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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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513 海からの武官

「それじゃあ、これをよろしく」
「うん、了解」

 諸々の実験と確認を行い、感覚系の制御術式の統合版を書き付けた紙をアルフレッドに渡す。
 骨格の構造と筋肉の付け方の最適化、感覚系の制御術式の統合と改良と、諸々の作業を続けていたが、感覚系に関しては途中からカドケウスやバロールに疑似的に反映させることで五感リンクを用いて、俺自身の感覚で術式の具合を確かめながら作業を進めることができた。

 ケルベロスの意見も参考にしてバランスを取ったので、まあ、本人にも納得してもらえるものになったのではないかと思う。
 ともあれ、術式はアルフレッドに引き渡した。となると俺の仕事はケルベロスの肉体を作る作業に移っていくわけだ。

「こんばんは」

 と、そこにステファニア姫とアドリアーナ姫、エルドレーネ女王が姿を見せた。コルリス達も一緒だ。俺に向かって一礼するようにぺこりと頭を下げてくる。
 エルドレーネ女王は一旦グランティオスに戻ると言っていたが、用事は済んだのだろうか。

「こんばんは」

 こちらも挨拶を返す。

「いや、ロヴィーサ達からテオドール殿が工房で何やら凄いことをしていると聞いたのでな。様子を見に来たのだが……邪魔にはならぬようにしているので見学させてもらっても良いだろうか?」
「どうぞ。今からケルベロスの身体を合成していくところなのです」
「ほう……。それはまた」

 エルドレーネ女王は嬉しそうに笑みを浮かべる。
 グレイス達も合成の様子を見学したいようだし、見ていてくれて構わない。エルドレーネ女王達を案内して、素材の置いてある魔法陣部屋へと移動する。

 さて。骨格に関してはミスリル銀を使うわけだが、エルハーム姫が揃えてくれた他の金属素材やら材料を決められた配合比で混ぜることでより強固にすることができる。
 では……シリウス号の船体を作った時と同じ要領で、素材同士を融合させて骨格と筋肉を作っていくとしよう。

 まずは骨格からだ。ウロボロスを握り、魔力と精神を集中させる。マジックサークルを展開して光球を作り出し、素材を融合――形成していく。
 光球に素材が吸い上げられ、その中からゆっくりとミスリル銀の骨格が生み出されていく。
 頭蓋骨を1つ、2つ、3つと形成。頸椎と胸椎、3つ首の接合部。肩胛骨、肋骨。上腕骨と尺骨、足先の骨からなる前足。腰椎から骨盤。大腿骨から繋がる後ろ足と尾骨と、順繰りに作り出していく。

 頸部から尾に至るまでの脊椎に関しては、脊髄代わりに糸状に伸ばしたミスリル銀の束が通っている。
 ミスリル銀は魔力を蓄え、そして良く伝達する。これは、魔石から身体の隅々へと効率良く魔力を伝達するという……いわばゴーレムにとっての神経のような役割を果たしているわけだ。

 そうして骨格を全て作り上げればミスリル銀の輝きを持つ、ケルベロスの骨格がそこに浮かんでいた。このままだ。このまま筋肉組織も作り上げていく。マジックサークルを展開すると、足元の魔法陣も起動した。
 黒ゴーレムを作るための素材を光球で巻き上げ、配合比を変えて性質に変化を付けながら軟骨部分を作り上げる。そして――骨と筋肉を接合する腱から作り出し、骨格と融合させて一体化させていく。
 循環錬気で魔力を通し、細部を魔力の反応で見ながら作っていくわけだ。幾本もの筋肉繊維を伸ばし、絡め、束ね筋肉組織を形成。細かな作業のために、なかなか捗らないが……術式の制御を手放さないように集中しつつ魔力を高めていく。

 そうやってかなり長い間神経と魔力を集中させていたが……やがて3つ首の犬がそこに姿を現した。犬、というにはかなりの巨躯だが。大型の虎ぐらいの体高はあるのではないだろうか。
 毛皮も何もないし、心臓部に魔石を収めなければならないので腹の辺りも未完成で、見た目はまだ完成には程遠いが……既に犬としての形状はしている。
 黒一色なので……あまり筋肉剥き出しという印象はないな。とりあえず――ゴーレム操作の要領で、その場に座らせておくことにしよう。

「あー……。肩が凝ったな」

 と、大きく息を吐いて肩を回す。作業が細かくて神経を使ったというか。ウロボロスとオリハルコンの補助があってこれなのだから、相当難しい作業ではあった気がするが。

「お疲れ様です。テオドール様」
「ありがとう、アシュレイ」

 アシュレイが冷たい炭酸飲料を持って来てくれた。喉に流し込んで一息入れる。
 はぁ。とりあえず、現時点で作れるところは作った感じだ。後は魔石を組み込んで、ローズマリーやジークムント老、フォルセト達が作っている各種パーツを感覚系と繋いだり、毛皮を被せたりといった、細々とした作業が残っているが。

