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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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516 女王との商談

 迷宮商会に絡んだ商談ということで……アルフレッドとミリアム、ビオラやエルハーム姫、それにドワーフの職人達を交えてエルドレーネ女王と話し合いの時間を持った。
 話をする内容は色々あるが、一先ずグランティオスの特産品の扱いについてから始めようという話になると、ドワーフ達が若干興奮気味で言った。

「いや、あの酒は実に素晴らしい」
「うむ。全くだ」

 と、ドワーフの職人達は諸手を挙げて海洋熟成酒を大絶賛である。

「私も飲んだ上で皆さんに評価を聞いてみたのですが。満場一致で美味しいとのことで」

 そんなドワーフ達の様子に、ミリアムが苦笑して言う。

「うむ。高く評価してもらえるのは嬉しい話ではあるな。公爵領の酒を預かり、熟成させたのちに出荷という方向で話が纏まっておるのだが……それをタームウィルズでも取り扱って欲しいと考えておってな。詳しい条件は後からドリスコル公爵の代理人も交えて話し合うにしても、迷宮商会の店主殿には直接会って挨拶をしておきたかったのだ」

 グランティオスとしては魔石が欲しいので、タームウィルズと繋がりが強くなるのなら、積極的に公爵家に交易を取り持ってもらいたいということらしい。
 俺としてもヴェルドガルとグランティオスの結びつきが強くなるので、異界大使や迷宮商会の理念的にも歓迎すべき話ではあるだろう。

「光栄に存じます。私としても、あのお酒を商会で取り扱わせて頂けたら大変嬉しく思います」

 ミリアムは恭しく一礼する。その礼儀作法は完璧で、上流階級相手でも商談をしてきた経験が十分にあることを窺わせる。このあたりはアルフレッドが信頼を置いている相手だけあるというか。
 エルドレーネ女王はその対応に相好を崩して頷き、更に話を進めていく。

「次は……グランティオスの建材に使われている塗料についてかな。ドリスコル公爵や大使殿が言うには、地上でも利用価値が高いのでは、という話になってな」
「武器や建材が海水や潮風で傷むのを防ぐ――ですか」
「確かに、沿岸部では需要が高いだろうね。船舶にも使える気がするし」

 ミリアムが顎に手をやって思案するような様子を見せ、アルフレッドも感心したように言う。

「塗料を作るためには魔石が必要なので、グランティオスとしても一応必需品ではあるのだがな」
「生産を増やすには魔石を更に輸入するために価格への反映が必要、ということになりますか」
「これは必需品故、妾や水守り達が魔法で作っている物であるから、あまり強欲なことは言わぬよ。こちらとしては原価割れしなければ良いだけの話だからな。それよりもグランティオスの特産品の利点を受け取ってもらい、我が国に親しんでもらうことのほうが重要だと考えておる」

 なるほど。価格設定には融通が利く分、利益よりも友好のために使いたいというところか。

「そういうことでしたら、私も陛下のご意向を反映したく存じます」

 ミリアムが答え、エルドレーネ女王と笑みを浮かべて握手した。ふむ。割合意気投合している様子だな。
 ミリアムとしては中間マージンなどはできるだけ抑える、ということだろう。輸送コストなど必要なところは上乗せせざるを得ないところはあるのだろうが、あくまで仲介役に徹するつもりでいるようだ。

「では、特産品についてはこんなところでしょうか。水蜘蛛の糸と織物については既に販路が出来上がっていますから、陛下と知己を得られたからとこちらで取り扱うというのも、反感を買ってしまうかなと」
「ふむ。そうかも知れぬな」

 エルドレーネ女王はミリアムの言葉に得心がいったというように頷く。商売人同士の横の繋がりも気にしなければならないというわけだな。

「では、詳しい話は後日として、チェス盤についての話をしましょうか」

 ミリアムがドワーフ達に話を振り、荷物の中からチェス盤を取り出す。

「おお、チェスか。妾も遊ばせてもらったが奥が深くて面白い。グランティオスに戻った際に評判を聞いてみたが、中々上々なようでな。特に、武官達はかなり面白がっておるぞ」

