればすぐに終わるし、手早く済ませてしまうというのがいいだろう。

 というわけで男湯から共用スペースに出てみると――エルドレーネ女王とロヴィーサ、マリオンがスライダーを滑ってきて、スライダー下部のプールに着水しているのが見えた。

「ああ。これは良いのう」

 と、水から顔を出したエルドレーネ女王が髪をかき上げて楽しそうに笑う。

「似たようなことはグランティオスでも斜面を使って男の子がしていますが……海だとこんなふうには速度が出ませんよね」
「確かに。空気がないと無理そうな感じもしますし、この場所ならではですね」

 ロヴィーサとマリオンも楽しそうに笑い合う。その後ろからステファニア姫とアドリアーナ姫、エルハーム姫……そしてテフラも滑ってきた。
 なるほど。ステファニア姫達かテフラが案内してきたのだろうか。
 ふむ……。グランティオスの面々がスライダーをここまで新鮮な感覚で楽しんでくれるのなら、月光島に作るのも良いかも知れないな。入り江付近であれば、作れそうなスペースもあるし。次に島に足を運んだ時にでも建造しておくか。

「おお、テオドール殿。楽しませて貰っておるぞ」

 と、エルドレーネ女王が俺の姿を認めてこちらに挨拶してくる。

「それは何よりです」
「ふふっ。この温泉は素晴らしいですね。水が力を高めてくれる気がします」
「ああ。それはウェルテス卿達も言っていましたよ」

 ロヴィーサに答えると、彼女は相好を崩して頷いた。

「テオドールは点検中なのかしら?」
「そうですね。そのあたりはいつも通りにと言いますか」

 ステファニア姫の言葉に流水プールを見やれば……花妖精達を背中に乗せたコルリスやベリウス、アルファにラヴィーネ、フラミアと言った動物組がぐるぐると周回しているのが見えた。花妖精達は大喜びである。コルリスの頭の上にラムリヤもいるな。
 ……うん。シュールな光景ではあるが、とりあえず作業を終わらせてこよう。

「では、少し頃合いを見てあちらの遊泳場にも行くか。普段は王宮にいるから思う存分泳ぐ機会もなくてのう」
「はい。では後程」


 というわけで、流水プール周りの点検を行う。
 水に潜って排水口周りの確認をしていき、粗方の作業終えて蓋を閉めたところで……ふと、気配を感じて振り返る。
 そこにはマルレーンとシーラがいて。水中で彼女達と視線が合うと、マルレーンは少し残念そうに笑ってシーラと顔を見合わせ、シーラは納得したように目を閉じて頷いている。
 んー。作業が終わったところを驚かそうとしていたのかも知れないな。水面に浮かぶと、シーラが言った。

「流石。カドケウスの動きも気を付けてたのに」
「あー。何となく魔力で察知できたっていうか」

 そう言いながらマルレーンの髪を軽く撫でると、にこにこと屈託のない笑みを向けてくる。
 カドケウスはプールの逆方向で作業をしていたが、俺の場合、魔力を少し身体の周辺に広げるのが習慣化しているというか。感知範囲に何かが入ると察知できてしまったりするのである。

「何時もは先に休憩所に行っていたので、今日はこちらに来ようかと」
「テオドール様はいつも先にお風呂を上がって点検をなさっているようですので、お手伝いできることはないかと、みんなで早めに上がって来たのです」

 と、少し間を置いてグレイス達もやってくる。みんな一緒なあたり、みんなでマルレーンとシーラのいたずらの顛末を見守っていた感じかな。
 あー、うん。火精温泉の湯浴み着はそこまで露出が多いわけではないが……肩や太腿なども割合出ているので、こうして全員で揃っていると普段より目のやり場に困るところはあるかな。露出控え目なあたりが中々健康的な感じではあるが……。

「そうね。まだ終わってないなら手伝うわ」
「魔道具の点検だったかしら?」

 と、クラウディアとローズマリーが申し出てくるが。

「いや、今ので作業も終わったし……そうだな。夕食まで少し泳いで遊ぼうか」
「はい」

 みんなも水の中に入ってしまえば多少は気分的にも落ち着けるかなとは思うので。俺の言葉に、グレイスは穏やかな笑みを浮かべて頷くのであった。
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