「獣としては桁外れですし……魔物として見た場合でも、すごい力を持っていそうですね」

 と、グレイスがケルベロスの身体を見て、真剣な表情で言う。
 グレイスは熊やら猪やらを狩ったりもしていたからな。こうやって筋肉の付き方を見るだけでもその膂力などに概ねの想像が付くのだろう。
 確かに、咬合力と瞬発力に関しては相当なものだろうとは思う。

「むう……。これは見学させてもらって良かったな」

 エルドレーネ女王達も満足そうな様子である。
 後は各種パーツが出来上がってきたら仕上げに入らせてもらうとして。それまでは少し休憩させてもらうとしよう。



「実は、見学したかったというのもあるが、そなたに相談したいことがあって工房に立ち寄らせて貰ったのだ」

 工房の一室に場所を移し、茶を飲みながらみんなと休憩に入ったところで、エルドレーネ女王がそんなふうに言った。

「相談、ですか?」
「うむ。グランティオスに戻り、タームウィルズに派遣する武官を選出しようと話し合っていたのだが……エッケルスが部族の今後のために、その末席に加えて欲しいと申し出てきてな」

 ……エッケルスがか。
 ウォルドムの眷属だったということもあるからな。相手が魔人だからこそ、という部分はあるのだろう。しかも仲間のために危険度が高い任務に志願するというのは……エッケルスらしいところはあるが。
 そして弱体化して尚、こちらへ派遣する武官として候補に入るだけの実力も持っているのだろう。

「なるほど。それで、彼をこちらに派遣することの是非についてを相談したいと」
「そうなる。妾としては、あの者を受け入れた以上は信用してやりたいし、部族の今後のためにという言い分も分かるのだが、な。元親衛隊の副官共々、魔法審問を受ける、とまで言っておるが、相手あってのこと。テオドール殿やエリオット、それに、直接剣を交えたシオン達の意見を聞かぬことには、妾としても返事はできん」

 ふむ。副官というのはマルセスカと戦っていた親衛隊員か。
 この話を受け入れる場合、エッケルスがこちらに来て、副官があちらで部族長の代理役を担うということになるのかな。
 魔法審問を受けるとまで言うのなら、エッケルス達の言動に裏表はないのだろうし、エルドレーネ女王としては可能なら望み通りにしてやりたいと思っているのだろう。
 それでも俺達に話を聞かないことには返事はできないか。まあ……そうだな。
 受け入れて結束や連携が乱れないかだとか、色々考えなければならないことはあるだろうし。後は、直接戦った者の感情的な問題もあるか。
 シオンに視線を向けると、少し思案するような様子を見せたが、やがてこちらを見て答える。

「ええと……。僕のことは気にしなくても大丈夫ですよ。あの人に悪い感情はないですし……討魔騎士団全体のことは僕には分からないですから」
「……では、エリオット卿に相談して決めることにします」
「すまぬな。手間をかける」
「いいえ」

 とは言え、眷属達の中にあってはかなり規律正しい連中だったからな。仲間になったらなったで、結束や連携を乱す、とは思えないが。
 まあ、そのへんも含めてエリオットとは色々相談してみるとしよう。今の時間だと、もう訓練を終えて家に戻って来ているのではないだろうか。



「話を伺っている限りだと、信用できそうな人物のように思います」

 と、エリオット。通信機で連絡を取ってみると、やはり既に東区の自宅に帰って来ていたらしい。工房が近所なので直接話をしたいと、出てきたというわけだ。

「では、エリオット卿も、彼の派遣には――」
「今のところ、特に反対する材料は見当たりませんね。勿論、魔法審問の結果にもよりますし、本人に話を聞いてみたいところもあるのですが」

 エリオットの言葉に頷き、エルドレーネ女王に向き直る。

「僕も現時点では反対する理由がありません。エリオット卿と共に、話をしてみたいと思っていますが」
「分かった。その言葉はあの者に伝えてくるとしよう。派遣する武官としては、ウェルテスがこちらに来ることがほぼ決まっておる」
「ウェルテス卿ですか。彼なら安心ですね」

 半魚人の武官の中では実力も人柄も申し分ないな。一緒に行動していた時間も長かったし、こちらとしても気が楽だ。
 というわけで、エッケルスとは明日面会するという約束を取り付けたのであった。まあ……ケルベロスの身体も、明日か明後日ぐらいには完成するだろう。
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