 ああ。それは何よりだ。そうなるとグランティオスでは普及への道筋が立ったから、後はヴェルドガルでも普及させるために色々考えていかなければ、というところだな。

「儂らも遊ばせてもらいましたが確かに面白かったです。しかし大使殿がお作りになったものは駒の装飾が随分と凝っておりますな」
「うむ。このゴブリン共の面構えと来たら」
「まるで生きておるようじゃな。若い頃、斧を持って連中と戦ったことを思い出すわい」

 と、ドワーフの職人がチェスの駒を手に取って光に翳したりと、色々と盛り上がっている。特にゴブリンはドワーフと敵対することが多いからか、やけにウケが良い様子である。

「しかし……こういった細工は儂らも好みな部類ですが、木彫りにせよ、石で彫刻を作るにせよ、凝れば凝る程高級品になってしまう気がしますぞ」
「価格を下げるなら鋳型で作るか、或いは簡略化するというのが良いのかなと」
「ふむ。鋳型というのは良いですな」

 高級品は一点物として職人が手掛ければ良いのだろうが、量産するのなら俺としては元の形にそこまで拘らなくても良いと思っている。とりあえずそうやって方針を掲げておけば手を加えやすくなるだろうし。

 しかし……簡略化というのはドワーフの職人魂的にはできるなら避けたいのかも知れないな。
 となると鋳型を作ってそこから生産するという形にすれば、装飾も細かくできるし製造コストを抑えることもできるしで納得してもらえる部分はあるだろう。それなら職人ごとの特色も出せるだろうし、モチベーションも高くなりそうだ。

「後は……そうですね。駒の動きと働きをなぞらえるのにしっくりくる理由があれば、別の魔物に換えても良いのではないかと思います。例えば海の魔物で統一したりですね。駒の下の部分に記号か文字を入れるなどすることで、見た目が違っても役割を分かりやすくしてあれば、それほど戸惑うこともないでしょう」
「ふむ。そうなると、互いに違う見た目の駒を持ち寄って遊ぶということも可能でしょうな。一式分が揃っていれば良いわけですから」
「となれば……盤の大きさを統一し、駒も最大限ここまで、と決めておく必要があるじゃろうな」

 と、ドワーフ達はああでもないこうでもないと中々楽しそうな様子だ。とりあえず廉価版の道筋もつきそうで何よりだ。何やらコレクター要素も出てきている気がするが……どうなる事やら。

「テオ君は、陸と海で共通の遊びを広めたいという話だったよね? それなら、鋳型を魔道具化するのが良いかも知れない。金属だけでなく、硝子に木、石と、場所に合わせて素材を変えられれば便利だと思うんだけど」
「あー、確かに。じゃあ、鋳型を作ってもらって、それを魔道具化して……そこから駒を作って販売する、というのが良いのかな」

 アルフレッドの言葉に頷く。鋳型と材料に合わせて駒を生成する魔道具……んー。ゴーレム作成の技術を応用すれば、そこまで魔道具化も難しくはない、かな? 早速後で術式を組んでみよう。
 チェスに関してはこんなところだろうか。後は……ああ、そうだ。ウェルテスやエッケルスの身体に合わせて防具や魔道具を作る必要があるので、その採寸をしておいてもらうか。



 討魔騎士団の防具や新しい魔道具など、諸々の話を終える。
 エルドレーネ女王も、これで一先ずタームウィルズでするべき話は全て終わったとのことで、諸々肩の荷が降りたらしい。
 この後はと言えば、メルヴィン王から話が纏まったら火精温泉や植物園に招待し、グランティオスの面々を歓待してはどうかという話が出ていたりする。このあたり、俺としても異存はない。
 メルヴィン王も執務が終わった後、火精温泉で合流ということなので、馬車に乗って温泉街へ移動するとしよう。
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